【御礼】この度、二代目・桃白白を襲名いたす運びと相成りました!!   作:拙者

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第9話

 それから一週間。

 

 シャオロンの修行は、大きく二つに分かれた。

 

 一つは、気。

 

 そしてもう一つは――脚だった。

 

 気功砲については、ひとまず置いておくことになった。

 

「今のお前には、まだ早い」

 

 鶴仙人はそう言った。

 

「圧縮の修行をするにしても、まずはその入口に立たねばならん」

 

「入口……」

 

「気の総量を増やすこと」

 

「そして、増やした気を自在に扱えるようになることじゃ」

 

 シャオロンは頷いた。

 

「つまり……」

 

「どどん波じゃ」

 

「……はい」

 

 結局、話はそこへ戻ってきた。

 

 気功砲をどうするか考える前に、まずはまともなどどん波を撃てるようになる。

 

 それが今のシャオロンに必要なことだった。

 

*

 

 最初の修行で、シャオロンは自分の弱点を思い知らされた。

 

「撃ってみろ」

 

「はい!」

 

 シャオロンは構える。

 

 気を集める。

 

 指先へ送り込む。

 

「どどん波!」

 

 光が走る。

 

 だが――

 

「……弱いな」

 

「はい……」

 

 シャオロン自身も分かっていた。

 

 威力が足りない。

 

 以前からそうだった。

 

 それでも、シャオロンには一つだけ妙なところがあった。

 

「もう一発」

 

「はい!」

 

 間髪入れず、もう一度構える。

 

「どどん波!」

 

 二発目が飛ぶ。

 

 鶴仙人は眉をひそめた。

 

「……」

 

「どうですか?」

 

「お前」

 

「はい?」

 

「なぜ二発撃てる?」

 

「え?」

 

 シャオロンは首を傾げた。

 

「だって、余力があれば、また撃てますよね?」

 

「そういう問題ではない」

 

 鶴仙人はため息をついた。

 

「お前は気を消すことばかり上手くなっておる」

 

「……」

 

「気配を隠す」

 

「気を抑える」

 

「気を漏らさない」

 

「そればかり修行してきた」

 

 シャオロンは黙った。

 

 確かにそうだった。

 

 桃白白から離れて一人で修行していた頃も、まず気配を消すことを意識していた。

 

 気を抑え込む。

 

 肉体の鍛錬に集中する。

 

 余計な気を漏らさない。

 

 その結果――

 

 気を高めることについては、ほとんど鍛えられていなかった。

 

「だから、お前は未熟なくせに二連射できてしまう」

 

「……褒められてるんですか?」

 

「馬鹿者」

 

 鶴仙人は即答した。

 

「威力がないだけじゃ」

 

「……ですよね」

 

 シャオロンは肩を落とした。

 

「よし」

 

 鶴仙人が立ち上がる。

 

「今日から気を高める修行をするぞ」

 

「はい!」

 

*

 

 修行は地味だった。

 

 ただ気を高める。

 

 身体の中で気を巡らせる。

 

 限界まで高める。

 

 維持する。

 

 そして、それを再び消す。

 

 今までシャオロンが得意としていたのは、最後の部分だけだった。

 

 消すことならできる。

 

 抑えることならできる。

 

 だが――

 

 高めることは苦手だった。

 

「もっとじゃ」

 

「はい……!」

 

「まだ足りん」

 

「はい!」

 

 汗が落ちる。

 

 呼吸が荒くなる。

 

 それでもシャオロンは気を高め続けた。

 

 そして――

 

「どどん波!」

 

 以前とは違う光が走った。

 

 地面を削る。

 

 遠くの岩を砕く。

 

 シャオロンは目を見開いた。

 

「……強くなった」

 

「まだまだじゃ」

 

「これでも?」

 

「お前の身体で出せる気の量を考えれば、まだ少ない。その証拠に息が上がってもおらんじゃろ」

 

 厳しい。

 

 だが、シャオロンは笑った。

 

「じゃあ、もっとやります」

 

「愚か者め。数をこなすのではなく、質を高めるのじゃ」

 

*

 

 一方。

 

 脚の修行も始まっていた。

 

 こちらは、もっと地味だった。

 

「走らんのですか?」

 

「走れると思うか?」

 

「……思いません」

 

「なら走るな」

 

 鶴仙人はシャオロンの足首を見た。

 

「まずは日常生活じゃ」

 

「日常生活?」

 

「歩く」

 

「立つ」

 

「しゃがむ」

 

「階段を上る」

 

「身体を動かす」

 

「それだけじゃ」

 

 ただし――

 

「足首を気で補強しろ」

 

「気で?」

 

「今まで使ってこなかった腱や筋繊維を、急に使えば痛める」

 

