遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity   作:NONAME0195

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第14話 未来への希望

……私たちは一体、何を見せられてるんだろうか?

 

いきなり見知らぬ女性に話しかけられたと思ったら、

 

その人は、お兄ちゃんのフィアンセだと言う。

 

頭の中は大混乱。

 

何がどうなっているのか、まったく理解が追いつかない。

 

……なのに。

 

当の本人たちはというと──

 

校門前で全力の追いかけっこを繰り広げていた。

 

「待てぇぇぇぇ!!」

 

「やだよー!」

 

「あはははっ!」

 

「逃げんな、このアマァァァァ!!」

 

「捕まえてごらーん♪」

 

校門前を縦横無尽に駆け回る二人。

 

お兄ちゃんは必死の形相で追いかけ、

 

金髪の女性は楽しそうに笑いながら軽やかに逃げ回る。

 

……。

 

…………。

 

いや。

 

なんなの、この人たち。

 

「……小町」

 

瑠奈が恐る恐る口を開く。

 

「う、うん……」

 

「これ……止めなくていいの?」

 

「いや、無理だろ……」

 

黒機くんも呆れたように頭を掻いた。

 

「先生があそこまで必死に追いかけ回してる姿、初めて見たな……」

 

その言葉に、私は思わず頷くしかなかった。

 

◇◇◇

 

しばらく白熱した追いかけっこの末、

 

ようやくお兄ちゃんが金髪の女性を捕まえた。

 

肩で大きく息をするお兄ちゃんとは対照的に、

 

当の女性はどこか楽しそうに微笑んでいる。

 

……。

 

なんで追いかけられてる方が、こんなに余裕なんだろう。

 

「だらしないなー、ユウは! もうバテたの?」

 

「はぁ……はぁ……っ! てめぇ……っ、逆に……なんでそんなに……余裕なんだよ……」

 

女性はクスッと笑う。

 

「毎日ちゃんと走ってるからかな?」

 

二人はまるで昔からの友達のように言い合っている。

 

……。

 

…………。

 

いや。

 

そろそろ説明が欲しいんだけど。

 

「お兄ちゃん」

 

私は恐る恐る声を掛けた。

 

「この人……誰?」

 

「えー? だから私は彼のフィアン──」

 

「おい」

 

低い声が割って入る。

 

次の瞬間。

 

ガシッ。

 

お兄ちゃんの右手が、女性の頭をわし掴みにした。

 

いわゆる――アイアンクローである。

 

「ごめんなさい、嘘です」

 

女性は一秒で前言を撤回した。

 

お兄ちゃんはアイアンクローをかけたまま続ける。

 

「いいから真面目に自己紹介しろっ!

いつまでバカやるつもりだ!」

 

「いたたたたっ!」

 

女性は頭を押さえながら苦笑する。

 

「いやー、ついついユウの反応が面白くて♪」

 

「面白くねぇ!」

 

「毎回ちゃんと引っ掛かってくれるじゃん?」

 

「てめぇ!誰のせいだと思ってる!」

 

「はいはい、ごめんごめん」

 

女性は姿勢を正し、私たちへ向き直った。

 

「改めまして――

私の名前はシルヴィア・エミリー・カーター!」

 

それはそれは綺麗なウィンクを一つ。

 

「一応、プロデュエリストよ♪」

 

その一言に、私たちは顔を見合わせた。

 

「プロって……え?」

 

瑠奈が目を丸くする。

 

その隣で、黒機くんの表情が変わった。

 

「シルヴィア・エミリー・カーター……

ま、まさか……世界ランキング十五位の……!?」

 

お兄ちゃんは額に手を当てた。

 

深いため息が漏れる。

 

「……残念ながら、その通りだ」

 

俺は隣に立つシルヴィを親指で指した。

 

「こんなド阿呆だが……

 

れっきとした世界ランカーの一人だ」

 

私は思わずシルヴィアさんを見つめる。

 

「えええええええぇぇぇぇ!!?」

 

◇◇◇

 

ったく……

 

シルヴィのせいで、また要らん体力を使わされた。

 

何より腹立つのは――

 

俺がこんなヘロヘロになってるっていうのに、

 

この女ときたら、ケロッとしやがって。

 

……というか、そもそも。

 

「シルヴィ……」

 

俺は呆れ半分、ため息混じりに口を開く。

 

「お前、なんで日本にいるんだよ?」

 

「え? ユウに会いに来たからだけど?」

 

「てんめぇ……真面目に答えろ!!」

 

「いやいや、大マジです♪

モデルの仕事が一段落して長い休みをもらったの

だから真っ先にユウに会いに来た♡」

 

……なんですと!?

