Fate/世界で超絶美形と魅了:EXになって転生したった   作:プル山門左衛門

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フォスティノス、英雄になる事を決意する

 目が覚める。

 瞼が酷く重く、身体に力が入らない。

 全身に疲れが残っているのとやる気というものが死んでいるから。

 それでもやらなくちゃいけない事がある。

 後もう少しで終わるんだ。だからもう少し、もう少しだけ頑張れ。

 そう自分に言い聞かせて味気の無い食事を飲み込み、布を被り顔を隠して家の外に出る。

 あれだけ両親が、弟が、町の人が褒め称えてくれた素顔。

 今となっては忌み嫌うものでしかなかった。いや、元々そんなに好きじゃなかったか。

 

「…………ごめんね皆、遅くなっちゃって。後少しで終わらせるから」

 

 視界に広がるのはついこの間まで一緒に笑い合い、話をしていたこの村の人達の亡骸だった。

 そこらかしこに転がり、乾いた血の海を作っている。

 あの惨劇が発生してしまってかは二日が経過した。

 アフロディーテは僕を除いた村人全員の命が尽きる最後の瞬間を見届けて、最後に耳元で何かを囁いてから去っていった。

 身体が動くようになってから一人でも生き残っている人が居ないか探した。

 もしかしたら誰かまだ生き残っている人が居るんじゃないか、そんな思いで村中を走り回った。

 

――――誰も居なかった。

 

 皆もの言わない肉塊に成り果てて、生命の熱が完全に抜け切っていた。

 それからというものの死んだ皆を埋葬し続けた。

 昼夜問わず穴を掘って亡骸を入れて埋葬する。お墓なんて上等な代物にはとても見えないけど、それでも野晒しにするよりはマシだと思いたい。

 順調だったわけじゃない。死にたてほやほやの新鮮な肉が出来た事により、獣や鴉がこの町にやって来た事があった。

 ただ僕が姿を見せると皆一瞬で固まり、お願いすると去っていく。

 分かっている。これが魅了の力によるものだというのは分かっている。

 どうやら僕の有する魅力の力の対象になるのは人間だけじゃないらしい。

 しかも素顔じゃなくてこれなのである。一度素顔を晒して話しかけたのだが、警戒していた筈の鹿が僕に近付いて恭しく首を垂れるのだ。

 まるで自分を食べて下さいと言わんばかりに、自ら命を捨てた皆のように。

 いや、顔を隠してても同じ事やられてたな。

 多分顔を隠してももう意味無いのだろう。

 

「…………これで、最後」

 

 脳裏に過った光景から目を背けながら、最後の亡骸を埋葬する。

 この身体は前世の肉体とは比較にならないらくらい、凄まじいスペックを誇っている。多分、前世の全盛期と今の身体で戦っても余裕で圧勝出来るくらいには強い。いや、それどころか多分、この村の武器を持った大人を含めても僕の方が強かったかもしれない。

 流石に武器を持った大人の方が強いだろう、前世の常識という先入観があったからそう思ってしまった。

 だけど、改めて考えてみるとやっぱり僕の方が強いのかもしれない。

 そもそも大の大人が全力で走ってなお追いつかないくらい走れたり、自分の身体よりも大きなものを片腕だけで払い飛ばせるのだから。

 そして何より――――。

 

「傷、もう治ってる」

 

 ついこの前まで、焼けた木片を腕で払って出来た傷があった。

 でも気が付いたらもう完治している。

 傷そのものがあまり大きく無かった。あの木片はかなりの大きさがあり、非常に鋭かったにも関わらずだ。

 本当に改めてよく考えると自分は普通じゃなかったわけだ。

 いや、最初からそれは分かっていた。分かっていたからこそなるべく目立たないよう、目を付けられないように振る舞おうとしていた。

 結局、アフロディーテはそれを見抜いていて最初から僕に目を付けていたわけだが。

 今となってはどうでも良い話だが。

 

「皆、今そっちに行くよ」

 

