オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「
登校し、教室の自分の席に着くと、クラスメイトの
「えっと、その……」
「お喋り苦手だってんなら、イエスとノーの分かる反応だけしてくれればいい」
「う、うん」
善也に言われ、リリィは安堵しながらうなずく。
「少し確認して欲しい動画があるんだ」
そう言って彼は自分のスマホを差し出してくる。
そこで再生されている動画は――
「え? これ、誰が撮影してたんだろ?」
思わず口に出すと、善也はもともと
「お前の仲間や知人が撮影してたものではないんだな?」
「……うん」
――昨日、府中支部の解体場で戦っていた動画だ。
だが、あまり誰かが撮影していたという覚えはない。
「なるほど。珍しく田中がこの動画では騒ぐなと言っていたが、正しかったか」
「田中くんが?」
この前は率先して騒いでいた印象があるが、今回は騒がないというのも不思議な話だ。
「不思議に思うのは分かる。だけど、あいつは妙なとこ冷静というか冷酷というか……どんなに調子に乗っててもマジでやばいラインだけは見極めて、一歩引くんだよな」
「……なるほど?」
「この動画もSNSで回ってきたのを見たあと、オレに相談してきてな?
角度的におかしい気がするし、場所がダンジョンではないのも違和感がある。本当は流れちゃいけない動画じゃないか? って」
「うーん……」
問われて少し考える。
リリィはあまり細かい話は分からない。けれど、昨日の事件は倒したあとも、衣乃や紡風がドタバタとしていた。
つまり、ギルド的にも大事だったように思える。
それを考えれば――
「確か……退治したあと、知り合いのギルドの人が……すごいドタバタしてた」
「調査や事実状況の確認やその他諸々の作業中の案件ってコトか――となると、やっぱあんま良くない動画だな」
「うん。それに……これ、たぶん現場にいた、実力のない……探索者の人の、撮影だと……思う……」
「あー……」
探索者である善也はそれだけでリリィの言いたいことが分かったようだ。
「逃げたり避難誘導したりせずに撮影か――そりゃあ、ギルドからの雷が落ちそうだ」
大きく肩を竦めてから、善也は苦笑する。
「ま、田中がみんなに騒がない方がいいって言い回ってたからな。うちのクラスは大丈夫だと思う。ただ、他のクラスはそうもいかない。
今日の朝はまだ微バズ程度だが、これから一気に拡散していくと思う。昼休みや放課後は気をつけた方がいいぞ」
「う、うん……ありがと……」
善也に対してお礼を告げてから、また変に騒がれるだろうなぁ……と、リリィは憂鬱そうに嘆息した。
その日の昼休み――
「なぁ、最果。ちょっといいか?」
「え? 今度は田中くん……?」
朝、善也に言われたこともあって、昼休みは教室で大人しくしようとしていたリリィへ、
「ん? ああ、朝にあんどーから気をつけろって言われたんだっけ?」
「う、うん……」
「そかそか。朝に比べて拡散されてるし、教室から出るよりは良いかもね」
「やっぱり、そうなんだ……」
計悟に肯定されて、リリィは小さく安堵する。
「帰る時も裏門とかからこっそりがいいかもよ」
「なるほど、裏門……」
いいことを教えてもらった。
「……って、そうじゃなくて。まぁあのバズった動画みて最果のところに集まってくる人たちはいるだろうけどさ。そいつらはただの野次馬っていうか面白おかしく思ってるだけで、害意はないんだ。面倒だろうけど」
「うん、面倒」
本当に面倒くさそうにうなずくリリィに計悟は苦笑を浮かべた。
「だけどさ、面倒なだけだよ」
「?」
彼が何を言っているのか分からず首を傾げる。
「
「えーっと、誰?」
子リスのように小首を傾げると、計悟はさらに苦笑を深めた。
「最果が、いつぞや校門でやりこめた先輩」
「あー……」
言われて思い出す。
けれど、どうしてその先輩に気をつけなければならいのだろうか。
「あの人、自分をインフルエンサーだと思い込んでるからさ」
「……インフル、エンザ……? 病気、なの?」
「違う違う。インフルエンサーな。ネット上の有名人で、発言の影響力が高い人のコト」
「ん?? それが、先輩……?」
「本人はそのつもりなんだと思うよ」
「……? つもり? ……ほんとは、違う?」
よく分からない――と眉を
「先輩の
「……それ、すごいの……?」
「まぁ一般学生にしてはね。すごくないワケではないんだ。実際、登録者数とか増やすのって大変だから」
