オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
麗麻の目には、女性が身を屈めたとは思ったら、リリィの目の前にいて、拳を振りかぶっているという感じだった。
(すごいはやいッ!?)
けれど、リリィもそれに反応していた。
大剣の腹でそれを受け止める。
受けた瞬間に剣を傾け、チカラのベクトルを
態勢を崩す女性に対して、リリィは剣の
女性は崩れた身体をリリィとは反対側へと強引に捻って逸らし、柄による攻撃を
リリィは柄の振り上げた姿勢から一歩踏み出し、今度は柄を振り下ろす。
女性はリリィの追撃を避けるべく、捻った姿勢のまま地面を蹴って、横向きに
そして、着地と同時に地面に伏せるような態勢になると、足を伸ばすようにしてリリィの足を払う。
「……!」
リリィは足を払われた状態でも慌てずに剣を地面に突き立て、それを軸にするように剣の上で倒立。
その姿勢から、身体ごと振り下ろすようにカカトを見舞う。
「とんだ曲芸師ね!」
女性は驚きながらも左腕を掲げてリリィのカカトを受け止めた。
そのままカウンターを――と、右手で握りこぶしを作る。
だがリリィはカカトを振り下ろす遠心力のまま剣を引き抜き、そのまま前転するように剣を振り下ろした。
女性は振り下ろされた大剣をスレスレで避ける。
リリィの大剣は砂利を叩いて砂埃を巻き上げた。
地面を叩き僅かな隙を
「……ッ!?」
速く鋭く重い蹴りはリリィの横腹を捉えて、ボールのように跳ね飛ばす。
吹き飛ばされたリリィは、けれどもすぐに空中で態勢を整えると、剣を地面に突き刺し勢いを殺すブレーキにした。
剣で地面を引き裂くようしながら滑り、ややして勢いが落ちてくるとリリィは着地。地面に刺さった剣に体重を預けるようにしながら息を吐く。
「あの状況で即座に後ろに飛んで威力を散らすなんてね」
「お姉さんも。全部、躱してた」
二人のやりとりを、麗麻は唖然としながら眺めていた。あまりにも自分とレベルが違いすぎる。
あれだけの攻防の中で、二人は息が上がっていない。
それに、ダンジョンの中でのみ使える必殺技や魔法のようなチカラ――スキルを使っていない。
スキルは使う場合は、それを宣言する必要があるのだ。
宣言すると、身体が勝手に動いて、マンガやゲームの必殺技のような動きができる。
なのに、戦っている二人はまだスキル宣言を一切していない。
それはつまり、あれだけの動きをしているのに二人は一切のスキルを使っていないということだ。
スキル任せに戦っているところのある麗麻からすると、次元が違うとも言える。
「もう少し、ギアをあげるわ」
「もう止めたい……」
「ダ~メ。もうちょっと確認させて」
「…………」
女性は
それに対して、リリィは諦めたように剣を地面から抜いて、構え直した。
そして、再び二人の剣と拳が交差する。
幾度かの攻防の後、お互いが弾かれあって、間合いが離れる。
「一発、いくわよ」
女性はそう言って、左手を軽く前に出し、右手を自分の顎の辺りまで引く。
「
引いた右の拳を中心に、どこからともなく現れた水が渦を巻き始める。
その女性を見据えたリリィは、剣の重みで腰を落として、その折れて歪んだ切っ先を地面にふれさせた。
「
両者、完全にスキル宣言を言いきらずに、睨み合い――やがて、どちらともなく動き出す。
「……
女性は先ほどと同じように、姿勢を低くした状態からの瞬間移動じみた踏み込む。
残りのスキル宣言を口にしながら、即座に拳の届く間合いまで近づくと、渦巻く水と、殺傷力を伴う泡を
「――
リリィも後半の宣言と共に、剣の先端で地面を擦りながら大きく振り上げる。
その軌跡に従うように白と黒の衝撃波が地面を走り、女性を拒むように地面から吹き出す
目の前に現れる、リリィの
それに対して、女性はためらわず、水を纏った拳で繰り出す技――
お互いのチカラが大きく炸裂しあい、両者を吹き飛ばす。
地面をポテポテと転がったリリィは、ゆっくりと立ち上がりながら口を尖らせる。
「……お姉さん、無茶がひどい……」
思わず毒づいた直後、ザバンという大きな水音が聞こえ、リリィは小さく「あ」と口にした。
「み、みみ水に落ちちゃった!? 大丈夫!?」
「意識はあるっぽいし……うん、即座に岸にあがってきたから、平気じゃないかな」
「良かった……」
安堵する直前のリリィの横顔は、やっぱりカッコ良くて、麗麻はついつい見惚れそうだった。
岸に上がり、こちらへと歩いてくる女性に、リリィは慌てたように駆け寄っていく。
「あ、あの! い、池の中で、モンスターに、食べられちゃったりとか、は?」
「それは大丈夫。ケガらしいケガはないから」
「そっかぁ」
人が苦手で、お喋りが苦手で、だけど人の心配はするし、困っていれば手を差し伸べる。
そんなリリィの動きに、麗麻は思わず苦笑した。
(難儀なノリしてるなぁ……)
だけど、臆病で人が苦手なのに、人を助けることを
だからこそ、あまりお喋りが得意ではないリリィの代わりに、お喋りでもしてやろう――と、麗麻も女性の方へと向かっていく。
「さて、お喋りが苦手なリリィちゃんに変わって、質問しますけど――結局、お姉さんってなんなんです?」
自分でも不機嫌な声を出してるな――と思いながら、麗麻が訊ねる。
それに対して、びしょ濡れで
「あなたって、リリィちゃんの何なのかしら?」
「んー、友達?」
「え、そうだったんですか?」
「違うみたいじゃない」
リリィ本人からそういうリアクションされちゃうかぁ……と苦笑を深めていると、リリィの表情が曇ったのに気づく。
恐らくは失言だったかも――と自省しているのだろう。
人が嫌いで、お喋りが苦手で、だけど相手の気が悪くなることを気にしてしまって……本当に
「じゃあ、あたしが勝手にそう思ってるだけかもね。
でもさ――お姉さんに対する不信感みたいなヤツは、居合わせた者として、しっかり抱いちゃってるワケだけど?」
「ま、そこはそうよね……としか言えないわ」
大きく肩を竦める女性。
ポタポタと雫を垂らしながら近寄ってくる彼女に――
「あ、あの!」
――リリィらしからぬ、大きな声をあがる。
「その……そのまま、だと! 風邪を引いちゃうかも、だから!」
勇気を出してあげたような大声のあとで、リリィは自分のSAIから大きめのハンドタオルを取り出して、女性に向かって投げ渡す。
女性はそれを受け取りつつも、キョトンとした顔をした。
「あんまり、綺麗じゃないけど……濡れたままは、大変……だから」
「ふふ、ありがとう。お借りするわ」
そう笑う女性の顔は、急に襲ってきたとは思えないほど優しげだ。
それを見て、麗麻は仕方なさげに嘆息する。
「周囲に他の探索者はいなさそうだし、あたしたちが見張ってるんで、まず身体拭いてください」
そんな麗麻の言葉にも少し驚いた様子を見せてから、微笑む。
「ええ。お言葉に甘えさせて貰うわ」