遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
めっちゃ長くなりましたが
よろしくお願いします!!
突然のナンパ事件から一夜が明けた。
放課後のデュエルアカデミア。
認定デュエル専用フィールドでは、神崎小町と白鳥麗司が互いにデュエルディスクを構え、静かに向かい合っていた。
昨日の昼休みに起きたナンパ騒動。そして、その場で決まった認定デュエル。
その噂は瞬く間に学年中へ広まり、デュエルフィールドの周囲には多くの生徒たちが集まっていた。
「本当にやるんだ。」
「ランキング二十位の白鳥と神崎さんか。」
「どっちが勝つと思う?」
期待と好奇心が入り混じったざわめきが、フィールドを包み込む。
そんな観客席の最前列には、一際目立つ二人の姿があった。
「小町ー! あんなナルシスト野郎ぶっ飛ばしちゃえーーー!!」
朝比奈瑠奈は両手を口元に添え、全力で親友へ声援を送る。
その隣では、雄輝が腕を組み、静かに小町を見つめていた。
教師としてではなく、一人の兄として。
それでも口から出る言葉は、どこまでも教師らしい。
「小町。」
落ち着いた声がフィールドへ届く。
「いつも通りでいい。」
一呼吸置き、真っ直ぐ妹を見据える。
「焦らず、自分のデュエルをしろ。」
兄の言葉を受け、小町は小さく頷いた。
「……うん。」
デュエルディスクを構え直すその姿を見た生徒たちは、思わず顔を見合わせる。
「先生……。」
「完全にセコンドだ。」
「でも、なんか安心感あるな。」
誰かがそう呟くと、周囲から小さな笑いが漏れた。
もっとも、雄輝本人はそんな視線など気にも留めていない。
今はまだ教師としての顔を保っている。
――定時までは。
白鳥は周囲を見渡し、小さく笑みを浮かべた。
「これほど多くの観客が集まるとは。」
胸元の薔薇を整え、満足そうに頷く。
「やはり、人は美しいものに惹かれるらしい。」
その言葉に、観客たちは一斉に心の中でツッコんだ。
(いや、お前じゃなくてデュエルを見に来たんだけど……。)
白鳥はそんな空気など意に介さず、小町へ視線を向ける。
「小町さん。」
優雅に一礼すると、穏やかな笑みを浮かべる。
「これほど多くの人々の前で、君とデュエルできることを光栄に思う。」
一拍置き、胸元に手を添えた。
「安心してほしい。」
自信に満ちた笑みを浮かべたまま、小町を真っ直ぐ見つめる。
「敗北した君が恥をかかないよう、僕は美しく勝利してみせる。」
その言葉に、小町は少しだけ眉をひそめた。
「まだ、白鳥くんが勝つって決まったわけじゃないよ。」
デュエルディスクを構え直し、真っ直ぐ相手を見据える。
「デュエルは、最後までやってみないと分からない。」
その返答に、白鳥は肩をすくめる。
愉快そうに笑い、芝居がかった仕草で前髪をかき上げた。
「はっはっは。」
ゆっくりと小町へ視線を向け、自信満々に言い放つ。
「美しいこの僕が敗北するなど――」
一瞬だけ言葉を区切る。
その口元には揺るぎない笑みが浮かんでいた。
「……ありえないさ。」
白鳥はゆっくりとデュエルディスクを構えた。
小町もまた一歩前へ踏み出し、ディスクを起動する。
二人の視線が真っ直ぐにぶつかり合う。
観客席のざわめきは、いつしか静寂へと変わっていた。
誰もが、この一戦の行方を見届けようと息を呑む。
そして――
「「デュエル!!」」
神崎小町 LP4000
白鳥麗司 LP4000
こうして、二人の認定デュエルの幕が上がった。
⸻
一ターン目 小町
先攻を取った小町は、静かにデッキへ手を伸ばした。
相手は中等部ランキング二十位、白鳥麗司。
強敵であることは分かっている。
それでも、恐れる理由にはならない。
(勝つ。)
(凛ちゃんに追いつくためにも、このデュエルは絶対に負けられない。)
覚悟を胸に、小町は勢いよくカードを引き抜く。
「私のターン! ドロー!」
引いたカードを手札へ加えると、迷うことなく一枚のモンスターカードをデュエルディスクへセットした。
「私は、《月光蒼猫》を召喚!」
蒼い月光がフィールドを包み込み、一匹の獣が軽やかに舞い降りた。
⸻
《月光蒼猫》
レベル4 ATK1600 DEF1200
属性:闇
種族:獣戦士族
【効果】
①:このカードが特殊召喚に成功した場合、「月光蒼猫」以外の自分フィールドの「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。
②:フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「ムーンライト」モンスター1体を特殊召喚する。
⸻
蒼猫は低く身構え、主人の命令を待つように白鳥を見据えた。
小町は続けて手札から一枚のカードを取り出す。
「カードを一枚セット!」
伏せカードが静かにフィールドへ沈む。
「ターンエンド!」
無理に攻める必要はない。
まずは相手の動きを見極める。
静かに息を整えた小町は、白鳥の出方をじっと見据えた。
二ターン目 白鳥
白鳥は余裕の笑みを浮かべたまま、ゆっくりとデッキへ手を伸ばす。
「僕のターン。ドロー。」
静かにカードを手札へ加えると、その中から一枚を人差し指で優雅につまみ上げた。
「まずは、《ヘカテリス》の効果を発動。」
白い翼を持つ天使は眩い光となって墓地へ消え、その力だけを白鳥へ託す。
⸻
《ヘカテリス》
レベル4 ATK1500 DEF1100
属性:光
種族:天使族
効果
このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
デッキからフィールド魔法カード《神の居城-ヴァルハラ》1枚を手札に加える。
⸻
「このカードを墓地へ送り、デッキから《神の居城-ヴァルハラ》を手札へ加える。」
目的のカードをデッキから取り出すと、白鳥は迷うことなくフィールドへ叩きつけた。
「フィールド魔法、《神の居城-ヴァルハラ》発動!」
神々しい光がデュエルフィールド全体を包み込む。
無数の白い柱が天へ向かって立ち並び、その中央には巨大な神殿がゆっくりと姿を現した。
あまりにも荘厳な光景に、観客席から小さなどよめきが広がる。
⸻
《神の居城-ヴァルハラ》
フィールド魔法
効果
自分フィールドにモンスターが存在しない場合、1ターンに1度、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚できる。
⸻
白鳥は満足そうに神殿を見上げ、小さく微笑んだ。
「ヴァルハラの効果発動。」
右手を高く掲げ、その神殿へ呼びかけるように宣言する。
「手札より、《天空騎士パーシアス》を特殊召喚!」
神殿の上空から一筋の光が降り注ぐ。
光の中から、純白の鎧をまとった天使の騎士が、ゆっくりと舞い降りた。
⸻
《天空騎士パーシアス》
レベル5 ATK1900 DEF1400
属性:光
種族:天使族
効果
このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を超えた数値分だけ戦闘ダメージを与える。
また、このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、自分はデッキからカードを1枚ドローする。
⸻
小町は静かにパーシアスを見つめる。
(いきなり上級モンスター!?)
