オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
探索者協会府中支部の協会から10分ほど歩いたところにあるダンジョン――通称『東京美食倶楽部』。
洞窟型エントランスから降りてくると、平安時代辺りを思わせる町並みが広がっている。
「この城下町エリアはモンスターがほとんど出現しないのよ。だから、領主邸と呼ばれている大きな建物の前の広場で、よくキャンプとかバーベキューしてる探索者もいるわ」
「ダンジョンでバーベキューって……」
衣乃の説明を聞きながら、麗麻は周囲を見回しつつ苦笑した。
「ご存じの通り、ここって美味しいダンジョン食材が多く手に入るのよ。モンスターだけでなく、採取できる植物とかキノコとかね」
「だから美食倶楽部なんですもんね」
ちなみに、リリィも一緒にやってきている。
ただ出かける前にした報酬の話で頭が放心してしまってから、ついては来ているもののほとんど意識がなさそうだ。
「リリィちゃん、しばらくは戻ってこないかな?」
「でしょうね。ちょっと金額が見たコトがない額になっちゃったみたいだから」
「ギルドの一時預かりってあまり使ったコトないけど、あれで良かったんですか?」
麗麻は最低限の手持ち以外は、ギルドから銀行へ振り込んでもらった。さすがにあの額を持ち歩こうとは思えない。
リリィの方は、麗麻が言う通りギルドの一時預かりという制度を利用した。まぁリリィ本人がテンパって意識が飛んでいるので、そうせざる得なかったというのもあるが。
一時預かり制度は、時々高額の報酬が支払われることのあることから作られたものだ。
高額の報酬をそのまま持ち歩きたくない――とか、何らかの事情ですぐに銀行へ振り込んだり、すぐには受け取ったりできない場合に、ギルドにそのまま預かってもらうという形になる。
もっとも、その制度名の通り一時的な期間のものであり、銀行のようにずっと預けておけない。加えて、銀行のようにどこのギルドでも受け取れるものではなく、預けたギルドからしか引き出せない。
「リリィちゃんの持ってる銀行口座は、なんとなくね」
「どういうコトですか?」
麗麻が首を傾げると、チラリと衣乃がリリィを一瞥する。
まだぼーっとしているのを確認すると小声で告げた。
「親が監視している可能性」
「えー……」
そんなことあるの?――と首を傾げる麗麻に、衣乃は小さくうなずく。
「今までは不幸中の幸いか、報酬が少なかったから露見しなかった。でも、今回は隠し通せる額じゃあないわ。変に大金持ってるのがバレると、あまり良くない気がするのよね」
衣乃の言いたいことは何となく分かる。
リリィの話を聞いていると、どうにも気になる点が多すぎるのだ。どう考えても過去のイジメや裏切りだけでは説明できない何かを感じる。
素人の麗麻すらそう感じるのだ。調査官なんてものをやっている玄人の衣乃からすると、それをもっと強く感じているのかもしれない。
だからこそ、敢えて一時預かり制度を使ってギルドに預けておくようにしたようだ。
「でも一時預かりって期限あるんでしょう?」
「本来はね。でも紡風さんには事情と懸念を話してあるし、あの人――支部長より偉いからね。ちょっと融通利かせてもらって無期限にしてもらったわ」
「え? ギルマスより偉いってグランドマスター?」
「そう呼んで良いのは協会長の
どう説明するべきか――と思案しながら、衣乃は続ける。
「東京の場合は、東京を三つのエリアに分けてるんだけど――その三つあるエリアの中の一つ。その範囲の中にある支部の支部長たちのまとめ役みたいな? 支部長と協会長の間くらいの偉さだし……俗称で呼ぶならハイマスター、とかが妥当かもね」
「はえ~……ハイマスなんて人いるんだ」
「まぁ支部長と会長ばかりが目立つからねぇ。でも一番気苦労の多いポジションだから、あんま迷惑かけないようにね」
「中間管理職ってやつですか?」
「だいたいあってる」
