夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~ 作:妄想めっちゃ代理人
ダンジョンへ足を踏み入れる。外とは一変し、薄暗い岩肌の通路がどこまでも続いていた。天井や壁には淡く青白く光る鉱石が点在し、最低限の明るさを確保している。
湿った空気とひんやりとした温度、何度来ても独特だと奏は思う。
一方で悠斗は、初めて迷い込んだ時の緊張を思い出していた。
「おっ、アルカディアだ」
「おはようございます~」
「おはようさーん」
入口付近では、同じように探索へ向かう探索者たちとすれ違う。
「おはよう」
奏も笑顔で挨拶を返した。
「今日も頑張ろうね」
「配信楽しみにしてます!」
「ありがとう!」
陽奈が元気よく手を振る。
「無理しないでねー!」
「互いにな!」
詩織も小さくお辞儀をして挨拶をする。
「おはようございます。お気をつけて」
「詩織さんも気をつけてねぇ」
探索者同士、顔見知りも多いのだろう。軽く言葉を交わしながらそれぞれの目的地へ散っていく。悠斗はその光景を興味深そうに眺めていた。
「思っていたより普通なんですね……もっと殺伐としてるのかと」
奏は小さく笑う。
「ダンジョンでは助け合いも大切だからね。入口付近は特に新人さんも多いし、挨拶くらいはみんなするかな」
詩織も補足する。
「もちろん探索中は互いに干渉しません。ですが、最低限の礼節は探索者社会では重視されています」
「なるほど……」
ダンジョンは危険な場所だ。だからこそ、同じ危険へ挑む者同士には自然と連帯感が生まれるのかもしれない。入口から少し離れ人通りが落ち着いた辺りで奏が足を止めた。
「じゃあ、この辺りで始めようか」
陽奈は腰のポーチから小さな球体を取り出す。
「今日もよろしくね」
球体はふわりと宙へ浮かび、そのまま四人の少し前方へ移動した。
魔導ドローン──探索者配信には欠かせない存在だ。陽奈はスマートコンタクトを軽く操作する。
「配信接続っと……」
ホログラムが一瞬だけ表示され、すぐに消える。
「よーし」
陽奈は満面の笑みを浮かべた。
「アルカディア探索配信、スタート!」
魔導ドローンのレンズが淡く光り、リアルタイム映像が配信サイトへ送られ始めた。
奏も自然な笑顔で前へ出る。
「皆さん、おはようございます。探索者パーティ『アルカディア』です。今日も安全第一で探索していきますので、よろしくお願いします」
詩織は周囲へ注意を払いながら静かに付け加える。
「本日は新人探索者が同行しています。安全を最優先とした探索となりますので、ご理解いただけますと幸いです」
奏が軽く挨拶と概要を話す。するとその瞬間、ドローンから投影されたホログラムにコメント欄が一気に流れ始めた。
『おはようアルカディア!』
『待ってた!』
『今日もリアタイ!』
『陽奈ちゃんおはよー!』
『奏さん新しい大盾だ!』
『詩織様今日も麗しいですわぁ……』
そしてすぐに、画面の話題は悠斗へと移っていった。
『おっ!』
『異邦人くんだ!』
『悠斗くん探索者デビューおめでとう!』
『ダンジョンデビューじゃん! 頑張れよ!』
『探索者証もらえたんだ』
『チョコの人だー!』
『初ダンジョン配信楽しみ』
『無理しないでね!』
『生還第一で!』
『チョコマンまた見られる!?』
『切り抜きからきました』
『『bgcolor:#ff8c00』『b』¥2000『/b』 まずはデビュー祝いだ! 『/bgcolor』』
『アルカディアに一切怪我させんなよチョコ野郎!!!』
画面いっぱいに祝福のコメントが流れていく様子に悠斗は目を丸くした。
「こんなに……」
自分のことを祝ってくれる人がいる。数日前まで、この世界で自分の存在を知る人など誰一人いなかった。それが今では、画面越しとはいえ、多くの人が「おめでとう」と言ってくれている……その事実に思わず頬が緩んだ。
「ありがとうございます」
少し照れながらカメラへ向かって頭を下げる。するとコメント欄はさらに勢いを増した。
『礼儀正しいw』
『いい|男子『おのこ』じゃのう』
『頑張れー!』