予想を超える展開に、思わず息を呑んだ。
白鳥はそんな小町の表情にも動じることなく、右手を前へ差し出す。
「バトル。」
パーシアスが大きく翼を広げ、一気に空へ舞い上がる。
「《天空騎士パーシアス》で、《月光蒼猫》を攻撃!」
神々しい光の槍が一直線に蒼猫を貫いた。
「きゃあっ!」
蒼猫は月光の粒子となって砕け散る。
神崎小町 LP4000 → 3700
白鳥は静かにパーシアスへ視線を向け、口元に笑みを浮かべる。
「《天空騎士パーシアス》の効果。」
カードを一枚引き抜きながら、淡々と続けた。
「戦闘ダメージを与えたことで、一枚ドロー。」
静かにカードを手札へ加える。
その瞬間だった。
「この瞬間!」
小町が勢いよく伏せカードを指差した。
「リバースオープン!《月光輪廻舞踏》!」
フィールドへ柔らかな月明かりが降り注ぎ、幻想的な光が舞い始める。
⸻
《月光輪廻舞踏》
通常罠
効果
自分フィールドの「ムーンライト」モンスターが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
デッキから「ムーンライト」モンスター2体を選んで手札に加える。
⸻
「デッキから、《月光黒羊》と《月光彩雛》を手札に加える!」
二枚のカードを手札へ収める小町。
その様子を見てもなお、白鳥の笑みは崩れなかった。
「なるほど。」
優雅に前髪をかき上げながら、小さく頷く。
「だが、それも美しい僕の勝利を揺るがすほどではない。」
余裕を崩さぬままバトルフェイズを終えると、白鳥は一枚のカードを静かに伏せた。
「カードを一枚セット。」
伏せカードがフィールドへ沈み込む。
白鳥は満足そうに盤面を見渡し、穏やかに告げる。
「ターンエンド。」
その宣言とともに、二ターン目が終了した。
「くっ、あのナルシ!」
瑠奈は拳を握り締め、まるで自分がデュエルしているかのような剣幕でフィールドを睨みつける。
「言動の割には強い!」
白鳥の無駄のない展開を見ながら、雄輝は静かに腕を組んだ。
「フィールド魔法のサーチ。」
一度言葉を切り、パーシアスへ視線を向ける。
「そして上級モンスターの特殊召喚。」
さらに小町のライフが削られたフィールドへ目を移した。
「さらには手札の補充。」
淡々と盤面を分析しながら、小さく頷く。
「たしかに無駄がない。」
それでも雄輝の表情に焦りはない。
小町のデッキも、この程度で止まるほど柔ではないことを知っているからだ。
「だが、まだ序盤だ。」
フィールドを真っ直ぐ見据えたまま、小さく呟く。
「ここからどう出るか。」
そう言うと、雄輝は何気なく腕時計へ視線を落とした。
16時55分。
……まだ、定時ではなかった。
三ターン目 小町
小町は静かにデッキへ手を伸ばした。
(ここからが私の反撃だ。)
「私のターン! ドロー!」
引いたカードを手札へ加えると、迷わず一枚のカードを掲げる。
「まずは、《月光黒羊》の効果!」
黒羊を手札から墓地へ送り、デッキを確認する。
⸻
《月光黒羊》
レベル2 ATK100 DEF600
属性:闇
種族:獣戦士族
効果
①:このカードを手札から捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分の墓地から「月光黒羊」以外の「ムーンライト」モンスター1体を手札に加える。
●デッキから「融合」1枚を手札に加える。
②:このカードが融合召喚の素材となって墓地へ送られた場合に発動できる。自分のEXデッキ(表側)・墓地から「月光黒羊」以外の「ムーンライト」モンスター1体を手札に加える。
⸻
「デッキから《融合》を手札に加える!」
目的のカードを引き寄せると、小町は間髪入れず魔法カードを掲げた。
「魔法カード、《月光香》発動!」
甘く優しい月光の香りがフィールドへ広がる。
⸻
《月光香》
通常魔法
効果
①:自分の墓地の「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
②:墓地のこのカードを除外し、手札を1枚捨てて発動できる。デッキから「ムーンライト」モンスター1体を手札に加える。
⸻
「墓地の《月光黒羊》を特殊召喚!」
月光に包まれた黒羊が再びフィールドへ姿を現す。
「一度墓地へ送ったモンスターを、もう戻した!」
観客の一人が驚きの声を上げる。
「月光って、こんな動きもできるんだ……」
小町は小さく頷くと、最後の一枚を掲げた。
「そして――《融合》!」
⸻
《融合》
通常魔法
効果
手札・フィールドの融合素材モンスターを墓地へ送り、融合モンスター1体を融合召喚する。
⸻
「よし! 小町も融合を使ってきた!」
瑠奈が思わずガッツポーズを決める。
その隣で、雄輝は腕を組んだままフィールドを見つめていた。
(相手はヴァルハラ軸……ということは、あの伏せカードは……)
胸騒ぎを覚えながらも、表情は崩さない。
「この融合が通れば、一気に形勢は五分だ!」
黒機も拳を握り、固唾を呑んで見守る。
「黒羊と彩雛を融合!」
二体の月光モンスターが渦を描き、一つの光へと溶け合っていく。
「融合召喚!」
小町は力強く右手を掲げた。
「舞って! 《月光舞猫姫》!」
月光の舞台に、美しき舞姫が姿を現そうとした――その瞬間。
「待ちたまえ。」
白鳥は静かに微笑みながら、伏せカードへ手を伸ばした。
「リバースオープン。」
カードが眩い閃光を放つ。
「《神の警告》!」
だが、小町は俯かなかった。
「まだ!」
力強い声がフィールドへ響く。
墓地へ送られた《月光彩雛》が淡い月光を放ち始める。
⸻
《月光彩雛》
効果
このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
墓地の《融合》1枚を手札に加える。
⸻
「彩雛の効果で、墓地の《融合》を手札に戻す!」
砕かれたはずの反撃の一手は、再び小町の手の中へ戻ってくる。
さらに、墓地の《月光黒羊》も月明かりをまとって輝き始めた。
「《月光黒羊》の効果!」
小町はデッキから一枚のカードを引き抜く。
「《月光黄鼬》を手札に加える!」
一方の白鳥は、そんな様子を見てもなお微笑みを崩さない。
「さすがは小町さん。」
