オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「最高ノ撮レ高ヲ提供シテヤルヨォ……!!」
立ち上がったモンスターが
「んー……初見だし、
「ん。じゃあ、それで」
:あながち間違ってない
:しかし撮れ高にこだわるモンスターだな
:エリア外限定モンスターの類いか?
文字の流れるコメント欄を見ながら、蓮花は横目でリリィたちを見る。
強そうなモンスターなのに、二人は自然体だ。さっきのぬいぐるみの群れを倒した時と変わらない様子に感じる。
「パワーがあるし硬そうだったね。リリィちゃんなんかネタある?」
「とりあえず……触ってみないと。コア型かどうかの、見極めは……したいかな」
「おっけー。適当に撃って牽制しとくから、好きに触りに行って」
「お願い」
:ゴーレムの顔に張り付いてる顔のシルエット写真っぽいのそこに転がってるアキラに似てない?
:さすがに偶然だろ?
そんなコメントを見て、蓮花もガジェットゴーレムの顔を見た。
言われてみると、似ているような気がしないでもない――程度ではありそうだが。
:でもダンジョンって人の精神と結び着きやすいって話だろ?
:確かに一時期は異様に反映されやすい時期があったけどそれも最近は落ち着いてるし
「あの、ここってダンジョンの立ち入り禁止の場所なんですよね?」
流れてくるコメントに対して、蓮花が思わずそう口にすると、一瞬だけコメントが止まった。
:もしかしてもしかする?
:ガチでアキラの影響で生まれたモンスターとか言うの?
:だとしたらエリア外って一時期の現象とは比べものにならないくらい人の精神とダンジョンが結びつきやすい領域ってことか?
すごい勢いでコメントが流れていく。
そのことに蓮花が戸惑っているうちに、リリィが
踏まれた場所の土と雑草が飛び散るような力強い踏み込みと共に、先の折れた大きな剣が振るわれる。
それをガジェットゴーレムはリールのような武器で受け止めた。
ガジェットゴーレムがリールを強引に振るうと、リリィの剣が弾かれ、それを握っていたリリィも
そこをガジェットゴーレムは隙と見たか、踏み出そうとする。だが、麗麻の放つ弾丸が頭部を叩き、今度はガジェットゴーレムが踏鞴を踏んだ。
リリィはそこへ踏み込んで、反撃の横薙ぎを繰り出す。
鈍い音を立てながらガジェットゴーレムの脇腹を叩くも、大きくよろけただけでダメージはあまり出ていないようだ。
:見た目通り硬いか
:撃たれて斬られてあんまダメージなさげか
:コア型・・・なのかなぁ?
コメント欄も戦いを見ながら判断が付かず戸惑っている様子。
そんな折り、ガジェットゴーレムが声を上げた。
「モトクワ・リリィ……ッ!!」
「ッ!?」
ガジェットゴーレムが武器に使っているリールを掲げると、それが白い光のオーラを纏いだした。
「リリィちゃんッ!」
「麗麻さんも気をつけてッ!」
お互いに声を掛け合いつつ、狙われているリリィは蓮花や央たちが射線に入らないように動く。麗麻は逆に、蓮花たちを守るように動いた。
「オレノ、邪魔ヲスルナァ……!」
「さっきから何の話を……ッ!」
「フラッシュ・インパクト!!」
問答無用とばかりに、ガジェットゴーレムが光り輝くリールをリリィに向けて振り下ろす。
「そんな大振り……ッ!」
余裕を持ってバックステップ。
