オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「全部で十五匹だな」
カエルの数を数え終えたおじさんは、カエルの山をスマホで撮影し、何か操作をする。
「ちょいと待っててくれな」
ややして、壁際にあるパソコンの並んでいる場所から、人が一人近づいてきた。自転車で。
「お待たせしました。こちらが査定の受付票です。上にあるロビーや、カフェスペースのモニタに表示されましたら、三階の報酬関連カウンターまでお越し下さい」
「あ、はい」
番号の書かれた紙を受け取ると、持ってきた人はパソコンの方へと戻っていく。やっぱり自転車で。
「どうした? おチビちゃん?」
「あ、あの……普段使うところ、解体担当してくれる人が……受付票を作りにいくから、ビックリしちゃって。あと自転車」
リリィがおっかなびっくりそう答えると、おじさんはシニカルながらも憎めない笑みでうなずく。
「うちも最初はそうだったんだけどな。改装でこんだけ広くなったしな。往復するだけで体力つかっちまって、解体がシンドいのよ。それにこの紙を持ってくるやつも、歩きだと大変だろ? 今の時間は結構空いてるが、休日とか依頼が多いからよ」
「あ、なるほど」
言われて納得する。
ここは普段利用している多摩センター支部の解体場と比べると二倍以上の広さがある。
学校の体育館よりもさらに広めの空間だ。
わざわざ壁際のパソコンまでいくのは大変だろう。
それに、壁際からここまで来るのも大変そうだ。
おじさんと、そんな平和的なやりとりをしていると、解体場の奥の方が怒号のような声が響いた。
「こンのッ、バカ野郎どもがッ! ちゃんと確認してから持ってこいッ!!」
「で、でも……SAIには死体しか入らないって……!」
「
ビクっとしながらも、声の切羽詰まった様子にリリィは視線を向けた。
「スケルトン……にしては大きい?」
すると、そちらの方で巨大なスケルトンが徐々に組み上がっていくようなところだった。
「妖怪がしゃどくろ?」
思わず口にする麗麻に、おじさんが首を横に振る。
「そう思うのも無理ないが、あいつはボーンレイスだな……それの大型だ。しかも特異個体っぽいな。名前がついてないだけで、ヘタしたらネームド級の可能性があるぞ」
そんなやりとりしている間に骨は組み上がり、上半身だけの大きなスケルトンが組み上がった。その背骨は少し長く伸びていて、先端を尻尾のように揺らしている。
その巨大スケルトンは青白い炎を思わせる光を纏ってゆらゆらと動き始めた。
上半身だけなのに、二メートルくらいのサイズはありそうだ。宙に浮いてるのもあって余計に大きく見える。
その両手は、身体とのバランスを思うと不自然に大きく、指先は剣を思わせる鋭さがある。おそらくあれがボーンレイスの武器なのだろう。
「ボーンレイスは
そして、核を潰してないボーンレイスは、SAIから取り出した時に再生する」
おじさんは、早口でそう告げてから、スマホを取り出す。
「解体場の
どうやらおじさんはギルドのスタッフに連絡を取っているようだ。
今出てきた名前は、このギルドの常連で実力が保証されている人たちだろう。
「お前らッ、持ってきたんなら倒せるだろ! 一度大人しくさせろ!」
「し、知らないんだよ! 戦ってないんだ! レアそうな骨があったから拾ってきただけで……!」
「マジかお前らッ、無勉強にもほどがあんだろ! そんな知識で霊園ダンジョンに行ったのかよッ!!」
ボーンレイスの近くで、解体屋さんと、骨を持ち込んだらしい探索者たちが揉めている。
モンスターはまだ再起動の準備中なのか、ゆらゆらしているだけでその場から動き出す気配はない。とはいえ真横で何をやっているのだ――とはリリィは思った。
「……揉めている場合じゃないのに!」
それを見ていたリリィは居ても立っても居られずに、首飾り型SAIからフード付きコートを取り出して身に纏う。
「おチビ?」
「やる」
続けて、いつもの無骨な
