オンリー・ロンリー・リリィ・ステップ~ダンジョンにしか居場所がなかった独りぼっちの大剣妖精は、友達が出来たので孤独を孤高に変えて『敵』に抗うことにしました~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
リリィがガジェットゴーレムに警戒している背後で、欽嗣は央の胸ぐらを掴み、息が届くほどまで顔を近づけながら怒りを吐き出す。
「お前は、オレをダチとすら思ってなかったのか?
はぐれちまった
「…………」
何か言い返そうとして何も言葉が出てこないのだろう。
ガジェットゴーレムはこちらの様子を伺ったまま動く気配がない。
麗麻も警戒しているので、多少は平気だろうと、リリィは判断すると、口をパクパクとさせたまま何も言えずに吐息だけを
「配信でママさんを見返せるかもって思ったのは、別に最初からじゃないですよね?
そう思う前は、何をしたくて、何が楽しくて、先輩は配信をしてたんですか?
今怒っているその人と一緒にいるのは楽しくなかったんですか?」
校門での一件には思うことがある。
けれど、あの時は間違いなく彼ら四人は仲が良かったように思える。
褒められた振る舞いとは言えないけれど、けれど友達として仲良く一緒に居たように見えた。
だから不思議なのだ。
一緒にいる欽嗣のことを、央が友達であると即答しなかったことに。
「先輩はもっと早く気づくべきだったんです。
振り向いてくれないママさんなんてどうでも良いんだって。
世間体ばかり気にしてわたしを見てくれないお母さんなんてどうでも良いんだって」
「最果……?」
途中から、自分の感情が混ざった。
ハッキリと口にするのは初めての言葉だ。
今初めてハッキリ口にして、ようやくちゃんと割り切れた気がする。
母も、父も、リリィにとっては同じ屋根の下で暮らしているだけの――敵だ。
「先輩にとって、ママさんに認めて貰うコトってそんなに大事なんですか?
先輩に対して本気で怒ってるその人や、エントランスで先輩を助けて欲しいって泣き出した人とか
「それは……」
そこにいる欽嗣もエントランスにいる鈴架も、本気で央を心配しているように見える。
少なくとも、央の敵ではないはずだ。
「わたしは大事です。わたしを見てくれている人たちが。大事で大切なんだって、ちゃんと自覚できたのは最近だけど。
でも――わたしのコトを、世間体以外で気にも掛けないお母さんや、わたしのコトなんて存在してないも同然のお父さんなんかよりも、ずっと、もっと、みんなが大事」
これもちゃんと口に出したのは初めてだ。
大事だと、大切だと。
口にしたら、なんだかもっと大事で大切に感じてきた。
「だから今、ハッキリと決めました。
もっとちゃんと、お母さんに
一人でいるのは好きだけど、独りぼっちは嫌だから。
せっかくできた友達を、仲間を、みんなを、お母さんの世間体だなんてつまらないモノから守る為に」
「あ……」
顔をあげた央は、そう宣言するリリィの横顔を見る。
その顔は、麗麻を含め色んな人を惹きつけてきたイケメン顔をしていた。
校門ではその顔を持って央と敵対していたのだが、今回は央を守る為にその顔をしているようだ。
同時に、リリィの言葉から、リリィもまた自分と似たようなものを抱えているのだろうと、央は察することができた。同族だと気づいたのだ。だからこそ、リリィの言葉が偽りでないと、央は確信する。
だからこそ余計に、リリィの言葉が央の脳裏で何度もリフレインしていった。
そこへ、ガジェットゴーレムが火種のように、言葉を投げてくる。
「ダガ長乃ハ裏切リ者ダロウ? 今日ハ一緒ニ来テクレナカッタジャナイカ!」
「確かに長乃は……」
「付キ合イキレナイト、犯罪ノ片棒ヲ担グ気ハ無イト、ソウ言ッテ裏切ッタ!」
ガジェットゴーレムの言葉に、反論の代わりに銃弾が跳んでくる。
麗麻が愛銃の先から煙をくぐらせながら、告げる。
「本当に裏切り者だと思ってるなら救いがないわ。
確かに母親に認めてもらいたくて歪んだり曇ったりしてる目で見ればそうでしょうよ」
でも――と、央へと顔を向けた。
「犯罪の片棒を担ぐ気はないって言葉は、ちゃんとした忠告じゃない。
友達として、仲間として、ブレーキのないアンタらには付き合えないって、そう宣言しただけよ? 裏切ったのはその長乃って人じゃない。貴方が、貴方たちが、長乃さんを裏切ったのよ」
その言葉は、央だけでなく欽嗣もショックを受けたような顔をした。
「それと配信者の先輩として、言っておくわ。
楽しく遊んで視聴者を増やしていた配信者が、犯罪行為で視聴者を増やそうだなんて、チャンネル登録してくれている人たちや、いつも配信を楽しみにしてくれているリスナーたちへの裏切りよ」
怒りと呆れを
「新しいコトに挑戦するのは良いコトよ。
だけど、数字の為だけにジャンル外の内容を、そのジャンルのルールやマナーもロクに把握せずに行うなんて、配信者として
貴方は――貴方たちは、仲間だけでなくファンをも裏切っていたっていう自覚を持ちなさい」
:ロゼちゃんの説得力よ
:実際露骨な点数稼ぎするようになってから面白くなくなってきたしなアキラ
:しかしずっと黙ってたのに変なタイミングで割り込んできたなコア
「そもそも、そんな方法でPVを稼いで、本当に母親に認めて貰えると思っていたの?
