オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「そっか」
麗麻、善也から事情を聞いたリリィは女子生徒を冷たい目で
「リリィちゃん。あなたはロゼさんと一緒に中に行って貰える?」
コクリとリリィはうなずくが、当の麗麻が待ったをかける。
「衣乃さんは来ないんですか?」
「ちょっと思うコトがあってね。こっちの安藤くんと一緒に、ここに残るわ。
似たようなバカがまた来ないとも限らないし、そうなると安藤くんだけだと止めきれないでしょう?」
「正直、それは助かります」
衣乃から話を振られた善也はうなずく。
それを見て、麗麻も納得の顔をした。
「そういうコトなら了解です。
足引っ張らないようにがんばるから、よろしくねリリィちゃん」
「……うん」
相づちはうつものの、リリィの意識はもう完全にダンジョンに向いている。
それでも、この場を無視して進まないのは、麗麻や衣乃が必要な情報交換をしているのだと理解しているからだ。
「ああ、そうだ。ロゼさん。配信用のドローン持ってる? 相手も録画してるみたいだし、保険は必要よ」
「確かにそうですね」
衣乃の言う通りだ。
向こうが配信しているのであれば、あとであることないこと色々捏造されてしまうことだってある。
ましてや、バズ狙いで探索者資格もないのにダンジョン配信を始めようとするような連中だ。何をしてくるか分からないのだから、なおさら証拠動画を撮影しておいた方がいいだろう。
麗麻はSAIからドローンを取り出して電源を入れる。
それから、スマホを操作して配信枠も取った。
タイトルは、『臨時依頼 ドラレコ用 リアルタイム配信枠』。
余計な情報は書かない。自分の配信アカウントでこれを作るだけで十分だ
万が一、中で何かがあって自分とリリィが死ぬようなことになったとしても、リアルタイムでこれを配信していれば、死因の証拠として十分なものになる。
「未知のダンジョンの情報も必要だし、衣乃さんの言う通り、あたしとリリィちゃんの安全の為にも撮影用のドローンを飛ばすから、そこは承知してね。リリィちゃん」
「……はい」
リリィに許可を取ってから、麗麻はドローンを飛ばした。
「そうだ。最果。こいつから情報とらなくていいのか?」
善也が問うとリリィは一瞥もせずに答える。
「……マッピングとかしてなさそうだし、ダンジョンに詳しくない上に冷静じゃない人の無駄に
だが、その言い分に関しては、善也含めた三人も同意するところではあった。
「よし。お待たせリリィちゃん。行こう」
「うん」
そうして、麗麻は配信開始ボタンを押し、リリィと共にエントランスにある下り階段へと、足を踏み入れた。
階段を降りて、目の前に広がっていた光景は――
「……公園?」
「みたいに見えるね」
――
ただ見回す限りかなり広大で、導線や景観など無視して、乱雑にジャングルジムやシーソー、ブランコなどの大小様々な遊具や、藤棚やタイヤなどのオブジェが障害物として設置されているように見えた。
ただ極小ダンジョンであることを考えると、フロアはここだけで下へ行く階段は無いと思われる。あったとしても下にあるのは小さなボス部屋のようなものだけだろう。
広大に見える空間にも比較的近くに果てがあり、ダンジョン端やエリア端と呼ばれるような場所に、目印的な壁が存在しているのは間違いない。単純に、ここからだと視認しづらい形状というだけだろう。
後ろを振り返ると、大きな滑り台があった。
階段がトンネル状になってるタイプで、上りきると建物の屋上みたいな場所があり、そこから滑り台が伸びている。そんなアスレチック一体型的なやつだ。
ほかが色褪せたセピア色をしているのに対して、この滑り台はハッキリと色が分かる。
