オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「クソッ、やっぱ配信してんじゃねーかッ!」
クレーターの近くでとりあえず待機しつつも、手持ち無沙汰だった
見ているのは、ロゼが枠を取ってドライブレコーダーがわりにライブ配信しているものだ。ドローンが飛んでいるのが気になったので検索したらすぐ出来てた。
「同時接続人数、三千越えてまだまだ増えてる……すげぇな」
「…………」
:いい連携だ
:10匹あっという間だったな
:この安定感あるコンビネーションは見てて安心する
画面の中では、自分たちが刃が立たず逃げ回っていた気持ちの悪いぬいぐるみたちを倒している。
画面から目を離し、遠方を見れば動画の内容のリアルがかろうじて見えた。
明らかにやらせなんてない。本物の実力を見せつける二人。けれども央はそれを認められるワケがなかった。
「説教しといて自分らは配信してこんな同接稼ぎやがって……ッ!」
:なんとか助けられたか
:あとはあいつらだな
:大人しくしてればいいけど
:まぁ大人しくしてなかったら首刎ねるだけだ邪魔だし
「好き勝手いいやがって……ッ!」
「な、なぁ
「そんなワケねぇだろッ! コメント欄の連中が好き勝手言ってるだけだッ!!」
そう喚いてから、央はガシガシと頭をかきむしる。
「おれは目立たないといけねぇんだ……もっと目立たないと、認めて貰えねぇ……」
央は今まで母親からまともに褒められたことがないのだ。
中学の頃テストで100点とっても、小学生の頃のサッカーの試合でハットトリックとっても、褒めて貰えなかった。
興味がなさげに、とってつけたようにおざなりな褒め言葉で終わってしまう。
なら、どうあっても褒めざる得ないくらいすごい数字を取れば、有名になれば、絶対に褒めてくれるはずなのだ。あんなおざなりな言葉じゃなくて、ちゃんとした褒め言葉が貰えるはずだ。
「クソッ、このままじゃ褒めて貰うどころか、また微塵も知りもしねぇクセに嫌味を言われる……!」
そう嫌味を言ってくるのだ。テストの点数を落としたり、ディフェンスを失敗して失点に繋がったりすると。
そもそもテストの結果にも、サッカーにもロクに興味がないくせに、ルールや界隈に詳しくなくても、失点にだけはしっかりと嫌味を言ってくる。
そのことを思えば、自分の動画を閲覧数を落としてしまえば、絶対に嫌味を言われるに決まっている。
あいつは――母親はそういう人だ。
そんな母親を見返す為のチャンスを……【アキラの遊びch】という配信チャンネルの閲覧数増加というチャンスを掴んだはずなのに、自分はまた嫌味だけ言われて終わってしまうところまできてしまった。
「それだけは……絶対嫌だ。好きでやってるコトに理解のねぇ嫌味なんて言われたくねぇんだ……」
なぜ、自分はこんな
自分は目立たなければならないんだ。どんな手段を取っても数字を取らないと。
文句を言われない為に、母を見返す為に。
そうだ。その為にここに来たんだ。
一般の探索者すらめったに越えない壁を越えたのなら、むしろ目立てるはずだ。
ここでなら、自分だって数字が取れるはずだ。
「真中ッ!」
イライラしながら思考を整理していると、欽嗣が切羽詰まった声で名前を叫ぶ。
「どうした?」
「か、影……! お前の影に……!」
「……影?」
慌てた様子の欽嗣を
「……なッ!?」
自分の影が泡立っている。
「なんだッ、これ……ッ!?」
央の影は徐々に沸騰するように泡立ちが激しくなり、そして噴火するように黒い液体が吹き出した。
それに驚き、尻餅をつきながら見上げていると、その黒い液体は人型の何かに変化していく。
「真中……! もっと離れようぜ……ッ!」
「あ、ああ……ッ!」
欽嗣の言う通りだ。尻餅をついて見上げている場合ではない。
その場で振り向きながら、手の爪や爪先で地面を削るように立ち上がると、欽嗣と共にその場を離れる。
やがて、液体化した影は二メートルを越える人型の異形の姿に変わっていく。顔がスマホ。両肩がTV撮影の為のカメラ。ガラケーを中心に、フィルムや写真でコーデされた鎧を身に纏い、両手に握る武器は先端にリールが着いたままの8ミリフィルムだ。
ただ鎧を作る写真――その胸の辺りに張り付いているモノにドアップで写っている三日月のような口の黒い顔は、どこか央に似ているようにも見える。
