オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「……ん、んー……」
小さくうめき、麗麻が目を覚ます。
「きっつー……」
深く眠ってる時に無理矢理起こされたかのような頭痛と身体の重さを感じなら、ゆっくりと身体を起こした。
「どこかの、医務室?」
そう口にしてから思わず苦笑する。
どこもなにも、探索者協会府中支部の医務室だろう。
リリィがボーンレイスを倒すのを見届けて安堵すると同時に、意識が途切れた自覚がある。あの流れを思えば、そのまま医務室に運ばれたのだろうことは予想がついた。
ひどく重い頭に眉を
すると、ベッド脇で突っ伏しているリリィに気づいた。
(寝顔……は、位置的に見れない!)
悔しい――と思いながらも、自分が寝てる間、ここにいてくれたのだと思うと嬉しい。
「……ん~……」
なんとなくリリィを眺めていると、もぞもぞと動き出す。
顔を上げ、麗麻が目を覚ましたことに気づくと、ほにゃっと嬉しそうに微笑んだ。
「よかったぁ、ウラマさん、目が覚めたぁ」
普段は俯き気味だし、
(イ、イケメン顔の時とは違う破壊力……ッ!?)
天使のように愛らしいリリィの笑顔に、麗麻は思わず胸中で鼻血を吹き出すような気持ちになった。しかし、バレたらマズいと思ったので、精一杯いつも通りに勤めて笑い返す。
「心配かけてごめんね。まだ身体は重いけど、動けるようにはなったよ」
「ほんと、よかったぁ……」
リリィがこちらを気に掛けてくれる様子に、麗麻は僅かに不思議そうに目を
普段のリリィと、少し気の掛け方が違う気がする。
いつもより一歩踏み込んで気に掛けてくれているようだ。
(気にはなるけど――変に余計な詮索せず。余計な顔をせず……がいいかな。良い傾向なのは間違いないし)
人との関わり方が分かってないような子だ。
少しずつ足りてなかった情緒が備わりだしているのであれば、余計なことはしない方がいい。
麗麻は僅かな逡巡のあとですぐに顔を戻して、訊ねる。
「私が倒れたあとって何かあった?」
「えっと……イノさんがウラマさんをここへ運んで……そのあとは、わたしもずっとここにいたし……あ、でもイノさんと、ツムカゼさん? って人が後始末とかしてくるって」
「ツムカゼ……ああ、あの人か」
聞き慣れない名前に麗麻は首を傾げるが、最後に衣乃とやってきた男性を思い出して小さくうなずいた。
そんなやりとりをしていると、医務室へと誰かがやってくる。
「お? 二人たりとも起きたわね」
「ご迷惑おかけしました」
そう声を掛けてきたのは、今の話にも出てきた女性――衣乃だ。
その衣乃に、麗麻が頭を下げると、彼女は気にするなというように手を振った。
「ご迷惑なんてとんでもない。
あなたが踏ん張ってくれたから、私と紡風さんが間に合ったし、被害者がなく片付いたの。褒められた無茶ではないけれど、その功績は誇るべきコトだからね?」
これは本当に賞賛されているな――と麗麻は思うものの、素直に受け取る気にはなれなかった。
「すみません。どうにも、自分の実力不足を
「そ。それならそれでいいわ。
でも、時と場合によっては本心でなくとも賞賛は賞賛と受け止めて喜んだフリをして見せる場面も必要だったりするからね。それの見極めだけはできるようになっておくと吉よ。
あなたみたいな真面目ながんばり屋ほど、普段はそうでもないのに、そういう場面でだけ空気読めなくなったりするからねえ」
チクリと言葉を付け加えてくるのは、衣乃なりの気遣いなのか、それともただのちょっとした嫌味や皮肉の類いなのか。
どちらであるかの判断ができない麗麻は、
麗麻がそんな曖昧な反応をした理由も、衣乃は読み取っていそうな気配はあるが。
「あ、そだ。ロゼさん、すぐに歩けそう?」
「え? はい。歩くくらいなら。探索とかバトルをやれと言われたら無理そうですけど」
