オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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025.ぼっち、注目に辟易する

 

「あれ? 最果さんは?」

「ほんとだ? もう帰っちゃった?」

「気づかなかった……」

 

 ホームルームが終わり、生徒たちがめいめいに動き出すと同時に、みんながリリィを気に掛けた。気に掛けたのだが、彼女の姿はすでにない。

 

「……最果さんと一緒に帰りたかったんだけどなぁ」

 

 富鐘(フドウ) 蓮花(ハスカ)はそう独りごちながら、窓の外を見る。

 明らかに、リリィたちを探していそうな動きの生徒たちが見えて、嘆息した。

 

「まぁでも、あれを思えばとっとと行方を眩ませるのは正解なのかなぁ……」

 

 頼って貰えないのは寂しい。

 

「ハスハス? どしたー?」

「ううん、なんでもない」

「一緒帰ろ」

「うん」

 

 声を掛けてきた友達にうなずいて、蓮花はカバンを手に取るのだった。

 

 

 

 リリィはダンジョンで大量のモンスターが徘徊するエリアをすり抜けていくように。気分はまさにそんな感じで、学校から出るべくこそこそと裏門へと向かう。

 

 人目を避けるように。領域外なのでスキルが発動するわけではないが、気配を消すスキルを使うような気持ちで。

 

 元々、目立つ髪色のわりには影の薄いリリィだ。

 息を潜め、気配を殺し、ささっと動くと、結構気づかれずに進んでいける。

 

 それで実際にバレずに進めている辺り、モンスターから逃げたり隠れたりする経験が、かなり生きていると言えるだろう。

 

 とはいえ、ダンジョン領域内と違って自由自在に身体が動いてくれるワケではない。

 力も体力も足りてない弱い自分の身体に若干の苛立ちを感じつつも、リリィはな裏門からなんとか学校を脱出した。

 

 最寄りの駅前にもリリィを探す学生たちが多いだろうから、駅にはいかないようにしようと考える。

 

 ――が、ここでリリィに誤算があった。

 

 前回ロゼを助けた動画。

 今回のボーンレイス戦の動画。

 

 短い期間に、目立つ容姿の同じ女の子がバズったのである。

 気配消しモードを解除して、ふつうに道を歩けばどうなるか。

 

(あれ? ……なんか、すごい……こちらを、見られてる……ような……?)

 

 動画を知っている人たちからすると、本人かどうかはともかく、似たような容姿の少女が歩いていれば目で追ってしまったり、友人との話題の種にするだろう。

 

 そんな理屈を、けれどリリィはすぐに気づけず、理解できず、でもなんか注目される居心地の悪さに耐えきれなくなり、再び気配消しモードを発動する。

 結局、学校最寄り駅から、本来なら徒歩でも三十分くらいで済む距離を、一時間半くらいかけて歩いて、いつもの多摩センター支部の扉に手を掛けた。

 

 途中で余計なモノを見つけてしまったし、放置も出来ないので少しだけ調べ物をしていたので、さらに時間がかかったところもあるのだが。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 ダンジョン領域ならいざ知らず、ダンジョンの外ではひ弱なので、一時間半くらい歩くだけで息も()()えだ。

 

 中に入ると見慣れたおじさんたちが、心配そうにリリィを見る。

 

「リリィちゃん、どうしたんだ?」

「ぜぇ、ぜぇ……どこを、歩いても、なんか、注目、されるの、怖くて……電車や、バス、使えなくて……いっぱい、歩いたら、疲れた……。

 こんなに、一人にして欲しい……て、思ったの……はじめて……」

 

 普段なら何でもないと口にしていたかもしれないが、今日は疲れているのもあるし、なんだか誰かに愚痴を零したい気分だった。

 

「そりゃ難儀。ボーンレイスとやりあってる動画までバズっちまってるからなぁ」

 

 事情を知ってるおじさんも同情気味だ。

 

「まぁ恐らくは一時的なモンだから、数日で収まるはずだよ」

「……そう、願いたい……です……」

 

 そんな話をしていると、別のおじさんがスポーツドリンクのペットボトルを手渡してくる。

 

「汗だくだし喉も渇いてるだろ? 今日は暑いし、ちゃんと水分補給しとけよ」

「あ、ありがとう……ございます」

 

 受け取るか悩んだのだが、実際喉は渇いている。リリィは素直に貰うことにした。

 

 甘くて美味しいそれをゴクゴク飲んで、一息ついたところで、リリィはふと気がつく。

 

「……ギルドの中、なんか変?」

「上からの監査が入ってるんだよ。それに、近々ダンジョンエージェントまで来るって密かに噂になってるから、余計ピリピリしてんだろうな」

「ダンジョンエージェント?」

 

 監査というのはなんとなく分かるが、ダンジョンエージェントという聞き慣れない単語があったので首を傾げる。

 

「あれ? リリィちゃん知らない?