 

つまりこいつは……

 

貴重な休みを使って

わざわざ俺に会いに来たってことか?

 

それって……つまりは……

 

「シルヴィ……おまえ……」

 

なぜか三人とも息を潜め

俺の方をじっと見つめている。

 

「休みに遊んでくれる友達いねぇのか?」

 

見ていた三人は

 

見事なシンクロでズコーッ!!

 

仲良く同時にズッコケた。

 

シルヴィに至っては、まるでアホを見るような目で俺を見てやがる。

 

……いや、なんでだよおい!!

 

◇◇◇

 

ほんっと、お兄ちゃんって……

 

こと恋愛に関しては鈍感の極みなんだよねぇ。

 

昔からそう。

 

傍から見れば、相手がめちゃくちゃ好意を寄せてるのなんて丸分かりなのに……

 

当のお兄ちゃんは、全然気付いてない。

 

…………って、そうじゃない!!!

 

今はアホなお兄ちゃんのことは置いといて!!

 

シルヴィアさん!!

 

これ絶対、お兄ちゃんのこと好きじゃん!!

 

なんで!?

どーゆーこと!?

 

えっ?

 

義理のお姉ちゃん候補!?

 

いやいやいや!!

 

どこで知り合ったのさ、お兄ちゃん!!

 

……と、完全にパニックに陥っている私に代わって

 

「あのー……お二人は、どういうご関係で?」

 

と瑠奈が聞いてくれた。

 

そう!!

それ!!

それが聞きたかった!!

 

隣では、黒機くんも「それが聞きたかった」と言わんばかりに何度も頷いている。

 

すると、シルヴィアさんが何か言おうとした。

 

けれど、その前にお兄ちゃんが答えた。

 

「シルヴィは俺がアメリカで戦ってた時の……

戦友? みたいなもんだ」

 

「まーた照れちゃって♡

同棲してた仲じゃない♪」

 

「わざと誤解されるような言い方をするんじゃねぇ!!!

お前がファンに自宅を特定されて、逃げ込んできたんだろうが!!」

 

それはそれでどうなんだろう……

 

私たち三人は、同じことを思っていた。

 

「てめえ……忘れたとは言わせねぇぞ?

おかげで、お前のスキャンダルに巻き込まれて……

俺の家に怪文書が山ほど送り付けられてきたことを!!!」

 

すると黒機くんが、何かを思い出したように声を上げた。

 

「思い出した!!

一時期、シルヴィアさんに恋人ができたって大騒ぎになった事件!!

あれの相手って……先生だったんですか!?」

 

すると、お兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「そうだ!!

なんとか本名だけは隠し通したが……

ネット警察どもに特定されて、えらい目にあった」

 

「あははー♪ そんなこともあったねぇ♡」

 

「いや、そもそもですよ!

どんなきっかけがあって、そんなに仲良くなったんですか!?」

 

と、瑠奈が私たちみんなが一番知りたかったことを聞いてくれた。

 

そう!!

それ!!

今度こそ、それが聞きたかった!!

 

「え?

ユウとは世界ランキング戦で何度も戦ってるよ?

だって、ユウ元世界ランキング11位だもん♪」

 

…………。

 

その場の空気が止まった。

 

「「「…………え?」」」

 

えええええええ!!?

 

いや!!

 

お兄ちゃんが世界に挑戦してたことは知ってた!!

 

でも……

 

世界ランキング11位!?

 

それって……

 

ほんとに世界トップクラスじゃん!!

 

瑠奈も言葉を失っていた。

 

「じゅ、十一位って……

世界大会の常連レベルじゃないですか……」

 

黒機くんも信じられないという顔で、お兄ちゃんを見つめている。

 

「先生……あんた、一体どこまで化け物なんですか……」

 

シルヴィアさんは目をぱちくりとさせ、不思議そうにお兄ちゃんを見る。

 

何か言おうとして――

 

お兄ちゃんと目が合う。

 

「……そっか♪」

 

小さく笑うと、肩をすくめ、それ以上は何も言わなかった。

 

「さて、お前ら……

俺はこいつと少し話があるから、先に帰ってろ」

 

「えっ♡ やっと告白してくれるの?」

 

「やかましいわ  この阿呆が!!」

 

「じゃあね、小町ちゃん♪ また遊ぼうね♡」

 

「は、はい……」

 

私たちは三人そろって帰路につく。

 

振り返ると、お兄ちゃんとシルヴィアさんは並んで歩き始めていた。

 

……やっぱり。

 

あの二人には、私の知らない時間があるんだ。

 

◇◇◇

 

小町たちと別れた後。

 

俺たちは、とあるチェーン店の居酒屋へやって来た。

 

「もっとオシャレな店なかったの?」

 

店の看板を見上げたシルヴィが、半ば呆れたように言う。

 

「知るかっつーの!」

 

俺は即座に言い返した。

 

「人見てから言え!

