静寂の中で魅音が机をバンと叩く。
嫌な予感がする。
「よし!」
やっぱりした。
「歓迎会をやろう!」
「歓迎会?」
「もちろん部活形式でね!」
「だから何の部活なんだよ」
すると魅音はニヤリと笑う。
悟史は苦笑する。
沙都子は楽しそうに笑う。
梨花ちゃんは既に結果を知っているような顔をしていた。
嫌な予感しかしない。
「この部活はね」
魅音が黒板へ向かう。
チョークを手に取り、大きく文字を書く。
『勝負』
「……勝負?」
「そう!」
魅音は振り返る。
「ゲームで勝負して楽しむ部活さ!」
何だその部活。
「今日はトランプだ!」
「却下」
「却下は認めない!」
即答だった。
悟史が肩をすくめる。
「諦めた方がいいよ」
「そんなに?」
「うん」
断言された。
「ごめん、私少し用事があるから今日はパス。ごめんね」
礼奈がそう言った瞬間。
教室に少しだけ静寂が流れた。
部活を休むこと自体は珍しくないのだろう。
だが。
俺は妙な違和感を覚えた。
礼奈の笑顔が少し硬かったのだ。
「レナには後でお仕置きが待ってるよー!」
魅音が笑いながら言う。
「かなかな、ご勘弁なのですよ~」
礼奈も笑って返す。
だが。
その笑顔の奥に何かがある気がした。
礼奈は軽く手を振り、そのまま教室を出ていく。
俺はその後ろ姿を見送った。
そして。
気付けば立ち上がっていた。
「ん?」
魅音がこちらを見る。
「どうしたの?」
「ちょっとトイレ」
咄嗟にそう答える。
魅音は特に気にした様子もなかった。
「早く戻ってきなよー!」
「はいはい」
俺は教室を出る。
廊下へ出ると。
少し先に礼奈の姿が見えた。
窓から差し込む夕日が廊下を赤く染めている。
「礼奈」
呼ぶ。
礼奈が振り返った。
少し驚いた顔。
「駿一くん?分かるかな、かな」
礼奈は小さく笑う。
だが。
やはりどこか元気がない。
「本当に用事か?」
俺が聞く。
礼奈は少し黙った。
そして。
窓の外へ視線を向ける。
「半分本当」
「半分?」
「今日は少し一人になりたかったの」
夕暮れの光が礼奈を照らす。
その横顔は。
どこか寂しそうだった。
「何かあったのか?」
礼奈は首を横に振る。
「ううん」
そう言う。
だが。
その返事が本音じゃないことくらい分かる。
「駿一くん」
礼奈がぽつりと言う。
「雛見沢どうだった?」
突然の質問だった。
「どうって?」
「変な村でしょう?」
少し自嘲気味な笑み。
俺は少し考えた。
そして。
正直に答える。
「変な村だな」
礼奈が吹き出した。
「かなかな!」
「でも嫌いじゃない」
そう続ける。
礼奈の笑顔が少し柔らかくなった。
「そっか」
「みんな変だけど」
「否定できないかな、かな」
「でも楽しそうだ」
礼奈は少しだけ目を見開いた。
そして。
どこか安心したように微笑む。
「よかった?」
「何が?」
「駿一くんが笑ってたから」
その言葉に。
今度は俺が驚く番だった。
「え?」
「部活の時」
礼奈は言う。
「楽しそうだった」
俺は返事に困る。
そんなつもりはなかった。
ただ流されていただけだと思っていた。
「レナね」
礼奈が続ける。
「駿一くんがここへ来た理由、なんとなく分かるんだ」
俺の心臓が少し跳ねた。
「礼奈のことだろ?」
礼奈は静かに頷く。
「うん」
否定しない。
「でもね」
礼奈は少しだけ笑った。
「それだけじゃ駄目なんだよ」
「どういう意味だ?」
礼奈は答えない。
代わりに。
夕焼け空を見上げる。
「人はね」
ぽつりと呟く。
「一人だと壊れちゃうから」
その言葉は。
まるで自分自身へ言い聞かせているようだった。
俺は何も言えなかった。
礼奈もまた。
何かを抱えている。
それだけは分かる。
しばらく沈黙が続く。
やがて。
礼奈はいつもの笑顔を浮かべた。
「そろそろ戻った方がいいよ」
「魅音ちゃん怒るから」
「ああ」
「それと」
礼奈は少しだけ不気味にいや、狂気の沙汰を感じた。
「ここでは、レナって呼んで……」
そう言って礼奈はくすくす笑った。
さっきまでの暗い表情が嘘みたいだった。
そして。
礼奈は歩き出す。
「また明日ね」
「ああ」
「また明日」
礼奈は手を振る。
俺も振り返す。
その姿が校舎の角へ消えるまで見送った。
その時。
ふと気付く。
礼奈は結局。
何の用事があったのか話していない。
俺は少しだけ引っ掛かりを覚えながらも教室へ戻った。
教室の扉を開けた瞬間。
「遅い!!」
魅音の声が飛んできた。
「逃亡したかと思ったよ!」
「してねぇよ」
「よし、それじゃ始めよう!」
机をバンと叩く。
嫌な予感がした。
そして。