貴方の母親はルール違反しながら叩き出した結果を認めるような人間なの?」
:うーん正論パンチ
:ただでさえ子供を見ない親ならなぁ・・・
:何重にも歪みまくってたんだろうな
央は特に反論もなく。
「あ、ああ……うううぅぅ……」
ただ、涙を流し
「キミ、彼をよろしく。邪魔にならないようにね」
「ああ……」
欽嗣は麗麻にうなずくと、央を抱えて下がっていく。
「ナンダ、モウ終ワリカ?」
面白がるようなガジェットゴーレムを、リリィと麗麻は完全に無視した。
こいつは、わざと央を煽っていたのだと、理解したからだ。
「ウラマさん」
「ん? なに?」
「真中先輩って、たぶん……色々失敗しちゃったわたしなんだと思う」
「そう」
何を思ってリリィがそう口にしたかまでは、麗麻は分からない。
けれど、その言葉を否定はしない。
「わたしにとっては、嫌なコトばかりしてきた先輩だけど……助けてあげたい。
ダンジョンからじゃなくて、なんだろう。今の状態から。そう思うのはダメなのかな?」
「良いんじゃない? リリィちゃんが何をどう感じるかはリリィちゃんの自由だもの」
「……うん!」
:やったことは許しがたいがそれはそれってか
:リリィちゃんも色々背負ってる感じか
:妖精ちゃんええ子やのう
「あのー……」
綺麗な空気が流れ始めたところで、恐縮するように蓮花が声をあげる。
「良い感じのところ申し訳ないんですけど、結局ガジェットゴーレムはどうするんですか?」
:確かに
:それはそう
リリィと麗麻に無視されてすね始めているガジェットゴーレムを示しながら、蓮花がそう訊ねた。
コメント欄も同意見だと、うなずくコメントが流れていく。
すると、リリィと麗麻は声を揃えて返事をした。
「この場で倒すけど?」
二人とも、声が唱和するとは思ってなかったのだろう。
偶然の一致に、顔を見合わせて笑い合う。
:今の笑い合うところに尊みを感じた(ナムナム
:ゴーレムの倒し方わかんないのにもう勝った気分になるな
:なんかもう大丈夫な気がしてきたw
「やろうウラマさん! こんなふざけたゴーレム、とっとと壊そう!」
「同感ね。人の心から生まれたんだかなんだか知らないけど、ウザったいもんね!」
:まぁ実際問題、ガジェットゴーレムはダメージ通るようになってる気がする
:人の精神の影響から生まれたなら影響元の感情でステータスも変わるってか?
やる気の二人に対して、流れるコメントに気づいた蓮花は、大きな声で二人に呼びかけた。
「あ、あの! ゴーレム、少し柔らかくなってるかもってコメントが!
人の精神の影響で生まれたなら、影響元の人の感情でステータスも上下するんじゃないかなって!」
その呼びかけにリリィと麗麻は顔を見合わせたあと、蓮花にサムズアップして応えた。
「いく」
「ええ」
直後、リリィは鋭い踏み込みから剣を振るう。
「……ッ!」
ガジェットゴーレムは明らかに、それをしっかりと避けた。
それが、何よりも証明となる動きだ。
「そういうコト」
その様子を見て、麗麻がシニカルな笑みを浮かべた。
「彼を
そして、彼が歪めば歪むほど、頑なになればなるほど、ガジェットゴーレムが強くなるからってコトね」
:なるほど
:人の精神が影響するってそういう話??
「わざわざあたしたちのやりとりを傍観していたのも、彼の感情の上下で自分のステータスの上下の連動具合の様子を見てたってところよね?
でもまさか彼が反省して歪みが落ち着くだなんて考えてなかったのかしら?
