ステータス『0』の観測兵 ~転移したクラスを離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~ 作:ハルキーノ
《王録》 五章 十三節
『砲声のあとの余白には、次に捧げる名が置かれる。』
2375- 北戦線射撃場 山崎視点
戦闘後の射撃場は、戦場より静かだった。
静か、というより、音が全部遠くなっていた。
砲撃の余韻が耳の奥に残り、誰かの声が一枚布を挟んで聞こえる。
「消費弾数、焼結炸薬弾十二。機銃弾、二百八十。魔導冷却液、二本。障壁札、三枚」
補給係が読み上げる。山崎は、木箱の端に腰を下ろしていた。
立っていられないほどではない。ただ、膝に力を入れるのが面倒だった。
「思ったより使ったな」
三郷が言う。
「思ったより、で済むのか」
佐々木が帳簿を見ている。
彼の眉間には、戦闘中より深い皺が寄っていた。
「一発五万ラル。十二発で六十万。機銃弾や冷却液を足せば、今日の一戦だけで小さな村の橋を一本架け替えられる額が消えた計算になる」
「そういう言い方やめろよ」
山崎は笑おうとした。笑えなかった。橋。
道。水場。
羽黒が最近やっていると聞いた仕事が、変な形で頭に浮かんだ。
「でも、撃たなきゃこっちが抜かれてた」
桐谷が低く言う。
右腕を抱えている。
包帯の下で何が起きているのかは、山崎には分からない。
「それはそう」
佐々木はすぐに頷いた。
「だから問題は、撃ったことじゃない。撃った後に、同じだけ補充できるのかだ」
砲撃指揮官が、その言葉に目を上げた。
「分かっているなら、上出来だ」
彼は補給係から帳簿を受け取り、クラスメイトたちの前に置いた。
「お前たちは強い。だが、強いだけなら、弾の多い日しか勝てん」
反論の声は出なかった。
実際、今日の戦闘は弾薬と車両があったから成立した。斜面の途中で白く割れた障壁札がなければ、最初の突進で砲側の歩兵が持っていかれていた。三郷のアクセラップ機も、佐々木のマギブレイク機も、派手な名前のわりに消耗品みたいに数えられている。
桐谷が当て、三郷が見つけ、佐々木が判断し、山崎が声を出した。
それでも、砲弾がなければ斜面を止められなかった。魔法だけでも、銃だけでも足りない。足りないもの同士を、なんとか噛み合わせていただけだ。
「初心者に銃を持たせると、撃った後に固まる」
指揮官が続ける。
「音、反動、煙、着弾。全部が一度に来る。能力者でも訓練なしでは扱えない。お前たちは恵まれている。身体が保つ。目が追いつく。だが、それは訓練を飛ばしていいという意味じゃない」
山崎は、自分の掌を見た。
震えてはいない。
でも、指の腹に、砲塔の振動がまだ残っている。
「明日は」
三郷が聞く。
「車両なしで、同じ地形を歩く」
砲撃指揮官は、さらりと言った。
「は?」
「砲撃のありがたみは、ない状態で一度歩けば分かる」
山崎が顔をしかめる。
桐谷は何も言わなかった。
佐々木は帳簿に目を落としたまま、小さく息を吐く。
「弾がない日に勝てるとは言わん。だが、弾がない日にどこまで下がるかは覚えろ」
指揮官は、そこで初めて少し笑った。
「それを覚えないまま勝ち続けると、いつか戻り道を忘れる」
三郷の顔から、軽さが抜けた。
「戻り道、か」
「そうだ」
指揮官は帳簿を閉じる。
「勝った後に帰ってくるまでが戦闘だ。派手なところだけ覚えるな」
山崎は、遠くの整備場へ目を向けた。
装甲戦闘車の砲塔は、もう布で覆われている。
さっきまで火を吐いていたものが、今は大きな荷物みたいに見えた。
その周りで、整備兵が油を差し、薬莢を数え、車輪の泥を落としている。
戦闘の後ろに、まだ仕事が続いている。
山崎はその光景を見ながら、空になった弾薬箱を足で寄せた。
羽黒がここにいたら、たぶん最初に薬莢を数えただろう。
少し面白い。少し、喉の奥に引っかかる。
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