オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「あー、リリィちゃん。バッドタイミング」
「え?」
いつものギルドに入ると、良く見るおじさん――
「悪いコトは言わない。今すぐ回れ右してギルドを出るんだ。宮囲とギルマスが荒れてる」
それは最悪だ。
けれど、もっと最悪なことが起きるかもしれないから、ビビっているワケにはいかない。
「でも、突発の未登録ダンジョン関連の依頼……太巻さんから貰う予定で……場所が、保育園や幼稚園の近くらしくて……」
「そりゃあ、急ぎたくなる気持ちも分かるが……」
それを聞くと瀬羽としても、ギルドのゴタゴタよりもダンジョンの方への興味が行く。
「……あれ? そういや今日は
「アコトさん?」
「ああ。太巻ちゃんのコトよ。あの子、太巻 愛琴ちゃんって言うの。
あの子、今でこそちょっとぽっちゃりしちゃってるけど、数年前まで読モさんでさぁ、女性向けファッション誌だけじゃなくて、マンガ雑誌の水着グラビアとかも経験あるだぜー?」
実はおっさん隠れファン――などという余計な情報を口にする。
「あ。だから……お肌キレイなんだ……」
「お? リリィちゃんもそういうの気にするんだ。女の子だねぇ」
「……えっと、その……太巻さん、今日はいなさそう?」
「うーん……」
リリィと約束していたのであれば、仕事を休むようなことはしないと思うのだが。
ギルドの入り口近くでそんなやりとりをしていると、宮囲がこちらに気づいたようだ。
カウンター辺りで、周りに当たっていた彼女は、リリィを見るなり鬼のような形相で近づいてくる。
「
奇声のような声でこちらを呼びながらこちらへと近づいてくる宮囲があまりに怖くて、リリィは驚きのあまりすくみ上がった。
「ひぃ……ッ?!」
リリィが思わず喉の奥で悲鳴をあげる。
完全にビビったリリィは、瀬羽の後ろに隠れた。
「おいおい宮囲。穏やかじゃねぇな」
「うるさいッ! いいからソイツをよこしな!」
「その剣幕でやってくるやつに渡せるとでも?」
頭を掻きながらも、瀬羽は
普段なら探索者の眼光を向けられたら
「こっちはクビされるかもしれないんだッ! そいつが上にチクったんだろッ!!」
「そもそもチクられたらクビの危機になる程度のコトをしてたんだったら、おたく自身の自業自得よ?」
そんな正論も、今は普段以上に通用しない。
「うるせぇってんだろッ!」
「……ひぇッ!?」
瀬羽の後ろに隠れたリリィは、彼の服の背を強く握る。
かなり
(今日は一段と面倒くせぇな……どうすっかねぇ……)
瀬羽が
「あ、最果いた~!」
――聞き慣れない少年の声がした。
「え? え?」
声の方を向いて、リリィも戸惑った声を上げる。
「田中、くん……? どうしたの……?」
「いやぁお前のコトを探しててさぁ」
「邪魔だよガキ! いま、私がそいつに用があるんだよッ!」
噛みつくような剣幕の宮囲に対して、
「あの、おじさん。これ、何?」
「なんだろうねぇ……」
問われた瀬羽も、何と答えて良いか分からずに大きく嘆息した。
それから、頭を掻きながら瀬羽は答える。
「まぁ客観的に答えるなら、リリィちゃんにイジワルを繰り返し、不正に手を染めてたギルドスタッフだよ。ここ数日、上からの監査が入ったコトでクビ目前の状態になってる。それの原因がリリィちゃんがチクったからじゃないかとキレて詰めてきてるワケ」
「なんだ。大声だして
瀬羽の話を聞いた計悟の感想はそれだ。
相手にするだけ時間の無駄だ――とさえ、計悟は思った。
「おーおー……少年。バッサリ行くね。同感だけど」
なので計悟は宮囲のことは完全に無視して、リリィに話しかける。