『アルカディアに来てくれてありがとう!』
『今日は応援してるぞ!』
『初探索ファイト!』
陽奈はそんなコメントを見て満足そうに笑う。
「みんな楽しみにしてたんだよ! 配信で何度か話してたしね」
奏も悠斗へ優しく微笑みかけた。
「みんな応援してくれてる。だから気負わなくて大丈夫だよ」
「……はい!」
悠斗は力強く頷く。ダンジョンの静かな空気とは対照的に、ドローンへ映し出されたコメント欄には、温かな歓迎の言葉が絶え間なく流れ続けていた。
奏が悠斗へ視線を向ける。
「それじゃあ悠斗くん、まずは変身して行こうか」
「はい」
悠斗は頷き、ヴァレンバスターを徐に虚空から取り出す。するとコメント欄が一気に流れ始めた。
『来る!?』
『変身きた!!』
『配信で見られるの初めて!』
『待ってました!』
『チョコの人の変身きちゃ』
『初見です』
『俺も初見』
『配信で見るの初めてだから楽しみ』
悠斗はチョコドンを取り出した。
「行くよ」
「チョワァ!」
チョコドンは元気よく鳴き、ヴァレンバスターへ飛び込む。
『チョコ!』『Set チョコ!』
コメント欄がさらに勢いを増す。
『かわいいw』
『鳴いたww』
『生きてる!?』
『マスコットじゃないの!?』
『この子ほんと可愛い』
悠斗がジャッキを閉じるとチョコドンが力いっぱい吠えた。
「ウニョワァァァ!」
『Wow! WowWow!』
悠斗は銃口を地面へ向ける。
「変身!」
引き金が引かれた瞬間、銃口から大量のホットチョコレートが溢れ出し、足元へ広がっていき鎧を形成する。変身シークエンスを経て最後に悠斗が左手で銀紙を剥がすように腕を振る。
『チョコドン! パキパキ!』
仮面ライダーヴァレン・チョコフォーム。その姿が配信へ映し出された。
『かっっっけぇぇぇぇぇ!!!!』
『うおおおおおお!!』
『きたあああ!!』
『アーマーベア戦ちゃんと見られなかったから嬉しい!』
『変身全部見られた!』
『想像以上だった』
『マジでチョコ過ぎて草』
『なんだこのスキル!?』
歓声にも似たコメントが、ホログラムいっぱいに流れ続けていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
変身を終えた悠斗とアルカディア達の四人は第一層の探索を開始する。
先頭には大盾を構えた奏。その半歩後ろ、やや右寄りにヴァレンへ変身した悠斗、その左側には大剣を背負った陽奈。そして最後尾から全体を見渡す位置に詩織が続く。
「ダンジョンでは、この陣形がアルカディアの基本なんだ」
歩きながら奏が説明する。
「私が前で攻撃を受け止めて、陽奈が前衛火力。そして詩織が後衛支援と索敵。悠斗くんはその時々で動きやすい位置を取ってもらうよ」
悠斗は周囲を警戒しながら頷く。
「俺は遊撃ですね」
「うん。銃も近接もできるから、固定しない方が悠斗くんの良さを活かせると思う」
陽奈が笑顔で振り返る。
「困ったら私たちがフォローするから! まずは気楽にね!」
詩織も周囲へ魔力感知と索敵術式を広げながら話し始めた。
「第一層は初心者向けに分類されています。出現する魔物も比較的弱く、探索者養成の場として利用されることが多いですね」
「どんな魔物がいるんですか?」
「代表的なのはロックリザード。岩の肌を持つ爬虫類型の魔物です。他にはゴブリンやスライムも確認されています。いずれもE級探索者でも十分対処可能な個体です」
奏も補足する。
「もちろん油断は禁物だよ。出現する魔物は比較的弱いけど、戦い方を間違えれば怪我くらいは普通にするからね」
しばらく歩いたところで、詩織が足を止めた。
「……反応があります」
三人の動きが自然と止まる。
詩織は通路の先へ視線を向けた。
「小型反応、一体」
「魔力波形から見て、ロックリザードと思われます」
岩陰から姿を現したのは、一匹のトカゲだった。ただし、普通のトカゲではない。全長は子どもほどもあり全身を灰褐色の硬い岩肌のような鱗が覆っている。太い尻尾をゆっくり揺らしながら、黄色い瞳で悠斗たちを見据えていた。
「ロックリザード」
