オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
麗麻、衣乃と共にダンジョンのエントランスに到達だ。
二人は、ここまでで良いと言ってくれたので、リリィはひと安心してその場から離れていく。
どうやら麗麻は衣乃の着替えを買うのに付き合うそうで、リリィも一緒に行くかと誘われたのだが――
でも、リリィにとっては誰かと一緒に買い物というのはハードルが高すぎる。なので、なんとか断りの言葉を絞り出し、お別れの挨拶をして解散できた。
我ながらがんばったと、リリィは自画自賛しながら帰路を歩いている。
ちなみにカエルを換金しようと思っていたことはすっかり忘れていた。
ともあれ、少しだけウキウキした気分で向かうのは、かつて通っていた小学校のすぐ近くにある神社である。
雑木林に囲まれた――敷地も広くなく、
常に薄暗く、死角が多く、人気もないのもあって、近づく人は少ない。
別に危ない由来のある土地ではないのだが、小学生くらいの子供からすれば、ちょっとした肝試しスポットとも言える。
昔からここは好きなのだ。
人気がなく、薄暗く、誰にも邪魔されずに一人でのんびりするには向いた場所。
独りぼっちでいるのは嫌だけど、一人でいるのは嫌いじゃないから。
何かあると、あるいは何がなくとも、この神社の人目のつかない場所で時間を潰していた。一人になるのに適した場所で、誰にも邪魔されず、誰の目も気にしないですむから。
ここは、ただ一人の最果リリィでいられる場所。
リリィにとってとても思い入れの強い、小さな神社。
そんな神社の境内の裏――普通に
そこに、とても小さなダンジョンの入り口があった。
いつからそこにあったのかは分からないけど、偶然見つけた小さなダンジョンである。
(本当は……ギルドに報告するべきなんだろうけど……)
ここはギルド未報告・未発見の極小ダンジョン。
ダンジョンは時折、突発的に出現する。それがその場に留まるか、そのうち自然に消えるかはダンジョン次第。
ここのように小さいダンジョンは本来、すぐに自然消滅するようなものなのだが、不思議とここに残っているのだ。
だから、リリィはここを便利使いしている。
リリィしか知らない秘密のダンジョン。
中は、洞窟と日本の古民家が融合したような不思議な空間になっている。
エントランスは土壁に囲まれてはいるものの、完全に土間だ。片隅にはなぜか畳もある。
家だと落ち着けないリリィにとっては、ここが一番心安らぐ場所となっている。
その畳の上に荷物を置いて、一休みだ。
ついでに、
SAIの持つこの不思議な収納パワーは大変便利なのだが、いかんせんダンジョン内でしか中身を取り出せないという制約がある。
なので、リリィはこの秘密基地に限らず、ダンジョンのエントランスを利用して、SAI
から着替えを取り出したり、道具を片付けたりしているのだ。
一息つきながら、階層を移動する階段代わりの鳥居を見る。
「んー……間引きは、まだ平気かな?」
ダンジョンは放置していると、中からモンスターが外に出てくることがある。しかし、それも中のモンスターを定期的に間引いておけば発生しない。
当然、リリィはそれを気に掛けているので、モンスターの間引きもやっている。
その間引きも数日前にやっているので、まだやる必要はないだろう。
「なら……」
上着を脱いで、畳の上に投げる。
そして、そのまま腕立てを始めた。
ダンジョンの中においては、適性を持つ者は超人化と呼ばれる恩恵を受ける。
その言葉の通り、身体能力などが向上し、漫画やアニメ、ゲームのような動きができるようになるのだ。
スキルもまた同様で、超人化の恩恵がない状況では使用できない。
逆に言うと、ダンジョンの外では超人としての身体能力やスキルは使えない。
つまり、凄腕の探索者リリィという存在は、ダンジョンの中でのみ成立するのだ。ダンジョンの外では、見た目どおりの小娘でしかない。
あるいは――身体能力だけで言うなら一般的な小娘以下のひ弱なチビだ。
「うう……なんとなくやっちゃうけど……これ、大変なんだよなぁ……」
だからこそ、リリィはダンジョンで筋トレをしている。
ダンジョン内での運動も、筋肉などに多少なりとも反映される。そして、超人化した状態であれば、多少無茶な筋トレでも身体を壊さない。
とはいえ、ダンジョン内で超人化した状態でやる筋トレは、本来身体にかかる負荷の十分の一程度であると言われている。
腕立てのやり方や、肉体状況で左右されるとはいえ、ざっくりとした計算をしてしまえばダンジョン内での腕立て三百回は、外における三十回分程度の筋トレ効果しかない。
それでも、今以上に食事も運動も足りてなかった頃のリリィとしては、身体を鍛えるならダンジョンでやるしかなかったのだ。