「この滑り台の階段が出入り口。覚えておかないと、帰る時に慌てちゃいそうね」
「……そうですね。うん」
色んなものがセピアにくすんだ世界の中で、リリィと麗麻とドローンだけが色を持っているかのよう中を進んでいく。
「ふつうの公園じゃありえない数の遊具の数だけど、その遊具が迷路を作ってるのか……」
「これ、道を覚えるの大変かも……」
「わかる。壁だらけの洞窟系迷路に比べて無駄な情報が多すぎる……」
乱雑に配置された遊具そのものが壁の役割を持って道を作り出しているのは分かるのだが、そのごちゃごちゃさ加減が、道の分かりづらさや覚えづらさに繋がっているのだ。
地図を見ながら歩いていても、その風景のせいで道に迷ってしまいそうである。
こんな中から人を探すのは骨が折れそうだ。
そう思いながら、二人は慎重に進んでいくと、ちょっと開けた場所にでる。
半分埋まったタイヤが柵となって、ぐるりと周囲を囲んでいる。
「ぬいぐるみ?」
そんな空間の真ん中に、可愛らしいパンダのぬいぐるみが落ちていた。
一メートル近いサイズのビッグなやつだ。
リリィと麗麻は顔を見合わせたあとで、慎重にぬいぐるみに近づいていく。
麗麻に至っては、銃口を常にぬいぐるみに向けながらだ。
それを見て、リリィも麗麻の構える銃剣の射線に入らないような位置を取って歩く。
ある程度近づくと、パンダのぬいぐるみは手足をパタパタさせながら浮かび上がり、こちらへと身体を向けた。
二人は即座に、警戒を強める。
パンダのぬいぐるみの手足から刃物のような爪が現れる。
それと同時に、その爪たちや口元から生々しい血のような雫が垂れ始め――カパっと口が開くと、その口の中には何かの肉片や臓器のようなモノが詰め込まれていた。
続けて、パンダはお腹を開く。
そこからは、血のような雫と共に、無数の骨らしきモノがポロポロとこぼれ落ちた。
「……ヒィ……!?」
まさかのホラー展開に、麗麻が思わず顔を引きつらせる。
「キシャシャシャシャシャ……!」
怖がる麗麻を嘲笑うような声を上げるぬいぐるみを見――
「敵」
――リリィは問答無用にモンスターへと踏み込んでいく。
無骨な
吹き飛びタイヤに激突するも、パンダはすぐに浮かび上がる。
「……効いてない?」
手応えはあれど、平然としているかのようなモンスターの様子に、リリィは
「効いてると思う。浮かび上がる時フラついてたし、明らかにこちらを警戒した動きになってる」
「そっか。ウラマさん、大丈夫そう? 怖がってたけど」
「ホラー苦手なのよ。急にやられてびっくりしたけど、そういうモンスターだって分かってる分には平気だから」
それを証明するように、麗麻は
ドンという音と共に放たれた弾丸は、パンダの口の中から覗く臓器らしきモノを撃ち抜いた。
ゴプリと生々しくも
うつ伏せに倒れたぬいぐるみから血だまりが広がっていく光景はちょっとした事件現場のようだが――
「……倒した?」
「……のかな?」
――まさかのコア直撃に、二人は驚きながらも警戒しつつ、様子を伺う。
「あ、黒いモヤになってく」
「……口の中に見える臓器っぽいの、弱点?」
黒いモヤとなりダンジョンへと完全に吸収されたのを確認した上で、二人は動き出した。
「あの消え方、完全に倒してたヤツだよね」
「……そうだと思う」
見慣れた消滅の光景なのに、麗麻はどうも自信が持てずにリリィに訊ねる。
リリィも、倒したとは思うのだが、なんとも
「ともあれ消えたなら行こうか」
「うん」
そうして二人が歩き出して、大きな広場を半分ほど超えた時だ。
「え?」
「ん?」
ポトポトポト……と、そこら中から音が聞こえてきて、周囲を見回す。
「……うわぁ」
すると、どこからともなく、パンダだけでなく、馬やウサギ、犬やネコなど、同じデザイナーがデザインしたと思われるぬいぐるみが、無数に落ちてきていた。