奏が小さく告げる。
魔導ドローンはその様子を正面から映し出している。コメント欄にもすぐ反応が流れ始めた。
『ロックリザードだ』
『懐かしいw』
『新人の頃めっちゃ戦ったな』
『最初の教材って感じ』
『E級の登竜門』
『今でもたまに素材集めで狩る』
『初心者ダンジョン講習思い出すわ』
一方で、探索者ではない視聴者からは違う反応も見られる。
『え、あれ魔物なんでしょ?』
『普通に怖い……』
『そこそこ大きくて引く』
『噛まれたら痛そう』
『私なら逃げる』
『初心者向けでもあんなのいるの!?』
『やっぱダンジョン怖いな』
探索者と一般人。立場の違いがそのままコメントにも表れていた。
「初心者が最初に相手をすることが多い魔物だよ。攻撃は単純、噛み付くか──」
ロックリザードが後ろ足で立ち上がる。
「飛び掛かってくるかのどっちか」
コメント欄も経験者が解説を始める。
『その構えなら飛び掛かり』
『避けて横取れば勝ち』
『頑張れチョコ!』
『初戦ファイト!』
その姿勢を見て陽奈も笑う。
「慌てなければ避けるのは簡単! 横へ回り込んで──」
奏が盾を少し下ろした。
「仰向けにしちゃえば、ほとんど抵抗できなくなる。甲羅をひっくり返された亀みたいなものだから」
悠斗はロックリザードをじっと観察する。
確かに大きい。だが、アーマーベアと比べれば威圧感はない。動きも単調そうだ。
「まずは悠斗くん」
奏が一歩下がる。
「教わった通り、相手をよく見て。まずは自分で倒してみよう」
ロックリザードが喉を鳴らし、低く唸る。そして次の瞬間、後ろ足に力を込め大きく跳び上がり巨体が一直線に悠斗へ飛び掛かった。
「今!」
奏の声が飛ぶ。悠斗は慌てず、一歩だけ身体を横へ流した。
ロックリザードの牙が目の前を掠める。
「ッシィ!」
そのまま悠斗は軸足を踏み込み、空中で無防備になったロックリザードの腹部へ右脚を振り抜く。
ドゴォッ!
ヴァレンの脚部装甲──『b』ブルームブーツ『/b』から繰り出される0.9tものキック力が、魔物の腹部へ突き刺さる。
ロックリザードの身体が勢いよく吹き飛び、岩肌を跳ねながら三メートルほど転がった。
『うおっ!?』
『蹴り強っ!!』
『一発で吹っ飛んだ』
『普通の蹴りでこれ!?』
ロックリザードは苦しそうに身を起こそうと藻掻くが、悠斗は間髪入れずヴァレンバスターを構えた。
「はっ!」
ズキュキュキュン!
三発のチョコエネルギー弾が正確に命中する。衝撃を受けたロックリザードは二、三歩ほど身体をよろめかせたあと、その場へ崩れ落ちた。
ピクリ、と尻尾が一度だけ動く。そして全身がゆっくりと白く染まり始めた。
「……白化」
詩織が静かに呟く。岩肌のようだった鱗は白い石膏のような色へ変わり、やがてひび割れる。
パキッパキパキッ。
乾いた音を立てながら魔物の身体は崩れ、白い粒子となって空気へ溶けていった。その場には、小さな魔石だけが静かに転がっている。
『倒した!』
『初討伐おめでとう!』
『綺麗に決まったな』
『初戦勝利!』
『おめでとう悠斗さん!』
『ちゃんと落ち着いて対処できてた』
『アーマーベア戦の時より余裕あるじゃん』
『今の避け方うまかったな』
奏は嬉しそうに頷く。
「ナイス! 落ち着いて相手をよく見られてたね」
陽奈も笑顔で親指を立てる。
「飛び掛かりをちゃんと見切れてた! 初戦としては百点じゃない?」
詩織も小さく拍手をしている。称賛を受けた悠斗はヴァレンバスターを下ろし、小さく息を吐いた。
「ありがとうございます」
アーマーベアのような死闘ではない探索者として学ぶべき、基本に忠実な一戦。その最初の一歩を、悠斗は確かな手応えと共に踏み出していた。
その後も四人は第一層をゆっくりと進んでいく。
岩陰から現れたロックリザード、曲がり角で待ち伏せしていたゴブリン、天井から滑り落ちてきたスライム。いずれも第一層では珍しくない魔物たちだった。
悠斗は焦らず敵の動きを見極め、ヴァレンの力を活かして一体ずつ確実に撃破していく。ロックリザードは飛び掛かりを躱して反撃、ゴブリンは武器を持つ腕を狙って体勢を崩し近接と射撃を織り交ぜて制圧。スライムには不用意に近付かず、距離を保ったままヴァレンバスターで魔石を正確に撃ち抜いた。
