カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい 作:暁刀魚
――それから、蛇男が精神を疲弊させて敗北を認めるまでに、一日を要した。
その間は本を読んだり、ネットサーフィンをしたり、配信で雑談をしたり。
ヴェルライト・レディの勉強を見たり、ジャスティスからお酒の差し入れをもらったり。
まぁ、色々とのんびりとした時間を過ごしたわけだ。
その度に何やら蛇男は騒ぐが、うるさければノイキャンイヤホンでシャットダウン。
有益そうな情報は、配信が映像を残してくれるので問題なし。
やがて疲れ果てた蛇男は、うなだれながらサレンダーをして消えていった。
こうして無事にテンバイヤとの戦いを終えたわけだが――最後に一言、蛇男が残した言葉が問題だ。
「――覚悟しなさい、私が倒れようと天命媒介を導く者たちの夜会は不滅……貴方はいずれ、我々の秩序の下、断罪される運命にあるのです……」
――すなわち、テンバイヤはまだ存在する。
まぁ、負けたら自爆する前提の作戦を蛇男が立てている時点で、そんな気はしていた。
どちらにせよ、まだ全ての戦いが終わったわけではないのだ。
すくなくとも、あれから数日が経過しているものの、次のテンバイヤが襲撃してくることはない。
しばらくは、平和な時間を過ごすことができそうだ。
まぁ、それはそれとして――俺の周りでは、テンバイヤとはあまり関係のない”出会い”が果たされようとしている。
具体的に言うと、アレだ。
教皇と、布太梳モエと、ジャスティス。
うん。
■
俺はその日、待ち合わせのために御巫駅の前にある噴水広場へと訪れていた。
街の中心部にあるこの駅とその広場は、待ち合わせ場所として多くの人々に使われている。
難読駅名として有名なのに、何故か読めてしまうその駅に訪れた俺は、ジャスティスを探していた。
彼女が、ここを集合場所に選んだからだ。
にしても、もう少し目立たない場所で集まってもいいんじゃないか?
あまりにも目立つだろうに、どうするつもりなのか。
と思って現場に行ってみたら、そこにはサングラスをかけた魔法少女系二十代半ば女性が。
ジャスティスの衣装とはまた違うけど、ファンシー気味な少女趣味の装い。
これはあれだ、正体を隠しつつ分かる奴には一発でジャスティスと分かるようにしているのだ。
「あ、見つけた! あいっかわらずチャラい大学生みたいだね!」
「そういうそっちは、完全に不審者だけどな」
「うっさいなぁ、別にいいでしょ。カワイイんだから」
まぁそこを否定するつもりは特にないけれど、それはそれとして怪しいのも確か。
この世界がお約束に満ちてなかったら、生きるの結構大変そうだよな。
こだわり強いタイプだし。
「それでええと、他の二人は?」
「モエちゃんはもう少し時間かかるって、ハロちゃんの方は……」
ちらり、とジャスティスが視線を隅の方に向ける。
そこには――
「ああ、ジャスティスがあの方と二人きり……ジャスティスがあの方の良さを知ってくださってうれしい……ですけど……なにかゾクゾクしますううううう」
おかしなことをこぼしながら、こっちをじいっと見つめるジャスティス以上の不審者が!
というか……推しの布教と寝取られ性癖で整ってるううううう!?
「なんとかしてよ! 全部貴方のせいでしょ!?」
「そ、それはそうなんだが……もうあそこまでいくと、普通に今が充実してる感じだし、いいんじゃないか……?」
「いやいやいや! 推し活始める前は虚無みたいな生活送ってて、仕事以外にやることないし交友関係も壊滅的だったけど、スカスカだったお部屋にヴェルライトグッズが満載するようになったし、ヴェルライト信者と活発な交流をしてるけど! 仕事しかすることがなくて、一日中仕事してたのに、最近はちゃんと有給まで取るようになったけどー!」
「それやっぱり、絶対今のままがいいぞ……」
流石に俺のせいでただでさえブラックなライトユーザーが、さらにブラックになったら困るからな。
色々手を加えた結果、ハイエロファントが推し活する時間を確保できるようになったのだ。
なお、ジャスティスは根っからのワーカーホリックで、ライトユーザーの仕事が減った分イラストレーターの仕事を増やしているらしい。
こっちは……知らん、大人なんだし自己管理は自分でしてくれ!
