オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
翌日。
学校へ登校しながら考えるのは、はぐれゴブリンを倒したあとのことだ。
(結局、なんだったんだろう……)
さすがに調べるべきだろうと、ダンジョンの奥へと進み、リリィは様子を伺った。
あのダンジョンは、エントランスを抜けると小さな部屋がいくつか連なり、進んでいくと大きな部屋に出る。
洞窟のような土壁をした、けれども畳敷きの和室のようなその大きな部屋で、ダンジョンは終了だ。
分岐というのも特になく、小さな部屋に時々モンスターが発生している程度のダンジョン。それが、リリィの秘密基地たるダンジョンの全容である。
(いつの間にか開かなくなっていた和室正面の鍵付き
相変わらず開かなかったけど、似たような襖が左右に生まれてて、しかも開いた……)
ダンジョンの主たるボスモンスターのようなものもいない。簡素なダンジョン。モンスターの発生率も低く、発生サイクルも長いので、放置しててもしばらくは平気だと思っていたのだが。
(ダンジョンの構造変化は珍しいけどゼロじゃあない。でも、構造変化というには微妙だし、別に出現モンスターの変化や、発生率の増加も感じなかったもんなぁ……)
だけど開けた先にあるのは廊下だけ。しかも一番奥にある襖は開かなかった。
道中にも
(ダンジョンは人の感情や精神、想い出の影響を受けて発生するコトもあるとは聞くけど……。あのダンジョンの発生源となってる人がいて、その人に何かがあったから変わった……とかかな?)
考えたところで答えはでない。けれど気にはなってしまう。
だとしたら誰かに相談するべきだろう。だけど相談すると知られてしまう。
誰にも教えたくない。けれども、はぐれのことを考えると教えないといけないとは思う。
そんなジレンマに悩んでいると、お腹がくぅと鳴った。
(そういえば……昨日、池から出た後にそのまま帰っちゃったから、ご飯食べてないんだよね……。
カエルの換金もしそびれちゃったし……あ、カエル焼いて食べれば良かったかな……)
今日の放課後に何をするかはまずギルドで換金してから考えよう。
そうやって学校前の通りをヒヨコやハトを思わせる足取りで歩いていると――
「おはよ。
「え? あ。富鐘さん……」
――クラスメイトの
昨日の朝、嫌なことを口にして逃げてしまった自分に対して、何一つ思うことなさそうな笑顔で挨拶してくる。
どうしようかと一瞬迷うが、こういう時は挨拶を返すものだと、なんとか思い出す。
「えっと、おはよ……ございます」
すると、蓮花は笑顔で「うん」とうなずく。
その顔に、なんだかリリィの心は温かくなったような気がした。
だからこそ、あまり仲良くなりたくないとも思う。
人の心を温かくするような人が、傷ついて欲しくないから。
「昨日色々言われて考えたんだけど、私さ、諦めないコトにしたから」
「諦めない?」
リリィがリスかハムスターを思わせる動きで首を傾げると、力強く蓮花はうなずき返す。
「最果さんと友達になるコト」
木漏れ日が、まるでスポットライトのように、リリィにうなずき返した蓮花を照らしている。
キラキラ、キラキラと。
「え!?」
言葉への驚きと、とても輝いて見える蓮花への、どちらともとれる驚嘆をリリィが漏らす。それに対して、蓮花はしっかりと告げた。
「
「…………」
カッコ良くて、優しい?
それは一体誰の話なのだろうか。
「とりあえず、今はそれだけ。それじゃあ、また後で教室でね!」
そうしてパタパタと手を振ると、あっという間に居なくなってしまった。
戸惑っていると、彼女を照らしていた
キラキラ、キラキラと。
「…………」
不思議と胸がドキドキしている自分がいる。
グレートマンダーと戦った日から、なんだか妙に自分の周りに人が増えている気がする。
だけど、思ったよりもそれが嫌ではない自分もいて……。
「……ともだち……つくって、いいのかな?」
付き合った相手を不幸にするような人間に、友達を作る資格はあるのだろうか。
友達は欲しい。でも自分みたいな
自分は仲良くした人を不幸にしてしまうから。
けれど、ならば――そんな不幸を
麗麻や衣乃ならあるいは?
だとしたら、富鐘さんはどうだろう?
