ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《創世訓》 一章 十四節
『力は届く時にこそ、届かなかったものの数を明かす。』
僕たちは帰りは装甲列車に乗って帰ることになった。蒸気機関で動いているらしく蒸気の特有の音がなにか壮大な雰囲気を感じさせる。
近くでみると随分と無骨な設計をしている、黒色の車体に張り付く装甲板とそれを留めるためのピンみたいなやつ、(確かリベットとかいうやつだ)そして幾つも生えた機関銃らしき銃身と銃眼、一つ目立つ大きな砲塔と短い砲。側面の扉を開けて中に入ると、すこし車内の通路は狭く僕たちは一列に並んでそれぞれの乗員室に向かっていった。
「変なにおいする!」
「多分それは機械油だね」
そんな会話が聞こえる、確かに機械油とかいう物の独特な匂いがする。これ、なれない人には辛いんじゃないかな?
カタカタ、カツカツと靴が金属の床の上を歩く。足音だけ聞けば、見学コースみたいだった。
狭い銃眼から見える景色……。ぽつぽつと生える木々やそれらの集まりである森林や草原が後方に流れていく、たまに見かける細々とした沢にはうっすらと魚の影が見える。金属の枠越しでなければ、もう少し長く見ていたかった。
一応複線化された線路の横には一定間隔でトーチカやタレットらしき構造物が並び、この線路を防衛する為に力を割いているということがわかる。ガタガタと列車は進み続けていく。
壁伝いに、この装甲列車について話してる声が聞こえる。きっと彼らだろう。
「この世界にはこんなものまであるのか……。ありとあらゆる物が魔物……いや、ありとあらゆる脅威に対して戦うように作られている」
三郷くんがそう言い。
「そうだね、きっと、ずっと、戦い続けてきたんだと思う」
僕はそう答えていた。
「それでも、この景色は日本じゃ見られなかったよね」
気付いたら桐谷さんが隣にいた……いつの間に……。
「そうだね、酷い大気汚染や環境破壊、有害物質の影響で僕たちの親の世代から髪の色もすごいことになっちゃった。まぁ、この世界ではあまりそういうのとは関係なしにいろんな髪色の人が居そうだけどね」
「もう到着かな?」
ゆっくりと列車が止まり始める……。もう到着だろうか? いや、景色を見るにそれはない。
「いや、そんなことはなかったな、何かトラブルか? そうだったらみんなに教えないとな」
「そうだね、見に行こうか」
ただ、全員で動いたら通路が詰まる。
車内は狭い。銃や荷物を持ったまま人が立てば、それだけで誰かが引っかかる。列車がまた急に動いたら、たぶん危ない。
「三郷くん、みんなには席で待つように言っておいて。僕たちで見てくる」
「分かった。騒がせないようにしとく」
僕たちの席は機関車に近いので様子を見ることにした。
乗員室の扉を開け、車内中央の通路を僕を先頭に進んでいく。壁には幾つものメーターがあり、その一部がくるくる回転しているのが見える。
カチャカチャ音が奥から聞こえる。
「これ何処が外れたんだ? 側壁のところは問題なかったしなぁ……」
ん? 騎士長さんの声が聞こえる。何をしているんだろうか?
「騎士長さんの声が聞こえるね」
「開けてみようか……」
そして、扉を開けると……。
騎士長さんがなんと! 装甲板などの戦闘用の装備をとって、レンチとスパナを持ってなにやら機械を弄っているではないか!
「あ、あの、何をされて?」
慣れた手つきでパイプを交換して中身を見ている……。
「見ればわかるだろ! こいつを直してんだよ!」
いや! 分かるんだけど! 騎士長さんって技術職の人間だっけ?
