オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「……どうして……」
さっきまで見えていた光の柱は消えてしまったが、カラフルな遊具たちの連なりは見えている。そこを目指せばいいはずだ。
一緒にいた先輩たちは、蓮花を置いて先に行ってしまった。
善也が探索者関係の法律によってこのダンジョンに入れないと分かった途端に挑発して、その上で自分を無理矢理このダンジョンに連れてきておいて、だ。
元々は蓮花をモンスターに襲わせて、自分たちが助ける動画を撮るつもりだったらしい。けれど試しに戦ったぬいぐるみみたいなモンスターに歯が立たずに逃げ出した。
本当に情けない。
ましてやバズる為に他人を危険に
そんなことをするなんて――という
だけど、憤りなんかよりも、口や爪から血を滴らせながら追いかけてきて、先輩たちに殴られても動きを止めずに襲ってくる、ぬいぐるみ型モンスターたちの恐さときたらなかった。
先輩たちが逃げるのも分かるほどに。
だけど、ぬいぐるみたちから逃げ切っても、ブリキのロボットみたいなのに襲われたりした。
とにかく逃げなければ――そう思って走っているうちに、一緒にいた
なのに
その間も色んなモンスターに襲われて、それが嫌になって、明らかにモンスターの少ないカラフルな遊具が並ぶところを越えた。
蓮花としては今すぐにでも帰りたかったのだが、帰る方法が分からないし身を守る術がない以上、先輩たちの近くにいないと危ない。
だから一緒に色の付いたタイヤを越えた。越えざるをえなかった。
そしたら、善也から連絡があったのだ。
カラフルな遊具は境界線。ベテランの探索者すら理由が無ければ越えたりしない場所らしい。いわばダンジョンの「この先危険」を意味するラインなのだという。
そのことを二人にも言った。だが聞く耳を持ってくれない。
最悪は一人で元の場所に戻ろうか――と思ったが、すでに元のエリアの場所が分からなくなっていた。
どうするべきか困っていると、二人の元にもはぐれた鈴架から連絡が入ったようだ。
どうやら、エントランスで善也に助けてもらい、その情報を貰ったらしい。
それでも二人は、善也経由の情報であることを疑っていた。
危険地帯のわりにはモンスターが襲ってこないから、嘘だろうとまで言っている始末だ。
その様子を見て、蓮花はこの二人は本当にダメだな――と、息を吐いた。
ダンジョン入って初めて超人化して調子にのるくらいの素人が、経験者の善也より正しい判断ができると思っている時点でダメダメだ。
本気でどうしようかと悩んでいると、善也から新しい情報が届く。
救助隊としてこのダンジョンの探索許可を持ってきた探索者が蓮花たちを探しているらしい。
リリィが来てくれた――と内心では歓喜する。
もしかしたらリリィではないかもしれないが、それでもこの二人よりも何億倍もマシだろう。
あとはどうやって救助隊に自分の場所を伝えるかだ。
ここはモンスターが襲ってこないようだが、危険エリアと教えてもらったせいもあって、落ち着かない。
かまくらみたいな遊具の中に隠れていたが、いつまでもいられるものでもないとも思っていた。
どのタイミングで元の場所に戻るか。元の場所はどうやって見つけるか。
そう思っていたら、白と黒で構成された光の柱が突如たちあがった。
「……あれが、救助隊の人による目印……」
ぼそっと口から出た言葉に、先輩たちは目を光らせた。
そして、蓮花を押しのけてかまくらから飛び出すと、光に向かって走り出す。
その行いに文句しかないが、ともあれ蓮花も光に向かって走り出し、今に至る。
ただ例え腹立つ先輩たちであろうとも、誰かと一緒にいた安心感のようなものはあったのだろう。
二人の姿が小さくなればなるほど、蓮花の内側に不安と焦燥が強くなっていく。
なんだかんだ二人がいたから、モンスターから逃げられていたのは間違いないのだ。一人にされてしまえば、二人のように切り抜けることはできないだろう。
周囲にモンスターがいないのもたまたまで、もしかしたらぬいぐるみたちよりも危ないモンスターが急に現れるかもしれない。
そういう嫌な予感ばかりが強くなる。
そんな時に、豆粒のようになった先輩たち二人の近くからドンという音が聞こえてきたり、クレーターができたりする。
「な、なに……」
人影が二つ増えている。
豆粒のようなその人影に先輩たちは襲われているのかもしれない。
どうしよう。近づくべきだろうか。
どうしていいかわからない。けれど、この場で迷い続けていると、それだけで危険な目に遭いそうだ。
答えがでない。
でも、自分が怖い目に遭うイメージだけが強まっていく。
動かないと絶対危ないのに怖くて何が正解か分からなくて――
足が止まる。
きっと止めてはいけなかったはずなのに、足が止まる。
一度止まってしまうと、疲労と恐怖で足が動かなくなってしまう。
それどころか、足を止めたことで、余計な想像や妄想が溢れてきて、身体が震えてしまう。
「あ……あ、あ……」
色々と押さえ込んでモノが決壊する感覚。
泣いたり叫んだりは、今である必要はないのに。
こんなところで大声を上げたり、泣きわめいたりしたら、モンスターが集まってくるかもしれないのに――
「たす、たすけて……」
自分を強引に押さえ込みたいのに――
口に手を当て、声を出さないように無理矢理に口を閉じて――
でも、頭の中はさっきのぬいぐるみたちに襲われるイメージでいっぱいで――
「
涙を流しながら、か細い声でそう口にした時だ。
「え?」
赤いオーラを放つ黒いモヤの塊が、地面から滲み出るように現れた。それも十個。自分を囲むように。
「な、なに?」
そのモヤはゆっくりと形を作っていき、自分の頭の中でぐるぐると踊っていた血を滴らせるぬいぐるみの姿に変わっていく。
まるで自分の嫌な想像が、そのまま形になっていくかのようだ。
「あ……」
そしてモヤたちは完全にぬいぐるみの姿となって浮き上がる。
「やだ、やだ……」
足からチカラが抜けて、尻餅をつく。
これが腰が抜けるというやつなのだろう――心の奥底の冷静な自分はそう分析するが、表層の自分はそれどころではない。
「たす、たすけて……たすけて……」
ぬいぐるみたちは笑うような仕草をしながらゆっくりと近寄ってくる。
「助けてッ、
思わず叫ぶ。
それでどうにかなるとは思っていない。
けれど、叫ばずにはいられなかった。
自分の身体を抱きしめ、どうにもならない恐怖に震えながら――心の底から助けを求めてその名前を呼んだ。
それで何かが守れるワケではない。ここから逃げられるワケではない。
ぬいぐるみの一匹が前に出て、血の滴る爪を伸ばして蓮花に向かって襲いかかる。
その時――
「……もちろん」
――小さく、だけどハッキリと。
「え?」
どこからともなく、小柄で力強い影が現れて、ぬいぐるみを弾いた。
宙を舞うぬいぐるみは、突然に口の中の臓器を破裂させると、チカラを失ったように地面に転がる。
「……助ける為に、ここに来た……ッ!」
「最果さん……」
自分をかばうようにしながら、一番助けに来て欲しかった友達は、その手に握る大きなオンボロ剣を構えた。とても頼もしい、校門の時に見せてくれたような凜々しくて格好いい顔をして。