ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~   作:ハルキーノ

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一章六話 何故世界は僕らに力を与えたのだろう?

《創世訓》 一章 六節

『苦痛が傍らに座す時、夢は薄明の冠を失わない。』

 

 中世のお城を鉄筋コンクリートで上から補強したような通路を進んでいく。

 

 壁の下半分は古い石で、上の方だけ色の違う補強材が走っていた。ところどころに金属の管が露出していて、そこを細い光がゆっくり流れている。

 

 照明は細部を凝って作られた美しいランタンに見えた。けれど、火ではない。揺れない白い光が、床の継ぎ目と僕たちの靴の泥を同じ明るさで照らしている。

 

 節々が痛むが、歩けないことはない。時折美しいステンドグラスの装飾が見られる。

 

 剣を持った戦士? や杖を持った魔法使い? のような人々が描かれていた。この世界も最初のうちはそういう人たちが活躍していたんだろうなって思う。

 

 途中からドラゴン? やよくわからない魔物が描かれている。魔物だろうか……?

 

 途中から銃火器を持った大量の兵士を指揮する人。大砲を引く馬なども描かれている。

 

 絵の中の武器だけが、古いものから新しいものへ変わっていく。

 

 もうすぐ教室的な部屋につくのか少し前方から声が聞こえる。

 

 扉は開け放たれていた。中から、椅子の脚を引く音と、誰かが包帯をほどこうとして止められる声が混ざってくる。

 

「よっ! おかえり参謀!」

 

 そう言いながら頭を叩いてきたのは三郷だった。……転移してからまだ一日も経ってないのに、元気だねぇ!

 

「よくやった! お前のお陰でクラスの半分はボコられずに済んだんだぞ!」

 

「えっ……結局外しちゃったのに……」

 

 参謀。

 

 昨日は半分冗談で言われた言葉なのに、今は少し本当っぽく聞こえた。かなり危ない。調子に乗るな、僕。

 

 そこに、昨日、空間を歪めた女子が割り込んできた。

 

「貴方が飛び出していって倒された後、騎士長様は突然訓練の解散を宣言されたのですわ。『十分な訓練になっただろう』とだけ言い残されて城の中に帰られたのです」

 

 あの時、前に出た人たちはだいたい散々にやられていた。

 

 戦闘系の能力を持っていても、生産職で銃を持っていても、転がされる時は転がされる。

 

 クラスを見渡すと、後衛に回された人たちは比較的ましだった。

 

 つまり、男女差というより配置の差だ。

 

 いや、それでも手加減は全員にしてほしい。

 

 部屋の端では、昨日の訓練で使った結界板の一枚が壁に立てかけられていた。白い濁りが、まだ端に残っている。女性兵がそれを見て、板の札を一枚裏返した。

 

 使えるものと、しばらく使えないもの。

 

 彼女の手は、迷わず次の札へ伸びた。

 

「はぐろぉ、見えてる?」

 

 そう考えていたら、顔の上半分を包帯で巻いた桐谷さんが現れた。

 

 目も覆われている。

 

 足取りはまっすぐだった。

 

 見えていないはずなのに、廊下の角で一度も肩をぶつけていない。

 

 声だけは、いつもより少し柔らかい。

 

 包帯の下で目がどちらを向いているのか分からず、返事が少し遅れた。

 

「桐谷さん。昨日の間に回復魔法で治してもらったでしょう? さっさと包帯を剥がしなさーーい!」

 

「まだ光が強く入ると気持ち悪いの。あと、見え方が変なんだってば」

 

「だまらっしゃい! 医務官が確認するって言ってたでしょうが!」

 

 その女子と桐谷さんがそう言い合ってるのを尻目に、僕と三郷は苦笑いしながら教室の中に入っていった。

 

「みんないい戦いだったねぇ……素晴らしかった! ……僕以外はね!」

 

「ありがとよ。ってお前もかなりがんばってただろ」

 

