金持ち大学生「どうしたん? 大丈夫? 話きこか?」   作:あばなたらたやた

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13話:睦の相談②

 

 

 午後のRingは、昼と夜のあいだに漂うような静けさに包まれていた。

 ライブのない時間帯。店内には控えめなBGMが流れ、コーヒーの香りがゆっくりと満ちていく。

 真我は、睦との待ち合わせまでの時間を窓際の席でカップを傾けながら、外の光をぼんやりと眺めていた。

 そして時間潰しに声をかけていた凛々子の姿が見える。

 

「お待たせ」

 

 聞き慣れた声に視線を上げる。

 凛々子が軽く手を振りながら近づいてくる。

 

「こんにちは」

「こんにちは。待った?」

「いえ、今来たところです」

 

 向かいに座った凛々子はメニューを開きながら、ふっと笑った。

 

「その台詞、今来た人しか言わないやつだよね」

「事実ですから」

「だよね」

「時間を作ってくれてありがとうございます」

「いいよ、大切なスポンサーさんだし、色々と融通してくれた恩もあるから。開店当初からの付き合いだしね」

「そういってもらえると助かります」

 

 短い会話に、自然と空気が緩む。

 注文を終えると、テーブルに小さな沈黙が落ちた。

 その静けさの中で、真我が先に口を開く。

 

「少し、考えていることがありまして」

「うん」

 

 凛々子は視線だけで続きを促す。

 

「子供たちと接するとき、どこまで意見を伝えるべきか……迷うことがあります」

 

 真我は言葉を選びながら続けた。

 

「主体性はできるだけ尊重したいんです。選ぶのは本人であるべきだと思うので、管理や指示は避けたい」

 

 一度、カップに視線を落とす。

 

「でも、何も言わなければ見落とすこともある。逆に言い過ぎれば、その子の選択肢を狭めてしまうかもしれない」

 

 静かに息を吐く。

 

「伝え方を間違えれば、“考えること”そのものを奪ってしまう気がしてしまうんです。」

 

 凛々子は小さく頷いたあと、肩の力を抜くように笑った。

 

「なるほどね。でもさ、そんなに気負わなくてもいいんじゃない?」

 

 真我が顔を上げる。

 

「思ったこと、そのまま言えばいいと思うよ。」

「……そのまま」

「うん。押し付けるんじゃなくて、“私はこう思った”っていう形ならいいじゃない?」

 

 ストローを指で回しながら、凛々子は続ける。

 

「全部正解の言葉を探そうとするから、苦しくなるんだよ」

「……」

「子供たちだって、意見を聞く経験は必要だし、どう受け取るかは本人が決めること」

 

 一度言葉を切り、穏やかに微笑む。

 

「だからさ。思ったことを口にするくらい、そんなに怖がらなくていいよ」

 

 真我はその言葉を静かに受け止める。

 

 ――もし傷つけたら。

 ――もし道を狭めてしまったら。

 ――もし善意が独善に変わってしまったら。

 

 いくらでも悪い未来は想像できる。だから慎重になる。だから言葉を選び続ける。けれど同時に、それはまだ起きていない未来でもあった。

 

「……そうですね。未来を恐れて何も言えなくなるのも、違うのかもしれません。切り替えましょう。傷つかない道を示すのではなく、共に傷つくことに」

「うん」

「凛々子さんの言う通り、一度やってみます。思ったことを、ちゃんと丁寧に伝えるように」

「それでいいと思う」

 

 凛々子も自然に笑った。

 

「真我くん、考えすぎるところあるからね」

「自覚はあります」

「失敗したら、そのときまた考えればいいだけだよ。それに子供たちっていってるけど私からすれば、真我くんもまだまだ子供だよ」

「それを言われると弱いですね」

 

 その言葉は、不思議と軽く、そして確かだった。

 完璧である必要はない。

 間違えたら、修正すればいい。

 それもまた一つの在り方だ。むしろ真我とって王道ですらあった。

 凛々子はコーヒーを一口飲み、柔らかく言った。

 

「頑張って」

「ありがとうございます。」

 

 真我は静かに頭を下げる。

 そのとき、店のドアベルが軽やかに鳴った。

 視線が自然と入口へ向く。

 

「こんにちは……」

 

 控えめな声。

 若葉睦だった。その隣で、燈が小さく会釈をする。

 

「あ……真我さん」

 

 燈の表情がわずかに緩む。

 睦も静かに歩み寄ってくる。

 

「待った?」

 

 真我は立ち上がり、穏やかに首を振った。

 

「いえ、ちょうど話が終わったところです」

 

 凛々子は二人を見て、優しく微笑む。

 

「こんにちは」

 

 四人の視線が交わる。

 Ringの静かな午後が、ゆっくりと次の時間へと移っていった。

 

サブストーリーとして一番交流してほしいキャラは?(メインは祥子と初音

  • 若葉睦
  • 椎名立希
  • 長崎そよ
  • 高松燈
  • 野良猫
  • 祐天寺にゃむ
  • 八幡海鈴
  • モーティス
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