遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity   作:NONAME0195

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第13話 嵐の訪問者

時刻は丑三つ時

 

海馬コーポレーション本社ビルに、警報が激しく鳴り響いていた

 

「逃げたぞ!!」

 

「追えっ!! 絶対に逃がすな!!」

 

モニターには『セキュリティレベル5』の赤い文字が点滅していた。

 

本来なら決して鳴ることのない、最高レベルの警報。

 

そのモニターを見つめる一人の男。

 

無表情ながら、普段よりわずかに眉間へ刻まれた皺が、この事態の異常さを物語っている。

 

海馬コーポレーション社長――海馬瀬人。

 

「よもや、我が海馬コーポレーションが誇る警備システムを突破し……あの三枚のカードを強奪するとは」

 

そして、無線機から通信が入る。

 

「こちらアルファ!ターゲットをロスト…

申し訳ありません……逃走されました」

 

「……そうか」

 

海馬は静かに無線機を置いた。

 

その瞳に宿る冷たい光は、怒りとも焦りともつかない。

 

やがて、司令室にいる全員を見渡し、力強く命じた。

 

「海馬コーポレーションの総力を挙げて奴らを探し出せ! このまま逃がすわけにはいかん!」

 

海馬瀬人はコートを翻し、司令室を後にした。

 

その背を追う側近へ、短く告げる。

 

「明日、神崎を呼び出せ」

 

「神崎雄輝を……ですか?」

 

「ああ… おそらく奴にも動いてもらうことになるだろう」

 

こうして雄輝は、戦いの運命へと足を踏み入れることになる。

 

◇◇◇

 

あの中間ランキング戦と、お兄ちゃんおしおき事件から早二ヶ月

 

無事、何事もなく期末テストも乗り切った

 

……数学?

 

ナニソレオイシイノ?

 

学校指定のランキング戦は学期ごとに一回

 

だから今回の期末はなかったし

 

明日から夏休みかあ〜

 

普通の学校だと受験勉強とか夏期講習とかあるんだろうけど

 

うちの学校は中高一貫だから、あまりそういう雰囲気はない

 

ごめーんね!

 

全国の中学三年生諸君!

 

私はこの夏も全力で謳歌します!

 

……とも言ってられないんだよなあ

 

今年は三年に一度のバトルシティ大会があるし……

 

学年ランキング十位以内は予選免除。

 

でも私は十五位。

 

九月から始まる予選までに十位以内を目指すとなると……

 

夏休みも、遊んでばかりはいられない。

 

夏休みは一ヶ月

 

この期間でデッキの見直しに、プレイングの勉強

 

強くなるために、やれることは全部やろう

 

幸いにも今年は、お兄ちゃんがいるし!

 

みっちり鍛えてもらおうかなあ

 

……そうだ!

 

瑠奈や黒機くんも誘って、お兄ちゃんに特訓してもらう合宿とか面白いかも!

 

ちょっとワクワクしてきたなあ!

 

楽しみ!

 

◇◇◇

 

はい、どーも

 

神崎雄輝です

 

本日は終業式だというのに、俺は今――

 

海馬コーポレーション社長室の前にいます

 

理由は、今朝届いた一通のメール

 

『至急、社長室まで来い』

 

……以上

 

ぶっちゃけ!

 

イヤーな予感しかしない

 

あの理不尽社長から呼び出されて、いいことなんて一度もなかったからな!

 

……

 

気づかなかったことにして、逃げようかな

 

「貴様、いつまでそこにいるつもりだ

さっさと入ってこい」

 

……

 

おいおい

 

なんで分かったんだよ

 

まだノックもしてないぞ……

 

……

 

あ。

 

あそこにある監視カメラか

 

おのれ!

 

文明の利器!!

 

許すまじ!!

 

はあ……

 

もうバレてるし

 

仕方ない

 

諦めて行くか……

 

そもそも、この街に住んでる時点で負けなんだよ

 

あの魔王(海馬社長)から逃げ切れる人間なんて存在しねぇ……

 

そうして観念した俺は、諦めてドアをノックした

 

「失礼しまーす……」

 

重厚なドアの向こう

 

豪華な執務机の奥には、腕を組んだ海馬社長が座っていた

 

「貴様……無駄に十分もドアの前で粘りおって」

 

すると俺は悪びれることもなく肩をすくめる

 

「あなたの呼び出しに応じて、良かった試しがないもんで」

 

「ふん、この俺が貴様なんぞと楽しく談笑するために呼び出すと思っているのか?」

 

「って…やっぱり面倒事じゃねぇか!!