「そうだぞ、三郷の指示が上手くみんなに通ったのはお前のお陰だよ」

 

「いやぁ、どうもどうも」

 

 近くの二人が反応してる。みんなに笑いが生まれる。

 

 間延びした声の男子は両手を大きく振りながら笑っていた。昨日転がされた人の肩にも、寝不足の人の机にも、同じ距離で近づいていく。

 

「そういや、結局数字は変わったのか?」

 

「あ、全然見てなかった。役立たない気がしたし……」

 

「いや、役立たないわけがない」

 

 何故か三郷はそう言い切った。

 

「どうして?」

 

「俺等の能力、俺等を見透かしているように思えるんだ。表っツラしか見てないように見えて、何故かピッタリと当てはまるんだ」

 

「……確かに」

 

 僕が数字好きなのは誰にも言ってない。適当にアテ嵌めただけではなさそうだ。

 

 教室の机には、昨日配られた紙片がまだ何枚か残っていた。誰かが能力名を書き写そうとして、途中でやめたような線もある。

 

「でも三郷に関しては完全に適当だよね? (つるぎ)で剣。めちゃくちゃ適当じゃない? 剣道部にも入ってなかったよね?」

 

「いや……」

 

 彼はそう前置いた。

 

「うちのじいちゃんが刀鍛冶だったんだ」

 

「へぇ~!!」

 

 初耳だ。

 

「けど俺は両側に刃がある西洋剣が好きでな。それを言ったら死ぬほどボコられた」

 

「ずいぶんと過激な家だったんだね……」

 

「んで、」

 

 話を戻そうと三郷が前置く。

 

「横河がコインのコレクションを持ってるだなんて誰も知らなかったし、幸さんは銃自体に興味はねぇけどFPSゲームは好きらしい」

 

 三郷はそこで一度、教室を見た。

 

「みんな、見た目より内側の方を使われてる気がするんだよ」

 

「内側?」

 

「好きなものとか、怖いものとか、たぶん自分でもうまく言えないやつ」

 

 言われて、指先が少し冷えた。

 

 僕の数字も、そういう場所から出てきたのだろうか。

 

「んでさ、そんな仲良くないとわからない事をもとに能力を組み立ててるって考えたら、誰が与えてるか仮定できねぇ?」

 

「いるかわからないけど、全能の神様以外だったら、あと一人いるね」

 

「「自分」」

 

 見事にハモってニヤリと笑う。

 

「もしさ、自分で能力組み立ててるんだったら実は深層心理で組み立てためちゃくちゃ強い能力だったりするかもしれね~だろ?」

 

「なるほど。だったらめちゃくちゃ重要そうな情報という可能性もあるな」

 

「取り敢えず、俺を見てくれ」

 

「わかった」

 

 ステータスオープン、そう心のなかで呟くと数字が展開される。三郷は……増えてる。3だ。

 

「どうだ?」

 

「君は3だね……。ちょっと待って」

 

 上を見る。自分の数字は変わらず0だ。何故変わったんだ? そう思いながら教室を見渡すと、クラスメイトの数字が変わっていることに気がつく。

 

「何人かの数字が上がってる……経験値的なアレなのかな?」

 

 まだ情報が足りないな。他の人達のも見てみるか。

 

 経験値。

 

 そう呼べば、少し楽だった。ゲームなら、昨日の失敗も、殴られた痛みも、次へ進むための数字になる。

 

 部屋の端で、さっきの女性兵が昨日の訓練札を束ねていた。

 

 訓練弾。結界板。

 

 負傷者。同じ板の上に、別々の項目が並んでいる。

 

 今の僕には、まだそれを同じものとして見ることができなかった。

 

 でも、少なくとも一つだけ分かった。

 

 数字が増えた人だけを見ていると、使われた弾や、割れた板や、包帯を巻かれた人が視界の外へ出る。

 

 昨日の僕なら、三郷の「3」にだけ食いついていたと思う。

 

 今は、視線がその横の薬袋にも引っかかった。

 

「―――んでよ、みんなよくあの銃撃って、すっ転ばなかったよな、なんかあるのか?」

 

「身体能力の向上……? とかじゃないのか? おはよう羽黒、どうしたんだ?」

 

 小泉くんと飯田くんがやってきたようだ。

 

「多分そうじゃないのかな? 実際、体は軽いし反動も抑え込めたし。ところで二人共。ちょっとそこでじっとしてて。」

 

「お、おう。」

 

 今度はどっちも0だ。

 

 そういや、二人の能力は何だったっけ?