含みのある言い方に、リリィは子狸のように不思議そうな顔で首を傾げた。
「だから自分はすごい。学園の人気者だ――みたいに調子に乗ってるんだよ。
でもね、配信ジャンルこそ違えど……最果が助けた、メイド服美少女探索者チャンネルのチャンネル主ロゼ。彼女のチャンネル登録者数は2万人近い」
「……文字通り、桁……違うんだ……」
ウラマさんって実は結構すごい人だったんだ――と胸中で、彼女の手を振る姿を思い浮かべる。
「そんなロゼでも、ダンジョン配信者としては下に近い中堅くらいの扱い。ダンジョン系インフルエンサーと呼ぶには発信の影響力は低い方じゃないかな」
計悟の説明を聞いて、だんだんとリリィも理解できてくる。
「ともあれ、その桁の差をよく分かってないのに、インフルエンサーを気取ってるのが真中先輩ってね。
まぁ面を向かって指摘すると取り巻きが脅してくるから、おれみたいにその辺りを指摘できるやつもしてないんだけどね……って、何その顔」
遠い目をしながらへの字口をしているリリィを、今度は計悟が不思議そうな顔をする。
「探索者でも、そういう人……いるなぁ、って……」
「今日話題になってる動画の投稿者とか?」
「まぁ、うん。そんな……」
リリィがうなずくと、計悟は大きく嘆息した。
「それでまぁ、先輩はさ、自分が人気者であるコトにこだわってるっぽいんだよね。
だから、最果が話題になってるコトに対して、どうにも機嫌を損ねてるっぽい」
「……えぇ……」
正直、そんなことを言われても困るのだ。
リリィとてバズりたくてバズってるワケでもないし、別に自分が動画を投稿しているワケでもない。
「いくら先輩でもさすがに最果さんに危害を加えるようなコトはしないだろうけどさ。
井の中の
「……ん」
先輩の行動原理はリリィに理解できない。
けれども、計悟はダンジョンの情報を共有してくれるおじさんたちと同じような顔で話をしてきたのだ。
だから、リリィもよく分からずとも、その忠告は素直に受け取っておく。
「まぁ忠告しておいて何を気をつけるんだ……って感じだけどね。
色々不安なら、
「うーん……」
確かに二人で帰るのは良いかもしれないが、自分の問題に蓮花を巻き込んでしまうかもしれないのは気が引ける。
「ま、話はそんだけ。最果って目立つのあんま好きじゃないみたいだし、変なやつ対応するの苦手だろうと思ってさ。ちょっとお節介だったかな?」
計悟の言葉に、リリィはブンブンと首を横に振る。
「そっか。なら良かった。
あ――それと、この間はゴメンな? あんどーに怒った理由は教えてもらった。だから今回のはよくないなって分かったみたいなもんだし。まぁ忠告はそのお詫びもかねて、ね」
安堵してから、計悟は謝罪を口にして、この場を去って行くのだった。
・
・
・
放課後――
「クソッ!」
その衝撃、飲み終わった缶コーヒーの空き缶が倒れた。
「あのチビッ、どんだけオレの邪魔をしやがる……!」
朝は特に何もなかったのに、昼休みにSNSを開いたら、またも一年のチビが話題になっていたのだ。
放課後になると、さらに拡散が広くなっている。
しかも、今回の拡散がキッカケで、前回のメイドを助ける動画も再度バズりだしているから腹立たしい。
新しい動画も相変わらずダンジョンのものだ。
巨大な骨の怪物みたいなモノと、チビが戦っているものだ。
最後は、大きい敵を無視して小さいのにわざわざハデな技で倒している辺りが、わざとらしい。
あと、周囲に飛び散る火の玉が勝手に消る辺りも、何か合成映像の類いではないかと疑わしいのだ。
だが、必死なフリをして戦うその姿と、ハデな映像はネットで大いに盛り上がりバズっている。
この学校で有名なのは自分のはずだ。
なのに、この間からこのチビばかりが学校で話題だ。
「……オレが有名じゃなくなったら、認めて貰えない……アイツらだって、ついてきてくれなくなる……!」
高校デビューとばかりに、入学時にイメチェンをして髪を金に染めた。
それから、思い切ってふざけた動画を投稿したら、それが結構ウケた。
そのウケた動画がキッカケで集まってきたのが、今現在も良く
逆に言えば、動画がウケてる限りの関係なんなのではないか――という不安がずっと続いている。
自分が人気者でなくなったら、離れていってしまうのではにか――と。
だから、ウケなければならない。
自分は人気を維持し続けなければならない。