嫌ですよ!俺は!教師の仕事で手一杯です!」

 

「貴様に拒否権など最初から存在しない」

 

海馬瀬人は真顔で言い切る

 

「俺の人権はないんか!!ちくしょおお!!」

 

俺の叫びにも、海馬は眉一つ動かさない

 

「それに――」

 

一瞬、社長室の空気が張り詰めた

 

「この話を聞かなくても、貴様は巻き込まれるだろう」

 

空気が変わったことを敏感に察した俺は、表情を引き締める

 

「……どういう意味ですか?」

 

海馬はゆっくりと椅子を回転させ、窓の外へ視線を向けた

 

「昨晩――我が海馬コーポレーションから、三枚のカードが強奪された」

 

「……三枚のカード?」

 

海馬は淡々と事件の概要を語り始めた

 

犯人は三人

 

元海馬コーポレーション社員

 

御堂 一真、黒瀬 隼人、鷹城 蓮司

 

三人は長年にわたり会社の資金を横領

 

証拠を掴んだ海馬自らが、懲戒解雇を言い渡したという

 

その結果、三人は海馬を逆恨みし──

 

昨晩、海馬コーポレーションへ侵入

 

厳重に保管されていた三枚のカードを強奪した

 

そして海馬はゆっくりと振り返り、俺を真っ直ぐ見据える

 

「奴らが盗んだカードは──」

 

わずかな沈黙が社長室を包む

 

「三幻魔と呼ばれるカードだ」

 

三幻魔……?

 

長年デュエリストとして戦ってきた俺ですら、聞いたことのないカードだった

 

すると海馬社長は静かに続ける

 

「この三枚のカードは……現実に影響を及ぼす危険なカードだ」

 

「そんな馬鹿な!」

 

思わず声を荒げてしまう

 

「ソリッドビジョンで投影されたカードが、現実に影響を及ぼすなんて……!」

 

だが海馬は首を横に振った

 

「事実だ…… この世界には現実に影響を及ぼすカードは存在する」

 

あまりにも突拍子もない話に、言葉を失う

 

そんな俺を見据えたまま、海馬は静かに続けた

 

「この俺自身、神のカード《オベリスクの巨神兵》を使っていた…… あれもその類のカードだった」

 

ソリッドビジョンが、現実に影響を及ぼす……

 

信じられない話だ

 

だが、海馬社長自らが体験したことがあるというのなら、事実なのだろう

 

だが……

 

「具体的にどんな影響が?」

 

「敗北したデュエリストの魂を喰らう」

 

「魂を……喰らう?」

 

「そうだ」

 

海馬の表情に冗談を言っている様子は一切ない

 

「秘匿されていた記録には、三幻魔によって街一つが崩壊したと記されている」

 

……よく分かった

 

この人が俺を呼び出した理由が

 

デュエリストの魂を喰らうということは

 

狙われるのはデュエリストだ

 

俺一人なら、どうとでもなる

 

だが……

 

デュエルアカデミアの生徒たちまで狙われるとなれば話は別だ

 

俺の反応を見て

 

事態の深刻さを理解したことを察した海馬社長は静かに口を開く

 

「我が社も総力を挙げて奴らを捜し出す」

 

その言葉には一切の迷いがなかった

 

「貴様も用心しておけ」

 

その言葉の意味は痛いほど分かった

 

守るべきなのは、自分ではない

 

生徒たちだ

 

「……分かりました ありがとうございます」

 

そう言って、俺は社長室を後にした

 

海馬コーポレーションの長い廊下を歩きながら

 

先程の会話を頭の中で整理する

 

……ソリッドビジョンが現実に影響を及ぼす

 

そんなこと、本当に……

 

魂を喰らうとは、どんな状態なんだ?

 

無差別に襲うのか

 

それとも、ある程度強いデュエリストを狙うのか

 

くそっ……

 

ダメだ

 

情報が足りねぇ

 

その時

 

ピロン♪

 

雄輝の携帯端末に一通のメールが届いた

 

メール?

 

さすが海馬コーポレーション

 

もう新しい情報が……!?

 

端末を開く

 

だが、表示された差出人は海馬コーポレーションではなかった

 

ある人物から届いた一通のメール

 

『ここどーこだ?』

 

本文はそれだけ

 

添付されていたのは、一枚の自撮り写真

 

そこには──

 

デュエルアカデミアが映っていた

 

……

 

……

 

のおおおおおお!!?

