ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《王録》 六章 七節
『戦時色の依頼は、平時の言葉を借りたまま届く。』
依頼票の紙質が、少しずつ変わっていた。
薄く、軽く、急いで刷られた紙。
文面は、いつもと同じ体裁を保っている。荷札確認。撤退線整備。軽補修。
でも、行き先の欄に見慣れない地名が増えた。
「これ、前線予備倉じゃないですか」
僕が聞くと、リゼルは紙をめくったまま答えた。
「前線予備倉、ではない。前線予備倉『への経路』だ。名目は保守」
「名目は」
「名目は、な」
名目という言葉を、最近よく聞く。名目の下に何があるかを、確かめずに済んだ日はもう少なかった。
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「羽黒さん」
メリルが、記録板を抱えて立っていた。
「今月の依頼、七割が北方関連です」
「先月は」
「四割でした」
数字は、紙の上では静かだった。
でも、七割という言葉は、口に出すと少し重かった。
「みちしるべとして、断れる範囲はどこまでですか」
「まだ決めていません」
決めていない、ではなく、決めきれない、が近い。
人が増えるほど、断る痛みも増えた。
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夜、ラドさんが依頼票の束を机に叩きつけた。
「全部は受けるな」
「分かってます」
「分かってるやつが、七割まで来るか」
言い返せなかった。
人を増やしたのは僕だ。増やした分、依頼が来る。来た分、断れば誰かの仕事が減る。
「戦争は、便利なものを先に飲み込む」
ラドさんは、それだけ言って紙を戻した。
「便利は、お前らのことだ」
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澄人が、荷札の束を数え直しながら言った。
「先輩、これ、軍の補給と重なる部分が増えてますよね」
「増えてる」
「みちしるべは、いつから軍の一部になったんですか」
「なってません」
「なってない、で通じますか」
通じるかどうかは、僕にも分からなかった。
名目は保守。名目は協会依頼。名目は、いつも軽い方の言葉が選ばれる。
選ばれた言葉の下で、荷は前線へ近づいていく。
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井上が、目を閉じたまま言った。
「先輩、最近、遠くの人数が増えて見えます」
「クラスメイトの」
「はい。散らばってる人数が、前より多いです」
散らばっている。
それが良い意味かどうか、井上は言わなかった。
僕も、聞かなかった。
聞けば、答えを持ち帰らなければいけない気がした。
✶
仮名簿の三枚目が、そろそろ埋まりかけていた。
名前が増えるたび、戻る場所の重さも増える。
棚の紙束を、僕はもう一度数え直した。
旧木炭道。北二番水場。状態線の戦い。大型試験依頼。
北方関連、増加中。
数え終えて、手が止まった。
紙の枚数と、名前の数が、いつの間にか合わなくなっていた。
合わせようとして、僕は手帳を開いたまま、しばらく動けなかった。
その日の夕方、詰所の入口に、見覚えのない女性が立っていた。
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