『初探索とは思えない』
『ちゃんと敵ごとに戦い方変えてるの器用だよなぁ』
『基本に忠実なのが逆に安心して見られる』
『アルカディアの教え方もうまいね♡』
『悠斗くん成長早いなぁ』
奏も満足そうに頷く。
「うん、もう戦闘自体は大丈夫そうだね。もちろんもっと強い魔物になれば話は変わるけど……第一層なら十分落ち着いて対処できてる」
「ありがとうございます」
悠斗も変身したまま軽く息を吐いた。初戦こそ緊張していたが、何度か戦ううちにヴァレンの身体にも少しずつ慣れてきた。
攻撃が見える、避けることも出来るし撃つべき瞬間も分かる。少しずつ、自分の力として扱えるようになってきている感覚があった。
「じゃあ次は」
奏が周囲を見回しながら言う。
「連携の確認もしようか」
「連携ですか?」
「うん。ダンジョンは基本一人で戦う場所じゃないから」
陽奈が笑顔で大剣の柄を軽く叩く。
「パーティー戦が基本! お互いの動きを知ってるだけで、生存率は全然違うんだよ」
その後は敢えて悠斗を前へ出し過ぎず、アルカディア本来の戦い方も交えながら進んでいく。
奏が盾で魔物を引き付け、陽奈が横合いから大剣で仕留める。詩織の魔法が的確に援護して逃げ道を塞ぎ、その合間を縫うように悠斗が射撃や牽制を加える。
まだ細かな息は合わないが、それでも互いにどんな戦い方をするのかを理解するには十分だった。
『連携いいゾ~これ』
『これぞパーティー戦』
『悠斗くんも無理に前へ出ないのがいいね』
『役割分担できて偉い!』
戦闘が一段落すると、奏は歩きながら壁へ埋まった淡い青色の結晶を指差した。
「そういえば、このダンジョンの名前、《水晶洞窟》っていうんだけど」
悠斗は辺りを見回す。
「確かに、壁のあちこちに水晶がありますね」
「そう、その結晶自体も素材になるんだ」
詩織が説明を引き継ぐ。
「正式名称は魔導水晶。ここのものは微量ですが魔力を蓄える性質があります。魔道具の触媒や照明器具、簡易的な魔力回路など、幅広く利用されています」
陽奈は壁際に転がる白っぽい石を拾い上げる。
「それと、ロックリザードの鱗! 硬いから初心者用の防具素材として人気なんだよ」
「ゴブリンも?」
「そうそう、魔石はもちろんだけど使ってる武器や革装備なんかも状態が良ければ換金できるよ」
奏が続ける。
「この辺りは初心者向けダンジョンだから、一つひとつの素材は高くない。でも、数を集めればちゃんと探索者の収入になる。みんな最初はここから始めるんだ」
悠斗は壁へ埋まった魔導水晶を見つめながら、小さく頷いた。
魔物を倒すだけではない。素材を集め、それを持ち帰り、生活を支える。探索者とは、そうした積み重ねの上に成り立つ職業なのだと、少しずつ実感し始めていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
第一層を進みながら、奏たちは実際の探索を交えてダンジョンの基礎を教えていく。
「壁際は見通しが悪いから、曲がり角では必ず一度止まること。足元だけじゃなく、天井も確認する、スライムもだけど高い場所から何か落ちてくることもあるから」
悠斗は一つひとつ頷きながら周囲へ視線を巡らせる。知識として聞くのと、実際のダンジョンで体験するのとでは理解度がまるで違う。
配信のコメント欄も和やかだった。
『現地講習助かる』
『新人向けで分かりやすい』
『俺も最初こんな感じだったな』
『こういう配信もっと増えてほしい~』
『教えて! 奏先生!』
その時だった。
「……ウニョ?」
ヴァレンバスターへ収まっていたチョコドンが、小さく鳴いた。悠斗は歩みを止める。
「チョコドン?」
いつもの元気な鳴き声ではない。何かに気付いたように、落ち着きなく身を揺らしている。
「チョコ、ワニョ!」
チョコドンは必死に短く鳴きながら、小さな腕を通路脇の岩陰へ向けた。
「どうした?」
悠斗が視線を向ける。奏たちも自然と警戒態勢を取る。