ハハッ、だとしたらさすがはモンスター。浅はかで浅知恵って感じで笑えるわ。人間ナメすぎ。まぁモンスターとしても生まれたての赤ちゃんだから仕方ないでちゅね~」
「言ワセテオケバッ!!」
麗麻の言葉に、苛立ったようにリールを振り上げ――
「簡単にキレんなよッ、ポンコツのガジェット野郎ッ! さっきまでの余裕はどうしたってのッ!」
――即座に、麗麻が
「人間煽ってケンカ売ってきたのはテメェだろうがッ!!」
:口の悪いロゼちゃんすこ
:今日のちょいちょい口が悪くなるロゼちゃん良き
マナを纏った弾丸が、リール型殴打武器を握る手に当たる。
手首が跳ねる――いや、その手首に弾痕を
そこへ――
「
――リリィが剣の側面ですくい上げるような打撃を繰り出す。
ぬいぐるみに使ったようなただの打撃技ではなく、マナを乗せ武技へと昇華された
「ウオオオオ……ッ!?」
手首と武器を弾かれて、のけぞっていたガジェットゴーレムは、抵抗することもできずに、思い切り上空に打ち上げられる。
無理矢理に宙を舞わされるガジェットゴーレムに向けて、麗麻は自分が持てる最大威力の技を準備して、狙いを澄ます。
「
七連射。
いや、連射と呼ぶにも早すぎる。
もはや七発同時射撃とも言うべき一斉射。
込められたマナの光をたなびかせ、ガジェットゴーレムの身体を七カ所穿った。
当たった場所が、ひときわ強く光を放つ。
北斗七星を思わせるラインが浮かび上がると、一瞬遅れて、輝く光の全てがより強く輝き炸裂する。
「ク、クソ……
「どちらかというと扱い方じゃないかな」
なんともなしに、リリィが答えると、ガジェットゴーレムがリリィへと意識を向ける。
そこでは、リリィが大剣を構えて、必殺の準備を終えたところだった。
それは明らかに自分を圧倒するに足るマナだと、ガジェットゴーレムは理解する。
「マ、待テ! 待ッテクレ! コンナ簡単ニ俺ヲ倒シタラ、撮レ高ハ……!」
「リリィちゃんの奥義系
「ガ、ガラクタ……ッ?!」
「そうよガラクタ。せいぜいあたしの配信の撮れ高になって散ってちょうだい」
「ア……」
:ガラクタよばわり笑
:ロゼちゃんの言う通りではある
「そんなワケで、やっちゃえリリィちゃん!」
「やっちゃって最果さん!!」
:やっちゃえ妖精ちゃん!
:やっちゃえやっちゃえ!
:ガラクタをぶっこわせー!
麗麻と蓮花。
そして見えてはいないけど、きっとコメントをくれている人たち。
応援されるってこんなにチカラが出るんだ――そんなことを思いながら、リリィはグッと全身にチカラを込めた。
「
剣を右肩に背負うように構えて、スキルを宣言。
すると、剣が
「やっちゃう」
右肩に背負うように構えたまま、リリィはすでにズタボロのガラクタに踊り掛かる。
「
鋭い斬撃と共に、闇色のオーラが弾け、黒い
振り下ろした姿勢から腰だめに剣を構え直すと、今度は白いオーラを纏う。
すかさず、白いオーラを纏った剣を返す。
「
地面を蹴って、目にも留まらぬ速さで乾いた土の上を駆けた。
すれ違いざまに横一閃。勢いのままに払い抜ける。
「セ、セッカク……名無シノ
黒いオーラと白いオーラが混ざり合い、それが鮮血のように吹き上がった。
ガジェットゴーレムは深々とした十字傷を刻みながら、完全に地面に伏す。
明らかに致命傷。これで決着したのだと、誰の目から見ても明らかだ。
そして、強烈な斬撃とオーラの衝撃で絶命したガジェットゴーレムを
それを背負いながら、血を払うように剣を振るって肩に乗せ直す姿は、まるで一枚の絵のようだ。
「く~ぅ、初めて助けてもらった時、初見でこれを見せられてリリィちゃんにときめいちゃったんだよねぇ」
「わかります! 最果さんのあの横顔見せられちゃうと、ドキっとしますよね!」
:これが撮れ高ってやつだよな
:イケ幼女すぎる
:リリィちゃん・・・(トゥンク
:これは撮れ高ですわー
:倒したあとの余韻がやばいですわ
:パ、パイセンと呼ばせてください!!
その姿は、麗麻と蓮花だけでなく、視聴者たちすら見惚れさせるに十分だった。