ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《王録》 六章 二節
『肩に触れる手は、恐れの向きを変え、運命の角度をずらす。』
2376- ノエホ要塞 転移者班 視点
北領の外れ、ノエホ要塞。三郷たちを含む転移者班、十七名。引率は加賀先生一人。指揮は、要塞守備隊の将校が兼ねている。羽黒たちの王都側とは、配置からして別だった。
隣で誰かが立ち止まりそうになった。足が固まり、体より先に怖さが動きを止めている。
肩に少し触れた。怖さの向きを変えた。消すのではなく、前に向ける——怖いまま動ける状態に。
足が動いた。
こういう時、役に立てたな、という感じがする。
胸の奥が少し軽くなった。
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爆撃の中を、触れながら歩いた。
一人。
また一人。
感情を変えるのは一瞬だ。でも一瞬触れるためには、そこまで行かないといけない。走った。体を低くして走った。
頭の上を弾が通ったが、全部数えていた。数えていれば、止まらない。
六人に触れた。六人目が走り出した時、七人目を探した。
探しながら、足元の土を蹴った。怖さは正直だ。あんなに大きなものなのに、方向を変えるだけで前に進める。
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七人目は地面に伏せていた。
体が固まっていたが、怖さじゃない。怪我だった。触れた。感情だけは変えられる、でも体は変えられない。
走れない人間の怖さを受け取って、前に向けた。せめてそれだけ。
この人は何か伝えようとしていたが、声が出なかった。
「分かった」
何が分かったのかは、言葉にできなかった。
でも言った。
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ワイバーンが来た時、誰もが一度止まった。
五百キロ爆弾が立て続けに落ちて、地面が三回揺れた。足の裏が、次の一歩を拒んだ。
肩の奥が固まった。
でも怖さは前に向けられる。今日、その使い道を一つ覚えた。
能力を使って、自分の肩に自分の手を当てた。
少し、足が動いた。
おかしな話だとは思う。
でも動いた。
✶
機関銃に当たったのは、次の誰かに触れようとした時だった。
膝が折れて、地面に手をついた。
手のひらの上に、何かが出てきた。精神の具体化だ。うまくコントロールできたことはほとんどなかったけれど、今は出てきた。
丸くて小さくて温かかった。
今まで誰かに触れるたびに、その人の感情が少し移ってきた。怖さも、悲しさも、それでも動こうとする気持ちも——全部、ここに入っていた気がする。
名前をつけようとして、やめた。きれいな名前をつけたら、たぶん嘘になる。羽黒。
届けばいい。届かなくてもいい、とは思えなかった。
本当に届くのかは分からなかった。それでも、羽黒に伝わってほしいとだけ思いながら、手のひらに力を込め続けた。
手のひらの温かさだけが、少しずつ逃げていった。
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