ラノベ転生 ―底辺社畜、昔好きだったラノベの世界に転生するも転生先は暗黒系鬱ラノベの世界だった件― 作:哀原正十
人類軍の勝利の凱旋は盛大に行われた。
ヴァルハラ学園にて3日3晩昼夜問わぬパーティが開催され、人類の勝利は派手に祝われた。なにせ魔王軍との戦争が終わったのだ。後はもう祝うしかない。世界のありようはこれから否が応でも変わっていくことになるだろう。アミューズメント施設の建設なども解放されるかもしれない。まぁ、それはともかく。
僕たちは3日3晩のパーティをうんざりとする程味わった。何せパーティーの主役だ。窮屈な程に祝われ、労われ、3日経つ頃には普段の学園生活が恋しくなる程だった。3日3晩のパーティーが終わると、人類軍は解散され、各々の所属へと皆は戻って行った。そして普段通りの日常が戻ってきた。
魔王がいなくなってもまだ魔物は存在する。故に対魔学園は未だ必要なのだ。僕たちの日常は終わらない。対魔学園の一員としてこれからも僕は活動し続けるのだった。
「うーん。やっと日常が戻ってきたわね。これでこそ対魔学園って感じ」
「そうだねー。授業があって、休みがあって、たまに実習があって、実に対魔学園って感じだ。うんうん。対魔学園はいいねぇ」
ある日の昼休み。
僕はキサラちゃんと学校の日の当たる場所の庭のベンチで学園生活を満喫していた。魔王がいなくなっても僕たちの日常は続く。僕はうーんと背伸びをして、それから言った。
「幸せだぁ」
「ふふ。アキラ君は本当に学園生活が好きですねぇ」
「あ、会長」
そうしているとルナ会長がやってきた。ベンチに後ろからもたれかかって、僕の頭に顎を乗せながら言ってくる。
「私も学園生活大好きです。お揃いですね」
「はい。お揃いです」
「むむ。私だってお揃いなんだから」
キサラちゃんが言ってくる。そして身を寄せてくる。なんだかすごく近い。幸せだ。これは幸せだぞ。
「あー、幸せだー」
「そうですねー。ところでアキラ君」
「はい」
「そろそろ誰か選んでもいいんじゃないですか」
……。
「誰かって?」
「とぼけるんじゃないわよ。女の子よ」
……。
「さて、自販機でジュースでも買ってくるか」
「あ、逃げた!」
「待ちなさいアキラ君。それはいけないことですよ!」
僕は2人に追われる。逃げなければならない。これは逃げなければならない状況だ。そうしていると、
「あ、キョウ君」
「あ、アキラ」
「待ちなさい。アキラ君。誰か選びなさい!」
「キョウ、そいつを捕まえて!」
「……はい」
「うっ。キョウ君?」
「いい加減選ぶべきだと思うぞ。アキラ」
キョウ君が裏切った。僕はキョウくんに捕らえられた。2人が僕に追いつく。
「はぁ、はぁ。アキラ選びなさい。私を」
「いいえ。私を選ぶべきです。それが当然の摂理というものです」
「アキラ!」
「アキラ君!」
「……ぼ、僕は」
その時僕はふと気づいた。いつも一緒にいてくれた、最後まで共に戦ってくれた、そんな存在が2人以外にもいたことを。気づけば僕はその存在の手を握っていた。
「キョウくん。キョウ君を選」
「アキラ」
「アキラ君」
「あ、はい」
2通りの殺意に黙らされた。しかし選べる訳がない。だから僕はこう言っていた。
「選べる訳がないよ。2人とも僕にとっては大切な人だから」
「……全く」
「アキラ君は」
2人は嘆息し、それから笑って言った。
「分かったわ」
「もう少し待ってみますね」
「う、すいません……」
「いいのよ。あっ」
キーンコーンカーンコーン。
気づけば授業開始間近のチャイムが鳴っていた。僕たちは走る。
「いけない。授業だわ。急いで戻らないと」
「本当です。私としたことが。アキラ君、また放課後」
「あ、はい」
「帰ろうかアキラ。僕たちの教室へ」
「キョウ君……そうだな。帰ろうか」
そして僕は。
僕が僕であれる場所へと帰還する。
「僕たちの教室へ」
……僕たちの最も大きな戦いは終わった。
それでもこれからも人生は続く。小さな選択も、大きな選択も、これからも無数にしていくことになるだろう。
それでも、きっと最後には希望が勝つ。僕は今は心からそう信じ切れた。それは、この世界で出会ったいくつもの大切な出会いがもたらした心の宝物。それを大切にしてこれからも生きて行こうと思う。
そうさ。きっと最後には。
希望が勝つ。
だからそう信じて生きて行こう。
それが僕がライトノベルに求めていたものだから。
そう信じて。
これからもこの世界で大事な人と大事な時間を育んでいくのだろう。
「アキラ!」
「アキラくん!」
そしていつかは。
いつかはこの2人と。
……僕はそう思いながら。
僕の物語の最後の1ページを閉じるのだった。
ラノベ転生 完