ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~   作:ハルキーノ

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六章十一話 引き出しの中の重み/六章十二話 零のそばの微かな値

《王録》 六章 十一節

『引き出しの中の重みは、持つ手に死者の温度を返す。』

 

 遺品回収は、正式な任務ではなかった。

 

 第十四補給小隊の名目は後方支援だ。遺品を集めることは、業務外だった。

 

 でも、やった。

 

 

 西壁の近く。

 

 三郷の数字があった場所に、剣があった。

 

 見覚えのある柄だった。

 

 一章で三郷から受け取って、三郷に返した、あの剣だ。

 

 三郷が持っていた。だからここにある。

 

 手に取った。

 

 重かった。

 

 重かった、というのは嘘だ。重さは変わっていない。僕が変わったのかもしれない。

 

 任せとけ、参謀。

 

 そう言った時の声が、剣を持つ手の中でふいに蘇った気がした。

 

 鞘の口に、細い傷が残っていた。

 

 一度、返す時に「似合わない」と言おうとして、言わなかった。

 

 言わなくてよかったのか。

 

 言えばよかったのか。

 

 そんなことは、今さら数字にもならない。

 

 

 三郷の剣だけではなかった。

 

 桐谷さんのものだと分かった薬莢は、泥の中で黒くなっていた。拾い上げると、爪の間に湿った煤が入った。彼女なら、たぶん薬莢そのものより、どこから撃ったかを見ただろう。

 

 佐々木くんの結界板は、端が欠けていた。割れた面を見ても、どこまで受け止めたのかは分からない。ただ、革紐の結び目だけは、訓練場で見た時と同じ癖で締められていた。

 

 横河くんのケースは、蓋が閉まらなくなっていた。中の金貨を数えようとして、やめた。何枚残ったかより、彼が最後まで手元に置いていたことの方が、今は重かった。

 

 飯田くんのゴーグルと、小泉くんの羊皮紙の切れ端は、同じ布に包まれていた。どちらのものか分けられない部分があった。田中さんが見たら怒るだろうと思って、包み直す手が止まった。

 

 

 剣を持ったまま、詰所に戻った。

 

 澄人が何かを言いかけた。

 

 僕は机の引き出しを開けて、剣を入れた。

 

「先輩」

 

「後でいい」

 

 澄人は何も言わなかった。

 

 引き出しを閉めた。

 

 閉まった音だけが聞こえた。

 

 生命の表示は、もう動かない。

 

 精神の方は、最後まで読めなかった。読めなかったことの方が、遺品の重さより長く手に残った。

 

――――――――

 

《王録》 六章 十二節

『零のそばで、微かな値が布の下に灯る。』

 

 翌朝、もう一度東側を回った。

 

 見落としがある気がした。

 

 それでも行った。

 

 

 瓦礫の中に、ゼロではない生命があった。

 

 最初、目の錯覚だと思った。

 

 この場所で、この状態で、生命がゼロではないことは考えられなかった。

 

 近づいた。

 

 肉塊だった。形は人間だと分かる。でもそれ以上の識別は——できなかった。

 

 表示は、ゼロではなかった。

 

 極めて低い。でも、ゼロではなかった。

 

 喉の奥が、変な音を立てた。理解より先に、体がそれを拒んだ。

 

 

 名簿を確認した。

 

 生命の表示と、名前を照合した。

 

 高橋桜華。

 

 不死のクラスメイト、という話は聞いていた。

 

 聞いていたけれど、この状態で確認することになるとは、思っていなかった。

 

 生きているというその一点だけで、隣の名前も分からない遺体たちとまるで違う扱いを受ける。それが正しいのか、まだ判断がつかなかった。それでも、指は無線機へ伸びていた。

 

 救護班を呼んだ。一言だけ言った。

 

「まだ生きてる」

 

 自分の声が、平坦だった。

 

 表示を見てしまった以上、黙っている選択はなかった。見なければ、たぶん動けなかった。

 

 

 生命のゼロと、ゼロではない生命が、同じ場所にあった。

 

 どちらも正直だ。表示は嘘をつかない。

 

 準備など関係なく、それはそこにある。

 

――――――――

 

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