何をやっても認めて貰えてこなかった自分が、ようやく認められる場が出来たのだ。
あんなチビのせいで、自分の人生を狂わされてはたまらない。
その為にも手を打たなければならない。
新しいネタ探しも兼ねて、
一般動画と、ダンジョン関連の動画はなぜか別枠になっているのだ。
閲覧するにも、一般動画用アカウントに紐付いたダンジョン用アカウントを作成する必要がある。
その登録がやや手間なのもあって、今まではやってなかったのだが、チビのダンジョン関連の動画がバズっている以上は、ダンジョン関連の動画を多少は確認するべきだろうと意を決した。
「……やっぱ、ダンジョン配信は再生数がすごいな……」
だからこそ、参考になるはずだと確認するが――
「……
このナヨっとした男か女かも分からねぇやつが大袈裟に隠れながら歩いてるだけなのに、なんでこんな再生数なんだ? ダンジョン探索ってのも、何度見てもやらせくせぇのにコメント欄は無駄に盛り上がりやがって……」
リアルタイムの時の様子をリプレイしたコメント欄だけでなく、アーカイヴ動画としてのコメント欄の盛り上がりも異常だ。
下手な最先端ダンジョン研究学会の論文よりも先を行くダンジョン詳細情報がどうのこうのと盛り上がっている。
正直、面白さが分からない。
上位陣は、数字が化け物すぎて参考になりそうもないのでもう少し少ないところを見てみる。
涼ちゃんねるの枠から、動画サイトがオススメする関連動画を漁り、目に付いたものをタップする。
「ヤンキーシーカー・カイズ? イキった不良のまま大人になったヤツが拳でモンスター粉砕してるだけじゃねーか……くだらねぇ」
全身鉄でできた雪だるま型モンスターだかなんだか知らないが、どうせ発泡スチロールをそれっぽく見せてるだけだろう。
涼ちゃんねるの十分の一以下のチャンネル登録者の配信でさえこれだ。
ならば、ヤンキーシーカー・カイズのさらに十分の一……いやもっと少ない、二十分の一くらいの配信ならどうだろうか。
カイズの動画から、先ほどと同じように関連オススメ動画の枠から適当に探し、目についたモノを見る。
「ダウナー・ジャジー・クッキング? ダンジョン配信なのに料理? 何言ってんだこれ?」
しかも開くと、モサ髪のぬぼーっとしたテンションの低い男がダンジョンを歩いているだけだ。
それも、無音で淡々とダンジョンを歩いているだけ。モンスターが出てきても無言で見所もなく瞬殺して終わりだ。その瞬殺もまともに動いてる気配がないので、やらせを隠す気がないらしい。
アーカイブのコメント欄は、ランカー探索者の
しかもこのぬぼーっとした男、ほとんど喋ることもない。本当に音も無くダンジョンを歩いている動画なのだ。
なのに、アキラよりもチャンネル登録者数も、再生数も圧倒的に多い。
理解ができない。意味が分からない。
配信当時のリアルタイムコメント欄はダンジョン産AMSRなどと盛り上がっているようだが、何がいいのか分からない。
喉仏や指先、前髪隠れた目がサイコーなどというような変なコメントも多く、正直いって理解が及ばない。
シークバーを動かし動画を進めた。
中盤を過ぎると何やらダンジョン内でキャンプ用品を開いて料理をはじめたが、ふつうにキャンプ料理をしているだけのようだ。
モンスターの肉がどうこうとコメント欄は盛り上がっているが、どうせただの鶏肉だろう。
どうしてダンジョン配信の視聴者たちはこんなやらせじみた動画で盛り上がれるのか。
「……やっぱ、ダンジョン配信って意味わかんねぇな」
それでも、やはりダンジョン配信というだけで、閲覧数やチャンネル登録者数は跳ね上がる。
今、確認したダンジョン配信者たちに限らず、ダンジョン配信者のアーカイブの中には、イレギュラー戦情報録画用や、救命探索証拠用、臨時ドラレコ配信などといった妙なタイトルで、人助けをしている動画も多く、それらはアーカイブだけでなく、切り抜き動画なども再生数が高かった。
「やっぱ、これだな」
ダンジョン内で人助けはバズる。
ロクな参考にならないダンジョン配信動画の中で、一番の参考になったのはそれだ。
そして、市内で極小ダンジョンが多発しているというのは、追い風だ。
これをどうにか利用したい。
そう考えていると、チャットアプリの
「……よし。運が回ってきた気がするじゃないか」
届いたメッセージにニヤリと笑ってうなずくと、倒れた空き缶を手に取って席から立ち上がる。
それから近くの自動販売機脇のリサイクルボックスへと、空き缶を上機嫌に投げ入れるのだった。