【御礼】この度、二代目・桃白白を襲名いたす運びと相成りました!! 作:拙者
それから一週間。
シャオロンの修行は、大きく二つに分かれた。
一つは、気。
そしてもう一つは――脚だった。
気功砲については、ひとまず置いておくことになった。
「今のお前には、まだ早い」
鶴仙人はそう言った。
「圧縮の修行をするにしても、まずはその入口に立たねばならん」
「入口……」
「気の総量を増やすこと」
「そして、増やした気を自在に扱えるようになることじゃ」
シャオロンは頷いた。
「つまり……」
「どどん波じゃ」
「……はい」
結局、話はそこへ戻ってきた。
気功砲をどうするか考える前に、まずはまともなどどん波を撃てるようになる。
それが今のシャオロンに必要なことだった。
*
最初の修行で、シャオロンは自分の弱点を思い知らされた。
「撃ってみろ」
「はい!」
シャオロンは構える。
気を集める。
指先へ送り込む。
「どどん波!」
光が走る。
だが――
「……弱いな」
「はい……」
シャオロン自身も分かっていた。
威力が足りない。
以前からそうだった。
それでも、シャオロンには一つだけ妙なところがあった。
「もう一発」
「はい!」
間髪入れず、もう一度構える。
「どどん波!」
二発目が飛ぶ。
鶴仙人は眉をひそめた。
「……」
「どうですか?」
「お前」
「はい?」
「なぜ二発撃てる?」
「え?」
シャオロンは首を傾げた。
「だって、余力があれば、また撃てますよね?」
「そういう問題ではない」
鶴仙人はため息をついた。
「お前は気を消すことばかり上手くなっておる」
「……」
「気配を隠す」
「気を抑える」
「気を漏らさない」
「そればかり修行してきた」
シャオロンは黙った。
確かにそうだった。
桃白白から離れて一人で修行していた頃も、まず気配を消すことを意識していた。
気を抑え込む。
肉体の鍛錬に集中する。
余計な気を漏らさない。
その結果――
気を高めることについては、ほとんど鍛えられていなかった。
「だから、お前は未熟なくせに二連射できてしまう」
「……褒められてるんですか?」
「馬鹿者」
鶴仙人は即答した。
「威力がないだけじゃ」
「……ですよね」
シャオロンは肩を落とした。
「よし」
鶴仙人が立ち上がる。
「今日から気を高める修行をするぞ」
「はい!」
*
修行は地味だった。
ただ気を高める。
身体の中で気を巡らせる。
限界まで高める。
維持する。
そして、それを再び消す。
今までシャオロンが得意としていたのは、最後の部分だけだった。
消すことならできる。
抑えることならできる。
だが――
高めることは苦手だった。
「もっとじゃ」
「はい……!」
「まだ足りん」
「はい!」
汗が落ちる。
呼吸が荒くなる。
それでもシャオロンは気を高め続けた。
そして――
「どどん波!」
以前とは違う光が走った。
地面を削る。
遠くの岩を砕く。
シャオロンは目を見開いた。
「……強くなった」
「まだまだじゃ」
「これでも?」
「お前の身体で出せる気の量を考えれば、まだ少ない。その証拠に息が上がってもおらんじゃろ」
厳しい。
だが、シャオロンは笑った。
「じゃあ、もっとやります」
「愚か者め。数をこなすのではなく、質を高めるのじゃ」
*
一方。
脚の修行も始まっていた。
こちらは、もっと地味だった。
「走らんのですか?」
「走れると思うか?」
「……思いません」
「なら走るな」
鶴仙人はシャオロンの足首を見た。
「まずは日常生活じゃ」
「日常生活?」
「歩く」
「立つ」
「しゃがむ」
「階段を上る」
「身体を動かす」
「それだけじゃ」
ただし――
「足首を気で補強しろ」
「気で?」
「今まで使ってこなかった腱や筋繊維を、急に使えば痛める」
「だからまずは気で身体を支えながら動け」
シャオロンは言われた通りにした。
一歩。
また一歩。
足首に意識を集中する。
気を薄くまとわせる。
支える。
四足歩行で歩く。
止まる。
また歩く。
それだけ。
だが、それまでとは違った。
足首が動く。
今まで使っていなかった部分が、少しずつ動いている。
「……変な感じです。それと首が痛い」
「当然じゃ。首もずっと持ち上げとるわけじゃからな」