 

なんであいつがいるんだァァァ!?

 

まずい!!

 

絶対ろくでもないことをやらかすつもりだ!!

 

そう叫ぶや否や、雄輝は海馬コーポレーションの長い廊下を全力で駆け出した。

 

◇◇◇

 

キーンコーンカーンコーン

 

本日のホームルーム終了を告げるチャイムが校内に鳴り響く

 

小町のクラスでも、生徒たちはこれから始まる夏休みに胸を躍らせながら、次々と教室を後にしていく

 

そんな中、黒機と瑠奈が小町の席へやって来た

 

「先生どうしたんだ? 朝から姿が見えないが?」

 

黒機が首を傾げる

 

「ホームルームも代理で教頭先生が来てたし」

 

瑠奈も不思議そうに続けた

 

「いや、朝は普通にお兄ちゃん家にいたけど……」

 

「神崎も知らないのか……」

 

黒機が腕を組む

 

「うーーーん……」

 

三人は揃って首を傾げる

 

だが、その疑問に答えられる者は誰もいなかった

 

「とりあえず帰るか」

 

考えていても仕方がない

 

黒機はそう言って荷物を肩へ担ぐ

 

「そうだね、どっか食べにでも行こうよ、小町」

 

瑠奈が笑顔で誘う

 

「うん……」

 

小町も荷物を持ち、三人は教室を後にした

 

三人は校舎を出て、校門へ向かう

 

夏休み初日ということもあり、校内はいつも以上に賑わっていた

 

その様子を、校門近くから一人のサングラスをかけた少女が静かに眺めている

 

肩まで伸びた金色の髪が風に揺れた

 

少女は一人ひとりの顔を確かめるように視線を巡らせる

 

そして──

 

「あっ」

 

目当ての人物を見つけた瞬間

 

口元がゆっくりと吊り上がる

 

ニヤリ……

 

◇◇◇

 

お兄ちゃん……

 

どうしたんだろ?

 

朝は普通にいたよね?

 

というか、私を起こしたのもお兄ちゃんだし

 

いつも通り朝ごはんも作ってくれた

 

私が家を出た後に何かあったのかな?

 

でも、教頭先生も「私用で休み」としか言ってなかったし

 

事故とか、そういうわけじゃなさそうだけど……

 

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、私は校門へ向かった

 

「ねぇ、君たち……ちょっといいかな?」

 

聞き慣れない女性の声に、私たちは足を止める

 

振り返ると、サングラスを掛けた金髪の女性がこちらを見ていた

 

口元には、人懐っこい笑み

 

だけど、その笑顔がなぜか妙に気になった

 

「この学校に神崎雄輝っている?」

 

女性が、にこやかに尋ねてきた

 

その瞬間

 

瑠奈と黒機くんの視線が同時に私へ向く

 

えっ……

 

私?

 

「私の兄ですが……あなたは?」

 

すると女性は満面の笑みを浮かべ

 

信じられないことを口にした

 

「私?私はねぇ……

彼のフィアンセです♡」

 

……

 

……

 

は?

 

「えっ……?」

 

「フィアンセ?」

 

瑠奈と黒機くんが揃って固まる

 

フィアンセ?

 

あのマドレーヌみたいなお菓子?

 

……

 

いや、それ違う

 

それ、フィナンシェ

 

……

 

……

 

フィアンセええええええ!!?

 

はいいいいいい!!?

 

完全に固まってしまった、その時だった

 

ドドドドドドドッ!!

 

校門の向こうから、ものすごい勢いで砂埃が舞い上がる

 

「えっ?」

 

全員がそちらへ視線を向ける

 

そして――

 

「ちょっと待て、このアマァァァァァ!!!」

 

聞き慣れた声が校門中に響き渡った

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

その姿を見た瞬間、女性はケラケラと笑いながら駆け出した

 

「あははー! 早かったね、ユウ!」

 

「シルヴィィィ!!」

 

息を切らしながら追い掛ける雄輝が怒鳴る

 

「貴様ぁ!! 性懲りもなくベタな嘘をつきやがってぇぇぇぇ!!」

 

「ユウ、元気そうだね! 安心したよ!」

 

シルヴィはケラケラと笑いながら逃げる

 

「待ちやがれ!! 今日という今日は絶対に許さん!!」

 

雄輝もその後を全力で追い掛ける

 

あっという間に二人の姿は校門の向こうへ消えていった

 

……

 

……

 

その場に取り残された私たちは

 

ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった

 

何が起きているのか

 

誰一人、理解できなかった

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