オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

21 / 27
021.ぼっち、自分の身体について知る

 

「改めて自己紹介するね~~! 不揺(フヨウ) 心愛(ココア)! 研修医――ようするにお医者さんの卵……いやヒナやってま~~す」

 

 ヨロ! と横ピースする心愛。

 それを見て、衣乃後ろに隠れながらも、リリィはおずおずとうなずいた。

 

「お医者さん……そっか……えっと、わたし……最果(モトクワ)リリィ、です……よろ、しく……」

「なにこの小動物感! 可愛すぎ~~~~」

「ですよねですよね!」

 

 突然大声を上げる心愛に、全力で同意する麗麻。

 二人の勢いにリリィがビクっと震えている。

 

「二人とも。リリィちゃんが怖がってる」

 

 衣乃に言われて、おっと失礼――と、二人は息ぴったりに謝罪した。

 それから、心愛は医者らしい相手を落ち着かせるような笑みをリリィに向ける。

 

「冗談はおいといてさ~~、リリィちゃん。怖いかもしれないけど、ちょっと心愛ちゃんに身体診せて欲しいんだけど~~?」

「からだ?」

「そ。体調とかそういうの? 最近、学校で検査とかしたりしなかった?」

「うーん……特に、やってない……かも?」

「そかそか。問題ないならいいんだけど、お医者さん見習い的にちょ~~っと気になるコトがあるから、診せてもらえないかな~~?」

 

 少し前のリリィであったなら、初対面の心愛にこう言われても首を横に振ってただろう。

 けれど、麗麻や衣乃と出会ってからのここ数日で、多少の心境の変化があったのも事実だ。

 

 それに、心愛は初対面ながらも衣乃と同じで、ちゃんとリリィのことを見てくれている気もする。

 

 だから――

 

「えっと、わかり、ました」

「ほんと? ありがと~~」

 

 ――勇気を出してうなずいた。そしたら、なぜか心愛にお礼を言われた。

 

 そのことを不思議に思いながらも、リリィは衣乃の後ろから出て心愛の前に座る。

 

「それじゃ~~、ちょっと触るよ~~」

「……は、はい……!」

 

 お医者さんなんだから酷いことはしない――そうは思うものの、初対面の相手が伸ばしてくる手が怖くて、リリィは身体を強ばらせ目をキツく瞑る。

 その様子を見て、心愛はできるだけリリィが怖がらないよう、まずは頬に優しく触れた。だけど触れられた瞬間に、リリィはビクリと身体を大きく振るわせる。

 

「他人から触られるって怖いよね~~……気をつけて触るから許してね~~」

「は、はい……」

 

 リリィを気遣うようにゆっくりと触診をしていく。

 次第にこわばりが取れてきたリリィの手を取り、さらに診察を続け――

 

「ちょっと目を開けて~~」

「……はい」

「今度は口を開いて~~」

「……はい」

「はい。ありがと~~~~」

「……うん」

 

 ――心愛はリリィから離れた。

 

「さて、リリィちゃん。診せてもらった範囲で言わせてもらうとだけど~~」

「う、うん……」

「栄養失調気味だね~~。ちゃんと食べてる~~?」

 

 真っ直ぐな目で問われて、リリィはいたたまれなくなって視線を逸らす。

 

「リリィちゃ~~ん?」

 

 心愛のジト目になって顔を覗き込もうとすると、リリィはがんばって顔を逸らしていく。

 

「なんで顔逸らすんだよ~~~~」

「いや、えっと、心当たり……しか、なくて……」

「…………」

 

 ジト目が鋭くなり、探るような様子になる。

 

「昨日、何食べた~~?」

「…………なに食べたっけ?」

「そういう誤魔化しとかいらないんだけど~~~~……って、いや、マ~ジで言ってな~~い?」

「マジで、言ってます……」

「え~~~~」

 

 実際問題、昨日の食事は何をしたのかイマイチ思い出せないような……。

 

「あ。そうだ。カエルを食べようと思って……」

「……カエル? それはまたレアだね~~、カエル料理ってどこで~~?」

「えっと、鉱石カエルを……自分で?」

「ダン材料理か~~……そういう趣味?」

「お腹、空いちゃったから……」

「んん~~??」

「でも結局、食べそびれちゃったです……」

「んんんん~~??」

「だから、昨日、何も食べてない……かなぁ?」

「んんんんんん~~??」

 

 心愛の目つきが、怒ったようなジト目から困惑したようなジト目に変わった。脇で聞いていた麗麻と衣乃も首を傾げる。

 

「ねぇリリィちゃん。普段、何食べてるの?」

 

 思わず麗麻が訊ねると、リリィは落ち込んだハムスターか何かのような顔で、もにょもにょと答えた。

 

「……なにも」

「なにも?」

 

 衣乃もさすがに訝しげな顔をする。

 

「……前はお金、お昼用とか置いてあったけど……最近はそれもなくて。

 お小遣いもあまりないから、探索でお小遣い……稼いで、でもそれも最近厳しくて……忙しかったり、悲しかったりしたら、食べないで寝ちゃうし……」

 

 いたずらがバレて気まずそうな仔犬のような調子でもにょもにょ口にするリリィに、三人は思わず顔を見合わせた。

 

「あのさ~~、なんだか~~……お医者さんの領分じゃない気配してきたんですけど~~?」

「やっぱ何かおかしいですよね……」

「ネグレクトの可能性あり、かぁ……」

 

 リリィに聞こえないように三人で言葉を交わす。見解は一致しているようだ。

 また、麗麻と衣乃は「マジでお金を一時預かりさせて正解だ」とも思った。

 

