ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《辺境者の歌》 四章 三十節
『駒の置かれた部屋では、盤の外の息ほどよく聞こえる。』
戦果報告会という名前は、山崎才我には少し大げさに聞こえた。
でも、部屋に入ると、大げさではなかった。壁には地図。机には駒。
王国士官たちが並び、記録官が何人もいる。中央の板には、今日の成果が書かれていた。魔物群、撃退。
外縁哨戒、成功。魔物斥候、排除。勇者班、損害軽微。
「損害軽微、ねえ」
山崎は小さく言った。
隣の佐々木がこちらを見る。
「大きな間違いではない」
「小さな嘘?」
「嘘とも言い切れない」
それが一番面倒だ。桐谷の腕はまだ痛い。
三郷の肩には打撲がある。山崎の耳鳴りも残っている。
桜華は平然としているが、盾役として受けた衝撃の数は一番多い。
でも、誰も死んでいない。立っている。だから損害軽微。
間違いではない。士官が声を張った。
「勇者班の活躍により、前線予備倉への補給路確保が進みました」
拍手が起こる。
山崎は笑って手を振った。
そういう役なら、できる。
ただ、地図の端に置かれた小さな駒が気になった。
補給路。予備倉。
荷車。そこに赤い印が一つある。
「あれ何ですか」
山崎は近くの記録官に聞いた。
「遅延報告です。重要ではありません」
「遅延」
「荷車が一本遅れています。勇者班の戦果とは別件です」
「どこで」
記録官は報告板を見直した。
「北二番分岐。車軸の不具合です」
「護衛は」
「二名。現在地確認中」
山崎は地図台の端へ移った。拍手に向けていた身体が半分だけ外れ、隣の士官に肩をぶつけた。
「すみません。これ、確認が来たら教えてもらえます?」
「報告会の参加者へ個別連絡はしません」
「じゃあ、終わるまでここ見てます」
別件。山崎は佐々木を見る。佐々木も地図を見ていた。
三郷は前列で笑っている。桐谷は腕を押さえ、桜華は拍手の回数を途中で間違えた。
報告会は続く。勇者班は強い。勇者班は成果を出した。
勇者班がいるから前へ出られる。その言葉は、たぶん明日には城下へ流れる。
外の冒険者にも、詰所にも、どこかにいる羽黒にも届くかもしれない。
届く時には、荷車の遅延は落ちている。桐谷の腕も。三郷の肩も。
耳鳴りも。山崎は片耳を指で塞ぎ、すぐ離した。ゲームなら、リザルト画面には全部出る。
撃破数。被ダメージ。消費弾薬。
回収品。未達成目標。こっちは出ない項目の方が、あとに残る。
「才我」
三郷が呼ぶ。
「笑えてないぞ」
「マジ?」
「マジ」
山崎は頬を上げた。
「これで?」
「ちょっと怖い」
「難しいな、英雄」
三郷が笑った。
「だろ」
報告会が終わる直前、記録官が赤い駒を一つ動かした。北二番分岐から西詰所側へ、指一本分。
「動いてる?」
「応急修理完了。到着は一刻遅れです」
山崎は三郷たちに呼ばれるまで、その時刻を手の甲へ書いていた。