オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「安藤くんからは一応送って見たって返事が来た。あたしたちはこの後どうする?」
「うーん……」
問われて、リリィは悩む。
イレギュラーな状況が重なり過ぎていて、どうすれば最良かが見当もつかないのだ。
そんなリリィの様子を見ながら、麗麻ももどうしたものかと考えていると、ふと自分たちを撮影しているドローンを見遣った。
「そうだ。ドローン」
「どうかした?」
「ちょっとね」
首を傾げるリリィに軽くウィンクを投げて、麗麻は時計型のデバイスを操作する。
表示するのは、配信画面とそのコメント欄。
「……同時接続800くらいか。うん。聞いてみよ」
現在の視聴者が800人ほどいるのであれば、有用な意見があるかもしれない。
腕輪から半透明なホロウィンドウを表示する。
それを確認してから、ドローンを自分の正面に持ってきて、一礼した。
「どうもみなさん。配信者ロゼです。臨時の救助ミッションの配信を気に掛けていただきありがとうございます」
すると、彼女の腕輪から表示されているホロウィンドウの画面に視聴者からのリアルタイムコメントが表示されていく。
:こんにちわ
:任務おつかれ
:大変なコトになってるな
「今のあたしとリリィちゃんのやりとりも大体、配信に乗ってたかと思います」
:はい
:マジで頭の痛い話してたな
:要救助者のエリア端越えはキツいね
「視聴者の大半が探索者ないし事情通の探索関係者であるコトを前提に質問させてください」
:カモン
:OK
:答えられることなら
「ズバリ、あたしとリリィちゃんもエリア端を越えて要救助者を探しに行くべきかどうか」
:オススメはできない
:二重遭難がオチ
:ドローン越しながらエリア端の向こう側が広大すぎるように思える
:そもそも要救助者がどこからどう移動しているか不明すぎてな
:方角にアタリがついてないならやめとけ
「やっぱそうかぁ……」
参ったなぁ――と麗麻が頭を抱えていると、その様子を横から見ていたリリィがおずおずと訊ねた。
「あのー……なにを、してるの?」
「あ、これ?」
リリィが恐る恐るホロウィンドウの覗き込むと、ノリの良い視聴者たちがコメントを投げていく。
:噂の大剣妖精ちゃんだ
:やっほーリリィちゃん
:前情報無しのダンジョンを危なげなく動いてたな
:かわいくてかっこいい子だ
:完全にソロの上級者って感じだった
「ほら、出発前にもしたけど、要救助者たちもカメラ回してるかもって話だったでしょ?」
「うん」
「その人たちが自分らの撮影した映像を切り抜いて、あたしらに不利な情報をばら撒かれたら困るからその対策って話」
「そこは理解してるけど……ええっと、この文字は?」
「これ、リアルタイムで配信してるんだ。探索許可があるとはいえ、ここは未登録ダンジョン。今のところは問題ないけど、今までのダンジョンいは無い異常や脅威があってあたしらが倒れちゃっても、映像が残るようにね」
「なるほど」
コクコクとうなずいてから、「あれ?」と首を傾げる。
「このいっぱい動く文字の説明になってないような……?」
:仕草が小動物っぽい
:探索中とのギャップ良いね
:でも実力はマジ本物なんだよな
:かわいい
「誰でも見れるような状態にしてあるからね。視聴者さんたちが、リアルタイムでコメントをくれてるの。今――だいたい800人くらいの人が見てるからね」
「は、はっぴゃくにんんー!?」
:驚き方も可愛い
:そうか妖精ちゃんはネットに疎いのか
「こういう記録目的の配信には、現役の探索者の人が見に来るコトも多いから、この状況で取れそうな手段のアイデアないか聞いてたんだ」
なるほど。
色んな人が見ているのであれば、役に立つ意見もあるかもしれない。
それはリリィにも理解できる。
けれど、今の状況を思うと――
「……でも、無かったでしょ?」
「まぁねぇ……」
800人の探索者とやりとりができるのはすごい。
けど、800人全員がだいたい同じ結論を出しそうだ――という感覚もリリィの中にはあった。
:正直、手詰まりなのはわかる
:未登録ダンジョンなのもキツいんだよな
:ただでさえ情報が全くないダンジョンでエリア端越えの救助者探しは難しいって
:ダンジョンを知らない素人とやたら越えやすい端壁のマリアージュはなぁ
流れてくるコメントを見るに、やはりみんなリリィと同意見なのだろう。
「そういえばリリィちゃん、人見知りは平気なの?」
「う、うん……人じゃなくてコメント? だと、平気かも」
「そっか」
:人の視線や声、気配あるいは姿そのものが苦手なのかもね
:コメントはアバター姿もないしなぁ
:あ ロゼちゃん この撮影用ドローンを高く飛ばせない?