 同じところにいけるとは到底思えないが、それでもこれ以上生きていたくなかった。

 アフロディーテに対し思うところがないわけじゃない。

 彼女がやった事は許せないし、そんな事で呪いをかけるなよクソがって思っている。

 でも、結局皆の命を奪ったのは僕だ。

 切っ掛けはアフロディーテだっただけで、原因になったのは僕の鈍感さだ。

 直接手をかけた訳じゃないけど、皆を殺したのは僕のようなものだ。

 

――――だから、僕は苦しんで死にたい。そうじゃなきゃ納得出来ない。

 

 手に持った刃物を自分の腹部に向ける。

 死ぬ事への恐怖は無かった。転生なんてものを経験してるからだろうか?

 この自我が消失する恐怖も無かった。この世界には死後があると知ってるからかもしれない。仮に自我が消失するのならそれが一番良いし、自害した事への罰があるというのならそれはそれで良かった。

 ただもう、生きてたくなかった。こんな神という名の理不尽が襲って来る世界で、これ以上ここに居たくなかった。

 痛いのは正直言って嫌だが、この痛みが罰だというのなら黙って受け入れる。

 迷いなく、躊躇いなく手に持ったナイフで自身の腹を刺そうとする。

 しかし、バチンという音と共に手に持っていたナイフが手から弾かれた。

 

「えっ?」

 

 地面に転がったナイフを見て思わず呆気に取られる。

 何が起こったのかも理解出来ないまま、僕はもう一度切腹をしようとナイフを掴み腹部に突き刺そうとする。しかしナイフの先端が身体に触れた瞬間、再びあのバチンという音が鳴ってナイフが身体から弾かれた。

 

「いったい、何が…………?」

 

 ふと、頭の中にアフロディーテの去り際の言葉が蘇る。

 

――――貴女は自分の命にすら執着しなさそうだし、大人になるまでは死なないようにしてあげるわ。

 

「あ、ぁあああああああああ…………っ!」

 

 皆が死んだ事への衝撃から聞き逃した、否、認めたくなかったアフロディーテの言葉を思い出し絶望から絶叫する。

 近くの建物へと跳躍し、立てかけられている槍に向かって飛び降りる。

 しかし、槍は僕の身体を貫く事はなく、そのまま弾かれてしまった。

 地面に転がり全身に痛みが走る中、空を見上げて声無き叫びを漏らす。

 

「な、んで…………どうして…………っ!」

 

 自分で命を断つ事も出来ない、その事実に僕は叫ぼうとする。

 だけど声は既に枯れ果てていた。

 

――――貴女に掛けた呪いが正しく機能する時を待ってるわ。

 

 今は居ない女神が耳元で囁いた気がした。

 

   +++

 

 神話においてフォスティノスに呪いをかけたアフロディーテは彼あるいは彼女が大人になるまで自死が出来ないようにしたという。

 誰よりもフォスティノスの美しさに嫉妬しながらも、誰よりもフォスティノスの心の美しさに魅了されていたアフロディーテの試練でもあったという。

 その美しさを損なう事なく綺麗なままでいられるのか?

 そういった思惑があったのだと言われている。もしくはフォスティノスの心の美しさに驚愕し、その美しさがどうなるのかを見てみたかったとも。

 とはいえ、自らの心の美しさによって家族と村人が死に絶えた事をフォスティノスは深く嘆き悲しんだ。

 自害しようとするも失敗し、今度は断食で自らの命を終わらせようとしたという。

 それを見かねて止めたのがアレスだった。

 

   +++

 

 一ヶ月、文字にすれば短く実際の時間から考えればそれなりの時間が経過した。

 アフロディーテに自害する事が禁じられた。その事実に行き着いた瞬間から、僕は断食を決行した。

 飲まず食わず、ただ動かず時が経過するのを待つ。

 最初の内はお腹が空いたし、喉も乾いた。けど人間の精神状態というものは時に肉体を超越するらしい。どれだけ飢えてもどれだけ乾いても死にたいと望んでしまった以上、何にも気にならなくなった。

