オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「ダンジョン配信者たちを否定する気はないけど、ダンジョン配信で評価を得たいという理由で、ダンジョン内で迷惑行為をしたり、ピンチ状況をマッチポンプで作り出すような人たちと、一緒にしないで」
今まで怯えた小動物のように頼りなさげで、状況に戸惑っていたリリィが、まるで出回っている動画と似たような表情で告げる。
「い、いや……そこまで本気で怒らなくてもいいじゃん? そんな馬鹿にするつもりで言ったワケじゃないんだし」
「つもりじゃないければ相手を怒らせる発言しても良いと思ってるの?」
ここまで来ると、察しの良いクラスメイトたちは、田中がリリィの逆鱗に触れる発言をしてしまったのだと理解した。
「ダンジョン内でピンチっていうのは、命が懸かってるのと同じなんだよ。
だから助けるの。死んで欲しくないから。そして、誰かを助けたコトが巡り巡って自分を助けるコトがあるからこそ、助け合おうというのが探索者の考え方」
何年か前に人気のダンジョン配信者たちが、視聴者に対して探索について理解を求める
それらの啓蒙動画群は、配信に興味のない探索者すらも認めており、人によっては初心者に紹介する程度には広まっているほどだ。
その成果は確実に出ていて、基本的なダンジョン配信者とその視聴者たちは、
そして、そういう弁えている人たちが後続への啓蒙もするので、健全化しているといってもいい。
それでも、啓蒙を経ずに配信者になった者や、そもそもそういう啓蒙や正しさなんてものをクソ食らえのように考えている者たちには当然届かない。
「ピンチを自演したり、用意しておいて通りすがりの人を巻き込んだりするのは、最悪の行為なの。状況によってはモンスターより先に探索者に首を
そういう層はもう仕方がない。
その手の人種は配信界隈だろうが探索者界隈だろうが、それ以外の界隈だろうが大体いる。なので、勝手に痛い目に遭って勝手に理解するのを期待するしかない。理解しないで命を落としたらそれまでの話だ。
さらにもう一つ――届かない……いや、届いていない層がある。
それが田中を筆頭としたクラスメイトたちのような一般層だ。
探索者でもない。ダンジョン配信のファンでもない。
何となく話題になった動画を、受動的に見て盛り上がっている……そのわりにはダンジョンについて無知ないわばミーハー層。
探索者を一種のアスリートのように扱い、ダンジョン配信者をアイドル扱いしている層だ。
「探索者の考え方も、ダンジョン配信のマナーも知らない人が、盛り上がってるだけのワンシーンだけを見て、くだらないコト言わないで」
リリィはその言葉と共に、身長の高い田中に対して、上目遣いで睨むような視線を向ける。
完全にリリィに気圧された田中が顔を引きつらせる。
そして、周囲もまた大人しくなったのに気づいたリリィはここぞとばかりにみんなをかき分けて、席へと着いた。
(や、やっちゃったぁぁぁぁぁぁ……田中くんだって悪気なかっただろうにぃぃぃぃ……あんな怖がられるようなコトしちゃったよぉぉぉぉぉ……!!)