「騎士長さん……そういうの、直せたんですね……」
「すごい!」
レンチを持つ手は、ナイフを持つ時より少し雑だった。けれど、迷いはない。
「アンテラルでいい、大したこと……ないことはねぇな。あくまでも、俺の生まれたところじゃこれくらいガキでもできるってだけだ」
生まれたところ……。
「もしかしてアンテラルさんって……」
聞こうと思ったが、アンテラルさんの手元で外されたパイプから、熱い蒸気が細く漏れた。
「さぁな、好きに想像しな……まぁこの技術に関しては教えてほしけりゃスタンピード後にでも教えてやるよ。」
僕の予想が正しければ、彼も帰れないかもしれない。パイプを拭く布の端が、油で黒くなっていた。
「羽黒くん、邪魔しちゃ悪いから戻ろうよ」
「うん」
桐谷さんに引っ張られて、僕は機関車を後にした。
聞くべきだったのか、聞かないべきだったのか。通路に戻っても、機械油の匂いだけが服に残っていた。
まだ列車は止まったままだった。
「そう深く考えても仕方ないぞ、それもお前のいいところだけどな」
みんなに修理中であることを伝えた三郷くんが帰ってきた。
「うん……そもそもこの世界に何人の異世界人がいるんだろうね?」
森田さんもルーツは日本だと言っていたはずだ。
「どうだろうな……帰ったら調べてみるか?」
「図書館だったらお城にあったはずだね、帰ったら一緒に行こう!」
そういえば森田さんは図書館館長でもあったはず。
「うん、そうだね、たしか自由時間も与えられてたはずだしね」
いつかちゃんと話を聞いてみたいかもしれない。
そんな話をしていると列車は動き出した。問題がなければ、十五時ごろには帰れそうではある。
途中から何度も小規模な魔物の群れが向かってきたが、この装甲列車に備え付けられた武装で僕たちの出番になる前に、次々に撃退していく。撃退中も列車は速度を変えることなく進んでいった。
どうやら、柔らかい魔物なら簡単に追い払えるようだった。あの亀は想像以上に強い魔物なのかもしれない。しかもあれで幼体って……。
「みんな薙ぎ払われてくね……」
「うん……」
なぜ無謀にも彼らは戦いに挑んでくるのだろうか? 後から聞いた話だけどスタンピードが近いときにしかここまで無謀な攻撃はしないらしい。
トーチカなどの頻度が増えてくる、そろそろ街が近い。
「羽黒くん、あの四角いの何?」
「それはトーチカって言うらしいね、あれの中から銃とかを撃つみたいだよ」
「遮蔽物用の建物ってことだね!」
FPSゲームをやっているせいか、理解は早かった。
「遮蔽物が必要ってことはつまり
「厄介そうだね……」
「みんなにも知らせないとな……。」
列車は街の門をくぐり、街の中に進んでいく……。そして直ぐに駅に到着した。ここからは徒歩だ。
「概ね無事についたな」
「あとは城に帰るだけだね」
「うん」
軽くうなずき、車内を歩き、列車を降りる。
「もうちょっと乗ってたかったな」
「久々の新鮮な空気だ!」
「やっぱ装甲列車っていうんだっけ? これかっこいいな!」
いろんな声が聞こえる、そして僕たちは城の方に歩いて行った。
いつもの下校なら、ここで誰かがコンビニに寄ろうと言い出す。今日は誰も言わない。代わりに、何人かが列車の装甲板を振り返っていた。楽しかったものを見送る時と、怖かったものを確かめる時の目は、少し似ている。
街の人々が僕たちを見つめる。手を振ってくれる人も、敬礼してくれる人もいる。反対側の店先では、男が袋を縛る手を止め、こちらを見たまま口を閉じた。
今日も街は、忙しそうだった。
城は大変高いところにあるので大変長い階段を昇らなければならない。エレベーターやエスカレーターなんてものはどうやらあるらしいがこの城にはないらしく少し不便さを感じる。
「長いね~」
「そうだね~」
みんなが不満を口にしている。体が強くなったお陰か長い階段の割には疲れないのはいいのだが、やはり、その何か堪えるものがある。
「俺らがこの街を守るんだな」
誰かがそういったような気がする。この街の人々を守り切れるのだろうか?
僕らは階段を昇りきる。外から見ると随分と大きな城だ。まだ行ったことのない場所もたくさんあるんだろうなと思う。
ふと、帰りの魔物たちを思い出す。あれだけ薙ぎ払われて、それでも群れは来た。何かに背中を押されるみたいに、何度も。
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