 

「ごめん。話を遮って悪いけど、二人の能力って」

 

「すごいよね! こんなにおっきい銃を撃ってさ、元の世界なら伏せないと撃てないって!」

 

 話に割り込まれた。

 

 田中さんが小泉くんと飯田くんの間から顔を突き出して二人の肩に腕を掛ける。いつも通りのミリオタの三人組だ、田中さんはすっごく二人に距離が近い、たしか幼馴染だったはずだ。

 

 うーん。また0だ。

 

「色々考えてみると、この世界の軍事力についても知らないと思うの! だから、あとで三人で図書館とか行ってみない?」

 

 田中さんの腕は、二人の肩にかかったまま離れない。小泉くんは少し身を引き、飯田くんは銃の弾倉を見ているふりをした。

 

「ま、まぁ、三人だけじゃなくて、みんなで行ったらどうかな?」

 

「そうだな、そっちの方がいいと思う」

 

 二人はあまり応じる気がなさそうなのが少し不憫だった。

 

 先生が帰ってきた。教室に入る前に、一度だけ全員の席を数えるように見た。

 

 扉の前で足が止まったのは、本当に一瞬だった。けれど、その一瞬で、先生がまだ僕たちを教室の人数として見ようとしているのが分かった。

 

「みなさん……大丈夫ではなかったですよね……お疲れ様です」

 

 先生の数字を見る……0だ。

 

 こう、クラス全体を見るとやっぱりほとんどが0だ。何人か1だったり2だったりするけど……共通点が見当たらない。あ、数字がある人は先の戦いで活躍した人が多いな。

 

 ただ、活躍した人ほど包帯も増えている。

 

 数字だけなら、上がった。

 

 でも机の上には、医務官から渡された薬袋が置かれている。

 

 それを一緒に見ないと、たぶん何かを取り落とす。

 

 ……いや待て、なんだ。あれ。

 

 周りの人達が久しぶりに現れた先生のもとへ駆け寄る中、僕は一人だけ逆らって歩き始めた。同じように一人だけ逆らって座り続けてる人の元へ。

 

「やぁ。横河くん」

 

 ビクリと横河くんは驚いたように身震いすると、

 

「な、何……?」

 

「コイン。気になってさ。ちょっと見せてくれないかな?」

 

 横河が隠そうとしていたものをちらりと見る。プラスチックのケースに収められた、小さな金貨がいくつか見える。

 

「そう、それどこのコインか知りたくて……」

 

 僕がコインを凝視したのを見て、慌てて彼はケースを持って逃げ出そうとした。

 

「ちょっと待って取らないって!」

 

「こんなに貴重なもの……取りたくないと思うわけ無いだろ!!」

 

「えっ……えぇっ!?」

 

「俺が一番の優秀者だから貰ったんだ! また俺から奪うなんてさせるかよ!」

 

 ”一番の優秀者”。その言葉にピンときた。見たこと無いのもあたりまえだ。

 

「ああ、騎士長から貰ったんだね。君の能力について話したのかな?」

 

「……そう。」

 

 もっと喋れよ!

 

 喉まで出た言葉を飲み込んだ。横河くんのケースを握る指は、白くなっている。金貨の話なら、少しこちらを見てくれるかもしれない。

 

「この国の硬貨なの? ちょっとだけ教えてもらえない?」

 

「……これが1ラル銅貨。」

 

 金貨は相変わらず見せてはくれないけど、

 

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