マジカル・パージ   作:箸も豚トロ

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いつかの書き直しを気長にやります。
戦記表記ですが、メインは政治と宗教になるかと思います。


お茶して、話して、滅ぼして
歴史の生き証人を尋ねて


ここには国があった。

 

今よりも歪で、不健全で、醜悪で、不潔な、国があった。

 

そして、人々は理想を掲げて国を解体し、その後長らく国が造られることはなかった。

 

何故、新しい国ができなかったか?

 

魔法使い『安寧』は後に、こう語る。

 

「魔法は元々、ちっぽけな力だった。巨大な何かに仕立て上げたのは、人間だよ」

 

――魔法が、国を滅ぼしたのでしょうか?

 

「そうだね。魔法があの国を滅ぼした」

 

――何が原因だったのでしょうか?

 

「うーん、一概にこれが悪いとは言えないけどさ」

「やっぱ『カフェ』じゃない? 彼女がいる限り、時間の問題だったと思うよ」

 

かつて存在した宗教国家、ビルジェイエ。我々の歴史の源泉とも言える統一国家はどのようにして生まれ、育ち、亡くなったのか。これは当時を生きた魔法使いの証言を元に、歴史の舞台裏に迫る物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ユスティナ暦一四〇六年、春。

 

取材クルーは、首都近郊にある高級住宅街を訪れていた。資産家や旧貴族系など、国内の有力者だけが住むことを許される地区の中で、一際大きな敷地面積を誇る、豪邸があった。

 

門の前に行けば、自動小銃で武装した警備兵による身分確認が行われた。

 

取材相手は普段、外部との連絡をすべて断っていることもあり、緊張感のある作業だった。

 

事前に話は通っていたようで、門を通過すると警備兵の案内で敷地内を進んでいく。

 

ここは個人が所有する土地としては、最も資産価値が高いことで有名だ。曰く、建国の祖ファーランケラード大帝から与えられた土地だとか。建国が約六〇〇年前であるからして、その長い伝統が広い庭の随所に現れていた。庭師の世界では、この庭で働くことが人生の目標になっているらしい。

 

歩いたのは十五分ほどだろうか。長い一本道の先に、とてもこじんまりとした小屋と、皇族が住んでいたような宮殿が佇んでいた。

 

「本日は、あちらの応接室での取材となります」

 

そう言って、警備兵の方が丁寧な口調で、宮殿の方に手を向ける。

 

「すいません、差し支えなければ、あの小屋は……?」

 

と聞いてみると、

 

「本日は、あちらの応接室での取材となります」

 

と繰り返された。

 

私たちは、その指示に従って、宮殿へ足を踏み入れた。

 

 

中は質実剛健といった雰囲気で、飾られている調度品は年代もバラバラだが、その一点一点が国宝に値するものばかりだ。

 

床に敷かれた絨毯は赤く、柱は細やかな装飾が施され、天井にはシャンデリアが吊り下げられている。我々が思い描く豪華絢爛、そのものだった。

 

「応接室はこちらになります」

 

案内された部屋はこれまでの内装とは対照的に、木で造られた壁や天井と石の床という質素なものだった。今の中流階級の人間なら、これよりもよっぽどいい家に住んでいる。外の扉はしっかりとした造りだったのに、内から見ると安っぽい木材の扉だ。とてもではないがこの宮殿には似つかわしくない。

 

「いらっしゃい」

 

扉が閉まったのを確認して、今回取材に協力してくれることとなった魔法使いが部屋の奥の方から近寄ってきた。

 

「本日はご多忙のところ、取材のお時間を頂戴し誠にありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

「そんな畏まらないで大丈夫だよ。私としても、老人の昔話に付き合ってくれる人を探していたから」

 

彼女は安寧。古くから生きている数少ない魔法使いの一人だ。

 

何年生きているかは記録に残っていないし、本人も「既に知っているはずだから」と、曖昧な答えを三〇〇年続けていて、語るつもりはない。

 

「これ、紅茶ね。コーヒーが好きなら呼んでくるけど」

「ありがとうございます。紅茶が好みなので、こちらだけで十分です」

「そう? 私も紅茶の方が好き」

 

間違いなくこの国で最も偉大な人物なのだが、意外とフランクに接してくれる。

 

「それにしても、記録通りなんですね」

「ええ。驚いた? 生まれた時からこう。今の人にはそこまで珍しくもないと思うけど」

 

少し恥ずかしそうに髪の毛を弄る姿は、年端も行かない少女のようだ。これで少なくとも六〇〇年は生きていると考えると、魔法使いが如何に人類を逸脱しているかが伺える。

 

「この年になって、ようやく白髪も似合ってきた気がするよ。カフェとか『火球』なんかには若白髪ってよく言われたからね。彼らも全然変わってないのが、本当に残念」

 

髪の毛は白、肌は褐色、瞳は黄金色。異国情緒溢れる配色ながらパーツとしては極めて均衡の取れた身体は、惚れ込んだ時の皇帝が美術品として飾ろうとした記録が残っているほどだ。勿論、今回の取材に備えて下調べはしていたので、絶世の美女という評価は知っていたが、可愛いや美しいといった尺度は彼女の前で意味をなさないことを強く実感する。

 

敢えて評するなら、神秘的だろうか。

 

ここで、「大変よくお似合いですね」と言ってはいけない。彼女は容姿について、過度に言及されることを嫌うとされている。事実は許容するが、そこに個人の美醜に関する感想を含めてはならない。社交辞令でせっかくの機会を失うわけにはいかなかった。

 

「さっそくですが、今回はビルジェイエについてお聞きしたいことがあって参りました。当時その場にいた安寧様の思い出などを語って頂ければと思います」

 

本題を切り出せば、待ってましたとばかりに紅茶を片手に持って、椅子に腰かける。

 

「そうだねえ、何から話そうか。昔話も久々だからね。時間もあるし、最初から聞いてもらおうかな」

「あ、申し訳ないけど、今回録音だけね。映像はNGでよろしく」

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