小澤千秋の担当者。
高良夏紀とは高校からの友人。
見た目はクールだが、意外と熱血。
まだ四月だと言うのに初夏を徐々に感じる日差しの中、寮から近いファミレスで担当者の笹原楓と小説について打ち合わせを行っている。
「先日メールでもお知らせしましたが、。猫になった名探偵。がコミカライズが決まりましたので、それについて打ち合わせをお願いします」
「わかりました。まさか俺の小説が漫画になるなんて驚きましたよ…」
俺が現在書いている小説、猫になった名探偵。はかつて名探偵と謳われていた主人公が転生して猫に生まれ変わり、転生前の猫好きの相棒と事件を解決する。という内容だ。
「いずれはアニメ化、ドラマ化を目指しましょう!千秋さん!!」
彼女の見た目はクールで物静かな印象だが、実は仕事熱心で作家に寄り添ってくれるかなり熱い人だ。
「気が早いですよ…楓さん…」
それから一時間程コミカライズや、次の作品の事など話し合い有意義な時間を過ごせた。
「今日はありがとうございました千秋さん、所で夏紀は元気ですか?」
「こちらこそありがとうございました、はい姉貴は元気みたいですよ?今ネパールにいるみたいですね。今朝写真が送られてきました」
夏紀から送られてきた写真をみせる。
「相変わらず写真撮るの上手いですね、夏紀。よろしくとお伝え下さい。それではお疲れ様でした」
「思ったより早く終わったなぁ〜あ、一旦帰って車取りに行こうかな」
「あかねは私と出かけたくないんでしょ!?行こ!寮長、ぼたんちゃん!!」
「おっと…」
寮に到着し玄関のドアを開けようと手を伸ばすが、大声と共にやえかが勢いよく開き、ぶつからない様に避けるとそれに続き寮長、ぼたんが出てくる。
「あっ、すいません千秋さん…」
「大丈夫、大丈夫、3人でお出かけ?」
「そうです、あ!千秋さんもどうですか?模様替えのお礼もしたいですし!」
「そうだなぁ…」
ふと寮の内を見ると、何かいいたそうな表情のあかねが佇んでいるのが目に入り何かあったと察る。
「ごめん、今日はこれから予定あるから」
「残念…また別の日に」
「気をつけてね〜」
三人が見えなくなった所で振り向き、腕をくむ。
「さて、何があったのあかね?」
「あ〜えっと…その前にお腹空いたから食べながらでいい?…何か作って〜冷たくてサラサラ食べれるさっぱり系がいい〜」
「意外と注文多いなぁ…いいよ、わかった…」
「わーい!!やった〜そうだ!後ろでギター弾いてていい?バンドのライブ近くてさ〜千秋さんもわざわざ呼びに来るの大変でしょ?」
「大丈夫だよ、てかあかねバンド組んでるんだ?」
手を洗い冷蔵庫の中を見ていると、あかねの発言に驚き振り返る。
「そーだよ、なんかリクエストある?」
「ん〜…あ!On Your Markいける?」
「おぉ〜いいね!OK任せて!」
あかねのギターと歌声を聴きながら、昼食の支度を進めて行く。本気で音楽が好きな人が引く楽器の音を聴いているだけで、、、普段より手際よく調理ができている気がする。
「あかねありがとう、できたよ」
「おぉ!!待ってました!」
「冷やし出汁茶漬けです!鮭、きゅうり、薬味のネギ生姜、みょうがを乗せてどうぞ!」
「おぉ〜美味いやつだ…全部美味いやつだ!頂きます!
