「とりあえずこんな感じかなぁ」
波乱の自己紹介の後、自室の荷解きが終わりベッドの上で一息つく。
女性しかいない寮に男が暮らす事が意外とすんなり受け入れられ拍子抜けしたが、とりあえず平和に過ごせそうで胸を撫で下ろす。
「まだこんな時間か、買い出しは…少し休んでから行こうかな…原稿も終わってるし」
「あの、千秋君ちょっといいかな?…」
「大丈夫だよぼたん」
壁掛け時計で時間を確認し寝返りをした途端、数回のノックの後少し申し訳無さそうな声のぼたんがドア越しに聞こえる。
「お邪魔します…あの…千秋君お願い!色々疲れてると思うんだけど…ちょっと掃除を手伝ってください!!」
「いいよ、どこの掃除?」
「ありがとう!!私のお部屋!」
「あぁお部屋ね」
「あぁ…汚部屋ね…」
ぼたんの部屋掃除を承諾し彼女の部屋を見るまでの数秒で俺は思い出した、幼なじみ上伊那ぼたんは汚部屋職人だと言うことに。
「ひ、酷いよ!お部屋だよ!」
「フッ部屋ね、部屋…」
お菓子の空き箱や空のペットボトル、脱ぎ捨てられた衣類云々、他の男性なら見たら嬉しい物もその辺に無造作におかれている。
「さてさっさと片すか…」
ため息と共に洗濯物をカゴに仕分けしながら入れていく。
「うぅ…仮にも乙女の下着をテキパキと無言で片付けられるのなんか複雑…」
「こんな汚部屋にトキメキとか言われても…ほら洗濯物回してきて」
「うぅ…はーい…」
「全く…昔と変わってないな…ん?」
シュンとしながら洗濯籠を運ぶぼたんの後ろ姿を見送りながら姿勢を崩すと、何やら柔らかく触り心地の良い布が手に触れる。
「しまった…ハンカチがまだあった…か…?…」
サイズ的にハンカチだと思っていたソレを手に取り広げて見ると、それはぼたんのクマさん柄の下着だった。
「…スーッ…おさな!?」
その後なんだかんだありスムーズに汚部屋の片付けが無事終了し、お部屋にする事に成功した。
「ありがとう千秋君!」
「どういたしまして、今度からは定期的に掃除しなきゃダメだよ?」
「はーい!」
「それじゃ戻るね」
自分の部屋ではないが綺麗に片付ける事ができ、心が晴れやかになる。
「まだ時間あるなぁ」
「へいそこのお兄さん、今暇?」
「え?」
スマホで時間を確認しながら通路を歩いていると、後ろから遊佐あかねに声を掛けられた。
「えっと…遊佐さん?」
「あかね。でいいですよ、私の方が歳下なんでタメ口も」
「わかった、ならあかねさんで」
「アハハ!硬いっすね、先輩」
腹を抱えて笑う彼女を見て照れくさくなり、顔を赤く染め頬を掻く。
「…それで何か用?」
「あぁ、ちょっと手を貸して欲しいんですけど」
「いいよなに?」
「そう来なくっちゃ!ささ、こちらに」
されるがままにあかねの部屋に誘導される。
「うぁ…すごい…」
意外な事に整理された部屋には様々なバンドのCDや楽器の機材などが飾られており、あまり詳しくはないが思わず目を奪われてしまう。
「すごいっしょ!私のコレクション」
「うん、あかねさんギター引けるんだね!かっこいい」
「そ…そんな事ないですよ…練習すれば誰でも…ってそんな事より!これを組み立ててください!」
「これは…棚?」
「はい棚です!組み立て式の」
表面に埃を被り、説明書すら取り出されていない開けただけの箱とあかねの顔を交互に見比べる。
「…どこに置くつもり?」
「そこです!」
見た目ほど複雑な組み立てはなく、思っていたよりかなり早く完成した棚を指定された場所に置く。
「ほい、ここでいい?」
「はい!ありがとうございます!いやぁ助かりましたよ!買ったのはいいものの組み立てがめんどうで2ヶ月くらい放置してましたから!んじゃ次は」
「次!?」
「大丈夫ですよ、私じゃなくて」
「あかね終わった?次、千秋さん貸して」
(俺の知らないところで俺のレンタルが始まっている!?)