「そんな無理は言わないわ。でもマナ欠乏でしょう? ここから歩いてすぐの10分もかからないところにあるダンジョンがあるの。そこへね、あなたの回復の為に案内しようかなって」
マナ欠乏は、体内に残ってるマナがあれば自然治癒していくのだが、体内の残量が少なすぎると、回復しないと言われている。
足りないマナを補給するには、ダンジョン内に満ちているマナを吸収するのが手っ取り早い。一応、回復する為の薬などもあるらしいが、かなり高価だと聞く。
その為、身体が動くようならどこかのダンジョンに行こうと思っていたのだ。この誘いはありがたい。
「それはむしろ助かります」
「なら、もうちょっと片付いたら案内するわね」
麗麻は衣乃への苦手意識が多少なりともあるが、その実力や仕事ぶりは信用している。
回復の為にダンジョンへ案内するというのもウソではないのだろう。
「ああ、それと。リリィちゃん、はいこれ」
「?」
横で黙って話を聞いていたリリィへ、衣乃が何やら一枚のプリントを渡す。
「これは?」
「何かモンスターを査定に出していたでしょ? それの結果だって。その紙そのものが、この支部では買い取り金との引き換え券にもなってるから、破いたり汚したりしないで、受付にもっていきなさいね」
「は、はい……!」
宝物でも受け取るように慎重に受け取るリリィ。
麗麻がそれを見守っていると、衣乃はこちらにも同じようなモノを渡してきた。
「ロゼさんにも、これ」
「え?」
それを受け取りつつ、首を傾げる。
自分はこのギルドでお金を貰うようなことはしてないと思うが。
受け取った紙の見出し部分を読む。
「はぐれモンスターまたはイレギュラー等特殊状況下対応報酬支払い票……? 報酬?」
「なんで疑問に思うのかしら? あの状況下で戦ったんだから、報酬が出て当然でしょう? 討伐報酬がそれね。二人で相談して山分けしなさい」
素材の方は、別途配分を考える必要があるし、ネームドなので不要な部分はオークション行きだろう。
これも、リリィと相談して分ける必要がありそうだ。
ただそれを踏まえて考えても、麗麻は素直に受け取れそうになかった。
「でも、あたしはほとんど役に立てて無かったというか……」
「
ピシャリと衣乃に制される。
先ほどのちょっとした皮肉っぽい口調とは違う。真面目な声。
「現場状況から、あなたとリリィちゃんの二人を臨時パーティ扱いするコトになったの。そして二人で協力し現場の維持、討伐に貢献した。これは誰の目にも明らかでしょう?」
「で、でも……滝洲さんや、ツムカゼさん? って人も戦ってたし。この書類だと報酬受取人が、あたしとリリィちゃんだけしか書いてませんよ?」
「私と紡風さんは探索者資格持ちの公務員として、現場参加という扱い。だから探索者報酬ではなく、公務員としての特別手当をそれぞれ所属する組織から別途貰う形になる」
つまり、純粋な報酬は、麗麻とリリィ――二人のものだ。
書類に目を落とし金額を確認してから、ちらりとリリィを見る。
その時、気がついた。
リリィは書類に目を落としたまま固まってしまっている。
「……あれ? リリィちゃん? どうしたの?」
「あ、あの……あのあの! イノさん! これ、これの、金額間違ってません?」
「そうなの? 中は見てなかったんだけど」
首を傾げる衣乃に、リリィはその書類を衣乃の眼前に向けて突き出す。
近すぎて中身が読めないそれを衣乃は優しく受け取って、目を通した。
「ロゼさん。リリィちゃんの査定対象って、鉱石カエル十五匹であってる?」
「合ってます」
「鉱石カエルって、背中のイボ型鉱石が綺麗だと金額にボーナス付くわよね?」
「そのカエルについての詳細は知りませんけど、そういう素材部位が綺麗だとボーナスつくモンスターがいるのは間違いないですね」
リリィが固まっている理由に察しがついた麗麻は、衣乃の問いにさっさと答えていく。
