オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「……ああ、そうだ。事務手続きとかに必要なんで、査定詳細付きの支払い明細でお願いしますね」
居心地悪そうにパソコンを操作している宮囲に対し、麗麻がそう告げる。
それに、宮囲は露骨に顔を
「ふつうの支払い明細があるのに、わざわざ詳細付きが欲しいの?」
「税務処理とかで
「でも別にその子が欲しがってるワケじゃ……」
「リリィちゃんはそもそもそういうのに
実際、麗麻はリリィから税務処理の話などは何も聞いていない。
リリィ自身も何も聞いてないんだけど――とは思うものの、敢えて何も言わなかった。
……というより、口を挟む余裕がないとも言える。もっと言うと、リリィに口を挟む器用なマネはできないというのもあるが。
「それでも、わざわざ詳細にしなくても……」
「ごちゃごちゃうるさいわね。通常の明細だろうと詳細付き明細だろうと、あなたには関係ないでしょ? そもそもこの手のギルド発行書類ってさ、どこのギルドでお願いしても、お店で領収書貰うのと同じノリでちゃちゃっと発行してくれるじゃない」
明らかに怪しい宮囲に対して麗麻は目を細めるものの、敢えてそこを指摘せず、いいから出せと告げる。
それでも宮囲が出し渋っていると、その背後からぽっちゃりとした体格の若い女性スタッフがやってくる。
ネームプレートを見ると『
(すごいなぁ……ウラマさんやイノさんと同じように肌が綺麗な人だ……。
宮囲さんも綺麗だとは思うけど、ウラマさんたちとは何か違う気もするんだよなぁ……。
まぁ、お風呂も入れない時があるわたしなんかよりは、ずっと綺麗だけどさ……)
リリィが太巻を見ながらそんなことを思っていると、当の太巻は宮囲に向けてどこか冷たい声を掛けた。
「宮囲さん。どいてください」
「なんで? 今は私が担当の時間で……」
「その担当の仕事をちゃんとこなせず利用者さんに迷惑を掛けているから、
「わ、私にそんなコト言って良いわけ?」
高飛車な調子でそう告げる宮囲に、太巻は
「うっさいってのッ! いいから退きなさいよッ! ロクに仕事してないクセにいつまで偉そうにふんぞり返ってんだってのッ! 先輩たちが何も言わないから黙ってたけど、もう我慢の限界だからッ! とっと失せなッ!」
バンと、太巻は机を叩く。
それに対して、宮囲以上にリリィがびっくりした様子を見せたので、横にいた麗麻は慌てて肩に手を当てて落ち着かせた。
「あんた、クビになっても知らないからねッ!」
「できるもんならしてみなよッ、そン時は
「クソがッ!」
大きく毒づいて、乱暴に席を離れていく宮囲に、麗麻と太巻は冷ややかな視線を向ける。
そして、どちらともなく嘆息してから、太巻は姿勢を正した。
「お見苦しいところをお見せしまして大変申し訳ありませんでした」
「気にしないで。あの人が悪いわ」
丁寧にお辞儀する太巻にそう返してから、麗麻はカウンターの顔を近づけて、小さく告げる。
「知り合いにギルド関連の実態調査員さんがいるから、チクっときます」
「本当ですか? お願いします。宮囲さん、スタッフにも利用者さんにもあの態度で、ほんとココの空気を悪くしてるから、
そう言って、太巻がチラリと背後を見る。
それに釣られて、麗麻とリリィも背後の方でデスクワークしている職員たちを見た。
半分くらいの人が、バツの悪そうな様子で仕事をしているのが見て取れる。
その様子に、麗麻と太巻は再び同時に嘆息すると、気を取り直した。
「査定のお支払いと、査定内容の詳細付き支払い明細の発行ですよね? すぐにやっちゃいますね」
そうして太巻がパソコンを操作しはじめると、動きが止まる。
麗麻はその意味を即座に理解した上で、笑って告げた。
「宮囲さんの作った書類。そのまま出してくれていいですよ。むしろその方が助かります」
「ですが……それだと」
「承知の上です。少なくとも貴女の損になるような形にはしませんから」
リリィの査定のせいで、何やら問題が起きているようなのに、自分自身では何が起きているのか分からないのが気持ち悪い。
けれど、口を挟んだところで、リリィに何かができるわけでもなさそうだ。
「えっと、では最果さん。こちらが、お支払いの二万五千円になります」
「はい。ありがとうございます」
「……本当にこちらでお間違いないですか?」
「え? はい。カエルを、持ってくると……一匹あたりの値段はだいたいこのくらい?」
なぜか太巻の顔が曇る。
「最果さんの査定支払いって、宮囲さん以外がやったコトありました?」
「支部長が、変わってからは……宮囲さんが、多くなった、かも?」
どうして、太巻はさらに顔を曇らせるのだろうか。
「……そうでしたか。それと、こちらを」
「あ、明細はあたしが受け取っておきます。いいわよね、リリィちゃん?」
「え? はい。その……わたしは、それがなんなのか、よく分かりませんから」
「かしこまりました」
本来であれば、太巻は査定依頼者以外に明細を渡したりはしないだろう。
だが、漠然と状況を理解できたようで、ここは麗麻に渡すべきだろうと判断したようだ。
明細を受け取るついでに、麗麻はカウンターに身を乗り出して、太巻に耳打ちする。
「もうしばらく、宮囲さんたちは泳がせておいてください」
「わかりました」
そうして、ギルドを後にする。
横を歩くリリィは、まとまったお金が入ってきたとホクホク顔だ。
(くっ、可愛い……!)