 それでも死ねない辺り女神の呪いは強力だが、このまま大人になってアフロディーテの自害を禁ずる呪いが解けたら死ねるようになるだろう。

 そうなる前にアフロディーテが何かしら介入してきそうだが、その時はその時だ。

 

「…………こんなに悲しくても、お腹は空くんだな」

 

 お腹と背中がくっつきそうなくらいに空腹を味わう。

 ここまでお腹が減った事は前世でも無かった。あの時自害できていればこんな苦しみを味わなくても済んだというのに。

 でもこの苦しみが罰だっていうのならそれはそれで良いかもしれない。

 そう考えていると誰かが僕を見下ろしているような気がした。

 ダメだ、お腹が空きすぎて幻覚が見え始めてる。

 こんな人が居なくなった町にやって来る人が居るわけない。旅人ならありえないわけじゃないけど、明らかに人が居ないであろう不自然な町に長居しようなんて――――。

 

「お前がフォスティノスか。噂通り人を惹きつける力を持っているな」

 

 自分以外の、男のものと思われる声が耳に届いた。

 誰かが家の中に入って来た、その事実に気付くよりも前に僕の頭を掴まれて口の中に何かが突っ込まれる。

 それは液体だった。水よりは粘度があり、蜂蜜よりはさらりとした喉越しの良いもの。

 味はとても甘く美味で飢えて乾いた身体が咄嗟に飲み込んでしまう。

 鼻腔から抜ける匂いもとても良いもので、一瞬我を忘れてその甘美な液体の美味しさに夢中になってしまいそうになる。が、すぐに正気を取り戻し今口の中に満たされたものを吐き出そうとする。

 

「ダメだ。飲み干せ」

 

 神威、アフロディーテが放った時のものと同じ圧力を感じた。

 今僕の口の中に何かしらの食べ物、あるいは飲み物を突っ込んでいるのは神だった。

 命令とともに放たれた圧力は僕の精神の命令に従っていた身体の支配権を奪い取り、喉を鳴らして飲み始める。

 元々弱っていた身体がその甘美なものに我慢出来る筈が無く、あっという間に飲み干してしまった。

 

「…………飲んだか」

 

 口の中に突っ込まれていた物が外される。

 身体に活力が戻り、万全とは言えないまでも回復した身体を動かせるようになった。

 さっきまでぼやけていた視界も元に戻り、自分を見下ろす神が瞳に映る。

 一目見ただけでイケメンと断言出来る男の姿をしていた。

 

「…………貴方は」

「我が名はアレス。オリュンポス十二神が一人、軍神アレスなり」

 

 何故、こんなところに居るのか。

 その疑問が浮かぶもののすぐにどうでも良いと切り捨てる。

 最初からアフロディーテに目を付けられていたんだ。他の神に目を付けられていてもおかしくはない。

 本当、なんて道化だろう。

 

「僕の無様さを嘲笑いに来たんですか? 無駄で無意味で無価値な行動をし続ける愚かな僕を」

「…………無意味な行動をしていると知りながら何故そんな事をしている?」

「納得出来ないから。皆を死に追いやって、自分だけのうのうと生きている事が許せないから」

「成る程。お前は父母の、弟の、そして村の者の死が自分が殺したと思っているのだな」

「…………違うんですか?」

「大いに違う。お前は直接手を下したわけではない。輝く星の価値を見誤り、その事実に耐え切れず自らの命をもってして謝罪しただけに過ぎない。フォスティノスよ、我が末裔よ…………汝が罪を犯したわけではない」

 

 偉大さと機械的を感じさせながらも、アレスは僕を気遣いながら言葉を紡ぐ。

 軍神アレスはギリシャにおいて荒くれで有名な神である。ローマへ行き、マルスとして慕われるようになるまでギリシャの人々から疎まれていた。

 だから、こうして気遣ってくれている事実に思わず笑いたくなる。

 

「じゃあ、僕に何の罪も無いって事ですか? そう言われても」

「違う。お前の罪は確かにある。自分の事を見誤った罪、価値のあるモノを価値の無いモノとして見なした事だ」

 

 優しさを感じさせながらも、アレスは淡々と事実を告げる。

 