「だからまずは気で身体を支えながら動け」

 

 シャオロンは言われた通りにした。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 足首に意識を集中する。

 

 気を薄くまとわせる。

 

 支える。

 

 四足歩行で歩く。

 

 止まる。

 

 また歩く。

 

 それだけ。

 

 だが、それまでとは違った。

 

 足首が動く。

 

 今まで使っていなかった部分が、少しずつ動いている。

 

「……変な感じです。それと首が痛い」

 

「当然じゃ。首もずっと持ち上げとるわけじゃからな」

 

「脚の方も、自分の脚じゃないみたい」

 

「今まで使っていなかったんじゃからな」

 

 シャオロンは歩く。

 

 少しずつ。

 

 慎重に。

 

 時には痛みが走る。

 

 そのたびに止まる。

 

 休む。

 

 そしてまた歩く。

 

 急ぐ必要はなかった。

 

 今まで眠っていた身体を、少しずつ起こしていく。

 

*

 

 数日が過ぎた。

 

 シャオロンは歩き方そのものを変え始めていた。

 

 足首を使う。

 

 膝を使う。

 

 身体の重心を変える。

 

 そして、少しだけ走る。

 

「……速くなった?」

 

 シャオロン自身が驚いた。

 

「まだ走っておらん」

 

「え?」

 

「歩いているだけじゃ」

 

「……」

 

 シャオロンは苦笑した。

 

 確かにそうだった。

 

 だが、それでも今までとは違う。

 

 地面を踏む感覚が違う。

 

 足の裏で地面を捉える感覚がある。

 

 身体が前へ進む。

 

 そして何より――

 

 脚を動かすことが楽しかった。

 

*

 

 二週間は、あっという間だった。

 

 劇的に強くなったわけではない。

 

 どどん波も、まだ完成とは言えない。

 

 脚も、まだ本来の力を引き出せるところまではいっていない。

 

 それでも。

 

 シャオロンの中では、何かが変わっていた。

 

 気を消すだけではない。

 

 気を高める。

 

 身体を抑えるだけではない。

 

 身体を使う。

 

 今まで知らなかった自分の身体を知る。

 

 その二週間だった。

 

「ありがとうございました!」

 

 道場の前。

 

 シャオロンは鶴仙人に頭を下げた。

 

「二週間、面倒を見てもらって」

 

「礼を言うほどのことではない」

 

 鶴仙人はそっけなく答えた。

 

「お前が勝手に修行していただけじゃ」

 

「でも、すごく勉強になりました」

 

「そうか」

 

 シャオロンは振り返る。

 

 そして、ふと思い出した。

 

「あ」

 

「なんじゃ」

 

「尻尾」

 

 シャオロンは自分の長い尻尾を掴む。

 

「これ、鍛えたほうがいいって言ってましたよね?」

 

「そうじゃ」

 

「何に使えばいいんですか?」

 

「何でもいい」

 

 鶴仙人は答えた。

 

「ぶら下がる」

 

「身体を支える」

 

「体勢を崩したときに使う」

 

「手足と同じように、自在に動かせるようにしておけ」

 

「分かりました」

 

 シャオロンは尻尾を動かしてみる。

 

 まだ、思うようには動かない。

 

「……難しい」

 

「だから鍛えるんじゃ」

 

「はい」

 

 シャオロンは笑った。

 

「やってみます」

 

*

 

 そして、もう一つ。

 

 シャオロンは振り返った。

 

「鶴仙人様」

 

「なんじゃ」

 

「桃白白様のことなんですが」

 

「うむ」

 

「やっぱり、まだ連絡はありません」

 

「そうか」

 

「いつ呼ばれるのか分からないので、今まで通りアジトにはこまめに戻るつもりです」

 

 鶴仙人は少し考えた。

 

「ならば、これを持っていけ」

 

 紙に書かれた番号を差し出す。

 

「これは?」

 

「白白の仕事の一部ではあるが、仲介しておった男の連絡先じゃ」

 

「仕事の……」

 

「白白自身の連絡先ではない」

 

「じゃが、何か知っておるかもしれん」

 

 シャオロンは紙を受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

「すぐに連絡する必要はない」

 

「はい」

 

 シャオロンは紙を大事にしまった。

 

「気長に待ってみます」

 

「それがいいじゃろう」

 

 シャオロンは最後にもう一度頭を下げた。

 

「それじゃあ、また」

 

「うむ」

 

 シャオロンは歩き出した。

 

 二週間前とは、ほんの少しだけ違う歩き方で。

 

 足首を使い。

 

 地面を踏み。

 

 自分の身体を確かめるように。

 

 その背中を、鶴仙人は黙って見送っていた。

 

 ――まだ、始まったばかりだ。

 

 シャオロン自身も、それを感じていた。

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