「はい、確かに書類と千秋さんの銃をお預かりしました。お姉さんの銃も纏めてメンテナンスしておきますね」
「よろしくお願いします」
火災事故の後警察に預けていた猟銃を引き取り、信頼できる銃砲店に管理委託を依頼した。
お金はかかるが使い物にならなくなるよりはマシだ。
「さて、たまには秩父でも行ってみるか」
たまには外で飲みたい欲求に従い、秩父へ向かう。
「今日はどこにしようかなぁ…」
賑わいだす数々の居酒屋に高まる気持ちを抑えつつ、スマホで検索する。
「お、ここにしよ!」
歩いて10分程で到着する。
白い外壁のその店は昼はカフェ、夕方から居酒屋になる少し変わった営業方をしている。
「すいませんー、1人ですけど大丈夫ですか?…あッ」
「ヒック…あ…」
…混んでいる店内を見渡すと、2人用の席に座りお酒を嗜む寮長と目が合った。
「あの…すいません…今込み合っていまして…」
「知り合いです、相席で大丈夫です」
反射的にに寮長の座る席をみてしまった。
「え?…あちょ…」
「あ、そうだったんですね!お席へどうぞ!」
「ありがとうございます!…えっと…ハイボールと」
「ハイボール2つとマルゲリータで」
「かしこまりました〜」
千秋のオーダーに割り込むように自分の料理と酒を注文する寮長はどこか威圧的に感じ、顔は笑顔だが目が全く笑っていなかった。
「いいよね?千秋…ヒック」
「は…はい…以上で…」
店員が厨房に消えたタイミングで寮長に手を合わせ、謝罪をする。
「すいませんでした…ここは奢らせていただきますので…」
「ふふ、いいよ別に…ヒック…でもうるさいでしょ?しゃっくり…お酒飲むと…ヒック…出ちゃうんだ…」
「いいや、気にならないよ。だから皆の前で飲まななかったの?」
「うん…でもぼたんには山の公園で飲んでるの見られたから…ヒック…大丈夫」
顔を赤くしジョッキに残ったビールを飲み干す姿をみて体質のせいで気を使いすぎてしまうが、実際はお酒が好きなんだと感じる。
「美味しそうに飲むね」
「ヒック…うん美味しいよ…」
「お待たせいたしました〜ハイボール2つとマルゲリータです〜」
『ありがとうございます!』
酒と料理で2人の会話が進んでいく。
「千秋が来てから1週間経つけどなれた?…ヒック」
「うん、おかげさまで。あ、そう言えばあの寮って駐車場あるんですか?」
「あるよぉ、寮の裏手に。千秋って免許も車も持ってるんだ?…ヒック」
「18になってすぐにね、来週まで前住んでた駐車場に停めさせて貰ってるんだ、まぁ車は姉と共同だけどあんまり日本に居ないから殆ど俺が使ってるよ…ん?」
会話の途中視線を感じ目立たないように辺りを見渡すと、少し離れた席に座る4人の男性客がこちらを見てからかうように笑っていた。
「あの席の人達ね…トイレに行く時にしゃっくりを聞かれちゃって…」
先程まで明るかった彼女の顔が一瞬で闇に引きずり込まれ、心がチクリと痛む。
「いぶき…」
「へ!?…今名前で?…」
唖然とするいぶきを気にせずシャツを脱ぎ半袖になると、右の二の腕から肘の辺りまでの大きな傷跡が刻まれている。
彼の傷跡を見て先程までニヤついていた男性客達はバツの悪そうな顔になり、顔を逸らしてしまった。
「千秋…その傷跡って?…」
「ごめんね…気持ち悪いよね」
「そんな事ないよ…ヒック…ありがとね」
嫌な視線が消え再び彼女の表情に光が宿り、酒を口に含み出す
「まだ痛むの?」
「全然、小さい頃に参加したサマーキャンプの時にね」
「それって上伊那さんも参加したサマーキャンプ?」
「ぼたんからきいた!?…どこまで!!」
