ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~   作:ハルキーノ

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一章十一話 消えてしまったあの日々に。

《創世訓》 一章 十一節

『忘れ去った夢にこそ価値がある。』

 

2372- 第一王城 ランドマール視点

 

「ランドマール殿下。お母様がお呼びです」

 

「ん~、分かった。すぐ行くよ」

 

 僕は本を閉じ、身支度を始めた。部屋は何度もメイドが片付けているからか、僕自身が片付けたりしなくても綺麗なままだ。机の上に置いたはずの栞も、いつの間にか本の中へ戻されている。

 

 けど、メイド達は本当に隅から隅まで掃除をするんだ。本棚をひっくり返す勢いで本を取り出したかと思えば、ページを一枚一枚綺麗にして本棚に戻し、僕のおもちゃ箱をゴソゴソと弄り回してはまた本棚を片付けに行くんだ。潔癖症過ぎないかな?

 

 母さんにそれを抗議しても「王族たるもの、身の回りのことは全てメイドに任せておきなさい。それ自体が王家の威厳となるのよ」とばかり言って全然取り合ってくれないんだ。

 

 だから正直、十八歳にもなって恥ずかしい。けど、抗議しても次の日には同じように片付いている。

 

 母さんの部屋の前に立ち、扉をノックする。

 

 返事はないけど、ノックをしたら入ってきていいとは教えられていたから、そのまま部屋に入った。

 

 部屋はいつも通り、あの茶の匂いでいっぱいだった。母上は匂いのしない空間を嫌っているんだ。そのせいで部屋も茶葉を焚いて、匂いでいっぱいにしてるんだ。

 

 僕はこの匂いは好きだけど、それを悪い貴族が馬鹿にしてるのは話に聞いたことがあるんだよね。

 

 いつも通り母上は机に向き合ってなにか喋っていた。

 

「第二王城に対する諜報魔法”トーカー”が全て相殺された? 例の転移者達の影響かしら?」

 

「思い出しなさい。彼が先に我らが血統を侮辱したのよ」

 

「計画通りに進めなさい。たとえ情報が漏れても封建制を支持する貴族達は反対はしないはずよ」

 

「あら。支援もないのにあの者達がスタンピードを生き残れるわけ無いじゃない」

 

「あの侯爵(カネの亡者)が邪魔ね。少し対抗策を考えておくわ」

 

 何を話しているかはわからない。母上の机には、封の切られた手紙と、まだ切られていない手紙が別々に積まれていた。前から言われた通り、後ろでぼうっと突っ立っていると、

 

「ランドマール、ごめんなさい、気づかなかったわ」

 

 そう謝りながら抱きしめてくれたんだ。

 

「お母さんこそ忙しかったのに邪魔してごめんね、なにかあったの?」

 

「あなたの腹違いのお兄さんのことよ」

 

 ヘルドランテ兄さんが悪いことをしていると、数年前に教えてくれたことを思い出す。記憶があまりないけれど、一番上の兄さんをずっと眠らなきゃいけなくしたのは彼だということも思い出した。

 

「ねぇ、ランドマール。あなたの一番上の兄さんとまた会いたい?」

 

 タリスハルリ兄さんの温かい笑顔は今でも思い出せる。記憶は霞んでいるのに、その笑い方だけは残っている。胸の内側が細く痛んで、目の奥が熱くなった。

 

 あれ、なんで僕は泣いているんだ?

 

 兄さんとちゃんと喋った記憶はないのに。

 

「会いたい。また会いたい。兄さんとまた話したい」

 

「良かったわ、なら少し手伝ってくれるかしら? あなたの力が必要なの」

 

「わかったよ、何すればいいの?」

 

「貴族たちとまた話して頂戴。そうね、今度はエルトラル侯爵と喋ってくれるかしら?」

 

 僕は頷いた。

 

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