オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
この公園ダンジョン、半分ほど歩いて分かったことがある。
出入り口となっている滑り台を中心に、広場のようなエリアが四方に一つずつある。それをぐるりと一周するような構造になっているようだ。
最終的には滑り台に戻れるルートもあるのだろう。
自分たちが気づかなかっただけで、滑り台の近くには反対回りのルートをとれる道があったのだと思われる。
「……おっかしいなぁ。歩き回ったり見回したりした感じ含めて、ダンジョンの構造を思うと、入り口からどっち周りしたとしてもどこかで遭遇してもおかしくないくらい歩いてるはずなのに……」
モンスターのあまり出現しない砂場を見つけ、そこで休憩を取りながら麗麻は思考を巡らせる。
「血塗れのぬいぐるみに、ブリキの兵隊……積み木のゴーレム、レトロデザインのロボット……どれも、ちょっと面倒」
「うん。正直、超人化したばかりの人にどうにかできるようなモンスターじゃない。兵隊以外はコアタイプだったし」
麗麻でも対応できる程度の強さのモンスターとはいえ、コアを知らない人にはそう簡単に倒せるとは思えない。
逃げたり、隠れたりしていれば、足止めをくらうはず。
だというのに、感覚的に半分くらい踏破したにも関わらず、先に入っているはずの高校生たちと遭遇できないのはどういうことだろうか。
「うーん……あの子が駆け上がってきた以上は、この中にリリィちゃんの友達や先輩たちがいるはずだよね?」
「うん」
「入れ替わりで出ていっちゃったなら、衣乃さんや安藤くんから連絡がくるはず。そういうのをしない人たちじゃないはずだし……」
麗麻がスマホを確認しているのを見て、リリィも一応自分のスマホを確認する。
ダンジョンの中でも電波は入る。不思議なのだが、そういうものだと、探索者たちは受け入れていた。
そして、電波が入るので配信とかもできるのである。
電波の話はさておき、双方のスマホには何の連絡も入っていないようだ。
「……うーん……」
二人で揃って首を捻る。
自分たちは何か見落とすようなものがあっただろうか。
考えながらリリィはダンジョン内を見回す。
そして、ふと思うことが湧いた。
「……そういえば、なんか、あんまり騒がしくないよね……」
「騒がしくない?」
「ん……。だって、馴れてない人なら騒がしそう……ましてや、富鐘さん巻き込んでる……悲鳴とか、ありそう……」
「確かに。モンスターに逃げる時、馴れないと騒いじゃいそう」
ましてやぬいぐるみたちの姿はホラーのそれだ。
見た目からして悲鳴をあげたくなる類いなのだから、なおさらだと言えよう。
「……どこかに隠れて、静かにやりすごしてる……可能性も、ある……けど」
「そのわりにはモンスターが騒いでる様子もないのよね。みんなを探しているような」
「うん。それが、不思議……」
「まるでこの近くにいないみたい。でもダンジョンの規模的に、そんなワケないはずだけど」
この砂場からだと、エリア端だろうフェンスや大きなタイヤが見える。
遊具の隙間を縫っていっても、すぐに届きそうな距離だ。
しかもそれらは他のセピア色のような遊具と違って、ハッキリとした色が付いているのだ。
ここまでハッキリとしたわかりやすいエリア端も珍しい。
エリア端とはようするにダンジョンの果てであり、この先には何もないとされている。
ダンジョンの中は果ての分からない非常に広大な空間である一方で、探索可能範囲が存在している場所でもあるのだ。
その目安がエリア端。
RPGなどに出てくる、町や野外系ダンジョンの、障害物に阻まれて先に進めず、地図にもその先が表示されていない、探索範囲外のエリアと言えば伝わるだろうか。
現実となったこの場においては見えない壁などに阻まれることはなく、飛び越えられる柵であればふつうに飛び越えることもできる。
だが、わざわざ明確な境界線が存在している以上、それに意味があるはずだ――という見解の元、探索者たちは、その境界を意味も無く越えてエリア外に出るのは控えていた。
エリアの外は研究も進んでいないのだ。
なにより、多くの探索者はそもそもエリア端が見れるような場所に行くことが少ない。辿り着くためには、大きく寄り道をするようなルートを歩かなければならないからだ。
そして何より、前述の通り、エリア端を発見しても基本的に探索者はそれを越えて探索しない。
そもそも多くのダンジョンのエリア端は、高い壁や崖、異様に丈夫な有刺鉄線や馬鹿でかい障子など、先へ進むのが困難――というより拒絶しているかのようなモノが多いというのもある。
それもあって、このダンジョンのように乗り越えやすいエリア端であっても、探索者は乗り越えるようなマネはしない。