優雅に肩をすくめ、感心したように小さく頷く。
「一筋縄ではいかないようだ。」
小町は何も言い返さない。
静かに《月光黄鼬》を裏側守備表示でセットする。
「モンスターを一体セット。」
さらに一枚のカードを伏せる。
「カードを一枚セット。」
その瞳には、まだ闘志の炎が宿っていた。
「ターンエンド。」
四ターン目 白鳥麗司
「僕のターン────ドロー。」
白鳥は静かにカードを引き、手札へ加える。その横顔には焦りはなく、ただ勝機を見据える冷静さだけがあった。
引いた一枚を確認すると、すぐさま魔法カードをデュエルディスクへ叩きつける。
「魔法カード、《天使の施し》発動!」
⸻
《天使の施し》
通常魔法
効果
デッキから3枚ドローし、その後、手札を2枚選んで墓地へ送る。
⸻
三筋の光がデッキから舞い上がり、白鳥の手札へ吸い込まれる。
彼は増えた手札を一枚ずつ確認すると、その瞳がわずかに細まった。
(揃った──。)
その表情には、勝利を確信した者だけが浮かべる静かな笑みが宿る。
「僕は《天空の使者 ゼラディアス》と魔法カード《テラ・フォーミング》を墓地へ送る。」
二枚のカードが墓地へ滑り込むと同時に、純白の羽根がフィールドを舞った。
墓地に積み重なっていく天使たち。
それは単なるコストではない。
白鳥が、このターンのために積み上げてきた布石だった。
続けて、彼はフィールドへ視線を向ける。
「《天空騎士パーシアス》を生け贄に──《天空勇士ネオパーシアス》、アドバンス召喚!」
天空騎士パーシアスが黄金の光へと変わり、天高く舞い上がる。
その光は巨大な光輪となって空中で弾け、一人の戦士の姿を形作っていく。
「舞い降りろ──ネオパーシアス!」
⸻
《天空勇士ネオパーシアス》
Lv7/ATK2300/DEF2000
天使族・光属性
効果
①:このカードは自分フィールドの「天空騎士パーシアス」1体をリリースして手札から特殊召喚できる。
②:フィールドに「天空の聖域」が存在し、自分のLPが相手より多い場合、このカードの攻撃力・守備力はその差の数値分アップする。
③:このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
④:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。
⸻
神々しい光が教室を包み込む。
光の両翼を大きく羽ばたかせ、ネオパーシアスがゆっくりとフィールドへ降り立った。
その圧倒的な神々しさに、教室中が息を呑む。
小町は思わずその姿を見上げた。
(これが……白鳥君の切り札!?)
黄金の翼から放たれる威圧感に、一瞬だけ背筋が震える。
(月光黄鼬じゃ防ぎきれない……。)
しかし次の瞬間、小町の視線は自分の伏せカードへ向いた。
(でも、私には《聖なるバリア-ミラーフォース-》がある!)
口元にわずかな笑みが浮かぶ。
(これでこのターンは凌げる!)
一方、そのデュエルをフィールド脇から見守る雄輝は、静かに白鳥の墓地へ目を向けていた。
(墓地に天使族が四体……か。)
その数を確認した瞬間、雄輝の脳裏に一枚のカードが浮かぶ。
(やつの狙いは……あのカードか。)
白鳥はネオパーシアスの前へ静かに手を掲げた。
「──バトルフェイズ!」
黄金の翼が大きく広がる。
「《天空勇士ネオパーシアス》で攻撃!」
ネオパーシアスは眩い光を右手へ集束させる。
「『ジャッジメント・レイ』!!」
眩い閃光がフィールドを駆け抜ける。
その攻撃がセットモンスターへ襲いかかった――その瞬間だった。
「リバースカード、オープン!!」
小町が勢いよく伏せカードへ手を伸ばし、力強く叫ぶ。
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》!!」
──────────────────
《聖なるバリア-ミラーフォース-》
通常罠
効果
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。
──────────────────
伏せカードから神々しい光の壁が出現する。
巨大な聖なるバリアがネオパーシアスの放った裁きの光を真正面から受け止め、そのまま何倍もの威力となって跳ね返した。
反射した閃光はネオパーシアスを飲み込み、その神々しい翼を砕いていく。
轟音とともに黄金の戦士は光の粒子となって四散し、フィールドから姿を消した。
教室が一気に沸き立つ。
「よしっ! 小町も白鳥のエースを倒した!」
瑠奈は思わず拳を握り締め、満面の笑みでガッツポーズを決めた。
その隣で黒機も盤面を見つめながら静かに頷く。
「白鳥も神崎の融合モンスターを止めたが、神崎も白鳥のエースを倒した。」
ライフポイントを見比べ、冷静に状況を分析する。
「これで状況は、ライフポイントで勝る神崎が有利だ。」
その言葉に、観戦していた生徒たちも次々と頷く。
「確かに、このまま押し切れるかも……!」
「神崎さん、流れを取り戻した!」
しかし――。
フィールドの脇で腕を組む雄輝だけは、誰とも違う表情を浮かべていた。
白鳥の墓地へ静かに視線を落とし、小さく目を細める。
(……いや、違う。)
その胸に浮かんだのは、勝敗ではなく、一枚の天使族モンスターの姿だった。
(あいつの、本当の狙いは……。)
その爆発の余韻が静まり、教室を包んでいた歓声も次第に収まっていく。
誰もが、白鳥の切り札《天空勇士ネオパーシアス》が破壊されたことで、小町へ流れが傾いたと思っていた。
――ただ一人、白鳥本人を除いて。
白鳥は崩れたフィールドを静かに見つめていた。
やがて肩をすくめるように小さく息をつき、ゆっくりと小町へ視線を向ける。
そして、まるで舞台の上に立つ役者のように片手を胸へ添え、もう片方の手を優雅に広げた。
「さすがだ、小町さん。」
口元に柔らかな笑みを浮かべながら、芝居がかった口調で続ける。
「君がここまで強いとは、正直思っていなかったよ。」
その言葉は敗北を認めるようにも聞こえる。
しかし、その瞳の奥に宿る光だけは、まったく衰えてはいなかった。
小町はその違和感に気付き、思わず息を呑む。
(……何?)
