ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《辺境者の歌》 四章 二十七節
『返された重みは同じ鞘に収まり、別の沈黙を鳴らす。』
三郷弦は、返された剣を背負い直した。
重い。
最初から重い剣だった。
でも、返ってきてから少し重さが変わった気がする。
羽黒に渡した時は、もっと軽かった。いや、そんなはずはない。
背負い紐の穴は以前と同じだった。三郷は一つ短く締め、肩へ食い込んですぐ元へ戻した。
「三郷、それ使うの?」
山崎才我が聞いた。
「使うよ。俺の剣だし」
明るく答える。
明るく答えるのは得意だ。
得意になった。
桐谷幸が右腕を押さえて、訓練場の端に座っている。
佐々木宗助は医務室へ行けと言っている。桐谷は平気と言っている。
平気。最近、その言葉が軽くなった。
「幸、今日は撃つなよ」
三郷が言うと、桐谷は少し眉を上げた。
「命令?」
「お願い」
「なら、考える」
三郷は冗談にするには遅い間を置いた。
「考えた結果、撃たないで」
桐谷は小さく笑い、銃を山崎へ渡した。山崎が慌てて両手で受ける。
「本当に撃たないから、点検して」
「俺?」
「お願い」
佐々木が近づいてきた。
「剣、戻ったんだな」
視線が依頼票へ戻り、次の質問が変わった。
「ああ」
「羽黒に渡したやつだろ」
鞘の金具が、手の中で小さく鳴った。
「そう」
「また渡すのか」
三郷は笑った。
「必要ならな」
佐々木は剣の留め具を確かめ、緩んでいた下側だけ締めた。
訓練場の向こうで、兵たちが片づけをしている。
弾薬箱。標的板。折れた槍。
標的板の片づけが始まった。三郷は弾薬箱を持ち上げたが、右肩に剣、左肩に打撲があり、箱の角を石敷きへ落とした。
「痛っ」
「持ててないじゃん」
山崎が笑い、箱の反対側を持った。
「剣、置けば?」
「嫌だ」
返事だけは早かった。
ただ、笑い終わった後、剣の重さだけが背中に残った。
鞘が肩甲骨のあたりで小さく鳴る。
羽黒に渡した時と同じ音のはずなのに、今は少し違って聞こえた。
三郷は剣を下ろさず、山崎と二人で箱を倉庫まで運んだ。
✶
倉庫の隅で、佐々木が一枚の紙を差し出した。
「羽黒から」
「早いな、届くの」
「西詰所の便で回ってきた」
三郷は紙を受け取り、広げた。文字は相変わらず小さく、行間も詰まっている。
杭の申請と却下の話。荷札の話。最後に一行だけ、私的な報告らしきものがあった。
中学の後輩に会った。井上希望という。
「……は?」
三郷は思わず声を出した。
「何」
「いや、これ」
紙を佐々木へ渡す。佐々木は目を通し、少し眉を上げた。
「後輩、か」
「後輩だけかよ、これ」
行間からにじむものがある気がした。三郷は根拠なく確信した。
「返事、書くのか」
「書く」
三郷は紙の余白に、大きめの字で書き足した。
詳しく聞かせろ。逃げるな。
「逃げるなって、羽黒が逃げるようなことしてんのか」
山崎が横から覗き込んだ。
「してなくても、逃げそうな匂いがする」
三郷は紙を折り、便箱へ放り込んだ。
剣の重さは、まだ肩にある。でも、今は少し違うことを考えていた。