探索者が――というよりも、人間としての、生物としての本能的に、越えてはいけない場所……という無自覚な感覚があるというのも、あながち間違っていない認識でもある。
「エリア端の距離も近いから、そんなに広いダンジョンじゃないはずなのになぁ……。
隠しエリアとかあった? 隠されたワープ装置みたいなのがあったのかな?」
ぶつぶつと口にする麗麻。
麗麻の口にする発想はリリィにもあった。けれど、どれもしっくりこない。
何か、何か見落としているようなことがある気がするのだ。
麗麻とともに一緒に考えて、考えて。
「あ」
そして、リリィはようやくその発想に辿り着く。
「そっか。探索者じゃないんだ」
「え?」
「……富鐘さんも、真中先輩も、他の人も……」
「うん。それは超人化が初めてだって言うからそうでしょ?」
「そ、そうじゃ、なくて……えっと、エリア端とか、知らないんじゃないかなって」
「……あ!?」
リリィの言葉の意味に気づいて、麗麻も声を上げる。
「もしかして、エリア端を越えてる?」
「うん。可能性、ある……」
「マジかぁ……」
エリア端を示す遊具やフェンスの群れを見て、麗麻はうめく。
「リリィちゃん。エリア端を越えたコト、ある?」
「……ない」
「だよねぇ」
「そもそもエリア端……行くのって、趣味人か研究気質の人、でしょ?」
「そうそう。そういう人も基本的には何が起きるか分からないエリア端越えは滅多にしない。まぁエリア端が越えづらい障害物であるコトも多いんだけど」
「…………」
ようするに、越えやすい障害物と、何も知らない素人が組み合わさった結果、最悪の事態が発生しているいえるだろう。
「とりあえず衣乃さんにLinkerでメッセージ送っとこ。エリア端がとても越えやすい形状をしている為、要救助者、エリア端越えた可能性アリっと」
麗麻がメッセージを入力している間も、リリィはエリア端を見て考える。
自分たちがあれを乗り越えるにしても――その先はどうなっているか未知数。
パッと見だけなら、広大な公園が広がっているようにしか見えないのだ。
エリア端より内側にいるなら、いくらでも探しようがある。探す為のノウハウもある。
けれどエリア外となると、リリィには助ける為の知識がない。それは麗麻や衣乃も同じだろう。
それに、この正方形に近いダンジョンのどのエリア端からどの方角へ向かったのか不明な以上、探しようがない。
闇雲にエリア端を越えて捜索するのは、ミイラとりがミイラなること必至だろう。
「あ」
「どうしたのリリィちゃん?」
「えっと、あの、安藤くん……なら、富鐘さんの連絡先、知らないかな?」
「教えて貰ってどうするの?」
「戻ってきてもらう」
「そうか。しっかりと色のついた遊具やフェンスのところへ戻ってきて貰えば……」
「うん。本当に乗り越えてるなら、その連絡、入れられないかな?」
「やってみよう。安藤くんにメッセージ送ってみる」
・
・
・
「ん? あれ、衣乃さんだけじゃなくてオレの方にも?」
「ロゼさんから?」
「はい」
エントランスで待機していた善也は、自分に届いたメッセージを確認する。
「なるほど。富鐘に連絡してみるのか。
エリア端は、ちゃんと色の付いたフェンスや遊具……それを越えたかどうかの確認と、越えてるなら、そこは上級探索者すら滅多に行かないもっとも危険な場所であるという忠告。
救助が向かってるから、色つきのフェンスや遊具に囲まれたエリアの内側へ戻って来い――と」
頭の中で書く内容をまとめながら、Linkerのメッセージ画面に打ち込んでいく。
「問題はイキったバカの反応ね。
むりやり連れて行かれた子はともかく、連れてった連中がバカだと、面倒だわ」
「同感ですが、今はそれをやるしかないですしね」
二人で嘆息しあっていると、怯えていた真中 央の取り巻きの少女――
「あ、あの! その内容、
その提案に、衣乃と善也はなんとも言えない顔をするが、ややしてどちらともなくうなずいた。
「えっと、それなら、なんて送ればいいか教えてもらっても……?」
鈴架の言葉に、衣乃が情報を整理して伝えていく。
その情報を、鈴架はグループトークで、順次送っていった。
「それと救助隊が行ってる
リリィちゃんに反発心抱いてるなら、ややこしくなるだけだからね」
「……はい」
しばらく鈴架はスマホを弄っていたが、やがて顔をあげた。
「送りました」
「そう」
衣乃は小さく息を吐いて、軽く目を伏せる。
「どうにかなりますかね?」
「なってくれないと困るわ。せめて富鐘さんって子だけは助けないと、私の輝かしい経歴に傷が付いちゃうもの。他の連中は別にどっちでもいいわ」
肩を竦めて答える衣乃。
善也はそれが衣乃の本心などではなく、ただ単純に鈴架に聞かせて脅す為の嘘や冗談の類いであると気づいた。
それ故に敢えてツッコミは入れず、苦笑するに留めるのだった。