(まだ何かあるの……?)
白鳥の笑みは崩れない。
まるで、ここまですべてが予定通りだと言わんばかりに。
白鳥は静かに目を閉じると、小さく首を横に振った。
「──でも、すまない。」
その声はどこまでも穏やかだった。
「全て予定通りの調和だった。」
そう告げると、彼は両腕をゆっくりと左右へ広げる。
まるで壮大なオーケストラを指揮する指揮者のように。
指先の動き一つひとつが優雅で、戦場さえも一つの楽章として奏でているかのようだった。
ネオパーシアスが破壊されたことすら、彼にとっては狂いではない。
すべては、この瞬間へ至るための旋律。
墓地へ送られた天使たちは、それぞれが一つの音色となり、勝利という名の交響曲を完成へと導いていた。
白鳥は静かに墓地へ視線を落とし、微笑む。
「これで僕の墓地にはヘカテリス、ゼラディアス、パーシアス、ネオパーシアスと──四体の天使が眠りについた。」
その言葉に、教室の空気が一変する。
雄輝は確信したように目を細める。
(やはりか……!)
白鳥は天へ向かって右手を掲げ、力強く宣言した。
「これで、僕の切り札を呼べる。」
白鳥は掲げていた右手をゆっくりと下ろす。
その動きには一切の迷いがない。
すべての布石が揃ったことを確信した者だけが見せる、静かな余裕だった。
墓地に眠る四体の天使たちの光が共鳴するように淡く輝き始め、教室の空気が神聖な気配に包まれていく。
白鳥は一枚のカードを高々と掲げた。
「メインフェイズ2。」
一拍置き、静かに宣言する。
「僕は、このモンスターを特殊召喚する。」
その瞬間、墓地から立ち昇る四つの光が天空へと昇り、一つの巨大な光柱となって教室を貫いた。
神々しい光が天井いっぱいに広がり、まるで天界への門が開かれたかのような幻想的な光景が広がる。
白鳥は両手を広げ、高らかにその名を呼ぶ。
「天界より放たれし慈愛の光。救いを求める者すべてに絶対の救済を! 降臨せよ──《大天使クリスティア》!」
眩い光が一層強く輝く。
やがて、その中心から四枚の純白の翼を優雅に広げた大天使が、ゆっくりと舞い降りた。
神々しい光輪を背負い、慈愛と威厳を併せ持つその姿は、まさに天界の使者そのものだった。
──────────────────
《大天使クリスティア》
レベル8/光属性/天使族
ATK2800/DEF2300
効果
①:自分の墓地の天使族モンスターが4体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードがフィールドに存在する限り、お互いのプレイヤーはモンスターを特殊召喚できない。
③:このカードが墓地へ送られた場合、このカードをデッキの一番上に戻す。
──────────────────
クリスティアは静かに翼を広げ、神々しい光をフィールド全体へ降り注ぐ。
その光は見えない結界となってデュエルフィールドを包み込み、空間そのものを支配していく。
白鳥は静かに微笑みながら、小町へ視線を向けた。
「自分の墓地の天使族モンスターが四体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。」
そして、クリスティアを指し示す。
「そして君と僕は、特殊召喚を封じられる。」
クリスティアがゆっくりと翼を広げる。
その瞬間、神々しい光がフィールド全体を包み込み、天から降り注ぐ光の粒子が見えない結界を形成していく。
まるで天界そのものがデュエルフィールドへ降臨したかのような圧倒的な威圧感。
教室中が、その異様な空気に息を呑んだ。
小町はクリスティアを見つめたまま、小さく唇を震わせる。
「特殊召喚が……封じられた……?」
その言葉には、隠しきれない動揺が滲んでいた。
愕然とした表情で、自分のエクストラデッキへ視線を落とす。
それも無理はない。
小町が操る【月光】は、融合召喚を軸に戦うデッキ。
融合召喚とは特殊召喚であり、その戦術のすべてがクリスティアの神聖な結界によって封じ込められてしまった。
エースである《月光舞獅子姫》も、《月光舞豹姫》も、このフィールドでは決して姿を現すことはできない。
事実上、小町のデッキは、融合という最大の武器を封じられたも同然だった。
瑠奈と黒機もその意味に気付き始める。
「嘘でしょ……融合デッキなのに、特殊召喚できないなんて……」
瑠奈は目を見開き、信じられないという表情でクリスティアを見つめた。
「神崎の勝ち筋が……完全に断たれた。」
黒機は険しい表情でフィールドを見つめる。
「融合を封じられた【月光】じゃ、まともに戦えない……。」
歓声に包まれていたフィールドは、一転して重苦しい静寂に支配された。
しかし、その静寂の中でただ一人、白鳥だけは穏やかな笑みを崩さない。
すべてが計算通り。
ネオパーシアスの撃破すら、クリスティア降臨への布石に過ぎなかったのだ。
白鳥は静かにデュエルディスクを下ろし、小町へ視線を向ける。
「僕はこれで──ターンエンドだ。」
五ターン目 神崎小町
「私のターン……ドロー」
小町は静かにカードを引き、手札へ加えた。
手札を見つめると、すぐにフィールドの《大天使クリスティア》へ視線を移す。
純白の翼を広げる大天使は、静かにフィールド全体を見下ろしていた。
小町はエクストラデッキへ手を伸ばそうとして――その手が止まる。
(だめだ……。)
(融合召喚は特殊召喚……。)
(クリスティアがいる限り、月光の切り札は使えない……!)