しかし、リールが地面を叩いた時、カメラのフラッシュが焚かれた時のような強烈な閃光と、直後に放射状に光り輝く衝撃波が生じた。
最初の閃光に思わず目を閉じてしまったリリィが、即座に目を開けた時には目の前に衝撃波が迫っている。
「……ッ!」
咄嗟に出来たのは剣の腹を
「…………ッ」
衝撃波に飲み込まれて、直後に弾かれたよう吹き飛ばされた。
背中から地面に落ち、少し転がっていく。
「最果さんッ!?」
「リリィちゃん!!」
蓮花と麗麻が悲鳴の声を上げた。
コメント欄もさすがに心配の声があがる。
けれど――
「大丈夫……ッ!」
肌にも衣服にも無数の擦り傷、切り傷を作りながらも、リリィは転がった先で何事もなかったかのように立ち上がった。
剣を支えにした様子もなく、平然と立ち上がった様子から、本当に大丈夫なのだろう。
「目眩ましは強烈だったけど、衝撃波の方は大した威力はなかった」
視界に光の跡が残っているから、
:単に妖精ちゃんがタフってワケでもないか
:実際に威力はなかったんだろうな
:でも厄介な技だぞアレ
「モトクワ・リリィ! モトクワ・リリィ!」
「さっきから、どうしてわたしの名前をそんなに呼ぶんですか?」
チカチカとする目を無理矢理に見開きながら訊ねる。
「オ前ガ邪魔ダカラ! オ前ガ人気ダカラ! オ前ガ死ネバ撮レ高ダカラ!!」
「邪魔って、貴方とは初対面ですよね?」
思わずリリィが口にすると、ガジェットゴーレムの動きが止まる。
:マジでなんだこいつ?
:やっぱガジェットゴーレムってアキラなんじゃね?
:アキラはそこにいるだろ?
それから、声を荒げるように告げた。
「アア、ソウダ! コアモンスターノ俺トハ初対面ダ!
ダガ! 俺ヲ構成スル
「え?」
出てきた名前に、全員が央の方を見遣る。
「待て待てッ、オレは何も知らねぇよ!」
:っていうかコアモンスターって言った?
:待って待って情報量が多すぎる
:コアモンスターを構成する存在ってどういうこと??
「お前もッ、適当なコト言ってんじゃねーぞ! オレはお前みたいなもんを作った覚えはねぇ!」
さすがの央も声を荒げるのだが、ガジェットゴーレムの方は軽く肩を竦める仕草で返答した。
そして、どこか芝居がかった仕草で語り始める。
「俺ハ、スグニ消エル、ダンジョンノ
本来ハ、何事モナク消エルダケノ存在ダッタ」
そもそもが突発的に発生した極小ダンジョンなのだ。
実際、そういう状況だったのは間違いないだろう。
「ダガ物質ト精神ノ境界線ヲ踏ミ越エタ者ガイタ。
シカモ、強イ意志ト歪ミヲ抱イタ、理想的ナ
「なにを、言ってるの……?」
リリィはよく分からないで
:それがエリア外ってコトか
:エリア外は人の精神がダンジョンに大きな影響を与えるのかも
:その逆にダンジョンが人の精神に影響を与えかねない可能性も
:踏み込んだ時にロゼたちが違和感を覚えてたしな
「強イ思イ、強イ意志、強イ歪み……形ハドウアレ、強イ感情ォォゥッ!
ソレヲ読ミ取レバ、消エルハズダッタ
ガジェットゴーレムの言葉、コメント欄の理解者のコメントなどから、蓮花は自分なりに状況を結びつけ、言語化していく。
「えっと、つまり……元々消えるだけのダンジョンだったのが、この立ち入り禁止エリアに入っちゃった真中先輩の強い精神や感情の影響を受けて、ちゃんとしたダンジョンになり始めてるってコトなのかな?」
「ソノ認識デ合ッテル」
:え?そういうコトなの?