そんなやりとりをしているうちに、領主邸前広場と呼ばれる場所までやってくる。
すると、先客がいたのかブルーシートを敷いて座っている人影があった。
ブルーシートの上にはザブトンや布団のようなモノまでありそうだ。
そこにいた人影――小柄な女性は、衣乃の顔を見ると笑いながら手を振った。
「お~~、来たね~~!」
「すみません
「いいよ、いいよ~~」
黒系のガーリーな格好の上から袖の大きく余るほどダボついた白衣を着たその女性は、不揺という名前らしい。
「えーっと、滝洲さん。この人は?」
「こちらは探索者で、今は近くの大きな病院で研修医をしてる――」
「
「探索者としても上位の人で、レアスキル『錬金術』を保有している上に、ダンジョン素材並びにダンジョンスキルを用いた医療研究の第一人者に認定されている人でもあるわ。肩書きがすごすぎるから、敬意を込めて先生と呼んでるの」
「ん~~~~滝洲ちゃんは、心愛のコト持ち上げすぎだと思うんだよな~~~~! 心愛ちゃんは別に自分のコトを第一人者だと思ってないし~~~~」
困ったような顔で笑ってから、心愛はよろしくね――と、軽い調子で挨拶してくる。
そんな心愛に、麗麻も慌てて頭を下げた。
「
「おお~~キミが今日の患者さんだね~~」
「患者?」
首を傾げると、横にいた衣乃がうなずく。
「ええ。ただのマナ欠乏ならわざわざ呼んだりしないのだけれど……。
あなたの場合、マナ欠乏を自覚してから、倒れるのを我慢してさらにスキルを使い続けていたでしょう? ダンジョン内で欠乏したマナの補うので足りるかどうか不安だったから、呼んでおいたの」
言いながら、衣乃は何かの書類を心愛に渡した。
「これをこの短時間でわざわざ用意したの? 確かに必要だけどさ~~、速すぎじゃね~~?」
「あの~……その書類はなんですか?」
「厚生労働省発行のダンジョン内及びダンジョン関連医術を用いた医療行為手続きの許可書ほか諸々。これなしで探索外のダンジョン内医療行為がバレると叱られちゃうんだよね~~」
「そういうのあるんですね。あれ? でもケガや毒を回復するポーションとか探索中飲んじゃいますけど……」
「探索外でって言ったでしょ~~……今日みたいな治療をするのに必要なんだよね~~。
とはいえ、一日二日で発行されないやつだけど。どうやったの~~?」
「秘密。まぁボーンレイスの討伐ボーナスと相殺とか、そんな感じ」
事もなげに言う衣乃に、麗麻は慌てて頭を下げた。
「それはその、わざわざすみません……」
「気にしないで。協会の不手際で有望な探索者に引退されても困るしね」
「そうは言っても……わざわざ不揺先生にまで来てもらって……」
「心愛ちゃんのコトも気にしない気にしな~~い。重めのマナ欠乏はまだまだ症例が少ないからね~~、こちらとしても
そう言ってから、心愛はリリィを見た。
「ところで、そちらの小さい子は?」
放心中のリリィ本人は答えられないので代わりに衣乃が答える。
「
「それで放心中か~~~~……そればっかりはどうしようもないよね~~~~……」
あははは――と心愛は笑いながら理解を示したあと、急にとてつもなく冷たい顔をして告げた。
「そいつ、宗尾さん診たあと絶対に
急にシリアスを通り越して冷酷とも言える顔見せた心愛に麗麻が驚いていると、横で衣乃がうなずく。
「構いませんけど、リリィちゃんがどうかしました?」
「どうもこもないって~~の。マ~~ジで親の顔を見てぇ~~ってなってるだけ~~」
思わず麗麻と衣乃は顔を見合わせた。
医学知識に明るい心愛には、二人には気づけない何かに気づいているようだ。
「まぁ、まずは宗尾さんからだね~~。
靴脱いでブルーシートに上がっておいでよ~~! 滝洲ちゃんたちも一緒にどうぞ~~。長くなるかもだし、くつろいで~~」
お言葉に甘えて二人はブルーシートにあがる。
リリィにも声を掛ければ、放心しててもその辺は無意識がちゃんとやるのか、靴を脱いでブルーシートへとあがった。