「撮レ高……作ッテヤルヨ……!」
「え?」
「人ガ死ヌ。潰レル。スプラッタ。グロ注意。撮レ高ナンダロ?」
影の異形が右手の武器を振りかぶる。
「う、うわぁぁぁぁッ!」
「あわわわわ……ッ!?」
央はその場で動かず自分の顔を覆うように身構える。
欽嗣は慌ててその場から不格好に離れている。
次の瞬間――
ドン! という音と共に地響きが起こった。
先ほどまで欽嗣が居た場所を振るうリールが地面を凹ませていた。
何とか欽嗣は
「あ、ああ……」
自分のすぐ側が凹んでいる事実。
急に、先ほどクレーターを作るに至った流れを思い出す。
『この期に及んで自分たちは死なない、殺されないとでも思ってる?』
大嫌いな最果リリィが言っていた言葉だ。
その言葉のリアリティ。それが、ことここに至って急速に理解ができていく。
「し、死ぬ……」
「死ネバ、母ガ自分ヲ気ニスルカモヨ?」
「あ……」
どうしてこのモンスターがそれを知っているのだろうか。
恐怖と、困惑に、完全に動きが止まってしまう。
確かにそれなら――さすがにそこまで行けば、母親だって、自分を見てくれるのではないだろうか。その考えは確かにあった。
そう考えてしまったからこそ、完全に硬直してしまった。
再び振り上げられた武器がスローモーションのように自分に迫る。
「真中ァァァァッ!」
欽嗣が叫ぶ声が聞こえる。
その直後――バンッ、という銃声が響く。
振りかぶられたリールが何かに弾かれた。
「ナンダ?」
「ぜぇぇぇぇ――……いッ!!」
困惑するモンスターと央の間に、小さな影が割り込み力一杯の斬撃を繰り出した。
「……ゴッ!?」
モンスターは思い切り吹っ飛び地面を転がるが、ダメージそのものは大したことがなかったのか、
「モトクワ・リリィ……!!」
「わお。リリィちゃん。モンスターの間でも有名になってるんじゃなぁい?」
銃を構えながら、冗談めかした口調で麗麻がそう口にしたが、その表情はシリアスだ。
「え? そんなコトあるの……?」
それを言われたリリィも、困惑している。
「最果……」
「動けるなら、離れて」
「……オレを、オレを助けて……オレを撮れ高にするのか……ッ!」
「は?」
何を言われたのか分からず、リリィは思わず振り向いてしまった。
「オ前倒レレバ、撮レ高アル」
「……ッ!?」
そこへ、モンスターの振るうリールが横薙ぎに飛んでくる。
リリィは
リリィは即座に立ち上がる。
すぐに動こうとするが、倒れたままの央がリリィの足首を捕まえた。
「痛ってぇ……ッ、助けるなら、ちゃんと助けろよッ!」
「……ッ、なんで足を……!」
リリィが睨み付けている間に、モンスターが迫ってくる。
「離して……!」
央を
思わず舌打ちしたタイミングで、銃声が数度響いた。
頭に数度の衝撃を受け、モンスターは
その隙に、リリィは央の
「うわわわわ……!?」
「邪魔」
央の悲鳴は無視。
リリィは着地と同時に、掴んでいた央を雑に放り投げる。その声にはかなり怒りが滲んでいる。
もちろん、麗麻もだ。
「次、邪魔したらモンスターより先にお前を撃ち抜く」
ダンジョンにいる面々には見えていないが、配信のコメント欄もかなり怒りのメッセージが
「そっちの。こいつ抑え付けときなさい。こいつが邪魔したら、お前も連帯責任で撃つ」
「お、おう……」
麗麻の迫力に負け、欽嗣は何度もうなずきながら央の側に近寄っていく。
「仕切り直しよリリィちゃん。行ける?」
「うん。でも、このモンスターは初見」
「
「え?」
言うや否や、コメント欄のホロウィンドウを表示した状態の腕時計型のデバイスを蓮花に向かって投げる。
「わ。わ。わ!?」
「そこのコメントの人たちが何か知ってたら、大声で教えて!」
蓮花がキャッチしたかどうかも確認せず、麗麻は剣を構えるリリィに並び立つ。
「足手まといにならないようにがんばるから」
「……ずっと、足手まといとかじゃ、なかったから……」
「そう?」
「レイスの時も」
リリィに頼られているというのが嬉しくて、こんな状況ながら笑みが
「……だから、今回も……信じてる、よ?」
人見知りで、あまり人に近づかせないリリィが信じると言ってくれたのだ。
それに応えなければ、友達としての名が
だから――
「うんッ、任せて!」
――麗麻は力強くうなずいた。