 権力を取り締まる警察――公安ってあるだろ? あれのダンジョン版みたいなヤツよ。

 ギルド、ダンジョン、探索者……その辺りに対する公安的な? ダンジョンに詳しかったり超人化だったりを悪用するのもいるからね。それに対応できる探索者としても腕利きな連中が集まった、ダンジョン関連犯罪者たちを取り締まる組織ってところかねぇ……」

「そんなの、あるんだ……」

 

 リリィはそう口にしながら、ふと衣乃の顔が思い浮べた。

 衣乃がエージェントかどうかは分からないが、でも似たようなタイプの人たちが多い組織なんだろうな――と、漠然と思った。

 

「まぁ、そのせいでちょいとドタバタはしてるっぽいんだよ。スタッフは大変だろうが、俺たち探索者はあまり気にするもんじゃねーってよ」

「そっか」

 

 それから、カウンターの方を見る。

 宮囲の姿は無く、代わりに以前、麗麻となにやら真面目なやりとりをしていた覚えのあるスタッフさん――太巻の姿があった。

 

 苦手な宮囲のよくない対応を叱っていた人でもあるから、きっと大丈夫なはずだ。

 

「……あの人なら、平気、かも……?」

 

 小さくそう口にすると、リリィは飲みかけのスポーツドリンクにフタをして、そのままカウンターへと向かった。

 

「あ、あの……!」

「あら? リリィちゃん。いらっしゃい。今日は何の用?」

 

 にこやかに応じてくれる太巻。

 今のギルドマスターや、宮囲が来る以前に多かったスタッフさんのように対応してくれる太巻に、なんだかリリィは嬉しくなってくる。

 

「えっと、その……」

 

 とはいえ、よく知らない人とのやりとりは怖い。

 言いたいことが上手く言葉にできない。

 

 それでも、本当に大事なことはちゃんと口にしないと、あとあと大変なことになるのは目に見えているのだ。

 リリィにとっては、ここで多少の尻込みがあったとしても、勇気を出さねばならないと自分に言い聞かせる場面である。

 

「もしかしたら、未登録の、ダンジョン。あった……かも、です」

「……本当?」

 

 しどろもどろに口にすれば、太巻はとても真面目な顔をして、聞き返してきた。

 だから、リリィもできるだけ真面目な顔でうなずく。

 

「中は?」

「見てない、です」

「領域の範囲は?」

「入り口に触れるくらいまで近づいたら、超人化しました」

「そう――場所は分かる?」

「えーっと……」

 

 その公園の名前は覚えていたし、近くの建物などの名前も覚えていた。なので、それを口にする。

 

「パワースポットや、人の注目がありそうな土地ではなさそうね。これは、突発系の極小ダンジョンか……でも場所がなぁ……」

 

 太巻はパソコンを操作しながら、思考を整理するように独りごちた。

 住宅や公営団地くらいしかない山の中にある人気の少ない公園――その片隅だ。

 

 人気の無さそうな薄暗い公園とはいえ、公園というのがネックだ。

 時間的にもう日が暮れてきて利用者はほとんどいないと思われる。

 

 ただ近隣に幼稚園や保育園があるのが気にある。

 利用者の少ない公園だったとしても、その辺りからの帰り道に立ち寄る人がいるのはゼロではないのだ。

 

 太巻としてはすぐにギルドマスターの許可をとって探索者を派遣したいところだが――

 

「……今日は――あー……少し厳しっか」

 

 ちらりと、昇り階段の方へと視線を向けてから、太巻は嘆息した。

 

 ギルドマスターは今ドタバタしているし、それのせいでかなり機嫌が悪い。機嫌によって物事の対応が変わるタイプの男だ。今、相談すると論外な対応を口にする可能性がある。

 

 最悪、さわりの調査や、見張りだけなら、このギルドのベテラン利用者たちの力を借りればいいだろうと、判断する。

 

 それがダメでも、明日の放課後までにリリィを派遣する手はずを整えておけば、大事にはならないはずだ。

 

