オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
リリィは剣を構えてボーンレイスを観察する。
後頭部から垂れ、上半身を通って、そのまま尻尾のように垂れる背骨。
身体は上半身分しかないのに、背骨だけは尾骨まで存在しているので本当に尻尾のようだ。あるいは本来の人体よりも、仙骨から下が少し長いのかもしれない。
(……背骨のどこかにある、色の違う骨。あからさまではないけれど、違いはちゃんとある骨。どれだろ……?)
観察していると、ボーンレイスが両手を大きく振り上げて、交差させるように振り下ろしてくる。
「そんな大振り……ッ!」
受け止めたり受け流したりせずに、見切って
そのついでに、左手首へと剣を振り下ろして斬り落とした。
ボーンレイスは慌てた様子で落ちた手を拾って、くっつける。
同時に、周囲に鬼火が発生したが、それらの大半は衣乃と紡風が蹴散らしていく。
(再生の時間稼ぎなのかな、この鬼火……)
ゆっくり相手を観察し、考察する余裕が生まれたのはありがたい。
リリィは再生し終えたボーンレイスの攻撃を捌きながら、観察を続ける。
振り下ろされる爪を躱し、リリィを狙う鬼火を自分で切り飛ばす。
そんな最中でも、観察は止めず、ひたすらボーンレイスの背骨に注視する。
「……あった!」
確かに、他より一段色味の濃い骨があった。
下半身がないので途中から尻尾のように垂れている背骨の終端。その先端から四番目。
(こんな下にあったなら、そりゃあ応戦中に偶然ダメージが通る……なんてのも起きないワケだ……)
戦いながらいくつかの骨を砕いたものの、仙骨より下の骨はまだ一度も砕いていない。
(でも、見つけた。なら、斬り捨てるだけだ……!)
地面すれすれまで身を低くし、剣も地面に水平になるよう構える。
「
その状態のまま地を駆け、目標たる骨へと狙いを付けた。
「そこッ!」
水面を跳ねる飛び魚の如く。
飛び魚の羽が刃であったなら――
リリィは地面すれすれから飛び魚の如く跳ね、
狙った骨の上下の隙間に刃を滑らせる。
核たる骨だけを本体から切り離し、弾いた。
弾かれた骨が床に落ち、地面を転がる。
「核は必ず粉々にしてくださいッ!」
「はいッ!」
紡風の言葉に返事をして、転がる核たる骨を追いかける。
「OooooooN!!」
慌てたようにボーンレイスもそれを追いかけようとするが――
「行かせるワケがないでしょ!」
両手両足に水を纏った衣乃が、ボーンレイスの前に立ちはだかる。
「JyuuuuuooooonnnnnN!」
衣乃に対して、ボーンレイスは邪魔だ――とばかりに右手を振り上げ――
「相手は、滝洲さんだけではありませんよ」
振り上げた右腕に、紡風が放ったワイヤーが巻き付いた。
「OoooooN!!」
器用にも、ボーンレイスは絡め取られた右手を肩から外す。
「なッ!?」
チカラを込めてワイヤーを操っていた紡風は、急に力比べを止められた為、バランスを崩す。
ボーンレイスは、地面に落ち行く自分の腕など気にせずに先へ進もうとするが――
「はい。残念。腕を外すのには驚いたけどね。でも、それだけよ」
衣乃は慌てず騒がず、その動きを制した。
「行かせないったら!」
背後でボーンレイスの足止めをしてくれている衣乃と紡風に感謝しながら、リリィは転がる骨を負う。
しばらく追いかけていると、核は観念したように宙に浮いた。
「え? え?」
そして、核は小さなボーンレイスの姿になった。
「そうか。だから砕かないとなんだ」
核がある限り、こういう小さな姿になりながらも、ボーンレイスは復活するのだ。
粉々に砕けというのは、再生限界のようなサイズが存在するからなのだろう。