悔しそうに唇を噛む。
いつもなら迷わず融合へ繋げられる手札。
しかし今は、そのすべてが意味を失っていた。
教室にも重い沈黙が流れる。
「小町……」
瑠奈が心配そうに呟く。
その隣では、黒機も悔しそうに拳を握り締めていた。
「ダメだ……クリスティアがいる限り、何もできない……!」
小町は静かに息を吐く。
今できることは、次の一手へ望みを繋ぐことだけ。
「私はモンスターを裏側守備表示でセット。」
続けて手札からもう一枚のカードを取り出す。
「さらにカードを一枚伏せる。」
伏せカードが静かにフィールドへ沈み、小町はデュエルディスクをゆっくりと下ろした。
「……ターンエンド。」
フィールドに残されたのは、わずかな守りだけ。
攻めることも、切り札を呼ぶことも許されない。
小町は悔しさに唇を噛み締めながら、ただターンを渡すことしかできなかった。
六ターン目 白鳥麗司
「僕のターン──ドロー。」
白鳥は悠然とカードを引き、確認した一枚を手札へ加える。
その表情に焦りはない。
(僕の手札は、今引いた一枚を除けばすべて上級天使族……。)
一瞬だけ手札へ視線を落とす。
(だが、焦る必要はない。)
彼は《大天使クリスティア》へ目を向け、小さく口元を緩めた。
(クリスティアが立っている限り、小町さんは融合召喚ができない。)
(今は盤面を維持することこそ最善手だ。)
白鳥は優雅に右手を前へ差し出す。
「バトルフェイズ。」
純白の翼を広げたクリスティアがゆっくりと宙へ浮かび上がる。
「《大天使クリスティア》で攻撃。」
神々しい光が一直線に小町の伏せモンスターへ降り注ぐ。
「ホーリー・ジャッジメント!」
眩い閃光が炸裂し、伏せられていたモンスターが表になる。
──────────────────
《月光黄鼬》
レベル4/闇属性/獣戦士族
ATK800/DEF2000
効果
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが手札・墓地に存在する場合、「月光黄鼬」以外の自分フィールドの「ムーンライト」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に戻し、このカードを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
②:このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ムーンライト」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
──────────────────
「きゃあっ!」
爆発とともに《月光黄鼬》は光の粒子となって砕け散り、墓地へ送られる。
しかし、小町のデュエルディスクが反応することはなかった。
《月光黄鼬》は戦闘で破壊されたため、効果で墓地へ送られた場合に発動する効果は使えない。
小町は思わず腕で顔をかばい、悔しそうに唇を噛み締めた。
(黄鼬の効果まで……使わせてもらえない……。)
神々しい翼を広げたクリスティアは微動だにしない。
盤面は依然として白鳥が完全に支配していた。
白鳥は盤面を一瞥すると、満足そうにデュエルディスクへ視線を落とす。
「……これで十分だ。」
その一言には、揺るぎない自信が込められていた。
白鳥は小さく頷き、穏やかな笑みを浮かべる。
「僕はこれでターンエンド。」
純白の翼を広げたクリスティアはなおもフィールドを支配し、小町の前へ立ちはだかっていた。
その神々しい威圧感は、小町から反撃の意思さえ奪っていく。
小町は思わず視線を落とし、ぎゅっと唇を噛み締めた。
(悔しい……。)
(何も……できない……。)
融合は封じられ、頼れる切り札も呼べない。
これまで積み重ねてきた戦術が、一枚のカードによって完全に閉ざされてしまった。
心が折れかけ、その肩が小さく震えた――その時だった。
「小町!! 顔を上げろ!!」
フィールド中へ響き渡る大声。
今まで沈黙を貫いていた雄輝が、一歩前へ踏み出していた。
その声に、小町はハッと顔を上げる。
「まだ、お前の手札にもデッキにもカードは残ってる!」
雄輝は真っ直ぐ小町を見据え、力強く叫んだ。
「諦めるには、まだ早い!」
その言葉にあったのは、教師として生徒を励ます口調ではない。
妹を信じ、背中を押す――兄としての言葉だった。
「ちょっ!? 先生、それはあまりにも身内贔屓すぎねぇか!?」
突然の熱血応援に、黒機が思わずツッコミを入れる。
しかし雄輝は、そんな言葉などまるで聞こえていない。
腕時計をビシッと指差し、胸を張って言い放つ。
「やかましい!」
一呼吸置き、さらに声を張り上げた。
「俺の定時はもう過ぎた!! 今は兄だ!!」
フィールドが、しん、と静まり返る。
誰も口を開かない。
全員の視線が、雄輝へと集まっていた。
そして――。
(どんな暴論なんだ……。)
その思いだけは、不思議なくらい全員一致していた。
しかし、それ以上は誰も口にしない。
(……シスコンだ。)
(先生、シスコンだったんだ……。)
(いや、前から怪しいとは思ってたけど……。)
(これは本人に言ったら面倒なやつだ。)
クラス全員が見事なまでに空気を読み、心の中だけで納得する。
黒機は額に手を当て、大きくため息をついた。
(昨日のあの様子を見てたから、なんとなく察してはいたけど……。)
呆れたように雄輝を見やる。
(なんか妙に静かだと思ったら、定時まで我慢してただけかよ……。)
一方、その隣では瑠奈が肩を震わせていた。
必死に口元を押さえ、吹き出すのを堪えている。
(ダメ……。)
(この先生、やっぱサイコー……!)
(面白すぎる……っ!)
そんな騒ぎを前にしても、白鳥は小さく肩をすくめるだけだった。
困ったように息をつくと、乱れ一つない前髪を指先で整える。
「……僕と小町さん、二人のデュエルを邪魔するとは、少々無粋ではありませんか。」
穏やかな口調とは裏腹に、その瞳には揺るぎない自信が宿っている。
「僕と小町さんのデュエルが、あまりにも美しいからと言って邪魔をするのは、いかがなものかと思いますよ。」
そう言って白鳥は雄輝へ微笑みかけた。
「――お兄さん。」
その一言が放たれた瞬間だった。
その場にいた誰もが、聞こえるはずのない音を耳にした気がした。
――ブチッ。
まるで何かの血管が勢いよく切れるような音が、フィールド全体へ響き渡ったようだった。
雄輝の額に青筋が浮かぶ。
「てめぇぇぇぇぇに!!! お兄さんと呼ばれる筋合いはねぇぇぇぇぇぇっ!! 」
教室中が再び静まり返る。
そして全員が、同じことを思った。
(えっ、そこなん!?)