「付き合うよ、リリィちゃん。
この間の池の一件から、リリィちゃんに追いつけるようにがんばって鍛えてるしね」
同じように麗麻も自分の腕輪型SAIから愛銃である
「とはいえ、あたしの支援射撃がどこまでリリィちゃんの役に立つかは分からないけどさ」
「……お願い、します」
この場で口にするべき言葉がとっさに思い浮かばず、少し考えてからリリィは応えた。
それに麗麻は嬉しそうに笑ってから、表情を引き締めて烏間へと向き直る。
「烏間さんは、とにかく避難誘導を。倒せなくても倒せる人たちが来るまでのあたしたちで時間稼ぎするんで」
「おう。たまたま立ち寄っただろう嬢ちゃんたちには悪いが頼む」
「うん!」
「はい!」
リリィが剣をひきずりながら駆ける。
逆に麗麻はその場から動かず、まずは大声を上げた。
「銃撃系
それだけで言い争っていた解体屋と探索者たちがこちらに気づく。
逃げようが逃げまいが、麗麻は撃つつもりではある。だが、僅かな時間くらいは待つ。
蜘蛛の子を散らすようにボーンレイスの前にいた人たちがいなくなるのを確認してから、麗麻はスキル宣言と共に
「
狙いを付けて撃つ。それだけのスキルだ。
一応、多少の威力は高まるのだが、このスキルの本質は狙った場所に当たりやすいということだ。
もちろん、相手が大きく動かないこと前提ではある。
だが、多少動いたところで、この技によって放たれた弾丸は、軌道を僅かに曲げながら狙った場所へと向かっていく。
麗麻の目には核と呼ばれる部位は分からない。
それでも、骨の部分に当たれば、多少の効果はあるだろうという算段だ。
左の肋骨の一つに直撃する。
人間であれば心臓のある辺りだ。
再生途中の為、脆かったのだろう。当たった骨が砕け散る。
「ぜぇぇぇいッ!」
続けて、リリィが剣を振り上げる。
右の肋骨を纏めて斬り砕いた。
「GAAAAAAAAAAAA!!」
だが、ボーンレイスには効いた様子もなく、
「わ、あ、と」
それらを
ボーンレイスのがらんどうな
どうやらボーンレイスはリリィを明確な敵と見なしたようだ。
がらんどうの瞳に、怨念を思わせる青白い光が炎のように灯って揺らめいた。
「OOOOOOOOON!」
ゆっくりと再生している肋骨を見せつけるように、ボーンレイスは万歳のよう両手を掲げて不快な声を上げた。
すると、ボーンレイスの周囲に、無数の青白い火の玉が発生する。
「JYUOOOOOOONNN!!」
人間の握りこぶしほどの鬼火のようなそれを、ボーンレイスは周囲に向けて解き放った。
「え?」
それらは決して早いとは言えない速度ながら、解体場にいる色んな人へ向けて放たれたようで、彼らをホーミングするようにゆらゆらと宙を進んでいく。
「……まずい、けど……!」
広範囲に解き放たれた鬼火。
だが、その全てをリリィ一人で
持ち込んだ探索者たちは、麗麻の警告を受けて真っ先下がっていったようだ。他にも探索者らしき人たちはいるが壁際まで下がって遠巻きに見ている。
実力的にはそれで正しいのだが――戦えないなら、せめてギルドスタッフの避難誘導ぐらいはしてほしい……と、思わなくはない。
なんであれ、今ココで戦えそうな探索者は、自分と麗麻しかいなさそうだ。
そんな状態で、低速ホーミング鬼火をどうするべきか――リリィへ考えあぐねていると、ボーンレイスの右手が振り下ろされる。
「……ッ!」
それを大剣で受けてから押し返し、間合いを取る。
そのタイミングで、ふと近くを漂っている鬼火が視界に入った。
中にはホーミングせずにその辺りに落ちたり、天井などに触れるようなものもあったようだ。
それらの鬼火は、小さく弾けリリィの膝の高さ程度の火柱になる。
その時間は僅か数秒。すぐに消えてしまうような小さな火柱だが、数秒間そこにあるというだけで邪魔だ。
離れていても確かな熱を感じるので、触れれば火傷は必至だろう。
(マナを込めた攻撃を鬼火にあてると、爆発したり火柱になったりしないでに切り飛ばせる。けど……この数は……ッ!)