 ともあれ、このまま食生活の話をしていてもよくないと判断した心愛は、話題を少し逸らすように、リリィの手を取った。

 

「ん~~……食事の話はさておき、慢性的な栄養不足の影響で身体細いけど……超人化の補正はすごいんだよね~~。

 ふつうの人の、現実の肉体と超人化補正のバランスを考えると、ちょっとおかしな感じ」

「えっと、それって……ダメなコトなんです、か?」

「ん? ダメではないかな~~。珍しいってだけ~~。まぁ珍しいから気になっちゃうのはあるかな~~……何か変わったトレーニングとかしてる?」

 

 問われてリリィはリスのように小首を傾げる。

 

「特には?」

「そ~~なの?」

「えっと、外で筋トレすると疲れるから、ダンジョンのエントランスとかでは、してますけど……」

「ダンジョンの中で、筋トレ?」

「はい」

「う~~ん……?」

 

 心愛は、改めてリリィの腕に触れる。

 むにむにとやりながら、手首から二の腕の方へ。

 

「く、くすぐったい……です……」

「あ~~。ごめんごめ~~ん」

 

 身をよじるリリィに謝りながら心愛は手を離した。

 

「確かに栄養不足で細いわりには筋肉ついてなくもないね~~……」

 

 ただそれでは説明が付かないところがある――と、心愛は思考する。

 

「あ」

 

 そして、心愛は唐突に気づいた。

 その内容を纏めるように、小さい声でぶつぶつと考察をこねくり回した。

 

「不揺先生?」

「なんかとんでもねぇコトに気づいたかも~~?」

 

 しばらくそうしていたが、ややして心愛は顔を上げる。

 

「現実の肉体と、超人化中の肉体は――詳細やらなにやら難しいとこすっ飛ばした比率の話だけをすると、常に1:1なんだ~~。

 だから、現実の肉体に変化があって2になったなら~~、超人化中の肉体状況も2になるっていうのが~~まぁ、定説? みたいな」

 

 ここまでは良い? と心愛が言うので、リリィはうなずく。

 麗麻と衣乃も興味深げに耳を傾けている。

 

「なのに、リリィちゃんはちょっとそれがズレてるっぽいんだよね~~。

 1:2みたいな感じ? だから現実の肉体が2になると、超人化中の肉体は3とか4になっちゃう感じ? 具体的な比率は触ったくらいじゃ~~わからないし、てきとーなんだけど~~」

「なにか、危ないんですか?」

「大丈夫だと思う~~……ただ現実と超人のギャップが大きいから、領域への出入りの時に急に身体が動かしづらくなったりとかはあるかもね~~」

「あ。それは、常にあります。もう馴れましたし、みんな……そんな感じだと思ってました……」

「そっか馴れるくらいには日常なのか~~」

 

 さすがに心愛も僅かに顔を引きつらせる。

 ただリリィを不安にさせまいと、勤めて平静を装ってうなずいた。

 

「それで~~、なんでそんなコトになってるか~~って話なんだけど~~」

 

 これにはリリィ本人だけでなく、麗麻と衣乃も前のめり気味になった。

 

「ダンジョン内――というか超人化状態での筋トレってさぁ、本来は効果が薄いんだよね~~。

 でも効果が薄いだけで、別に現実の肉体に完全に反映されないワケではないっていうのは、比較的有名な話だとは思う~~」

 

 心愛の前置きに、三人はそれにうなずく。

 

「けどね~~、リリィちゃんの場合は、その超人化中の筋トレが反映されたものの、肉体そのものの栄養は足りてないワケだ~~。

 つまり、筋肉が成長したくてもできない。成長に繋がっていない面があったんじゃないかな~~って、心愛ちゃんは仮説を立てたのね~~」

 

 ピッと人差し指を立てて心愛がそう告げる。それを見た三人は先を促す。

 

「現実の肉体は――その成長を栄養不足によって阻害されているのに~~、超人としての肉体はその阻害が無かったかのように反映していたのであれば~~……。

 当然、現実の肉体の成長具合と、超人化中の肉体の成長具合の比率がズレはじめるワケだ~~。

 多少なら誤差だけど~~、リリィちゃんは日常的に栄養不足で、だけど日常的に筋トレをして、探索して、モンスターと戦ってるでしょ~~?」

 

 コクコクと小鳥のようにうなずくリリィを見ながら、心愛は続ける。

 

「だから現実の肉体の成長具合と、超人化の肉体状況の比率がどんどんズレていっちゃったんだろうねぇ~~……それが今のリリィちゃんの身体の状況って感じ~~」

 

 ご飯を食べる機会が減ってますます栄養不足になっていってるから、余計かもしれない――とも思ったが、心愛は敢えてそこは口にしなかった。

 

「不揺先生。その場合、リリィちゃんの現実の肉体が健全化した場合はどうなるんですか?」

「いい質問だね~~、宗尾さん。

 比率のアンバランスさはそのまま、超人化が強化されると思うな~~。さっきも言った通り、現実の肉体がダンジョン関係無しに強まるなら~~、一般的な影響と同じように超人化も強まるだけだよ~~。

 ただ、その比率が一般の人とズレてるから、ただ現実の心身が健康になるだけで、今の倍くらい強くなる可能性あるんだよね~~」

 

 それを聞いて、麗麻と衣乃は健康になるだけで今の倍近く強くなるの? マジで? とばかりに、リリィの顔をまじまじと見てしまうのだった。

 

 だが本人はよく分かってないようなので、どこか困った様子の子狸のような顔で首を傾げていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。