「脚の方も、自分の脚じゃないみたい」
「今まで使っていなかったんじゃからな」
シャオロンは歩く。
少しずつ。
慎重に。
時には痛みが走る。
そのたびに止まる。
休む。
そしてまた歩く。
急ぐ必要はなかった。
今まで眠っていた身体を、少しずつ起こしていく。
*
数日が過ぎた。
シャオロンは歩き方そのものを変え始めていた。
足首を使う。
膝を使う。
身体の重心を変える。
そして、少しだけ走る。
「……速くなった?」
シャオロン自身が驚いた。
「まだ走っておらん」
「え?」
「歩いているだけじゃ」
「……」
シャオロンは苦笑した。
確かにそうだった。
だが、それでも今までとは違う。
地面を踏む感覚が違う。
足の裏で地面を捉える感覚がある。
身体が前へ進む。
そして何より――
脚を動かすことが楽しかった。
*
気の修行も続いていた。
「もう一度」
「はい!」
どどん波。
威力が落ちる。
シャオロンは息を吐いた。
「……やっぱり二発目は弱い」
「当然じゃ」
「気が足りない?」
「違う」
鶴仙人は答えた。
「二発目が打てないほど、一発目を高められておらん」
「……」
「一発目からもっと引き上げろ」
シャオロンは考える。
今までなら、気を消すことを優先していた。
戦うときもそうだった。
気配を悟られないようにする。
必要な瞬間だけ放つ。
それ自体は間違いではない。
だが――
それだけでは足りない。
強くなるには。
技を極めるには。
まず、自分の中にどれだけの気を作り出せるのかを知らなければならない。
「……分かりました」
シャオロンは構え直す。
「もう一度お願いします」
「あほたれ。もう一度が必要ないようにしろと何度も言っておる」
*
二週間は、あっという間だった。
劇的に強くなったわけではない。
どどん波も、まだ完成とは言えない。
脚も、まだ本来の力を引き出せるところまではいっていない。
それでも。
シャオロンの中では、何かが変わっていた。
気を消すだけではない。
気を高める。
身体を抑えるだけではない。
身体を使う。
今まで知らなかった自分の身体を知る。
その二週間だった。
「ありがとうございました!」
道場の前。
シャオロンは鶴仙人に頭を下げた。
「二週間、面倒を見てもらって」
「礼を言うほどのことではない」
鶴仙人はそっけなく答えた。
「お前が勝手に修行していただけじゃ」
「でも、すごく勉強になりました」
「そうか」
シャオロンは振り返る。
そして、ふと思い出した。
「あ」
「なんじゃ」
「尻尾」
シャオロンは自分の長い尻尾を掴む。
「これ、鍛えたほうがいいって言ってましたよね?」
「そうじゃ」
「何に使えばいいんですか?」
「何でもいい」
鶴仙人は答えた。
「ぶら下がる」
「身体を支える」
「体勢を崩したときに使う」
「手足と同じように、自在に動かせるようにしておけ」
「分かりました」
シャオロンは尻尾を動かしてみる。
まだ、思うようには動かない。
「……難しい」
「だから鍛えるんじゃ」
「はい」
シャオロンは笑った。
「やってみます」
*
そして、もう一つ。
シャオロンは振り返った。
「鶴仙人様」
「なんじゃ」
「桃白白様のことなんですが」
「うむ」
「やっぱり、まだ連絡はありません」
「そうか」
「いつ呼ばれるのか分からないので、今まで通りアジトにはこまめに戻るつもりです」
鶴仙人は少し考えた。
「ならば、これを持っていけ」
紙に書かれた番号を差し出す。
「これは?」
「白白の仕事の一部ではあるが、仲介しておった男の連絡先じゃ」
「仕事の……」
「白白自身の連絡先ではない」
「じゃが、何か知っておるかもしれん」
シャオロンは紙を受け取った。
「ありがとうございます」
「すぐに連絡する必要はない」
「はい」
シャオロンは紙を大事にしまった。
「気長に待ってみます」
「それがいいじゃろう」
シャオロンは最後にもう一度頭を下げた。
「それじゃあ、また」
「うむ」
シャオロンは歩き出した。
二週間前とは、ほんの少しだけ違う歩き方で。
足首を使い。
地面を踏み。
自分の身体を確かめるように。
その背中を、鶴仙人は黙って見送っていた。
――まだ、始まったばかりだ。
シャオロン自身も、それを感じていた。