「リリィちゃんって明日、ギルドに来れる?」

「え? はい。同じ、くらいの、時間でよければ」

「うん。それでいい。明日になったらここの本格的な調査をお願いするかもしれないんだけど、大丈夫?」

「はい。それは、へーき、です!」

「なら依頼書用意して待ってるわ」

「わかりました」

 

 両手で小さくガッツポーズしながらうなずいてから、「あ」と小さく声を上げた。

 

「どうしたの?」

「あの、お金……わたし、騙されたんです、よね?」

 

 おずおずと小声で切り出すと、太巻はリリィを安心させるように、力強く答える。

 

「大丈夫よ。少なくとも私が受け付けする限り、ああいうのはしないから。今まで気づいてあげられなくてゴメンね?」

 

 リリィの中では、太巻をどこまで信用していいかまだ判断できずにいる段階だ。

 それでも、これを言ってくれたという事実は大きい。

 

「わ、わかり……ました。信用、してみます」

「ええ。そうして貰えると嬉しいわ。裏切らないようにがんばるね」

 

 太巻とて、すぐにリリィに信用して貰えるとは思っていない。思ってもらえなくなるようなことをギルドがしていたのだから仕方がない。

 それでも多少は信用しようとしてくれるリリィ、少なくとも自分は裏切らないようにしようと、太巻は気を改める。

 

「ところで、ダンジョンはこれから?」

「うん……あの、何か依頼はあり、ます? できれば、池で達成できる……ようなの」

「池限定?」

「今日は、みんな……わたしを見てくる。怖い」

「あー……」

 

 実際、リリィ目当てだろう見慣れない探索者も何人か出入りしているのを太巻も確認している。

 まぁ何も悪さをしていない探索者を追い出すことはできないので、注意深く観察する程度のことしかできていないが。

 

 ともあれ、リリィのリクエストに応えられるような依頼がないかを探す。

 この手の依頼は、単純に国からの依頼のことがあれば、個人でダンジョン素材を欲する人からの依頼だったりと様々だ。

 

 比較的誰でもできそうなものはギルド内に掲示されている。

 

 そういう点も、いわゆる漫画やゲームに出てくる『冒険者ギルド』じみているから、余計に探索者協会がギルドと呼ばれる理由になっていたりするのだろう。

 

「うーん……あ、三階のブラックカルゴの殻っていける?」

「うん。それなら。いくつ?」

「殻を四つ。できるだけ綺麗なのをお願い。ボディの方は査定に出しちゃっていいので」

「わかった。いってくる」

 

 ぺこりとお辞儀すると、リリィはギルドを飛び出していく。

 よほど、人目が嫌らしい。

 

 その背に手を振っていると、同僚が声を掛けてくる。

 

「あの、太巻さんはどうしてふつうに仕事ができてるの?」

「ん? どういうコト?」

「いやだってエリア統括部からの監査だよ? 明日はエージェントまで出張ってくるかもって言うし……怖くない?」

「別に私は探られて痛い腹とかありませんし? 協会内のゴタゴタは探索者さんにはあまり関係ないじゃないですか」

 

 宮囲以外のスタッフがどの程度のやらかしをしているのかは知らない。

 だが、元々からいたスタッフや、太巻のように現状の支部内の様子が気に入らなかった人間以外はみんな顔が青いのだ。

 

 けれど、そんな顔の青い同僚や先輩たちに対して、太巻が抱く感情は苛立ちだけだ。

 

(このリアクション――どう考えても支部ぐるみでなんかやってやがったしか思えないんだよね……。これ、リリィちゃん以外の被害も結構ありそうじゃん。マジで少しは痛い目みとけよ)

 

 内心では大声でそう叫びたいところだが、理性を総動員してそれを押さえ込むとにこやかな笑顔を浮かべる。前職のモデル業経験サマサマだ。

 ドラマの脇役とか、舞台演劇にもゲストで出させてもらった経験がだいぶ活かしたスマイルだ。素人に本心が悟られることはないだろう。

 

 そんな過去の自分の経験を生かして、察しの悪いお馬鹿キャラを演じながら口を開く。

 

「まぁうちの支部が何か不正してても、直接関わってないスタッフはそこまでお(とが)めがないコトが多いですし、ハラハラビクビクするだけ損ですって。

 怒られても宮囲さんくらいじゃないですか? お金の話になると経理やそれこそ支部長とかが探られるでしょうけど、私たちは普通に仕事してれば大丈夫ですってば!」

 

 その言葉を聞いていたスタッフの何人かの顔が盛大に引き攣っているのは見えていたが、太巻は気づいてないフリをしながらニコニコしていた。

 

 

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