「ん? コメント欄にアイデアありそうな人でてきた。ドローンを飛ばす?」
:そうそう 出来るだけ高く飛ばして、上空でゆっくりと360度パノラマ確認
「そっか。カメラの映像ならこっちでも確認できる……800人みんなで見るなら、何か見えるかもだ」
やってみよう――と、麗麻は腕時計型デバイスを操作して、ホロウィンドウを一度閉じると、ドローンを手動操作モードに切り替える。
そのまま真上に飛ばし――
「その木陰でいいか。リリィちゃん、ちょっと来て」
「? うん」
――砂場エリアの端にある木のところへ移動する。
その木に背中を預けるように座り、デバイスから再びホロウィンドウを表示させると、リリィも画面が見える位置に来るよう手招きした。
リリィがうなずいて覗き込むのを確認すると、ドローンにその場でゆっくり旋回するよう指示を出す。
:広いな
:ダンジョンの探索エリアに対して外が広大なのはよくある光景だが・・・
:通常は壁か崖とかだからなぁ
:普段エリア端の崖から見える眼下の広大な土地と同様だと思うと変な笑い出るわ
「これだと……安藤くんの連絡が向こうに届いても、戻ってこれない、かも……」
「あー……」
:それはあるな
:見渡す限り土と芝生と遊具だもんな
:やっぱ二人はエリア端を出なくて正解だよ
:ダンジョンエリアが視界から消えたら迷子確定だろこれ
:ベテランでもキツくないか?
「コメントの言う通りだと思う……」
リリィも同意するしかない。
ここを越えて捜索にいくというのは、二重遭難しにいくようなものだ。
:そうだ こっちから合図できないかな?
「合図?」
:火炎系のブレスを真上にブッパするとか
:向こうに気づかせるのか
:それなら花火みたいに一瞬で消えるやつより持続する火柱とかあればベターだな
コメント欄のアイデアに麗麻とリリィは顔を見合わせた。
「そろそろ一周するけど、何か見えた人いる?」
:ダメだわからん
:遊具がポツポツあるから余計に分からない
:あと明らかにモンスターいるよなこれ
:全方位に動く影みたいのポツポツあるもんな
:ダンジョンエリアから離れるほど影が増えてる気がする
:それらが一斉に動いているような違和感があればいいけどそれもナシ
これ以上は
なら、コメントの言っていたこちらから場所を示す合図をするというのはアリだろう。
「麗麻さん、ドローン戻して」
「動くの?」
「うん。入り口の、滑り台まで……急いで戻る」
「結構距離あるけど……」
「ダンジョンは、正規ルートを外れても大丈夫だから……。
ましてや、ここは遊具やタイヤ、金網のフェンスみたいなのが壁だし……」
:確かに洞窟とかと違って越えやすくはあるか
:上位ランカーがやりそうな無茶苦茶な移動をしそうな気がしてきた
「わかった」
麗麻は立ち上がると、ドローンを下ろし、自動追尾設定に戻した。
「よし、どうやって行く」
「えっと……ちょっと、失礼……します」
「?」
リリィは自分の剣をSAIに戻すと、一言断ってから、麗麻を横抱きにした。
:お姫様だっこキター
:身体のサイズ差よ
:ちっこい子のがおっきい子の抱っこするシチュいいよね
:ロゼちゃん南無
:とりあえずオレらは耳栓用意した方がいいかもな
:鼓膜の在庫あったかな?