(そこにキレるのかよ!?)
もちろん誰一人、声には出さない。
黒機は額に手を当て、深々と肩を落とした。
(……もう、ダメだこりゃ。)
一方、ついに堪えきれなくなった瑠奈は、
「……っ、ぷ……!」
その場にしゃがみ込み、腹を抱えて笑い始める。
(ダメ……この先生……!)
(面白すぎるって……!)
そんな瑠奈を見て、小町は顔を真っ赤に染めた。
「も、もうっ! 二人とも、デュエル中なんだからぁっ!!」
小町が慌てて仲裁に入る。
しかし、その声は今の雄輝にはまるで届いていなかった。
フィールドの端では、なおも雄輝が白鳥へ向かってギャーギャーと言い続けている。
その光景を見つめていた小町は、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。
張り詰めていた緊張が、いつの間にか消えていた。
自然と口元がほころぶ。
(……そうだ。)
(私には、まだ手札がある。)
(デッキも残ってる。)
(ライフポイントだって、まだ残ってる。)
雄輝の叫びが脳裏によみがえる。
『まだ、お前の手札にもデッキにもカードは残ってる!』
『諦めるには、まだ早い!』
小町はデュエルディスクを握る手に、そっと力を込めた。
(ありがとう、お兄ちゃん。)
その感謝は胸の中だけで呟き、真っ直ぐクリスティアを見据える。
勝負は――まだ終わっていない。
やがてフィールドに響いていた笑い声も静まり、教室には再び緊張感が戻ってくる。
雄輝は一つ咳払いをすると腕を組み、兄としてではなく、一人のデュエリストとしてフィールドを見据えた。
白鳥も軽く肩をすくめ、静かにクリスティアの傍らへ立つ。
観戦していた生徒たちも息を呑み、誰もが次の一手を待っていた。
小町は深く息を吸う。
そして、迷いの消えた瞳でクリスティアを見据える。
(必ず……突破してみせる。)
その決意を胸に、小町は次の一枚へと手を伸ばした。
七ターン目 神崎小町
「私のターン! ドロー!」
小町は勢いよくデッキからカードを引き抜いた。
震える指先で引いたカードを確認すると、間髪入れずデュエルディスクへ叩きつける。
「魔法カード、《強欲な壺》発動!」
──────────────────
《強欲な壺》
通常魔法
効果
デッキから2枚ドローする。
──────────────────
(今の手札の中に、クリスティアを突破できるカードはない……。)
(この二枚に、全部かかってる……!)
壺からあふれ出した魔力がデッキを包み込み、小町は二枚のカードを引き寄せる。
その様子を見届けながら、白鳥は口元に余裕の笑みを浮かべた。
背後ではクリスティアが神々しい翼を広げ、絶対的な存在感を放っている。
「クリスティアがいる限り、【月光】デッキではどうにもなるまい。」
そう言うと、白鳥は舞台俳優のように胸へ手を添え、小町へ軽く一礼した。
「小町さん、サレンダーしたまえ。」
フィールド中の視線が二人へ集まる。
それでも白鳥の笑みは少しも揺るがない。
「君の実力は十分に示せている。誰も、サレンダーしたところで責めはしないさ。」
その言葉には、勝者だけが持つ余裕がにじんでいた。
そして白鳥は、小町へ向かってゆっくりと右手を差し出す。
「そして、週末には僕と美しいデートをしようじゃないか。」
――その言葉を聞いた瞬間だった。
雄輝の額に、本日二本目の青筋がぴくりと浮かぶ。
フィールドの空気が、一変した。
先ほどまで兄バカ全開だった姿は、もうどこにもなかった。
今の雄輝から溢れ出ているのは、怒りを必死に押し殺したような凄まじい威圧感だった。
その気迫に、黒機は思わず肩を震わせる。
(な、なんだこの威圧感……。)
(さっきまで笑えるシスコンだったのに……今度は普通に怖ぇ……。)
思わず一歩後ずさりし、額へ冷たい汗が伝う。
だが、その異変にまったく気付いていない人物が一人だけいた。
瑠奈である。
彼女はフィールドへ身を乗り出し、両手を口元へ添えた。
「まだ、負けた訳じゃないでしょ!!」
真っ直ぐな声が、教室中へ力強く響き渡る。
瑠奈は拳をぎゅっと握り締め、小町を見据えた。
「小町!! 負けるな!!」
その声に、小町は何も言わず小さく頷く。
そして、ゆっくりとデッキへ目を向けた。
指先をそっとデッキの上へ添える。
(お願い……。)
一度だけ目を閉じ、胸の奥で強く願う。
(応えて……!)
その瞬間――。
まるで想いに応えるように、デッキが微かに輝いたように感じた。
《強欲な壺》の効果で、デッキから二枚のカードを手札へ加える。
「ドローーーーー!!」
教室中が固唾を呑んで見守る中、小町は二枚のカードへ視線を落とした。
一枚目。
そして、二枚目――。
その瞬間だった。
小町の瞳が大きく見開かれる。
そこにあったのは、絶望に閉ざされた盤面を切り裂く希望。
反撃の狼煙となる、逆転への一枚。
(デッキが……応えてくれた!)
驚きと喜びが入り混じった笑みが、自然とこぼれる。
震えていた手には、もう迷いはない。
(これなら……!!)
(まだ戦える!!)