だけど、このサイズであれば一刀のもと、纏めて斬り飛ばせばいい。あるいは纏めて吹き飛ばす。そうでなければ消し飛ばす。なんであれ、やりようはいくらでもある。
「武技:
リリィの剣が、白と黒の絡み合ったオーラに包まれた。
「吹き
オーラに包まれた剣の切っ先を床に向け腰だめに構えながら、左足を前に出して地面を踏みしめ――
「花散る
リリィはオーラに包まれた剣を全力で振り上げた。
「――果てろッ!」
剣から白と黒。二種類の衝撃波が同時に放たれ、合流しながら核たる骨を飲み込む。
二つの衝撃波は核たる骨を中心に集束していくと、白と黒の
「ちょッ、リリィちゃん!? それ、壁や天井大丈夫!?」
焦ったような声を上げる衣乃に、リリィはマイペースにうなずく。
「うん。抜かないように加減した」
そして天井と床をちょっとだけ焦がしてから白黒螺旋の火柱が収まると、焼け焦げ炭化した骨が上から落ちてくる。
その骨は床に転がるとボロボロと崩れさっていった。
同時に、暴れていたボーンレイスが動きを止める。纏っていた禍々しいオーラが消え、浮いていた骨がバラけながらボトボトと床に落ちていく。
「ダンジョンじゃないから、黒いモヤにはならないのかしら?」
「ええ。ボーンレイスの特殊個体……その骨をまるまるゲットですね」
何とかなったか――と、衣乃と紡風が安堵する。
「終わった?」
「ええ」
リリィが恐る恐る訊ねると、衣乃は優しくうなずいた。
「……ウラマさん!」
それを確認するなり、リリィは剣をSAIに仕舞って、麗麻のもとへと走り出す。
烏間に身体を預けている麗麻は、苦しげな青い顔のまま目を伏せているが、呼吸は落ち着いているようだ。
「あ、あの……! ウラマさん、大丈夫、ですか?」
「ボーンレイスが倒れるのを見届けて意識を失っちまったけど、命には別状ないはずだ」
「良かった……」
心底から安堵して、リリィは大きく息を吐く。
「とりあえず医務室かな。しかし、若い嬢ちゃんを抱き上げるのは気が引けるな……」
どうしたものかと烏間がうめいていると、衣乃と紡風がこちらへと向かってくる。
「紡風さん、ここのお片付けをお願いしても?」
「ええ。滝洲さんはそちらの方を医務室へお願いしても?」
「もちろん。殿方に抱かせる気はありませんもの」
衣乃は茶目っ気がありながらも上品に見える笑みを浮かべて返す。
それから、リリィのところへとやってきた。
「私が医務室へ連れていくわ」
「……うん。お願い……」
それが最善だと分かっているのだが、リリィは少しだけ不満を感じていた。
「どうしたの?」
「……わたし、運びたかったな、て」
「運ぶ?」
気遣うような衣乃の言葉に、ブンブンとリリィは首を横にふる。
「超人化してないわたしは、貧弱だから……だから、
そう言ってリリィは、ローブの下から覗く自分の腕を見た。
ここ最近、人と触れ合うことが増えたからこそ、自覚する。
自分のこの腕は、それこそ文字通り細腕なのだ。
倒れた友達を抱き運ぶことができないくらいに、か弱い腕。
ダンジョンによる超人化がなければ、凡人以下の筋力に、凡人以下の運動神経。
ダンジョンの外では何もできない貧弱な、貧弱以下な、か弱いという言葉よりもか弱い小娘だ。
筋トレで多少マシになってはいても、だけど多少マシ程度。
本当に自分は、ダンジョンの外では役立たずなのだ。
それを今、どうしようもなく自覚している。
鉄火場でしか、人とちゃんと会話できない自分の性質もあらためて実感したことで余計にそう思う。自分はつくづく、ダンジョンでしか生きていけないような人間だ。ダンジョン以外に居場所がない。
「……リリィちゃんのお悩みは、今度相談に乗ってあげるわ。
まずは、麗麻さんを医務室に連れていきましょう?」
「……うん」
衣乃は麗麻を苦もなさげに横抱きで持ち上げて、歩き出す。
リリィはその後を、