:急にどうしたお前ら?
「え? あの、リリィ……ちゃん?」
「じゃあ、いく」
「え? へ? は?」
次の瞬間――
「えええええぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
リリィは小さく
即座に鉄柵を蹴って跳躍すると、近くのフェンスの上に乗ると、更にジャンプをする。
「うああああああああ――……ッ?!」
:ですよねー
:予測できた未来
:うるせぇぇぇwwww
:事件性のある悲鳴キター
:耳栓あってよかった
:そうかみんなこれを警戒してたのか耳痛い
:鼓膜ないなったけど在庫あってよかった
「ひいぃぃやぁああぁぁああぁぁぁあ――……ッ!?」
砂場エリアからスタートしたリリィは、超人化している身体にものを言わせて、ジャンプやダッシュを繰り返し、突き進む。
正規ルートを完全に無視した動きだ。
ブランコを吊しているフレームバーに着地すると、そこを駆け抜け端からジャンプ。
トイレのような建物の上に着地し、屋根を駆け抜け端からジャンプ。
藤棚のようなものの上に着地すると、そこを駆け抜けて端からジャンプ。
ただジャンプするだけでなく、前回りしたり、近くの壁や柱に向かって飛びかかり、そこを蹴って方向転換したりとアクロバティックだ。
だというのに、リリィの動きに危なげはなく、悲鳴こそあげているものの麗麻を落としそうな不安定さはなく、ケガさせるまいと気を遣っているのも分かる。
「ひぃぃやぁぁぁぁぁぁ――……?!?!」
:ダンジョン超人によるお姫様抱っこつきパルクールか
:くるくるしたりぴょんぴょんしたりすごいな
:ロゼちゃん的には絶叫マシンだろうなぁ
:乗り物酔い平気でも酔いそうな勢いだ
:別の意味で切り抜きが盛り上がりそうな絵面なの最高に草
:上級者が関わってくると緊迫しているのに妙なエンタメが発生するのなんなんだろうな笑
:上級者だけでなくそれに振り回される初中級がいる場合じゃないか?w
:大丈夫?この悲鳴届いてて要救助者逃げてたりしない?
そうして、入り口になっている大きな滑り台の前に着地だ。
リリィは麗麻を優しくおろす。
麗麻は青い顔をしてうずくまりながら、うめく。
「ううぅ……気持ち悪い……今の僅かな時間で、一年分の絶叫マシンを圧縮体験したような気分……」
:ロゼ乙
:そんな感じの悲鳴ではあった
:ロゼちゃんが乙女あるまじきポーズでうずくまってる・・・
「麗麻さんはそこで休んでてください」
:リリィちゃんはピンピンしてるんだよなぁ
:超人かな?
:超人だよ。ダンジョン内にいる探索者なんだから
:じゃあ酔ってるロゼは?
:超人だよ。常識範囲内の超人ってだけで
:そっかぁ妖精ちゃんは常識範囲外かぁ
:これ最初からやってれば探索時間短縮できたんじゃね?
:このダンジョンは二人が最初の探索者だぞ 情報も無いのに無茶できないって
:リアルタイムであれ後で報告書にするのであれ未知のダンジョンは情報収集も必要だからな
:そうだった ここ突発の極小なんだっけ
:たまたま見つけて遊ぶだけなら良かったのにイキっちゃったらしいしな高校生
:時々いるっちゃいるけどこのダンジョンと素人の相性が悪すぎんだよなぁ
コメント欄のやりとりを余所に、リリィは滑り台の上に駆け上がり頂上へと向かう。
麗麻はドローンと共にそのリリィを見上げている。
SAIから剣を取り出すと、滑り台の頂上で構えた。
「
剣を中心に白と黒のオーラが螺旋を描き――
「焼き付けッ!
――リリィが剣を掲げると同時に、真上に向かってその白黒の螺旋がビームとなって空へと伸びた。