小町は一枚のカードを力強く掲げ、迷いなくデュエルディスクへ叩きつけた。
「手札より魔法カード発動!!」
小町の力強い宣言と同時に、フィールドへ漆黒の雫が降り注ぐ。
一滴の雫は波紋を広げながら神々しい光を侵食し、まっすぐクリスティアへと流れていく。
「《月光黒羊》をコストに、《禁じられた一滴》発動!!」
──────────────────
《禁じられた一滴》
速攻魔法
効果
手札・フィールドのカードを任意の数だけ墓地へ送り、その数まで相手フィールドの効果モンスターを対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで半分になり、効果は無効化される。
また、このカードの発動に対して相手は、このカードの発動のために墓地へ送ったカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)のカード効果を発動できない。
──────────────────
「なんだと!? まさか……そんなカードが!?」
白鳥は思わず目を見開いた。
これまで崩れることのなかった余裕の笑みが、初めて大きく揺らぐ。
《禁じられた一滴》から放たれた黒き雫が、神々しい光を纏うクリスティアを包み込んだ。
その瞬間――。
クリスティアを覆っていた神聖な輝きが、音もなく揺らぎ始める。
「これで特殊召喚ができる!!」
瑠奈が拳を高く突き上げる。
黒機も興奮した様子でクリスティアを指差した。
「しかも、《月光黒羊》をコストにしてる!」
思わず声が弾む。
「黒羊は墓地へ送られたことで効果が使える! 融合へ繋がるぞ!」
絶望一色だったフィールドへ、一筋の希望が差し込んだ。
観戦していた生徒たちも思わず息を呑む。
一方、雄輝は妹の姿を見つめながら、小さく口元を緩めた。
(九条とのデュエルで、モンスター効果に苦しめられた……。)
脳裏によみがえるのは、あの日の敗北。
そして、その後も遅くまで続いた小町とのデッキ調整の日々。
(その答えとして選んだカードが、《禁じられた一滴》か。)
小町は、ただ強いカードを入れたわけではない。
敗北を受け止め、自分で考え、答えを見つけ出した。
その成長が、今この一枚に表れている。
雄輝は妹の背中を見つめ、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
(やるじゃないか……小町。)
(本当によくやった。)
《禁じられた一滴》によって墓地へ送られた《月光黒羊》が淡い光を放つ。
その輝きは墓地へ眠る一枚のカードへと導かれていく。
「《月光黒羊》の効果!」
小町は迷いなく墓地へ手を伸ばした。
「墓地の《月光彩雛》を手札に加える!」
彩雛が再び小町の手札へ戻る。
これで必要な役者は揃った。
小町は一枚の魔法カードを高く掲げる。
その表情には、揺るぎない決意が宿っていた。
「手札より! 《融合》発動!」
──────────────────
《融合》
通常魔法
効果
自分の手札・フィールドから融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスターカードによって決められた融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
──────────────────
小町は融合素材となるカードを次々と掲げる。
「フィールドの《月光白兎》!」
白兎が月明かりへ溶け込むように光となる。
「手札の《月光彩雛》!」
彩雛は美しい羽根を舞わせながら光へ変わる。
「そして――《月光翠鳥》!」
翠鳥が高く羽ばたき、最後の月光となって夜空へ舞い上がった。
三筋の月光は空中で渦を巻き、巨大な銀色の光輪を描き出す。
幻想的な月明かりがフィールドを包み込み、その中心から気高き咆哮が響いた。
小町は右手を高く掲げ、力強く叫ぶ。
「月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王よ!」
月光がさらに輝きを増していく。
「月明かりに舞う獣たちよ!」
三体の光が一つへと重なり始める。
「月の引力により渦巻きて、新たなる力と生まれ変わらん!」
銀色の渦が弾け、神々しい月光がフィールドを照らし出した。
「融合召喚!」
小町の声がフィールド中へ響き渡る。
「現れ出でよ! 華麗なる剣を振るう美しき獣――《月光舞剣虎姫》!!」
──────────────────
《月光舞剣虎姫(サーベルダンサー)》
レベル10/闇属性/獣戦士族・融合
ATK3000/DEF2600
効果
「ムーンライト」モンスター×3
①:このカードの攻撃力は、お互いの墓地・除外状態の獣戦士族モンスターの数×200アップする。
②:相手はフィールドのこのカードを効果の対象にできない。
③:このターンに墓地へ送られていないこのカードを墓地から除外し、自分フィールドの融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで3000アップする。
──────────────────
銀色の輝きがゆっくりと晴れていく。
そこには二振りの剣を携え、月光をまとった《月光舞剣虎姫》が気高く立っていた。
ついにフィールドへ降臨した、小町が最も信頼するエースモンスター。
その身から溢れる闘気は、これまで戦い抜いてきた仲間たちの想いを力へと変えていく。
「さらに、《月光舞剣虎姫》の効果!」
小町の宣言とともに、墓地で眠る「月光」モンスターたちが淡い月光となって舞い上がる。
この時、小町の墓地には八体の「月光」モンスターが眠っていた。
一体につき二〇〇ポイント。
仲間たちの力が舞剣虎姫へ集い、その闘気は一気に膨れ上がる。
ATK3000 → ATK4600
圧倒的な闘気がフィールドを包み込み、舞剣虎姫は二振りの剣を構え、クリスティアへ鋭い眼差しを向けた。
「攻撃力4600……!?」
瑠奈は思わず息を呑む。
「これなら倒せる!」
黒機も拳を握り締めた。
誰の目にも、小町が逆転したように見えた。
四六〇〇という圧倒的な攻撃力。
効果を失い、攻撃力も半減した《大天使クリスティア》。
勝負は、決したかに思われた。
――しかし。
フィールド脇で見守る雄輝だけは、険しい表情を崩さない。
その視線は白鳥の手札へ向けられていた。
(いや……まだ終わっていない。)
白鳥の手札は、あと一枚。
(もし、あのカードがあるなら……。)
胸をよぎる不吉な予感。
だが、小町はそんなことなど知る由もない。
勝機を逃すまいと右手を高く掲げ、真っ直ぐ白鳥を見据える。
その瞳には、勝利への決意だけが宿っていた。
「バトル!」
月光をまとった《月光舞剣虎姫》が二振りの剣を構え、大地を蹴る。
「《月光舞剣虎姫》で、《大天使クリスティア》に攻撃!」
月光を纏った剣士は一瞬で間合いを詰め、鋭い斬撃を放とうとする。
しかし――。
白鳥の口元に、再び余裕の笑みが浮かんだ。
「まだ終わりではないよ。」
白鳥は手札から一枚のカードを抜き取る。
「手札より、《オネスト》の効果発動!」
──────────────────
《オネスト》
レベル4/光属性/天使族
ATK1100/DEF1900
効果
①:自分メインフェイズに、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。自分フィールドの表側表示の光属性モンスター1体を手札に戻す。
②:自分の光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ時に、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その自分モンスターの攻撃力は、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
──────────────────
《オネスト》は純白の光となって墓地へ消え、その力が《大天使クリスティア》を包み込む。
──────────────────
《大天使クリスティア》
ATK1400 → ATK6000
──────────────────
4600という《月光舞剣虎姫》の攻撃力をも凌ぐ、圧倒的な数値。
白鳥は勝利を確信したように微笑む。
「小町さん。融合召喚までは見事だった。」
一拍置き、ゆっくりと言い放つ。
「でも――詰めが甘かったね。」
「なっ……!」
黒機が目を見開く。
「あいつ、まだ《オネスト》を隠し持っていたのか!!」
瑠奈も思わず身を乗り出す。
「小町!!」
フィールド脇では、雄輝が悔しそうに歯を食いしばった。
(ちぃ……! やはりか!)
