「秩父だ」
「えぇ秩父よ」
「秩父ですね〜」
かなでに着いて行き電車に揺られる事数時間後、何故かぼたんと3人で秩父に来ていた。
「かなで先輩一体何処へ?てか何故ぼたんも?」
「この辺りに酒屋さんがあるのよ、上伊那さんは抜け駆けしていぶきとお酒飲んだことあるから…いぶきが好きそうなお酒を探してもらおうかなって…千秋君にはあの時のお礼を兼ねてね」
「へ…へぇ…寮長とぼたんが…」
(何か途中から圧が凄いな…俺も飲んだ事あるけど黙ってよう…もしかして一緒に酒を飲めなかった好きな人って…寮長?)
「あ…あはは…郡上先輩…抜け駆けだなんて…」
かなでのぼたんに対する圧に圧倒され、以前一緒に飲んだと言う事実と疑問乎を胸の奥にしまっておく事にした。
「その酒屋さんならこっちじゃないですか?ほらそこです」
「あ、ここぉ!ありがとう!」
「良かったですね郡上先輩!千秋君行ったことあるの?」
「中に入った事はないよ」
「千秋君、上伊那さん〜早く!置いていくわよ〜」
『は…はーい』
一足先に店に入って行くかなでを追いぼたんと共に入店していくと数々の酒瓶や缶ビールが並び、酒飲みの3人は思わず目が奪われてしまう。
「凄いわね…」
「ですね!それでどんなお酒にするんですか?郡上先輩」
「いぶきが一緒に飲んでくれるやつ!」
「ですよね〜」
(あぁ…やっぱり寮長か)
それから3人で話し合い、いぶきが飲んだ事の無さそうな酒=珍しい酒を探す事になったのだが、正直どれが珍しく彼女が飲んだ事のない酒なのか分からず、結局名前が花っぽくていいと選んだ酒を候補にあげた。
「六代目百合って焼酎だよぼたん?」
「飲んだ事ないけど名前可愛いし、これにしましょうよ!郡上先輩!!」
「私焼酎あんまり飲んだ事ないけど…美味しいのかしら?」
「あの〜うちは角打ちをやってますから、試してみますか?」
悩める3人に店員さんの救いの手が差し出される。
「角打ちって?…千秋君わかる?…」
「買ったお酒をその場で飲める事だよ、どうします?かなで先輩」
「3杯お願いします!」
「わかりましたぁ〜ロックでお持ちいたしますね」
「はい!」
かなでの決断の速さに驚きつつも、酒が来るまで各々店内を散策する事になった。
「あ、郡上先輩ここグラスとかも売ってますよ!寮長とお揃いで買っちゃいます?」
「い…いぶきが使ってくれるか分からないし…ちょっと恥ずかしい…」
「郡上先輩は奥手ですね〜、ん?この入れ物名前何でしたっけ?」
グラスの横に置いてある銀色の金属製の容器を手に取り、首を傾げながら名前を思い出す。
「確か…スキ…スキ…」
「すき焼き食べたいなぁ〜…千秋君に作って貰おうかなぁ」
「全く…上伊那さんったら…」
「呼びました?俺の事」
不意に名前を呼ばれ隣の商品棚から顔を覗かせると、かなでとぼたんが真剣な顔をしてスキットルを眺めていた。
「上伊那さんがすき焼きを君に作って欲しいって言ってただけ、ごめんね」
「千秋君!今日すき焼きにしよう!」
「すき焼き?いいけど、それでなんでスキットルを眺めているんですか?」
『スキットルだ!!』
ぼたんとかなではお互いに顔を見合い、スッキリした表情を浮かべた。
「お待たせいたしました〜六代目百合のロックで〜す」
その後角打ちで3人とも六代目百合が好評になり、いざ購入し寮の皆に夕飯のすき焼きと一緒に提供するが、いぶきは拒否しすき焼きのみを堪能する事に。
「うぅ…やっぱりいぶきは私となんか飲みたくないのね…」
「かなで先輩飲みすぎ…せめてチェイサーも飲んで!」
結果前日の悲しみを忘れるように、かなでと2人で居酒屋に付き合う事に。
まさかこんなに早く自分の言葉を有言実行するとは思っても見なかった。
「飲まなきゃやってられないわよ…おかわり!まだ飲むぅ…」
「ちょ!?…」
止める暇もなく度数の高い酒をタッチパネルで注文してしまう。
「私の気が済む間でお酒付き合ってくれるって言ったじゃない!!」