「って、そんな話してる場合じゃない。あんな目立ってるハロちゃんをそのままにはしておけないよ」
「回収しつつ場所をうつして、布太梳モエを迎えに行くか」
「だね!」
というわけで、急いでこっちに向かってきているらしい布太梳モエのもとに、悶えすぎてそれがバイブレーションみたいになってるハイエロファントを回収すると、俺達は移動を開始した。
■
「じゃあまずは、テンバイヤ討伐おめでとう」
「おめでとー」
「お、おめでとうございます!」
「おめでとうだぜー」
今俺達がいる場所はファミレス、ドリンクバーで入れてきた飲み物で乾杯しつつ、運ばれてきたピザやらポテトやらに舌鼓を打っていた。
「まさか私もここに加えていただけるとは……感激です」
「どちらかというと、この場において場違いなのは私の方だと思うし、いいんじゃないかな……」
「ジャスティスさんは尊敬できるライトユーザーだから、問題ないとおもうぜ!」
なんて、女子たちはかしましく話をしている。
うーん、こういう場で男一人だと、居場所がないなぁ。
ちなみに席の並びは俺の横に布太梳モエ、正面にジャスティス、その隣にハイエロファントって感じ。
「と、ととと、ところであの……モエちゃん!」
「ん、どうしたんだハロさん」
「サ、サインくださいいいい!」
「え、俺!?」
で、今はハイエロファントが変なことをしている。
「だだだ、だってモエちゃんはあの方の手足で、レディですから……憧れなんです……」
「お、おおう……いいのかな、ご主人様」
「あーまー、いいんじゃないか?」
「適当だなぁ」
なんて、他愛のない話をしているわけだ。
黒幕として配信を始めて、いろいろなものが変化した。
ダークユーザーに襲われたり、逆におもちゃにしたり。
ライトユーザーが挑んできたり、自分がライトユーザーになったり。
そして何より――テンバイヤをボコボコにした。
我ながら、だいぶ濃い時間だったと思う。
まだ、全てが終わったわけではない。
けれども、そろそろ時期も変わろうかという頃だ。
色んなものが、さらに変化を始めていくだろう。
三人が割とすんなり顔合わせをすませ、仲良くなっているのもそうだが――
「……よし、食べ終わったらカドショに行かないか?」
「もちろん行きます!」
「行くぜ!」
「えー、どっかの陰湿デッキ使いさんがなぁ、こっちをいじめてくるかも知れないからなぁ」
「そりゃいいな、楽しそうだ」
「死んでよ~」
俺自身も、今をどうやらそこそこ楽しいと思っているらしい。
まぁそもそも、黒幕みたいな考察配信が楽しくて、これを始めたんだ。
ずいぶんと忙しく活動しているものの、充実感はたしかにある。
これからもこういう日々が続けばいいと思ってしまうくらいには、俺自身も愛着を感じているみたいだな。
――この世界に転生してから、俺は今までこういった事件にかかわらずに来た。
それは、自分がそれを楽しめると思わなかったからかも知れない。
だけど今こうして、俺は自分がこの世界に関わるためのモチベーションを見出している。
それならきっと、これからも問題なく俺はこれからも楽しんでこの世界に関わっていけるだろう。
「ああそうだ、今度また考察配信をしようと思うんだが」
「またぁ? 今度は一体何を企んでるのさ。言っておくけど、私はこの情報を持ち帰ってライトユーザーとして正しく使わせてもらうからね!」
「ぜひともお聞きしたいです!」
「聞きたいぜ!」
「実は最近、巷で噂になってるカードがあるんだが、そいつをばらまいてるのが俺の考察だと――」
この考察も、そのうち配信で披露することになるはずだ。
その時はきっと、多くの視聴者に「死んでよ~」と言われるんだろうな。
それが心地よくて、きっと俺はこれからも――黒幕っぽいことをしたいと、そう思うのだ。
というわけで、今回で一区切りとなります。
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