荷物を置いて頭を抱えていると、いつの間にか横に来ていた蓮花が頭をくすぐってきた。
「やらかした~って思ってる?」
「……うん」
素直にうなずく。
すると、蓮花は笑って田中の方を示した。
「大丈夫だよ」
「え?」
すると、田中は――彼と同じくらいの身長ながら筋肉質でガタイのよい安藤からアイアンクローを喰らっていた。
「ちょちょちょちょ! なんだよ、あんどー!」
「うるせぇ! 最果がキレなかったら俺がキレてたって話だよ!」
「じゃあ顔面掴むのやめてくれよー!」
「最果もキレたが俺もキレたってだけだ、甘んじて喰らいやがれッ!」
「ぎゃー!」
ふざけあっているようで、安藤は間違いなく怒っているようだ。
「安藤君も探索者なんだよ。だから怒ってるんだと思う。探索者なら怒るようなコト、田中が言ったんでしょ?」
「……うん」
「これで、みんなも最果さんが急に怒ったのも、理由があったって分かったから問題にならないと思うよ」
「えっと、でも、田中くん、は……」
「そりゃあ、あれはアイツの自業自得でしょ。まぁアイツが調子に乗りすぎて安藤くんからアイアンクロー喰らうのはいつものコトだし」
「……そうなんだ……」
不思議と、安堵している自分がいる。
仲良くなるのは怖いのだが、同じくらいみんなに嫌われるのも怖いのだ。
「みんな悪気があって最果さんを囲んでたワケじゃないしね。それぞれに多少の反省とかはしてるんじゃない?」
盛り上がりに水を差してしまったようで申し訳なさがあったのだが、蓮花がそう言ってくれるのであれば、問題はないのだろう。
「でも……わたし、みんなの盛り上がりに水を差しちゃったし……」
「別にいいんじゃない? それも状況次第だと思うし。怒ったり叱ったりが発生する大半の場合はむしろ盛り上がってる側に非があるってもんよ」
人の嫌がることはやめましょうって言うでしょ――という蓮花の言葉に、リリィは顔を上げる。
「正当な怒りやお叱りで水を差されてるなら、怒られる側が悪いってだけだよ。
迷惑行為で騒ぎまくってる人たちとかは、そういうのに対して怒り返しみたいなコト言ってくるかもだけど、嫌なコト、ダメなコトはちゃんとNGだって口にして良いと思うよ」
「そう……なんだ……」
今まで言われたことのない言葉だ。
すぐに飲み込むことも、納得することもできない。
「まぁとりあえず、別にみんなに嫌われたりしてないから大丈夫」
「う、うん……」
蓮花の話を信じるなら、すぐに嫌われていじめられたり――とかはなさそうだ。
(人を遠ざけようとしているのに、人に嫌われたくないって、なんか、わたし……変なのかな……?)
安堵しながらもそんなことを考えてしまい、リリィは小さく息を吐いた。
その日の昼休み、できるだけ人に見つからないように過ごし、放課後も誰かに声を掛けられる前に、
行き先は、当然ギルドだ。
昨日倒してきた鉱石カエルをお金に換えたい。
そうして行きつけのギルドの前までやってくると――
「……ウラマさん……」
――制服姿の麗麻が手を振っていた。
若干、おっかなびっくりしながら、けれどもリリィは声を掛ける。
「な、な、なんでぇ、いつも、いるんですかぁ……?」
「ん? なんとなくリリィちゃんに構いたいから? むしろ構い倒したい。メイド的ご奉仕というかお世話もしたい」
「…………」
「身体洗わせて貰ったり、お着替え手伝わせたりさせていただけませんか、お嬢様ぁ? なんなら添い寝もサービスしますよー?」
「…………」
ふざけてるんだか真面目なんだか分からない答えのあとに、音符やハートを飛ばすような調子で言葉を付け加えてきて、リリィはなんと反応していいのか分からずに顔を
そんな反応がイマイチなリリィを見るなり、麗麻は調子を戻して訊ねてきた。
「ところでリリィちゃんは、今日の探索はどこで何するの?」
急に元に戻ったテンションに戸惑いながら、リリィは答える。
「えっと、探索前に、ギルドに……討伐モンスターの、査定してもらおうかなって」
「査定?」
「うん。昨日、ウラマさんと……ダンジョンで、会う前に……倒してたんだ。鉱石カエル。三十匹くらい?」
「それはまた……随分と倒したのね。ほんとすごいんだ、リリィちゃん」
「そ、そうかな……」
素直に褒めてくる麗麻に、褒められ馴れてないリリィは照れてしまう。
「んー……ねぇ、査定のあとって何か用事ある?」
「えっと、査定に出したあとは……探索?」
「なら、ちょっと付き合って欲しい場所があるの。ダメかな?」
こういう風に誘われるのは、もしかしたら小学校以来かもしれない。
普段の自分なら、逃げ出したり断ったりしたかもしれないけれど――今日は、少しだけ、誘いに乗ってみてもいいかな……と、思っている自分がいた。
蓮花の言葉が、心に残っているから――だろうか。
あるいは、麗麻なら大丈夫だと思った感覚を信じてみたいからか。
(……ちょっとだけ、勇気……出してみよう、かな?)