「じゃあ、宗尾さんは~~、そっちのマットレスの上に横になってね~~~~」
「わかりました」
「ちょっと触るよ~~」
素直に横になると、心愛の手が額に乗る。
「ちょっと顔色悪いけど、自覚症状は~~?」
「頭痛と、身体のダルさ……ですかね」
「典型的な
軽い口調のままながら、心愛の表情は真剣だ。
「本当に体内のマナが空っぽだね~~……。ここまでなのは珍しい。
このまま外で回復を待ってたら超人化に影響がでるレベルじゃないかな~~……こんなマナの消費の仕方もあるのか~~……」
「超人化に影響?」
「ゲームで例えるなら、空になったMPの代わりにレベルや経験値、スキル取得で割り振り済のスキルポイントとかを消費してた――が近いかな~~……」
探索者としてモンスターを倒したり、ダンジョン内で作業することによって鍛えられていた能力そのものを消費していた事実に、自分のやったこととはいえさすがに顔色が悪くなる。
「うぇ……あたし、そんなコトしちゃってたんだ……」
「そうそう。結構なヤバヤバなスキルの使い方してたみたいだね~~~~」
「ホントにかなり無理してたのね。到着が遅くなって悪かったわ……」
申し訳なさそうな衣乃に、麗麻は首を横に振る。
「いやぁ、あれは仕方ないですよ。むしろ到着まで持ちこたえられて良かったです」
「探索者としては二重丸あげるべきなんだろうけどさ~~、お医者さんとしてはむしろ二重バツって感じかな~~~~」
そりゃあそうだろうな――と、麗麻と衣乃は苦笑するしかない。
「これさぁ~~最悪、超人化どころかさ~~、ふつうに肉体そのものへの悪影響だってあったかもだぜ~~」
ただ付け加えられた言葉は、苦笑ですますワケにはいかないもので、麗麻も衣乃も思わず頭を抱える。
「話を戻すけど、無くなった分のマナはダンジョン内で補充できれば問題ない範囲だから、ここへ来て正解だね~~~~。
ただそのままダンジョンに来ないで完全回復してたら、経験値とかレベルの減った分は本当に減ったままになっちゃってただろうね~~」
「じゃあ、しばらくここにいればレベルダウンせずにすみます?」
「うん。それは保証する~~~~」
「よかったぁ……」
心愛は麗麻の額だけでなく首などにペタペタと触れて何かを確認していく。
医者の触診のようで、何か差異を感じる動きだ。
「なにかスキル使ってます?」
「ん? そだね~~。スキルによっては馴れれば宣誓ナシでいけるからね~~」
うなずき、手を離すと自分の手元のカバンを漁りだした。
「はい。これ~~~~」
差し出されたのはラベルの何もついていない銀色パックのゼリー飲料だ。
「心愛ちゃん
「……めっちゃ高そうなんですけど?」
「実際に買ったら高いよ~~、でもまぁ滝洲ちゃん――というか
麗麻は値段を聞こうと思ったものの、ふと視線を衣乃に向けると微妙な顔して視線を逸らされたので、触れるのはやめておいた方が良さそうだ。
受け取ったソウルゼリーを恐る恐る口を付ける。
「あ、おいし」
「メルティビーの蜜が入ってるからね~~」
「そんな可愛い名前の蜂? いるんですね」
「名前は可愛いけど、メルティビーの毒は肉体や金属等の物質だけでなく、精神すらも溶かす凶悪な上級ランクのモンスターよ」
「うわぁ、聞きたくなかった」
衣乃の補足に、麗麻は思わず顔を顰めた。
けど、美味しいのは間違いない。
そんなやりとりをしていると、動きを止めていたリリィが活動を再開しはじめたようだ。
「……うーん……はッ!?」
「あら? リリィちゃんお目覚め?」
「あ、あの! イノさん! なんか、桁が! ゼロが! 見たコトなくて、多くて! ……ってあれ? ここどこ? あれ? あ!? し、知らない人がいる……!?」
心愛に気づいたリリィは、すごい勢いで衣乃の後ろに隠れる。
「あら、嬉しい。私を盾に使ってくれるのね」
「し、知らない人……怖いぃぃ……」
「あ~~……人見知りちゃんな感じ~~??」
動き出すなり騒がしいリリィに、心愛はケラケラを笑うのだった。