ましてや、ボーンレイス本体もその大きな手でリリィを攻撃してくるのだ。
考えあぐねていると、背後から麗麻の心強い声が届く。
「リリィちゃん! 鬼火は可能な限りあたしが撃ち落とすッ! そっちは本体討伐優先してッ!」
「……はいッ!」
言葉とともに、銃声が複数回響き、宣言通りにリリィの視界にあった鬼火たちが撃ち貫かれて消えていく。
背後から響く麗麻と、麗麻の銃剣の力強い声は、鬼火どころかリリィの迷いも撃ち貫いた。
さらに続けて銃声が聞こえてくるので、麗麻がリリィの目の届かないところにある鬼火を撃ち落としているのだろう。
「再生に多少時間が掛かるっていうのなら……ッ!」
ゆっくりと修復されている肋骨を見てから、リリィはボーンレイスの左肘を狙う。
ボーンレイスはリリィの狙いに気づいたのか、右手で剣を受け止めた。
「チカラ比べなら……ッ!」
グッと全身にチカラを込めて、スキル宣言をする。
「
この技は
剛牙刃はそんな走牙刃をアレンジしたスキルであり、その射程を極限まで狭めた代わりに威力を高め、当たれば炸裂して衝撃波を撒き散らするように変えたものである。
リリィはそれを、ボーンレイスと
発動と同時にボーンレイスの手とぶつかって重たい衝撃波が周囲に走る。
使った本人すらもよろめかせる衝撃だ。ボーンレイスの右手も大きく弾かれる。
リリィはそこに隙を見出した。
「武技:
リリィは剛牙刃を至近すぎる距離で炸裂させた反動で全身が痛むのも無視して、次のスキルを宣言すると、よろめく身体に無理を言わせて強引に剣を振るった。
単純な威力強化のスキル。
横一文字。あるいは縦一文字で繰り出す、強力な斬撃。
今回はそれを、縦一文字で解き放つ。
「でぇぇぇぇぇぇッ!」
喉の奥で弾ける裂帛の気合いと共に、剣を振り下ろす。
ボーンレイスの右手が、掌から肘に掛けて砕け散った。
「UUURAAAMEEESIIII!!」
しかし、ボーンレイスは右手が砕けたことなど何でもないかのように、左手をリリィに向けて振り下ろす。
それを大きく飛び退いて躱すと、小さくため息をついた。
「そうか。この手のモンスターって痛覚みたいなの、ないんだっけ……」
ならば右手が再生する前に左手も砕く。
リリィが剣を構え直した時、先ほどの倍の量の鬼火が発生する。
「うそでしょ……」
麗麻だけで
リリィも鬼火を斬る方に参戦しないとマズい気がする。
だが、鬼火にかまけすぎていればせっかく砕いた右手も再生するだろう。
「核がどこだか分からないっていうのに……」
どうするべきか――そう思っていると、動き出す前の鬼火がいくつか弾けた。
「リリィちゃんッ、作戦継続! 鬼火は全部あたしが落とすからッ!」
「でも……!」
「何が何でも喰らいつくッ! こんな状況で実力不足を嘆いてる暇なんてないっしょッ!」
――ああ、そうだ。
(まったくもって、ウラマさんの言う通り。戦えるのがわたしたち二人だけなんだから、自分にできるコト全部やらないと……ッ!)
リリィは気を改めると、大剣を背負うように構え直すのだった。