本当にちょっとだけ、そう思ったからこそ――リリィは、ゆっくりとうなずいた。
「えっと、ダメじゃない……よ」
「ほんと? やったー」
それだけで、麗麻が嬉しそうに手を叩いた。ただそれだけでリリィもなんだか嬉しくなった。
やっぱり自分は人が嬉しそうだったり楽しそうだったりしてるのを見るが好きらしい。
「それじゃあ、まずはモンスターを査定に出しちゃおうか。
一緒にカウンターに付き合うよ。面倒ごとになるようなら、口を挟ませて」
「あ。それは助かる、かも」
「それと、カエルは全部じゃなくて半分だけにしておいて」
「え? うん。いいけど……」
どうしてだろう――とは思うが、これまでの麗麻のことを思えば、そう悪いことではないだろう。きっとリリィには分からない、けれどちゃんとした理由があるのだろう。
二人でギルドに入ってカウンター脇から、ギルドの奥へ。
少し厚めの壁に囲まれた、広めの空間――通称、解体場。そこがモンスターの査定をしてもらう場所だ。
最近は解体場の一定範囲内に疑似ダンジョン領域発生装置なんて最新技術が使われるようになったおかげで、踏み込むと、多少の違和感こそあれダンジョン内と同様に肉体が超人化するのを感じる。
「ん? おチビか。査定か?」
強面のおじさんに問われて、うなずく。
「そっちは見ない顔だな」
「初めまして。麗麻っていいます。最近、リリィちゃんとよく一緒してるんで、よろしく」
「おう。おチビもようやく人と
おじさんはリリィを見ながら、小さい子供が見たら泣きそうな怖い感じの笑顔を浮かべた。
それから、麗麻へと視線を戻すと自身を示す。
「おれは解体屋の
「はい。よろしくお願いしますね。剛田さん」
「礼儀正しい嬢ちゃんだな」
丁寧に挨拶を返す麗麻に笑って、剛田はリリィに訊ねる。
「今日はなんだ?」
「えっと、これ」
そう言って、SAIから鉱石カエルを十五匹ほど出した。
解体場には疑似ダンジョン領域発生装置が設置されており、文字通りの疑似領域化しているおかげで、SAIが使えるのはありがたい。
「相変わらずガキが一人で持ってくる量じゃねぇな。
ま、おチビが持ってきたもんなら間違いねぇか」
頭を掻きながら、剛田は部屋の隅にあるパソコンを操作する。
ややして、剛田は番号が記載されたレシートを持ってきた。
「ほれ」
「ん」
査定の受付番号票であるレシートを受け取る。
「今日はそんな時間がかからんだろ。じきに呼ばれるはずだ。馬鹿が馬鹿やらなきゃな」
「わかった」
チラリと、剛田は麗麻を見る。
その目配せの意味に気づいて、麗麻はニッコリと笑った。
「その馬鹿と一度ケンカ経験ありますので」
「そいつは頼りがいがありそうだ」
大口を開けて笑う剛田に会釈をして、リリィと麗麻は解体場をあとにする。
「さて、しばらく待つわよね」
「んー……おじさんの感じだと、すごい早い、かも?」
「え?」
そんなやりとりをしていると、すぐにカウンター脇のモニタにリリィが持っている査定受付票の番号が表示された。
「ね?」
「はやすぎない?」
「うーん……同じモンスターばっかの時、おじさん早いんだよ」
「へー。腕利きなのね」
麗麻と話をしながら、カウンターへと向かう。
人と話をしながらギルドを歩くなんて初めてかも――なんて思いながら。
指名依頼のような特別な依頼の報告ではないので、今日は一般カウンターだ。
だが、この時間の担当は宮囲のようだ。
「モ、モンスターの査定お願いします……」
気持ち大きめの声を出す。
そんなリリィに何か言いかけたのだが、横に麗麻がいるのに気づいたからか、やめたようだ。
「……受付票」
「はい」
不機嫌そうな宮囲に受付票を渡すと、彼女はカウンターにあるパソコンに手を伸ばす。
「…………」
宮囲のその様子を、麗麻は目を
それは宮囲も気づいているのだろう。なんともやりづらそうにパソコンを操作していた。