オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「最果、殴るのストップ。先に確認したいコトがある」
計悟は事前に
まさに、今の姿がそれなのだろう。
まぁそれはどうでもいい。
計悟からしても、この宮囲という女は敵で間違いない。リリィがどう扱おうが知ったことではないのだ。
ただリリィが善也たちのいる極小ダンジョンに来れなくなるのは困る。
動きを止めたリリィの横に立って、やはり見下すように汚物でも見るかのような視線を向けて、計悟は訊ねた。
「三十分くらい前にさ、安藤っていうおれと同じくらいの身長で、全身マッチョな感じの高校生来なかった?」
宮囲への問いであると同時に、ギルド全体への問いでもある。
それに対して、宮囲が答えないからだろう。探索者の一人が思い出したように手を打った。
「あー……いたいた。名前は分からないけど、キミと同じ学校の制服のガタイの良い子。
慌てて入ってきて、スタッフに何か
カウンターとその先のデスク周りのスタッフたちへと、視線が向く。
だが、誰一人として反応がない。
ややして、女性スタッフの一人がおずおずと口にする。
「たぶん……宮囲さんが、相手してた子じゃ、ないかな?」
再び、宮囲に視線が集まる。
「安藤はさ、極小ダンジョンに無断で入ったヤツの対応の相談をしにきたんだ。
元々最果が調査する予定なのは事前に知ってたから、最果が来たらすぐ出撃できるように言付けたんだろう」
「少年。トラブルって何?」
計悟の話の途中で、瀬羽が訊ねる。
それに対して、計悟は至って真面目な顔で答えた。
「無資格無許可の高校生が中に入ってイキってる」
話を聞いていた探索者が一斉に頭を抱える。
「利用客は少ない公園だけど、近所の幼稚園や保育園のちびっ子たちが時々遊びにくる場所でもあるらしいしね。最速で今日が調査の日になるっていうから、最果が来るのダンジョンの前で待ってたんだけど」
いつまで経ってもリリィが顔を見せなかったから、計悟が様子を伺いにきたそうだ。
「ごめんね、田中くん。電車やバスに乗ろうとすると注目されるのが怖くて、学校からここまで歩いてきちゃったから」
「あー……いや、そうか。それはいいや。そういう事情ならしょうがない。あんどーの往復の方が早かったのもそのせいか……」
ただリリィは別に悪くないのだ。
トラブルの発生したタイミングが、リリィが歩いている最中に進行してしまっているだけなのだ。
リリィとて、こんなに早く変なトラブルが起きるとは思っていなかったはずである。
「それで宮囲。少年の友達から、どんな
瀬羽が問うと、宮囲はそれこそ心底困ったように口にした。
「なんで私がどうでも良いガキの伝言なんて覚えてなきゃいけないのよ。むしろ無駄話を一方的に浴びせられて
次の瞬間――ダン! という大きな音がした。
リリィが動くよりも速く、瀬羽が思い切り地面を踏みつけたのだ。尻餅をついている宮囲の手の小指……そこに当たるか当たらないかのギリギリを。
「よく踏みとどまった。そこで踏みとどまってなかったら、少々面倒だったよ」
そこに、新しい声が現れる。
うだつの上がらない年配の男性――というべきだろうか。
しっかりスーツを着ているのに、よれた印象のある冴えない雰囲気の男性だ。
入り口付近にいたその男が、のっそりというか、どこか頼りない足取りでこちらへとやってくる。
明らかに探索者ではなさそうだが、一方で荒事や厄介事には馴れていそうな雰囲気だ。
「いやぁ血を流して倒れていた女性に関しての調査で、職場にお邪魔しようと思って来てみたら思わぬ場面に遭遇しちゃいましたよ」
「おたくは?」
剣呑な雰囲気で瀬羽が訊ねると、冴えない雰囲気の男性は懐から警察手帳を取り出して見せた。
「
そう言ってにこやかに胡散臭い笑みを浮かべた。
その手帳が本物だと判断した瀬羽は、リリィと計悟に宮囲から離れるようにジェスチャーする。
ジェスチャーの意味に気づいた計悟はリリィの手を引いて、後ろに下がった。
リリィは手を引かれる意味がよく分からなかったが、雰囲気的に従った方が良い判断し、黙って計悟に引っ張られる。
「刑事さんかぁ……こりゃ参ったな」
瀬羽は頭を掻きながら
「あ! 愛琴ちゃんは大丈夫だったの? 血を流してたらしいけど」
「ええ。太巻 愛琴さんは命には別状ありません。頭を打っていたようで経過観察は必要ですけど、今のところは問題ないそうです」
その報告に、リリィは大きく安堵した。
「おい! 出ていった連中の連絡先分かるヤツいたら、愛琴ちゃんは無事に保護されてるって伝えてくれ」
「あいよー」
瀬羽が声を上げると、他の探索者たちが返事をする。
リリィにとって冴内は知らない人だ。だが宮囲を敵認定しスイッチが入っていたこと、愛琴が無事だったことなどが重なって、人見知りには一時的にフタがされている。
「ふむ。すでに警察官がいてくれるのは助かるな」
だがフタがされた人見知りを引きずり出すかのように、さらにもう一人知らない人がやってきた。
天然にも染めているようにも見える金髪の美男子だ。
白いスーツに包まれた肉体は、線が細いシルエットをしていながら体幹はしっかりしているし、歩き方に無駄がない。恐らくは鍛えているのだろう。
「ダンジョン庁の監査官より依頼を受けてこの支部の調査をするコトとなったダンジョンエージェントの
「おやおやおや? エージェントが調査にくるような支部だったんですか?」
「ええ。上は、ふつうの監査ではなく、エージェントによる監査の方が良いと判断したようでして」
冴内のにこやかなのに決して笑っているように感じない笑みの問いに、洸助は余裕のある優雅な笑みを浮かべてうなずいた。
その様子は、心理戦に鈍いリリィであっても、二人が言葉の裏でバチバチにやりあっているような気配は感じ取れた。これが本当の笑顔の裏の心理戦――と恐れ
なおリリィが感じ取ったその気配は勘違いである。
実際は――
(太巻さんのケガに事件性を感じたから来たけど、エージェントが来るような支部って、起こるべくして起きたん事件じゃないの、これ……)
(オレが派遣されるような支部だ。厄介な職員や、無駄に知恵の回るバカが多いだろうと思っていたが――来ると同時に刑事がいたのにはさすがに驚いたぞ……なんだこれ?)
――マジでお互いにびっくりしていただけである。
立場上、変にビックリしたり馴れ合った様子を見せるのは、お互いの威厳や威圧感の減少に繋がるので、それっぽい含み笑いをしあっただけというのが真相だ。
ともあれ、急に知らない人、馴れない人が増えてきたことで、リリィのイケメンモードが強制終了されて、元に戻っていく。
「あう、あう、あう……」
さらにそこへ――
「お待たせッ、リリィちゃん! 車は回してあるし書類もあるわ! すぐに出ましょう!」
「ぴぎゃー!」
――衣乃が勢いよく現れたことで、リリィのキャパシティは限界突破した。
知ってる人でも、ババンと勢いよく現れたことにビックリして人見知りのフタが完全に開いてしまったのである。
「もぉぉぉうぅぅいやぁぁっぁぁぁぁ」
悲鳴をあげながら、壁際にあるソファとソファの隙間に隠れるように挟まった。
そんなリリィのリアクションに――
「なんで私から逃げるのーッ!?」
――衣乃は少しだけ不満の声を上げるのだった。