悲しい顔や、困り顔、戸惑い顔が多いリリィの自然と
「さて、約束通りちょっと付き合ってもらえるかな」
「うん」
お金が入って気持ちに余裕ができたリリィは、ためらいなくうなずく。
「それじゃあ、まずは駅前のバスロータリーに行きましょうか。バス酔いとか平気?」
「大丈夫……だと思う」
そうしてバスに乗って、普段使ってるギルドからは少し離れた場所にある大きめの駅へとやってきた。
「……ここ、初めてかも」
「そうなの? 有名なダンジョン『東京美食倶楽部』とかあるけど」
「あ! 名前聞いたコトある。美味しいモンスターが多いダンジョンだって」
「リリィちゃん、ダン材料理に興味あるの?」
「うん。あんまりお小遣いないし、朝も夜も基本的にご飯はないし、食事代も最近はあまり用意されてないから……だから、本当にお腹空いてどうしようもない時は、食べれそうなモンスター倒して焼いて食べてるんだ」
「そ、そうなのね~」
リリィとお喋りしながら、目的地へと向かう。
だが、その道中の会話がいちいち麗麻の心にクる。
(……薄々思ってたけど、やっぱリリィちゃんの家庭環境、絶対良くないでしょ、これ)
一般的な高校一年生の女子は、リリィの言う本当にお腹が減ってどうしようもない時――という状況にまず遭遇しないはずだ。
(それに加えて以前の友人からの裏切りに、ギルドからの不当搾取……もしかしなくてもリリィちゃんの抱えてる闇、かなり深くない?)
ギルドの方は衣乃に頼れると思うが、家庭環境はどうにかできるものだろうか。
(リリィちゃんは世間知らずのケがあるけど、それは本人が不勉強だからじゃあない。
どう考えても、本来リリィちゃんに教えるべき人たちがそれを教えて来なかっただけ)
家庭環境への介入は玄人でも難しい。素人ならばなおさらだ。
だから、外野にできることは、リリィの中に刻み込まれた――あるいは悪意をもって植え付けられたアタリマエを本人が自覚して、それを破壊できるような知識を与えることだろう。
麗麻がリリィとお喋りするかたわら、そんなことを考えているうちに、目的地に到着だ。
「え? ここって……ギルド?」
「そ。日本探索者協会府中支部」
「連れてきたかったのって、ココなの?」
「そうよ。ここの解体場に行きましょうか」
旧市役所の庁舎を改造して作られたこの支部は、近隣の支部と比べると大きくて立派。しかも設備もしっかりしている。
とはいえ、旧市役所から流用できる部分はそのまま流用されている為、やや段差が高く狭い昭和を思わせる階段などは残っている。
そんな階段を降りて、地下へ。
降りてすぐの大きな扉を開けて中へと踏み入れると、リリィと麗麻の身体が超人化する。
多摩センター支部のものよりも高性能な疑似ダンジョン領域発生装置を使っているようだ。より自然な超人化の感覚に、リリィは「おお~」と
「すみませ~ん」
ともあれ、このまま立ち止まっていても仕方がない。
「ん? なんだ?」
麗麻が声を出すと、近くにいた細身でちょいワルなイケオジといった
「この子の討伐モンスターの査定お願いしたいんですけど」
「ほいきた。獲物は?」
火のついていないタバコを咥えた男性は、
「えーっと、なんだっけ、あのカエル」
解体屋の男性に問われて、麗麻はリリィに訊ねる。
それに、リリィはおっかなびっくり答えた。
「あ、あの……鉱石カエル、です」
「ほうほう。そりゃあ面白いモンを持ってきたな。一匹か?」
「あ、いえ。その……えっと……」
もごもごとするリリィに、少し訝しむ男性。
少しフォローしておこうと、麗麻が口を挟む。
「すみません。この子、元々あまり人と話すのが得意じゃなかったんですけど……。
色々あって、人見知りが加速しちゃいまして……」
「……と、そうか。そりゃすまん。怖がらせたか」
リリィは思わず麗麻を見、そしておじさんに嫌われると身構えた。だが、おじさんからは逆に申し訳なさそうにされて目を
「とりあえず、カエルをここに出してくれればいいさ」
「結構いますよ」
「そりゃあすごい。この辺りじゃああまり持ち込まれないモンスターだからな。いっぱい触れるなら、おじさん大歓迎」
「だって。ほら、リリィちゃん」
「う、うん……」
麗麻に促されて、リリィはSAIから残った鉱石カエルを取り出した。
「……想定以上をさらに上回る数を出してきたな……」
十五匹の鉱石カエルによってつくられた山を見て、おじさんの口元からはタバコがポロリと離れて、床へ落ちた。