クリスティアは神々しい光をまとい、舞剣虎姫へ襲い掛かる。
誰もが、この一撃で勝負は決まったと息を呑んだ。
――だが。
小町だけは微笑んでいた。
「……それはどうかな?」
その一言に、白鳥の眉がわずかに動く。
「リバースカード、オープン!!」
小町は伏せカードを勢いよく開く。
「トラップカード! 《神の通告》!!」
──────────────────
《神の通告》
カウンター罠
効果
モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚、またはモンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。
LPを1500払って、その召喚または発動を無効にし破壊する。
──────────────────
小町のライフが1500削られる。
神崎小町 LP3700 → 2200
しかし、その代償と引き換えに、神罰の光が《オネスト》の力を打ち砕いた。
純白の輝きは霧散し、《大天使クリスティア》の攻撃力は元の数値へ戻る。
──────────────────
《大天使クリスティア》
ATK6000 → ATK1400
──────────────────
小町は白鳥を真っ直ぐ見据え、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「これで《オネスト》はもう使えないよ!」
白鳥は大きく目を見開いた。
今まで一度も崩れなかった優雅な笑みが、音を立てて消えていく。
「なっ……な、なんだとおおおおっ!? そんな馬鹿なぁぁぁっ!!」
白鳥は声を荒げた。
まさか《オネスト》までも読まれていたとは、夢にも思っていなかった。
驚いたのは白鳥だけではない。
フィールド中の誰もが、その一手に息を呑んでいた。
雄輝もまた、小町のデュエルを見つめたまま目を見開く。
(ここに来て……その上を行くのか!?)
九条との敗北を糧にデッキを見直し、一枚一枚のカードに意味を持たせた妹。
その成長は、雄輝の想像をはるかに超えていた。
(小町……。)
雄輝の口元が自然と緩む。
(お前、本当に強くなったな……。)
小町は舞剣虎姫へ視線を向ける。
そして白鳥へ視線を戻すと、ふと思い出したように口を開いた。
「あっ、そうだ。白鳥くん!」
白鳥はその言葉に顔を上げる。
小町は少し照れくさそうに笑いながら、それでもはっきりと告げた。
「私、お兄ちゃんみたいな人がタイプだから……ごめんね。」
その一言は、白鳥にとって何よりも痛烈な一撃だった。
戦術は読み切られ、《オネスト》も封じられた。
そして最後に放たれたのは、あまりにも残酷な失恋宣告。
「…………。」
白鳥は完全に言葉を失う。
差し伸べようとしていた手は宙で止まり、その表情はまるで時間が止まったかのように固まっていた。
フィールド中が静まり返る。
小町はそんな白鳥を真っ直ぐ見据え、右手を力強く前へ突き出す。
「《月光舞剣虎姫》の攻撃!」
舞剣虎姫が二振りの剣を交差させ、月光をまといながら一気に駆け出す。
鋭く、そして華麗に舞うような剣閃がフィールドを駆け抜けた。
「月光円舞刃!!」
月光をまとった斬撃が、《大天使クリスティア》を飲み込む。
神々しい翼は光の粒子となって砕け散り、その衝撃は白鳥へと直撃した。
ライフポイントが凄まじい勢いで減少していく。
2000──1000──500──0。
次の瞬間。
ライフポイントがゼロになったことを告げる電子音が、白鳥のデュエルディスクから高らかに鳴り響く。
その音は静まり返ったフィールドへ大きく響き渡り、勝敗が決したことを全員へ告げていた。
長きにわたる激闘は、ついに幕を下ろした。
勝者――神崎小町。
一瞬の静寂の後――。
「やったぁぁぁーーーっ!!」
瑠奈は両手を高々と突き上げ、歓喜の声を上げる。
「小町が勝ったぁぁ!!」
今にもフィールドへ飛び出しそうな勢いで飛び跳ね、その笑顔は誰よりも眩しかった。
一方、その場にいた他の生徒たちは、勝敗以上に気になることがあった。
誰も口にはしない。
だが、その思いだけは不思議なほど一致していた。
(……妹の方もブラコンなのかよ……。)
(いや、あの兄妹、お互い大好きすぎるだろ……。)
(似た者兄妹だったんだな……。)
誰一人として、その言葉を口には出さない。
言えば、また雄輝が何を言い出すか分からないからだ。
こうして神崎小町は、強敵・白鳥麗司との激闘を制し、ついに中等部ランキング戦のランカーとして、その名を連ねるのであった。
……数分後。
激闘を終えたバトルフィールドには、二人だけが残されていた。
一人は、デュエルに敗れたうえ、小町から振られるという精神的ダメージを受けた男――白鳥麗司。
そして、もう一人。
小町の最後の一言によって、脳が完全に処理落ちした男。
神崎雄輝である。
「私、お兄ちゃんみたいな人がタイプだから……」
その一言だけが、壊れたレコードのように雄輝の頭の中で延々と再生され続けていた。
(……待て。)
(今、小町は何て言った?)
(『お兄ちゃんみたいな人』……?)
(つまり、俺みたいな人……?)
(いや、俺はお兄ちゃん本人なんだが……。)
(……ん?)
(……あれ?)
(どういうことだ?)
思考はそこで完全に停止する。
「…………。」
デュエル中は冴え渡っていた頭脳が、今だけは完全にフリーズしていた。
兄として嬉しいのか。
複雑なのか。
照れるべきなのか。
そもそも何を考えればいいのか。
情報量が多すぎて、脳がまったく追いついていない。
その日――。
デュエルに敗れた男と、妹の一言で思考停止した男。
二人は夕暮れに染まるバトルフィールドで、しばらく石像のように立ち尽くしていた。
そんな二人の姿を見た生徒たちは、ただ一言だけ心の中でつぶやく。
(……似た者同士だな。)