結果として、ダンジョンの外でも多少動けるような体力作りに成功したのを実感して以来、習慣のようになってしまった。
その為、リリィはここで素振りや筋トレをよくやっているのだ。
「わたし、なんでいつもがんばってるんだろう……」
とはいえ、やる度にそう思って、ぼやいてしまう。
でも、なんか空いた時間にここにいると、やらないと落ち着かないのも事実だ。
ぶつぶつとぼやきながらも、それでいて動きは一般的なトレーニングの腕立てや腹筋などと比べると三倍くらいは早いし、まったく止まることなく続けている。
ただ圧倒的に栄養が足りていない面があるので、筋トレの効果は一般が同じことをやった場合に比べて低い――のだが、リリィ本人はそれに気づいていない。
ともあれ――そうやって、いつもの筋トレセットをこなしながら、今日の出来事を思い返す。
麗麻と衣乃。
麗麻の追いかけてくる感じは少し怖いものの、衣乃とやりとりしているときに前に出て守ろうとしてくれたのは嬉しかった。
それに、リリィのヘタな喋りや、小さな声に嫌な顔をせずに、ふつうに対応してくれた。
ふつうに対応――という意味では衣乃もそうだ。
最初こそ戦闘になってしまったものの、その後はふつうにお話できたと思う。
彼女が調査員という仕事柄かと思ったが、どんな仕事をしててもリリィに当たりの強い大人はいる。でも、丁寧に優しく接してくれたことはリリィにとってはとてもありがたいことだった。
(小学生の時の先生とか、わたしの声が小さくて、喋るの遅くいから、途中でイライラしてお話
それがなかっただけでも、リリィにとってはありがたいことだった。
(あれ? もしかして、わたし……二人のコト、あんまり怖いと思ってない?)
仲良くしすぎると、嫌われることばかりで、あんまり人と仲良くしようと思えなかったのだが、麗麻と衣乃はそれすら気にせずに話しかけてくれている気もしたし。
(麗麻さんと、衣乃さんとなら、もう少しお話ししても……良い、かも?)
意外と、嫌じゃない自分に気づく。
ならクラスメイトの
(……富鐘さんは、まだ怖い……か、も……?)
嫌な人ではないと思う。悪い人でもないと思う。
仲良くしたいか否かと問われればしたいと思う。
けれども、怖い。
そう思う差はなんなのだろうか?
筋トレしながら、ぼんやりと考えていると、ふと不思議な違和感を覚えて動きを止める。
「……?」
ダンジョンの奥へ進むゲートとなっている鳥居を見ながら、目を
「…………」
直感的にSAIから愛剣を取り出す。
ややして、その直感が正しかったと証明された。
「――ゴブリン……?」
鳥居から出てきたのは、ゴブリンと称されるモンスターだ。
小学校中学年くらいの男子と同程度の体格をした、緑の肌の角のない鬼のようなモンスターで、バリエーションもかなり多様。
種族全体的に手先も器用で、種族・個体によっては様々な武器を使う。
(ここで、ゴブリン種と会うのは初めてだ……)
基本的にあまり強くない種族なのだが、バリエーション次第ではかなり上位の強さをほこる種もいるので、初見のゴブリンは油断できない。
それに――
「……ふつう、モンスターはエントランスに上がってこない」
つまり――
「外に出るコトのできる、はぐれモンスター」
これは対処しないとまずい。
モンスターは基本的に一階までで、そこからエントランスへと上がってこれない。ダンジョンから外に出れないという制約を持っている為と言われている。
だが、はぐれと称される個体は違う。はぐれ化したモンスターはそのルールを無視して、外へと出てこれるのだ。
モンスターは人間と違って、領域の外に出てもステータスが変わらない。
そして探索者は超人化しているからこそ、モンスターと対等に渡り合える。
逆にいえば、超人化なしでモンスターと渡り合うのはかなり危険を伴う。ともすれば、勝機がない。
ゴブリン程度ならまだ何とかできる
格闘技などを
だが、これが
はぐれモンスターとはそのくらい危険な存在だ。
だからこそ、エントランスで遭遇できたのは
ゴブリンはまだ出てきたばかりでこちらに気づいていない。
ならば、やることは一つ。
「……倒す」
小さく口にした次の瞬間、リリィは一気に間合いを詰めてゴブリンの首を
「はぁ……ここも、そろそろちゃんと報告しないとダメかなぁ……」
唯一の憩いの場がなくなってしまうことを思うと気が重い。
さりとてダンジョンの広さとモンスターの出現率から推定した、はぐれ発生周期から外れたはぐれゴブリンが現れてしまったのは事実だ。
「計算間違ったのかな?」
独りごちながらSAIからフード付きのコートを取り出して身に纏うと、剣を引きずりながら歩き出す。
「とりあえず、中の確認……かな」
このダンジョンを報告しないといけないかも――という