「つー訳で先輩!やえかの事お願いします!」
『誤解を招くような言い方やめい!』
同じツッコミにやえかと顔を合わせ共に笑う。
「もしかして千秋さんもツッコミ担当てか振り回される感じですか?」
「あぁ…確かにそうかもね…」
やえかの依頼は部屋の模様替えだ。
ベッドやタンスを移動させたり、カーペットを変えたり彼女の指示に従い駄べりながら行っていく。
「姉貴やぼたんとかに振り回されっぱなしかも…まぁ嫌じゃないんだけね」
「私もあかねにね…てか千秋さんお姉さんいたんだ?なんかお兄ちゃんぽいのに…ぼたんちゃんも意外…しっかりしてそうなのに、あ、タンスはその位置で」
「ここね、ぼたんはああ見えて結構子供っぽいよ?あ、ここついでに拭き掃除しとくよ」
姉貴は好奇心旺盛な大型犬、ぼたんはお金持ちに飼われてるペルシャ猫と言うイメージだ。
「ありがとうございます!ぼたんちゃんはペルシャ猫ってイメージですね、いいとこ育ちの」
「あ、わかる!確かにペルシャ猫だよね!」
似たもの同士会話が弾み、やえかの納得のいく仕上がりになった。
「千秋さんありがとうございます!」
「どういたしまして、それじゃ!」
軽く手をふり、彼女の部屋を後にする。
「タバコ吸うか…」
キッチンの換気扇をつけ、タバコに火をつける。
「フーッ…」
「労働後の一服は美味しいんじゃない?」
「郡上先輩確かに格別ですね」
タバコをふかし換気扇へ消えていく煙を眺めていると、ライターとシガーケースを持った郡上かなでが隣に来ると慣れた手つきでタバコに火をつける。
「タバコ吸うんですね」
「君だって意外よ。皆貴方を頼りにしてるから大変でしょ?」
「アハハまぁでも受け入れて貰えて良かったですよ、男手が必要だったからだとしても」
「もう、そんな言い方しないの!皆ちゃんと寮の仲間として受け入れてるのよ?」
「そうなら…嬉しいですね」
灰皿にタバコを擦り付け、火を消す。
「持ちつ持たれつよ千秋君、困ったことがあったら皆に相談してね?勿論私にも」
「ありがとうございます郡上先輩、所で」
その言葉に心が軽くなるのを感じる。
「ん?」
「何か手伝う事ありますか?」
2本目のタバコに火をつけ、彼女に尋ねる。
「フフ、なら先に頼っちゃおうかな」
数時間後。
「ありがとね、千秋君」
「どういたしまして、それじゃ」
高所の電球替えや蝶番やネジの緩みの締め直しを終えかなでの部屋を後にし、スマホで時間を確認すると中々の時間になってしまっていた。
「いつの間にかこんな時間に…急いで買い物…あぁ…でも外食にするか?」
「あの小澤さん」
玄関で靴を履き立ち上がると、いぶきに声を掛けられた。
「寮長どうしたの?」
「あの…やっぱり昼間のお詫びがしたくて…」
「別にい…あっ、ならさちょっと手伝って貰っていいかな?」
「え?う…うん、わかった」
「いやぁありがとうね」
「本当に買い物の手伝いだけでいいんですか?」
近所のスーパーに買い出しに付き合って貰ったおかげで、想定より早く買い出しが終わった。
「凄い助かったよ!」
「なら良かった、でも小澤さん料理するんですね?」
「まぁ一人暮らしが長かったしね、千秋でいいし敬語も要らないよ?俺達同学年なんだし」
「えっと…ち…千秋…」
「はい」
グゥ〜
「今の音は…」
グゥ〜
2回目で謎の音の出どころが判明した。
「寮長、もし良ければぼたんも誘ってご飯食べない?」
赤面しお腹を抑えるいぶきは無言のまま頷き、速歩で千秋を追い抜いた。
「アハハ、寮長お腹空いてたんだなぁ」
「千秋君の料理久しぶりだなぁ」
「ぼたんは千秋の料理食べた事あるの?」
「あるよ〜まだお互い地元に居た時に!凄く美味しいんだよ!」
「お待ちどうさま、あんまり期待しないでね?」
目を輝かせる2人の前にオムライスを置く。
ちなみにオムライスは寮長のリクエストだ。
「うぁ〜凄く美味しそう!お店レベルだよ千秋!!ね!ぼたん」
「フフフ!凄いでしょ千秋君が作ったオムライス!」
何故か誇らしそうにしているぼたんだが、あえて何も言わずにワイングラスを人数分取り出す。
「ぼたんは20歳だよね?2人ともワイン飲む?」
「え…」
「あ、あのね千秋君…いぶきはお酒は…」
「あぁ苦手だった?ごめんね…お酒飾ってある棚があったから飲むんだと思って…ならジュースにしよっか」
2人の顔色が変わったため詳しくは聞かずワインをしまい、オレンジジュースとグレープジュースをテーブルに置く。
「ごめん千秋…」
「気にしないで寮長、ほら冷める前に食べて!」
『頂きます!』
オムライスを1口食べた2人の表情が明るくなる。
「美味しい!!何これ!たまごとろとろぉデミグラスソースうまぁ」
「やっぱり千秋君のご飯美味しいぃ!」
「アハハ、良かった。さて俺も食べよっと、頂きま…」
「なに?凄い美味しそうな匂いがするけど…あ!3人ともズルい!オムライスいいなぁ〜私も食べたいなぁ。」
自分の分のオムライスを置き手を合わせた瞬間、かなでが匂いに釣られて共有スペースに入ってくる。
「かなで先輩、良かったら俺まだ手をつけてないからどうぞ」
「え、いいの?」
「また作りますから、先に食べてください」
「千秋くんの手料理?…凄い」
ぼたん達から皆サークルや飲み会で忙しく、揃って食事をする事はあまりないと聞いていたが、材料もあるので追加で作ることにした。
「待ってこれ凄い美味しい!!」
「えへへ凄いでしょ!郡上先輩!」
「だからなんでぼたんが誇らしそうにしてんのさ…作ったのは千秋でしょ?…」
「あれ皆揃ってるの珍しいですね?」
「あ、本当だ、てかちょーいい匂い…」
グゥ〜×2
いざ調理をしようとした時、やえかとあかねも揃って共有スペースにくるやいなや2人とも腹の虫が空腹を告げる。
「…2人も食べる?…オムライス」
『はい!是非』
その後人数分作り、翌日また買い出しに行く事になってしまった。