オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「ギルドのごたごたはこの子に関係ないし、この子への緊急の個別依頼があるんで貰っていっていいですか?」
声を掛けるなりリリィに逃げられてしまった衣乃だったが、とりあえず目的を果たす為にそう口にする。
「緊急とはなんだ、衣乃?」
「あ、今日派遣されてきたエージェントって富良さんだったんですね。いつぞやはお世話になりました」
実際のところ、富良 洸介は衣乃の上司なのだが、敢えて顔見知りであるという
それを、洸介も読み取ってうなずく。
「そうだ。それで、その子への依頼と言うのは?」
「突発、極小の未登録ダンジョンの調査です。元々、ここのギルドの太巻さんがこの子に依頼するべく昨日から書類を揃えていたモノですね」
衣乃の説明に洸介がなるほど――となったところで、刑事の冴内が待ったをかける。
「すみません。監査官でもエージェントでも探索者でもない自分がする質問ではないかもしれませんが――どうしても気になったので、聞かせてください。
書類を用意していたという太巻さんは今朝方ケガをして入院されています。そしてここではそれが引き継がれていないとも聞きました。その書類はどこで受領を?」
「そうなのか? そうであるならば、素直に依頼を果たして来いと送り出せないが?」
そう口にしながら、洸介は内心で――警察が顔を出している上に職員がケガして入院とか穏やかじゃないな……と、顔を引きつらせていたりする。もちろん、そんな気配などおくびにも出さない。
そして、衣乃とてその質問を誰かからされるのは想定の内である。
「それは当然の疑問です」
そう一つ口にしてから、求められているだろう答えを告げた。
「太巻さんとは個人的な知り合いです。そして、事前に自分の仕事が邪魔される可能性があるコトを考慮していた太巻さんは、私を通じて、ハイマスターの紡風さんとコンタクトをとりました。自分が作成する書類がダメになったとしても、紡風さんが作った書類で、リリィちゃんを派遣するコトができるように」
これがその書類です――と、衣乃は洸介に手渡す。
衣乃にとって彼は直属の上司だ。この書類を破り捨てたりは絶対にないという確信があるからこそ、気軽に手渡せる。
「ハイマスター? ああ、エリア長のコトか。東京第三統括の紡風さんならオレも知っている。それに……さすがは衣乃だ。徹底している。なるほど、本物の書類だ。これであれば、彼女への正式な依頼状として申し分ない」
書類を一読し、洸介はそれを衣乃に戻す。
そして、ダンジョンエージェントからのお墨付きがあれば、衣乃の中にある懸念事項の大半は攻略完了だ。
「待てッ、その依頼は認めないッ!」
ドタバタと、目つきの悪い痩せぎすの男が建物の奥からやってきた。
「最果リリィはこの支部と直接契約している! その契約からして俺の許可無く、関係の無い第三者は依頼なんぞできないぞ!」
「どちら様なのかは知らないけれど、エージェントとハイマスの二人からお墨付き貰っている依頼書にケチをつけられると思っているの?」
「俺がこの支部の支部長、
「ギルマスでしたか」
「ああ」
納得したようにうなずく衣乃に、輪助は
だから、とっとと取り下げろと言っているようだが、衣乃は華やかな笑顔で突き返すように告げた。
「こちらは、すでに一介のギルマス程度に覆せないお墨付きがついてます。
それに、監査官、エージェントの双方に目を付けられているギルドのギルマスは、その権限が一時的に低くなるのをご存じないのですか?」
「浮鉄さん。彼女の言う通りです。それに、書類には多摩支部の支部長のサインも入っています。つまり、職員、支部長、エリア長、三つの役職の職員が許諾したモノである以上、例えあなたが支部長であろうと、そう簡単に撤回できるモノではありません」
衣乃がわざわざ自分に書類を見せた理由を理解している洸介は即座にそう口にして見せる。
「それと浮鉄さん――あちらの少女。最果リリィさんに対する不遇な扱いについて、貴方から詳細を聞きたいところだったんです。こちらの女性スタッフ宮囲さん共々、じっくりお話させて貰えませんか?」
「それなら富良さん。私も同席しても?
管轄はまったく違うかもしれませんけどね。どうにも太巻さんのケガには不審な点も多くてですね。特に仲が悪かったという宮囲さんからお話が聞きたかったんですよ」
「構いませんよ、冴内さん。ケガをしたという太巻さんは不正を正したがっている側だという話も聞いてますからね。動機周り……気になるでしょう?」
「それはもう」
お互いにとても人の悪い笑みを浮かべ合ってから、宮囲と浮鉄を見る。
ノリノリな二人に少し呆れつつ、衣乃はあくまでも一般探索者を装って訊ねる。
「その辺りはそっちで勝手にやって貰っていいですから、リリィちゃん貰っていきますよ?」
「もちろんだとも。未登録の極小の調査であれば、速いほうがいい」
「じゃあ、そうします」
洸介の許可を取って、衣乃は素早く動いた。
「リリィちゃ~ん。怖がってないで出てきて~」
「……わたし、そんな、にゃんこやわんこっぽいです?」
リリィの前でおいでおいでをする衣乃のノリは完全に動物を構おうとする人のそれだ。
思わず訊ねてしまったリリィだったが、それに衣乃はとても良い笑顔でうなずく。
「そうね。結構、小動物っぽくて可愛いわよ。にゃんこやわんこってより、子リス的な?」
「……小動物……子リス……」
「ともかく、書類はあるし、車も回してきてる。極小ダンジョン。行くでしょ?」
「行く」
力強くうなずくリリィに、衣乃はヨシと力強くうなずき返した。
衣乃が手を差し伸べるとリリィはそれを取って立ち上がる。
そこへ、計悟が近づいて来た。
「あ、あの……」
「キミは?」
「田中 計悟って言います。最果のクラスメイトです」
「その田中君が何の用かしら?」
「その極小ダンジョンなんですけど、友達の探索者が入り口を見張ってるんですが……」
「何かあったの?」
「中で無資格無許可の高校生が初めての超人化に浮かれてイキってまして。友達はエントランスで止めてたんですけど、聞く耳持たずでした」
「そう」
「すぐ来ると思って最果を待ってたんですけど、来なかったのでここに来たんですけど……」
「ほんと、馬鹿なギルドのゴタゴタに巻き込んじゃってゴメンね。リリィちゃん、田中君」
思わず衣乃はそう言って嘆息する。
ギルドのせいでリリィが遅刻したことにより、状況が悪化とかしていたら目も当てられないな――と、衣乃は胸中でうめいた。
「リリィちゃんを車でダンジョンへ連れていくけど、キミも乗る?」
問われて――計悟はわずかな
「ちょっと思うコトがあるのでここに残ります。えっと、イノさんでしたっけ? 連絡先だけ交換させてもらっても?」
「構わないわ。
「はい」
交換を終えた衣乃は、リリィに手を差し出す。
「行くわ」
「はい!」
リリィはその手を取って立ち上がる。
「あ、そうだ。最果。ダンジョンでイキってる連中。真中先輩たちだから、気をつけて」
「真中?」
衣乃が
「関係ないよ。先輩たちは敵。立ち塞がるなら、取り除いて進むだけ」
そんなリリィの姿を見、計悟は背筋を震わせながら、自分を叱った時は加減してたんだろうな――というの実感する。
今のリリィの様子は、計悟ですら