「あのさ、最果。お前が調査に来るって言ってた極小ダンジョンがちょっとトラブっててさ。正直、あんどーだけじゃあ手に負えないっぽいから至急来て欲しいんだけど」
「え?」
計悟の言葉に、リリィの表情が変わる。
横で聞いていた瀬羽も同様だ。
だから、瀬羽は目の前の宮囲を無視するように声を上げる。
「おーい、スタッフ! 今日、
だが、スタッフの反応は鈍く動きも遅い。
「悪いんだが、太巻は今日無断欠勤だし、引き継ぎ関係はなにもない!」
カウンターにいたスタッフが、その発言をした直後、ギルド内の探索者たちの多くは目を
本来、メイン担当がいなくても、こういう時にさっと書類が用意できるように、だいたいのギルドは環境を整えているはずだ。
瀬羽の知る限り
そんな人物が無断欠勤となると、体調不良か不慮の事故か――どちらであれ、彼女であれば自身の不測の事態に備えた何かがあるはずだ。
「引き継ぎメモとかも無いの?」
誰かが口にする。
それに、スタッフは首を横に振った。
計悟は探索者とギルドの仕組みはよく分かってなかったが、今のやりとりで、リリィが動くにはその書類が必要であるということくらいは理解する。
すぐ動けないのは困るな――なんて思っていると、宮囲が嫌な笑みを浮かべている。
「あの生意気な太巻だったら今頃、どっかの公園の階段の下で倒れてるんじゃないの?」
とてつもなく下品な笑顔で、宮囲が勝ち誇るようにそう言った。
「……なんであなたがそれをご存じで?」
「見かけたからよ? ま、いなくなってくれた方がいいから放置したけどね」
計悟が低い声で訊ねると、まるで世間話を切り上げるかのような調子で肩を竦めてみせた。
この時点で、計悟は目の前の女を敵と認定した。少なくとも計悟にとっては、友人たちを助けるための壁であるのは間違いない。
そもそも、人間として信用や信頼を出来る存在ではなさそうだ。
「おいおいおいおい!」
「何人か近隣の公園回るぞ!」
「ああ!」
慌てたように数人の探索者たちがギルドを出て行く。
愛琴のことは気になるが、それは今出て行った者たちに任せるべきだろう。
瀬羽はそう考えてから、宮囲に問う。
「引き継ぎメモや書類関係、どこにやったのよ?」
「どうせ居なくなるやつの書類や私物なんてどう処分したって問題ないでしょう?」
計悟だけでない。瀬羽も、ほかの探索者たちも、宮囲への殺意が膨れ上がる。
何であれ――
「え? きゃっ……!?」
直前まで瀬羽にしがみついていたリリィは、瀬羽から離れると超人化していない身体に無理を言わせて、宮囲の足を払って尻餅をつかせる。
――最果リリィの中にあるスイッチは、完全に切り替わった。
「…………」
尻餅をついた宮囲をリリィは無言で見下ろす。下目使いで、見下すように。
その
「な、何よ!? さっきまでビビっておっさんの後ろにしがみついてたクセに……!」
「あなたこそ何なんですか? 何がしたいんですか? やってるコトがめちゃくちゃですよ?」
言いながら、リリィは一歩踏み出す。
「……ッ!?」
殺気と威圧感がマシマシとなったリリィの一歩に、宮囲は完全に飲み込まれる。
リリィの小さなただの一歩が、宮井にはまるで巨大な熊や巨人の類いが一歩踏み出してきたかのように感じたのだ。
明らかにビビっている宮囲に対して、拳を石より固く握りしめる。
どうみてもリリィが宮囲を殴る流れだ。
さすがに止めた方がいいか――と瀬羽が思った時だ。
「最果、殴るのストップ。先に確認したいコトがある」
リリィに振り上げようとした拳を、計悟が優しく掴んで制止した。
宮囲がどうなろうと知ったことではないが、宮囲から聞きたいことがあった計悟は、完全にキレているリリィへと待ったをかけたのだった。