「確かに言ったよ、でもそれは次に進める様に少し休憩しようって意味だよ?かなでは…このまま飲んでて…一歩…踏み出せる?」
真剣な表情で真っ直ぐ見つめ、涙を拭くようにハンカチを差し出す。
「…ありがとう…帰る…でもお酒注文しちゃった…」
「一本吸いますか、吸い終わる前には来ますよ」
タバコを咥え火を付ける。
「私にも…一本…」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございました〜またお越しください〜」
「千秋君ご馳走様、でも本当に奢って貰って良かったの?」
居酒屋から出るとかなでは、少し複雑そうな表情を浮かべ千秋の前に立ち止まる。
何か言いたそうだが、申し訳なさが相まって口ごもってしまっているのだろう。
「約束したじゃないですか?俺の奢りでって」
「そうだけど…そうだけどぉ〜んん〜」
千秋の胸元に頭を付け、お風呂上がりの犬の様にグリグリと左右に振る。
「あはは、かなで先輩何やってるんですか?」
「んん〜」
数秒程頭を擦り付けていたがピタッと止まり肩が震えだすが、顔が下を向いている為表情が分からない。
「かなで先輩…?もしかして泣いてま…」
「うっぷ…ごめん…千秋君…吐きそう…」
真っ青になった顔を上げ、喉まで逆流してきたモノを堪えている
「!?…」
「頭振ったから…酔いが一気に…うっ…」
「待って待って!?今袋を…」
「ごめん…限界…おぇぇぇぇ…」
「…んん…ここは?…知らない天井だ」
千秋との飲み会の後店から出た所までは覚えているのだがそこから先の記憶が全くなく、今自分がいる場所がどこなのか?あの後自分がどうなったのか分からない。
「うぅ…頭痛…知らない天井だ…なんて…本当に言う日が来るなんて…ここ…ホテル?…」
重く痛む頭と体を起こし、スマホを探し部屋を見渡す。
「あった…今…朝の…8時?あれ…千秋君のバッグだ…ッ!?もしかして一緒の部屋に!?」
意識がはっきりしてくると微かにシャワーの音が聞こえる。
「酔って無くした記憶、ホテルで男女一泊…まさか…」
慌てて布団を捲る。
「起きたんですねかなで先輩…てか何やってるんです?布団捲って」
「ち…千秋君!?」
ちゃんと確認する前にバスローブ姿で濡れた頭をタオルで拭きながら、浴室から千秋がでてきた。
「あの…昨日は何が?」
「覚えてないんですか?まぁあれだけ飲めば仕方ないですよね…昨日は凄かったですよ、かなで先輩」
「へ?私が?…」
「はい沢山出したけど、どうです?」
「だ…だだ…出したの!?」
酒の勢いで大人の階段を数段駆け上がってしまった。
どうやら彼も男と言う事らしい。
「最初ら間に合いませんでしたが、その後の2〜3回は何とか間に合いましたよ」
「さ…最初は間に合わなかったの!?」
「はい…いきなりだったんで…バッグには入っていたんですがね」
(え〜間に合わなかったってつまり中に?…て言うかバッグに入ってって…ゴムを何時も持ち歩いているって事!?)
「お店の人に申し訳ない事したな…気をつけましょうねかなで先輩」
「え?お店?」
「そうですよ…かなで先輩店から出て吐いたんですよ?俺の服に向かって…飛び散ったのを店員さんが流してくれたんですから、その後も吐いてましたけどビニール袋持ってたんで受け止めましたけど…」
「え…」
勘違いに加え自分が晒した醜態に血の気が引き、それは恥ずかしいを通り越して消えてしまいたいと思える程だ。
「さすがに吐瀉物を浴びたまま公共機関で帰れないのでたまたま一部屋空いていたビジホに泊まって洗濯して今に至ります。あ、ちなみに俺はソファーで寝たので先輩が勘違いしていた様な事は一切してないですからね?」
「千秋君!!わかっててワザと紛らわしい言い方したわね!」
「あはは!!これに懲りたなら、次からは加減して飲むか、俺と一緒の時に飲むかにしてください」
「…バカ…」