:マジだとしたら戦犯がすぎるだろ
話を聞きながら、麗麻は首を傾げる。
「……だとしてもさ、なんでガジェットゴーレムは撮れ高にこだわってるの?」
:それはそう
:純粋な疑問ではあるけど
:アキラがそこにこだわりがあるって話なんだろうけど
「ソレハ、
「…………」
「母ニ認メテ貰イタインダモノナ!」
その言葉に、央は奥歯を強く噛みしめる。
「テストデ100点取ッテモダメ、サッカーデハットトリック出シテモダメ、ピアノノ演奏会モ、カラオケ大会モ……ドンナ出来事ノ、何デ結果出シテモ、ダメ。見テクレナイ。認メテクレナイ。ダカラ、鼻ヲ明カシテヤリタイ。ソウダロウ?」
嘲笑するようなガジェットゴーレムの言葉を聞いて、リリィの瞳が揺れる。
央へと視線を向ければ、悔しそうに悲しそうに顔を歪めていた。
「ダカラ、次ハ配信ダ。何トナク投稿シタラ、評判ガ良カッタ。コレヲ高メレバ、キット……ソウ、思ッタンダヨナ?」
母に認めてもらいたい――それは、かつてリリィも抱いていた感情だ。今ではとっくにすり切れてしまって、どうでも良くなっている感情でもある。
それに、リリィには探索者協会多摩センター支部の前ギルマスとか、常連のおじさんたちがいた。
うまくお話はできなかったけれど、それでも気に掛けてくれているのだというのは、よく分かっていた。
それがとても嬉しかった。自分を見てもらえている。その感覚がとても。
だから、両親が自分を見てなくても、ギルドの人たちが見てくれているのだからどうでも良いと割り切れたのだろう。
そして今――
麗麻や衣乃、蓮花。他にもクラスメイトたち。
あるいは、バズってしまったことは困りモノだけど、それは同時に自分の存在が認めて貰えたことでもある。
コメント欄でリリィのことを妖精ちゃんと呼び、好意的に接してくれる人々。
両親にこだわらなければ、自分を見てくれる人がいるんだと――ハッキリ気づけたのこそは最近ながら――無意識ながらに前々から気づいていたからこそ、自分は今までやってこれたのだろう。
そう思うと、央に対して不思議な感情が湧いてくる。親近感と同時に、感情がささくれ立つような奇妙な感覚。
苛立ちとは違う。同族嫌悪が近いか。あるいは――道を誤った自分そのものに見えているのかもしれない。
「ダケド滑稽ダヨナ、
配信デドレダケ数字ガ撮レテモ、結局ハ認メテ貰エナイダロウッテ?
ダケド、目ヲ逸ラシタ! 数字ニコダワッタ! 突ッ走ッタ! 回リガ見エナクナッタ! ソノ結果ガコレダ!」
央の歪みを利用して自分を構成しているガジェットゴーレムが、そんな央の歪みを
:なんだこのコアモンスター
:めっちゃ煽るやん
:アキラは許せんがそれはそれとしてムカツクんだけど
:結局はモンスターなんだよな 人間の感情から生まれようとモンスターなんだよ
:不愉快な煽り方してくんなコイツ
:アキラは自業自得だがそれはそれとしてこの煽り方はムカツク
:アキラというか人間そのものをバカにするような煽りを感じる
これ以上は聞いてられない。
そう思ったリリィが、央をかばうように動く。
「最果……リリィ?」
ガジェットゴーレムを睨み付けたまま、気遣うように央へと訊ねた。
「先輩は、どうして配信を始めたんですか?」
「え?」
央に背を向けたまま、リリィは問う。
「視聴者が増えたコト、ママさん関係なしに嬉しくなかったんですか?」
問われて、少し考えてから央はうなずいた。
「……嬉しかった。そうだ。最初は母さんとか関係無しに、嬉しかった……」
「今日一緒にダンジョンに来てる横の人とか、エントランスにいた先輩とか、友達じゃないんですか?」
次の問いに、央は答えに窮した。
共にいる欽嗣を見て、少し悩んで――
「……どうなんだろうな。数字が増えてくるにつれ、分からなくなってた」
――そう口にした瞬間、横にいた欽嗣がとてつもなく不機嫌な声を上げた。
「あァ?」
「え?」
あまりにも
「おい真中、お前……本当にそう思ってんのか? わざわざダンジョンにまで付き合ってやったのに?」
欽嗣は不機嫌な様子のまま央の胸ぐらを掴みあげると、息がぶつかるほどにまで顔を近づけて