んんっ!!美味ァ…私冷たいお茶漬け初めて食べた!!」
「それで、やえかと何があったの?」
勢いよく食べ始めたあかねの前に座り、今朝から仕込んでいた氷出しの緑茶を出しながら尋ねる。
「どうもっす!!…いやまぁ…やえかがバイクの免許を取得したから、私を後ろに乗せて出かけたいって言うんで…取ったばかりだからまだ一緒には出かけられないって返したら…」
「なるほど…一年経たないと二人乗り出来ないから仕方ないけど…あかねの言い方も…ね?」
「それは反省します…てかバイクの件わかるんですね?」
「まぁ…俺も免許持ってるから…」
多忙だった日々を思い出す。
大学一年の頃二十歳になったら猟銃免許を取るため予習をしていたが、姉の思い付きでバイクの免許も取得する事になってしまい、それから小説の仕事大学の勉強、猟銃免許の予習、バイクの教習と休む暇がなかった。
「な…何か…遠い目をしている…詳しく聞くのは辞めておこう…」
「あはは…ありがとう…それで仲直り出来そう?」
「はい…ただ…やえかにも二人乗りの件をどうやって伝えたらいいか…」
「多分大丈夫だよ、ぼたんが説明するはずだよ」
「え!?上伊那さんもバイクの免許を?…」
お茶を飲む手がとまり、驚いた顔のあかねを見て笑いなが首を横に振る。
「違うよ、ぼたんのお父さんが持ってるからね。きっと2人にも相談してるでしょ?やえか。だからその時に言ってるんじゃないかな、取得から一年経たないと〜って」
「何かいいですね、幼なじみなんですよね?上伊那さんと千秋さんって。お互い信頼し合ってる感じ」
「あかねもやえかもきっと分かり合えるよ、お互いちゃんと思いあってるから」
「そうですかね?…でもありがとうございます!帰ってきたら話し合ってみますね…所で…」
「ん?」
一瞬の間を置き、茶碗を差し出しながらあかねは再び口を開く。
「おかわり欲しいです!」
「OK。少し待ってて」
「わーい!」
彼女から茶碗を受け取りキッチンへ向かうと廊下とダイニングルームを繋ぐドアが開き、疲れた表情のかなでがゆっくり入ってくる。
「あ、おかえりなさいかなで先輩」
「おかえりなさい〜郡上先輩」
「ただいまぁ千秋君に遊佐さん、疲れたぁ」
「何時もより早いですがインターンですか?あ、カバン持ちますよ。お昼はこれからですか?」
「ありがとう…ゴールデンウィーク近いから早めに終わったの、何か適当に食べようかなって」
「…」
あかねは自然にかなでからバッグを受け取り、会話を続ける二人の様子を椅子の上で胡座をかきながら見つめる。
「遊佐さんは何をたべてるの?」
「ん?あぁ…冷やし出汁茶漬けですよ、千秋さんに作って貰ったんですよ!」
「えぇ〜良いなぁ…私も食べたいなぁ」
「少し待ってて貰えればかなで先輩の分も作りますよ?、ちょうどあかねのおかわりを頼まれたんで」
「いいの?ありがとう!!」
(この二人…いつの間にこんな熟年夫婦みたいに仲良くなったんだ?…そう言えばこの前一緒に朝帰りしてたよな?…まさか!?)
(本日22時頃から激しい雷雨が…)
「雷雨…ぼたん…大丈夫かな?」
ゴールデンウィークで殆どの寮生が実家に帰省中で、何時もより静かな寮の自室でラジオを聴きながら原稿を進めていると天気予報から不穏なワードが聞こえ、
キーボードを打つ手が止まる。
「一応連絡してみるか…」
(ぼたん起きてる?…これから雷雨になるみたいだけど…大丈夫?)
「送信っと」
簡単なメッセージを送りスマホを置こうとした瞬間、通知音と共にぼたんからの返信が届く。
「はやっ!?てか起きてたか…えっと…怖い…そっち行っていい?。か」
(いいよ、お酒飲む?酔って寝れば雷が気にならないんじゃない?)
(飲む!今から行くね!!)
「缶チューハイやビールでいいかな?」
「あの千秋君…入っていい?」
「どうぞ、入って入って〜」
消えそうな声で、大きいサメのぬいぐるみを不安そうに両手で抱き抱えるぼたんを招き入れる。
「適当に座って、鳴り出す前に飲もう」
「うん…ありがとう…」
数本飲み終えると天気予報の通り雷が鳴り出したが、早めに飲み始めた事でぼたんはあまり怯えずにすんでいるようだ。
「けっぷ…ねぇ〜お兄ちゃん」
「なに?てかお兄ちゃんかぁ懐かしい呼び方だな」
酔ったぼたんが昔の呼び方をして懐かしく、少し照れくささが混じった気持ちになり缶ビールを飲む。
幼なじみと言うよりは兄妹と言う方がしっくり来る。
「えへへ、寮の皆可愛いけど〜お兄ちゃんは誰が好きぃ?けっぷ」
「ゲホゲホッ…ちょ…ぼたんいきなりなに!?」
むせ込む千秋を気にもとめず、缶チューハイを飲みながら続ける。
「私、お兄ちゃんが好きな人わかるよ〜郡上先輩でしょ?けっぷ」
「な…何故?…」
「お兄ちゃん昔から頼れる歳上のお姉さんが好きだったもんね?それに朝帰りしてから前より仲良くなってる感じがするし…けっぷ」
「…俺の事より!ぼたんはどうなのさ!寮長と仲良いらしいけど、好きなの?」
苦し紛れの質問にぼたんは言葉より早く、表情で返答をしてくる。
酔いから来る赤面では無く大切な人を思い浮かべた時の頬の赤み、恥ずかしさと好意から作られた表情の全てが言葉以上の気持ちの答えを伝えてくる。
「好きだよ…いぶきの事が…」
「そう…なんだ…」
複雑な気持ちが心に黒いモヤを産み落とす。
かなでは寮長…いぶきが好き。ぼたんはいぶきが好きできっといぶきもぼたんが好きだ…ぼたんといぶきの様子を見ればそんな感じがする。
自分の好きな人が報われないとわかった時、人はどんな感情を作ればいいのか?残念ながらそれは分からない。
「お兄ちゃんは…郡上先輩の事…好き?」
「俺は…」