思わず食い気味になってしまった。
「えっと…サマーキャンプではぐれたけど夕立が収まるまで千秋が一緒に居てくれたって感じだよ?」
「そっか…良かった…」
「ぼたんと千秋の傷跡が関係あるの?」
「…ぼたんには内緒にしてくれる?」
無言で頷くいぶきを見て、ゆっくり過去を話し出す。
サマーキャンプで皆とはぐれたぼたんを見つけたが、風で折れた倒木から彼女を庇った際に傷を負ってしまった事と、ぼたんは気を失ってしまっていたからこの傷跡の件は知らないと言う事をはなした。
「そうだったんだ…」
「俺は全く気にしてないからいいんだけど…ぼたんならきっと気にするだろうからさ…実は私を庇って怪我するの見てました〜ってなったら大変でしょ?でも安心した…本人が知らないなら良かった、ちなみにこの怪我のおかげで両手利きになったんだ!」
「アハハなんだそりゃ、てか千秋とぼたんって」
「なに?兄妹みた…」
「親子みたい…ヒック…お父さんと娘」
「えぇ…親子!?」
数日後。
「半日の講義最高〜、お昼は…確か昨日の角煮と煮玉子とポテサラが余ってたなぁ」
ダイニングルームのドアを開けると、タバコと缶ビールを片手に郡上かなでが先客で昼間から酒を嗜んでいた。
「もしかしてやけ酒ですか?かなで先輩」
「フー…あぁおかえり千秋君…まぁそんな所ね…付き合ってくれるかしら?勿論飲みながら」
タバコの火を消し、未開封の缶ビールを差し出してくる。
「ありがとうございます!なら俺からはこれを、空きっ腹にビールは良くないですから」
冷蔵庫から小鉢に入ったポテトサラダをかなでの前に置く。
「いいの?ありがと〜」
「どーぞ!それでなにがあったんですか?」
アメリカンスピリットに火を付け、缶ビールを開ける。
「まぁ…簡単に言うと…好きな人にお酒を一緒に飲もうって言えなかったのよ…それ以外でも結構アピールしてるつもりだったんだけど…中々気づいてもらえないの…」
寂しく微笑み煙をはく。
「かなで先輩見たいな美人にアピールされても気づかないなんて…なんて罪な…」
「えぇ!?…美人って…もういきなりなによ…お世辞?」
「お世辞じゃないですよ!かなで先輩に好意を持たれたら好きにならない人なんて居ないですよ!俺なら秒殺される自信ありです!」
「も…もうわかった!ありがとう!わかったからほらもっと飲んで飲んで!!」
照れ隠しの用にどんどんと酒が出され、それらを飲み干し空き缶が積み上げられていく。
「ちょ…千秋君…出しといてなんだけど…そんなに飲んで大丈夫?…」
「ん?あぁ大丈夫ですよ、俺ザルなんで」
「へぇすご…」
「まぁとりあえず、かなで先輩はもう少しワガママになってもいいと思いますよ、多分相手に気を使いすぎて誘えなかったんじゃないです?」
「あっ…」
ビールを飲む手が止まり、まっすぐ千秋を見つめる。
本心を見抜かれ、動揺が隠しきれず表情に漏れでてしまう。
「だから、相手がどう思うかとか気にしないで本心をぶつけてみてもいいんじゃないですか?」
「でも…それで嫌いに…」
「それで嫌いになるなら付き合っても長続きしないですよ」
「…それでも…もしダメだったら…」
「そん時は酒、付き合います!勿論俺の奢りで、気が済むまで飲んで涙が枯れるまで話を聞きますんでなんでも言ってください!」
彼の言葉が心を覆い隠すモヤモヤを振り払い、諦め掛けていた気持ちに再び火を灯してくれた。
「ありがとう…なら早速ワガママいい?」
「はい!なんですか?」
「冷蔵庫の中にある角煮と煮玉子もちょうだい!」
「あ、あるのバレてましたか…どうぞ」
「後…食べ終わったらちょっと付き合ってくれない?」