その予感は見事に的中することになる。
そして、魅音はカードを並べ始めている。
完全にやる気だ
「負けた人には罰ゲームもあるよ!」
「やっぱりな!」
「当たり前じゃない!」
当たり前なのか。
俺には分からない。
だが。
騒がしい教室を見回していると、少しだけ思う。
礼奈のことを調べるために来たはずだった。
それなのに。
いつの間にか俺は、こんな連中に囲まれている。
不思議な村だ。
不思議な人たちだ。
そして。
ふと視線を感じた。
見ると、梨花ちゃんがこちらを見ていた。
その瞳はどこか安心したようでもあり。
それでいて何かを考えているようでもあった。
「どうした?」
俺が聞く。
すると梨花ちゃんは小さく笑った。
「なんでもないのですよ」
だが。
その答えは明らかに嘘だった。
梨花ちゃんは何かを見ている。
俺には見えない何かを。
そんな気がした。
「それじゃあ!」
魅音が机の上にトランプを広げる。
「歓迎会第一回戦! 神経衰弱大会だよ!」
「普通だな」
「普通じゃないよ?」
魅音がニヤリと笑う。
嫌な予感しかしない。
「このトランプにはハズレカードが混ざっている!」
「待て」
「引いた人にはペナルティ!」
「待てって」
「ちなみに作ったのは沙都子!」
「ですわー!」
胸を張るな。
悟史は頭を抱えていた。
どうやらいつものことらしい。
「お姉ぇ……」
「細かいことは気にしない!」
絶対細かくない。
だがすでにゲームは始まる空気だった。
俺は諦めて席に着く。
魅音。
悟史。
沙都子。
梨花。
そして俺。
五人が机を囲んだ。
「では最初はお客さんから!」
「え?」
「歓迎だからね!」
絶対違う。
ただの生贄だ。
「さぁ引きたまえ!」
俺は適当に二枚めくる。
ハートの七。
スペードの三。
外れ。
「残念!」
魅音が笑う。
すると沙都子が立ち上がった。
「それでは罰ゲームですわ!」
「本当にあるのかよ」
「当たり前ですの」
沙都子はどこからともなく紙を取り出した。
『好きな食べ物を大声で叫ぶ』
「軽いな」
少し安心する。
「カレーライス」
「もっと大きな声で!」
「カレーライス!!」
教室に響く。
魅音が爆笑した。
悟史まで笑っている。
なんなんだこの連中。
その後もゲームは続いた。
魅音は豪快に失敗し。
沙都子は自分の仕掛けた罠に引っ掛かり。
悟史は終始苦労人だった。
そして。
「みぃ」
梨花ちゃんだけが異常に強かった。
「なんでそんなに当てられるんだ?」
「勘なのですよ」
絶対違う。
何十回もやったことがある人間の動きだった。
俺が疑いの目を向けると。
梨花ちゃんは小さく笑う。
「秘密なのです」
その笑顔を見ていると。
また違和感が湧く。
やっぱりこの子は普通じゃない。
子供らしくない。
そんなことを考えているうちに。
ゲームは最終局面を迎えていた。
残りカードは四枚。
俺の番だった。
「駿一くん、意外と強いね」
悟史が言う。
「運がいいだけだよ」
実際そうだった。
ここまで何とか食らいついてきただけだ。
俺はカードを一枚めくる。
ダイヤのキング。
そしてもう一枚。
同じダイヤのキング。
「おー!」
魅音が声を上げる。
さらにもう一度。
スペードの五。
最後の一枚。
スペードの五。
揃った。
「勝者決定!」
魅音が叫ぶ。
「新入りの勝利だー!」
「マジか」
自分でも驚いた。
すると沙都子が机を叩いた。
「認めませんわ!」
「負けたんだから認めろ」
「罠が足りなかっただけですわ!」
神経衰弱で罠って何だ。
悟史が苦笑する。
「おめでとう」
「ああ」
その時だった。
魅音が突然立ち上がる。
「勝者には景品がある!」
「景品?」
「もちろん!」
そう言って机の下から箱を取り出した。
嫌な予感しかしない。
「特製おはぎ!」
「おはぎ?」
「手作りだよ!」
その瞬間。
なぜか梨花ちゃんの表情が固まった。
悟史も微妙な顔をしている。
沙都子は目を逸らした。
「……なんだその反応」
「食べれば分かるよ!」
魅音は満面の笑みだった。
絶対に信用してはいけない笑顔だった。
だが。
俺はまだ知らない。
この部活で一番恐ろしいものが。
オヤシロ様でも。
雛見沢でもなく。
魅音の手料理かもしれないということを。
教室に笑い声が響く。
気付けば俺も笑っていた。
礼奈のこと。
事件のこと。
雛見沢の謎。
忘れたわけじゃない。
それでも。
こうして笑っている時間は悪くなかった。
だからこそ。
部活パート。こんな感じで書いては見たんですけど中々難しいですね
ちょっと各パートをいじって話を挿入してしまったんて読みにくかったらすみません