でもどんなに相手が良い人だろうとお話をするのは怖い。結果として自分と仲良くしたせいで不幸にしてしまったなら、どんな人であれそれはいやだ。
色んなことがいっぱいで、心と頭がぐちゃぐちゃになっている。
だけど――それが思ったよりも不快ではない自分もいて……。
「とりあえず、学校……行かないと」
友達を作るって、モンスターを倒すよりも、ダンジョンの最奥に待ち構えるボスモンスターを倒すよりも、難しいのかもしれない。
そんなことを思っているうちに、リリィは学校へと到着する。
下駄箱で靴を履き替えて、ぽてぽてと歩いて教室に向かうのだった。
・
・
・
何があったのかとクラスメイトに聞いてみれば、それなりに有名なダンジョン配信者がイレギュラーに襲われ、それを颯爽と助けた探索者が話題になっているという。
「有名配信者のピンチ助けたくらいで話題になるんだから無名の探索者なんてラクなもんだよな」
自分が今の閲覧数を稼ぐのにどれだけがんばってきたのか知らずに、話題になりやがって――そんなことを思いながら、カバンを置くと、女友達の一人が駆け寄ってきた。
「ねぇアキラくん。今、話題になってる人……うちの学校の生徒みたいだよ」
「え?」
思わず、胸中で「最悪だ!」と叫ぶ。
この学校で一番話題になるのは自分のはずだ。その地位が脅かされるなど、心中穏やかではいられない。
あの人に認めてもらうには、学校で一番くらいは軽々やっておかなければならないのだから。
「誰だ?」
「これが、その動画なんだけど……」
そうして見せられた動画には、話題作りの為なのか、メイド服というツマラナイ発想の格好をした女が必死な様子で逃げている姿映っている。
近くに誰かいたのか、メイド服の女は「逃げろ」と呼びかけている。
必死アピールのツマラナイやらせのような場面へ現れたのは――
「なんだ、これ……!」
先日、自分に食ってかかってきた一年のチビ女だ。
自分の体格よりも大きい手入れされていないような無骨な剣を振るって、メイド女を襲っていたサンショウウオのような姿をしたモンスターを
だが、どう見たってやらせだ。
あんな弱っチョロい姿の女子が、こんな剣を背負って、こんな大きなモンスターを倒せるワケがない。
(いや、内容の真偽の問題じゃあないッ!)
この動画が出回っているせいで、完全にこのチビが学校における話題筆頭になってしまっていることだ。
「このちっちゃいの、俺への嫌がらせのつもりでバズったのかね。随分と必死じゃないか」
「あー……なに、そういうの?」
「どう考えてもやらせだろ、これ」
そう言いながら、アキラは思考を巡らせる。
(やっぱダンジョンか。ピンチを颯爽と助ければバズってんなら、その手法パクらせて貰うのも悪くない)
となれば――
「なぁ、放課後集まれるか?」
「みんなに
「頼む」
前々から考えていた、最近多発している極小ダンジョンとやらと、ピンチのマッチポンプレスキューを組み合わせれば、かなりバズれるのではないだろうか。
放課後にみんなで集まった時、それを基盤にした企画を出してみよう――アキラはそう考えて小さく笑った。
・
・
・
リリィが教室の扉を開けて中に入った時――
「……!?」
――一教室にいたクラスメイトたちから一斉に視線を向けられて、リリィはハデにビクついた。
「
「待ってたぞー!」
頭の周りに疑問符を浮かせながらも、その場から逃げだそうとする。
……しかし回り込まれた!
そのままクラスメイトたちに手を取られて、教室に引きずり込まれる。
(ひーん……! なに? なに? なに~!?!?)
リリィが涙目で戸惑っていると、クラスメイトの一人がスマホの動画を見せてきた。
「ねぇねぇ、これって最果さんだよね?」
「?」
目の前に出されたスマホを見ると、どこかのダンジョンの動画が映っている。
内容は、グレートマンダーから逃げているメイド姿の麗麻だ。
(あ、これって……)
自分が麗麻を助けたところでは――とそう思った時、
(は、恥ずかしすぎる……!)
ただ、これでようやく状況を理解した。
昨日ネットで自分が話題になっていると常連さんに聞いたのは、これなのだろう。
「これが
「やって、ない、です……SNSはなにも……というか、わーぶらーっていうのも良く知らなくて……」
「えっと、百四十文字くらいの短文を投稿しあうSNS?
うちらの少し上くらいの世代が一番やってるSNSなんだけど、まぁSNSの中だとやってる人が一番多いやつ? なんかそこでバズると、結構他のSNSにも転載されてバズりまくる感じ?」
よく分からない説明だが、ともあれ人気のあるSNSで話題になってしまったということなのだろう。
その為、昨日までの探索者の中でだけ話題……という状況から、一般にも出回って、クラスメイトたちが湧いているというところまで来てしまったということか。
「バズるってすごいコトじゃん!」
「最果さんってすごい人だったんだね!」
「なんで言ってくれなかったんだよー」
「ねぇねぇこの逃げてるロゼって人はやっぱリアルでも美人なん?」
「探索者してるなら言ってよ~」
周りから一斉に色々言われて、頭がぐるぐるしてくる。
どうして良いか分からずにアワアワしている時、一つだけしっかりと聞き取れた言葉があった。
「なぁなぁ、やっぱ探索者ってピンチの人を助けると話題になれるんだよな?
どうやってたらピンチの人に出会えて、どうやったら助けられるんだ? オレもバズりてぇ~!」
それを発したのは、クラスでは一番のお調子者だろう田中だ。
その質問に他意はないのかもしれない。普段通りの軽い調子の、何も考えてない発言だったのかもしれない。
だけど、リリィの耳にはハッキリと届き、同時にそれはリリィの思考スイッチを切り替えさせるのに十分な言葉でもあった。
「……田中くん。一緒にしないで、ほしい」
「え?」
リリィの雰囲気が変わったことに正しく理解できたものは周囲にはいない。
ただ、必要ならみんなを止めに入ろう――と、様子を見ていた蓮花だけは、小声でも
(最果さんのアレ……田中くん、敵認定されかかってない?)