こちらのやりとりを見ながら、横であうあう言っているリリィが可愛い。
「お肉は食べられるからダンジョン食材として注目されてるし……皮はダンジョン素材性ゴムの原料になる。背中の鉱石も使い道が多いのよね。時々レアメタル含有してるコトもあるって話だし。
その上、意外と戦闘力も高く、ナワバリに踏み込むと群れで襲ってくるので討伐難易度も高い。そんな扱いのモンスターね。
本来は棲息していないダンジョンにときどきひょっこりと一匹狼が顔を出すけど、その場合は完全にレアモンスター扱い。
――となると鉱石カエルは、多少扱いが雑でも一匹あたり最低でも一万円くらいしても不思議はない」
「そうですね。そのカエルがそういう類いのモノであるなら、異論ナシです」
「い、いっぴき、いちまんえん……」
リリィの目がぐるぐるし始めた。可愛い。
「それらを踏まえた上で、納品されたカエルは全て良品以上。背中のイボ鉱石もほとんどキズナシのモノばかり。皮も綺麗に剥がせる状態。
加えてさっきの戦闘の件もあって、査定と解体の手数料は免除してくれているみたいね。
その結果、鉱石カエル十五匹の査定と解体の結果は、
「なるほどなるほど。リリィちゃん、これのどこに問題ある感じ?」
「え? え? え? 問題しかないですよ!? だって、今まで多くてもカエル十五匹で2、3万円くらいだったのに、なんで、急に、こんな、なんで……?!」
「は? 2、3万?」
衣乃が目を眇める。
「滝洲さん。こちらをどうぞ。普段リリィちゃんが使ってるギルドでの査定詳細付きの支払い明細です」
「ありがと。こういう用意周到さ、ほんとウチに欲しい人材だわ」
言いながら衣乃は、麗麻から書類を受け取った。
それに目を通し、難しい顔になった衣乃がリリィに訊ねる。
「リリィちゃん。ここに納品したのと、向こうに納品したのって、同じような状態のモノよね?」
「え? あ、はい。だから、状態が悪いから査定額引かれちゃうんですよね? わたし、そういうの、ヘタだから……」
俯いて申し訳なさそうに口にするリリィの姿を見て、衣乃が何か言いたげに麗麻を見る。
だが、敢えてその言いたいことを読み取った上で、麗麻は見当違いの解答を口にした。
「その書類の作成者として名前がでてる太巻さんは、あたしの味方なんで、ひどいコトしないでくださいね?」
「ほんとにもう……」
色々と言いたいことを飲み込んだ衣乃が、やれやれと嘆息する。
「ハッキリ言うとね、リリィちゃん。査定額は府中支部の方が正確よ。
多摩センター支部の支払いは、リリィちゃんがモノを知らないコトと、おかしいと思っても反撃してこないから――という理由で、かなり雑に扱われてるみたいね」
「……え?」
ポカンと口を開けて固まるリリィ。
それを横目に、麗麻はボーンレイスの報酬の額を確認し、告げる。
「衣乃さん。これの割り振り額、証人として聞いてもらって良いです?」
「ええ、どうぞ」
「総額およそ150万のうち、三分の一の50があたし。残りは全部リリィちゃんで。貢献度的にもそんな感じかと」
リリィと相談すると、そのあたり謙遜やら何やらで絶対に受け取ってくれないだろうから、麗麻は、今この場でそう決めた。
その意図は、衣乃にも正確に通じたようだ。
本来であればちゃんと相談しろ――と言われるかもしれない行為に対して、衣乃は敢えてうなずいてみせる。
「そうね。証人として聞き届けました。金額的にも妥当だと思うわ」
「え? ひゃく……? なに、が……?」
「なにって、大型ボーンレイスの討伐報酬よ。でも素材の査定額は含まれてないから、あとで素材の扱いの相談もしないとね」
しれっと、麗麻が答えるとリリィのあたまからボンという破裂音が聞こえてきた気がした。
どうやら金額が大きすぎて、リリィの脳みそはキャパシティをオーバーしてしまったようである。