「魔物……じゃなさそうだけど」
陽奈が大剣へ手を添える。詩織も魔力感知を広げるが、小さく首を傾げた。
「魔物反応はありません、ですが……微弱な未知反応があります」
悠斗はゆっくりと岩陰へ近付く。
「誰かいるの?」
静かに声を掛ける。すると……。
ひょこっ。
岩陰から、小さな箱のような身体が恐る恐る顔を覗かせた。
紫色のパッケージに丸い瞳。そして、涙でぐしゃぐしゃになった表情。
「えっ……」
悠斗は目を見開く。
「ポッピングミゴチゾウ……?」
劇中でショウマが使用する代表的なゴチゾウ……間違いなく、その姿だった。
しかし、その姿は痛々しい。全身には擦り傷が付き、角は少し欠け、細かなひびが入っている。長い間、一匹で彷徨っていたかのようなボロボロの姿だった。ポッピングミゴチゾウは震えながら悠斗とチョコドンを交互に見つめる。
そして──
「ワニャアアアアアアアアっ!!」
堰を切ったように大粒の涙を噴き出した。目から滝のように涙を流しながら、小さな身体で一直線に悠斗のもとへ一生懸命駆け出す。
「うわっ!」
ぽすっ。
その小さな身体は、悠斗が思わず差し出した両手の中へ飛び込んできた。
「ワニョワニャアアアア……!」
悠斗の手の中で声を上げて泣きじゃくる。チョコドンもヴァレンバスターから身を乗り出し、
「チョワァ……!」
驚きながらも心配そうにポッピングミゴチゾウへ寄り添った。二体は小さな手をぎゅっと握り合う。まるで、長い間離ればなれだった家族がようやく再会できたかのように。
その光景に、奏たちも思わず言葉を失っていた。
「……また、ゴチゾウ」
陽奈が驚いたように呟く。詩織は目の前の小さな存在を見つめながら、静かに口を開く。
「こちらも……悠斗さんの力によって実体化した個体、なのでしょうか」
悠斗は泣き続けるポッピングミゴチゾウを優しく抱えながら、小さく頷いた。
「多分……でも、どうしてこんなところに……」
答えられる者は誰もいなかった。
ただ一つ分かるのは、この小さなゴチゾウが、ようやく"帰る場所"を見つけたように泣き続けているということだけだった。
配信のコメント欄も、戦闘の時とは違う驚きで埋め尽くされていた。
『えっ!?』
『新しい子?!』
『かわいいいいいい!!』
『泣いてる!?』
『チョコドンのお友達!?』
『ボロボロじゃん……』
『保護してあげて!』
『ああ放っておけないよぉ……』
『何があったんだ……?』
悠斗は両手の中で泣きじゃくるポッピングミゴチゾウをそっと抱き上げた。
「あぁ大丈夫、大丈夫だから……」
優しく声を掛けると、小さな身体は震えながらも悠斗の手へぎゅっとしがみつく。
「グミィィィィ……」
涙はまだ止まらない。チョコドンも心配そうにポッピングミゴチゾウの頭を撫でるように小さな手を伸ばしていた。
「ウニョ……」
二体の様子を見た奏が静かに口を開く。
「悠斗くん、その子もゴチゾウなんだよね?」
「はい」
悠斗は頷く。
「ポッピングミゴチゾウ……ガヴを代表するゴチゾウです。俺が変身するヴァレンとは別の主人公が変身する時に使う子です」
「つまり……」
詩織が考え込むように呟く。
「チョコドンやドーマルだけじゃなかった、と」
陽奈も身をかがめ、泣き続けるポッピングミゴチゾウを覗き込む。
「でも、この子……なんでこんなにボロボロなんだろ」
その言葉に、悠斗も改めて小さな身体へ視線を落とした。
箱の角は擦り切れ、全身には細かな傷。土埃で汚れ、どれだけ一人で歩き続けてきたのか想像もつかない。その姿に胸の奥が締め付けられるように痛んだ。
「……何があったんだ」
ポッピングミゴチゾウは悠斗の言葉へ答えるように、小さく身体を震わせるだけだった。
魔導ドローンはその様子を静かに映し続けている。コメント欄にも、先ほどまでの賑やかさはなかった。
『かわいそう』
『ぎゃん泣きじゃん……』
『あまりにも痛々しい……』
誰もが、小さなゴチゾウへ視線を向けていた。悠斗はその身体をそっと抱き寄せる。
「大丈夫だよ、もう一人じゃないから」
その言葉に、ポッピングミゴチゾウは震える手で悠斗の指をぎゅっと掴んでいた。