それらはさっきのパンダと同じように、浮かび上がると爪を伸ばし、血を滴らせ、口と腹を開いて、気味の悪い笑い声を上げていく。
「ホラーからスプラッタに変わった気がするッ!?」
それも、次々と。
「……数が多すぎる。まともに相手したくないなぁ」
「同感。反対側の通路まで、走ろう!」
二人は即座に走り出す。
「ウラマさんはそのまま走って」
「おっけー!」
チラりと背後を見たリリィがそう口にすると、疑問を返すことなく、麗麻は即座にうなずいた。
リリィは振り返り、剣を構える。
臨戦態勢になり次第、こちらへ向かって宙を滑るように追いかけてくるぬいぐるみたちを見据え――
「
――スキル宣言と共に剣の先端で、地面に弧を描くよう滑らせる。
擦られた場所をなぞるように、衝撃波が扇状に発生し、波のように広がっていくと、近寄ってくるぬいぐるみたちを吹き飛ばしていく。
倒す必要はない。
吹き飛ばして距離を取りたいだけだ。
あるいは吹き飛ばせずとも、時間稼ぎくらいにはなるだろう。
技を繰り出したあと、リリィは即座に麗麻の背中を追いかける。
「こういう大広間に待ち構えて数で押してくるような場合、通路に逃げ込むと襲うのをやめるパターンは多いけど……」
リリィの放った衝撃波を避けて、追いかけてくるぬいぐるみたちの気配を感じる。
そのことに少し焦りを感じながらも、リリィは手を振る麗麻の横へと辿り着き、二人でそのまま通路へと飛び込んだ。
広場からできるだけ距離を取るように走りながら、背後の様子を見た。
「……追いかけてこないね」
「うん。でも……」
まともな戦闘をしてないので、あのぬいぐるみたちの戦闘力は未知数だ。
けれど、二人のカンとしてはコアを叩かない限りは非常にタフなタイプのモンスターであると考えられる。
「わかる。強さがどうあれ、素人が戦うには面倒すぎる相手ってコトだよね」
「うん。そう」
麗麻の言葉にリリィがうなずく。
その時、リリィの声が、身体が震えていることに麗麻は気づいた。
「リリィちゃん?」
「ど、どうしよう、ウラマさん」
涙で目を潤ませながら、リリィが見上げてくる。
その顔に麗麻はノックアウトされそうになりながら理性を保ち、真面目な顔で話に耳を傾ける。
「真中先輩たちは、どうでもいいの。でも、連れてかれたっていう……富鐘さんに何かあったらって思うと、急に不安で、怖くて、身体が震えてきて……こんなの今まで感じたコトなくて……わたし、どうしたらいいのか……」
「落ち着いて、リリィちゃん」
「……でも」
「落ち着かないと、助けられるモノも助けられないよ」
リリィを落ち着かせるように、その目を覗き込みながら、小さい子に言い聞かせるような優しい口調で、でもハッキリと麗麻は口にする。
不安と焦燥に揺れていたリリィの瞳に、しっかりとした火が戻ってくる。
「リリィちゃんが一番したいコトはなに?」
「富鐘さんを助ける。助けたい」
「その為にするべきコトは?」
「富鐘さんを探しながらこのダンジョンを進んでいく」
「その為に必要なコトは?」
「……ちゃんとダンジョンを攻略する。途中でわたしが倒れたりしないコト……」
「よくできました」
麗麻はリリィの気を落ち着かせるように柔らかく微笑む。
「そうだね。状況的に不安や焦燥は仕方ない。だけど、それに支配されてたらできるコトもできないよ。
未登録ダンジョンだろうがなんだろうか、あたしたちにできるコトはいつも通りの探索をしながら、要救助者を探していくしかないの。リリィちゃんの言う通り途中で倒れたりしないように、ね。OK?」
真っ直ぐ目を見て問われたリリィは、涙で滲んだ目を、よれたコートの袖でゴシゴシと擦ってから、力強くうなずいた。
「はい! OK、です!」
「よろしい。じゃあ、探索再開といきましょう!」