「お前は誰よりも美しく、それ以上に心が美しい。そして戦い英雄として名を馳せるだけの力を持っている。にも関わらず、己の力から眼を逸らし続けてただの一人の人間として平凡に生きようとした。それは、時には無能である事よりも、己の欲望のままに振る舞う事よりも罪深い事になる」

「…………なら、どうすれば良いんですか?」

「英雄になれ。英雄として名を馳せ、多くの人を助けるが良い。お前の良心に従い、自分を偽らずに成すべき事を果たすと良い」

「…………そう、ですか」

 

 結局、自分には最初から普通の人間として生きる人生は無かったのか。

 本当に自分勝手に未来を決めてくれちゃって、でも心の何処かが軽くなった気がする。

 

「悪いとは思いますが、本当に好き勝手やりますよ。僕、これでも我儘なところがあるんです。自分の良心に従ってやりたい事をやるってなったら、本当に何をするか分からないですからね」

 

 僕という存在がギリシャ神話を、この『Fate/』という世界でどこまでやれるかは分からない。

 でも一度やると決めた以上、とことんまでやってやるつもりだ。

 

「それで良い。きっとお前がした選択なら良い事に繋がるかもしれない」

 

 アレスはそう言うと手から仮面のようなものをだす。

 仮面と言っても木彫りの仮面ではない、金属製のようにも見える未来的な仮面だ。

 

「顔はそれで隠すが良い。お前の魅了をある程度抑え込むことが出来る」

「ある程度、って事は全部は出来ないんですね」

「神々をも、世界をも魅了するその力を全て抑え込む事は不可能だ」

「今までよりはずっと楽になりますね。ありがとうございます」

 

 差し出された仮面を受け取り、顔に巻いていた布を取って装着する。

 紐などを使って無いにも関わらず、仮面は落ちる事は無かった。

 ちょっと肌から離れているような気がしないでもないけど、同時にしっかりとくっついているような奇妙な感覚だ。

 仮面の方もある程度形状を変える事が出来、カシャカシャと変形して口元が開く。

 これなら食事する際も仮面を外さなくても良い。

 

「僕はこれからどうすれば良いでしょうか?」

「ペーリオン山の洞穴に住まうケイローンから教えを乞うが良い。彼の者なら英雄になる為に必要な事を教えてくれるだろう。とはいえ、そこまで行くのも遠かろう。我の使いの背に乗って行くと良い」

 

 アレスが視線を外に向ける。

 そこには一頭の巨大な竜が地に降りていた。

 聞いた事がある。アレスと竜は関係性が深く、先祖のカドモスがアレスの竜を殺した事で罪の償いとして8年間奴隷としてアレスに仕えた事も。

 

「外に出るぞ」

 

 僕はアレスと共に家の外に出て竜を見上げる。

 竜はゆっくりと首を下げて僕に顔を近づけ、優しく舐めて来た。

 敵意は無かった。それどころか僕に対し自分の子どもを見るような慈愛に満ちた目をしていた。

 これも魅了の力によるものなのだろうか。それともアレスの末裔だからなのか。

 分からない。分からないけど、今までのものと違って嫌悪感はそこまで感じなかった。

 

「アレス様、本当にありがとうございます。それと、すみません。最後までもてなす事も出来ず」

「気にするな我が末裔よ。お前という人間がどんな英雄譚を作り上げるのか、楽しみに待っているぞ」

「――――なら満足させて見せますよ。アレス様も吃驚する様な、アフロディーテ(あの阿婆擦れ)が心底悔しがるような英雄譚にしてみせます」

 

 最後にそれだけを告げるとアレスは微笑んだように見えた。

 竜の背中に飛び乗るとゆっくりと飛び上がり、眼下に今まで暮らしてきた町が視界に収まる。

 もう、ここに戻って来る事も無いだろう。だから最後に一度だけ。

 

「父さん、母さん、皆…………行ってきます」

 

 今まで暮らしてきた町とそこに住んでいた人に別れを告げ、ペーリオン山がある方へと飛び立った。

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