 

この俺が、そんなオシャレな店に通ってるように見えるかっつーの!」

 

「……ぷっ」

 

シルヴィは吹き出すと、肩をすくめた。

 

「ま、そうだね♪」

 

そう言って店内へ足を踏み入れる。

 

「実は私も、こういう店の方が好きなんだよね」

 

「は?」

 

「普段はスポンサーとの会食とか、パーティーとか、堅苦しい食事ばっかりだからさ」

 

シルヴィは苦笑する。

 

「プライベートくらいは、気を遣わずにご飯食べたいもん」

 

「だったら最初から文句言うな」

 

「ユウの反応が見たかっただけ♡」

 

「てめえ……」

 

「あははー♪」

 

なんてやり取りをしているうちに、店員に案内され個室へ通された。

 

ちなみに個室を選んだ理由は一つ。

 

シルヴィが目立つからだ。

 

……いや、性格はともかく。

 

見た目だけは文句なしの美人だからな。

 

カウンター席なんかに座れば、間違いなく周囲の視線を集める。

 

見た目だけは。

 

大事なことだから、もう一度言う。

 

見た目だけは。

 

「……聞こえてるよ?」

 

「ちっ」

 

「舌打ちした!?」

 

「訂正する」

 

「うんうん♡」

 

「性格が全てを台無しにしてる」

 

「訂正どころか悪化してるんだけど!?」

 

店員が静かに個室の扉を閉める。

 

さっきまでの店内の喧騒が、少し遠くなった。

 

俺はジョッキに手を伸ばす。

 

その時だった。

 

「やっぱり……あの世界戦のことは言ってなかったのね」

 

シルヴィがぽつりと呟く。

 

「ああ」

 

俺はジョッキを傾ける。

 

琥珀色の液体が喉を通る。

 

少し苦い。

 

昔を思い出すには、ちょうどいい味だった。

 

「日本じゃ知られてないからな」

 

「……そうね」

 

シルヴィも静かに頷く。

 

店の外からは笑い声が聞こえてくる。

 

けれど、この個室だけは別世界のように静かだった。

 

「あの試合……俺はランキング一位と戦って、完膚なきまでに叩きのめされた」

 

苦笑する。

 

あの場で一番近くで見ていたシルヴィなら、説明するまでもない。

 

奴らが使っていたカードは、俺たちの知るものとはまるで違っていた。

 

そして、あの日初めて目にした。

 

俺たちの知らない、新たな召喚法を。

 

あの日、俺は初めて知った。

 

世界のデュエルは、日本が見ている景色とはまるで違うことを。

 

プロになればスポンサーが付く。

 

それ自体は珍しい話じゃない。

 

カードメーカー。

 

デュエルディスクメーカー。

 

飲料メーカー。

 

アパレル企業。

 

世界中の企業が、有望なデュエリストへ声を掛ける。

 

だが。

 

世界ランキング十位以内だけは違った。

 

スポンサーになるのは、世界経済すら動かす超巨大企業。

 

俺たちとは住む世界そのものが違っていた。

 

その企業には、一つだけ特権があった。

 

インダストリアル・イリュージョン社へ、

極秘のカード開発を依頼できることだ。

 

依頼されるのは、新たなカード。

 

そして、そのカードから生まれた新たな召喚法。

 

世界選手権。

 

世界ランキングに関わる公式戦。

 

その限られた舞台だけで使用を許された、切り札だった。

 

「ええ……彼らがワールドツアーで使っていたデッキは全部"公開用"」

 

シルヴィは静かにそう言い切った。

 

その通りだ。

 

世界中のファンが見ていたのは、あくまで表の顔。

 

本当の切り札は、誰にも明かされない。

 

トップランカーは企業の象徴。

 

自社の技術や戦略を背負う存在だ。

 

だから、十位以内のランキング戦は非公開。

 

デッキリストはもちろん、デュエル映像すら外へ出ることはない。

 

世界選手権でさえ例外ではない。

 

表に出るのは勝敗と順位だけ。

 

その裏でどんなカードが使われ、どんな召喚法が披露されたのか。

 

それを知る者は、ごく限られた関係者だけだった。

 

「3年……

3年間、対抗できる手段を探して世界を戦い続けた……

……結局、見つけられなかったな」

 

シルヴィは少しだけ目を伏せる。

 

「……だから、ユウは世界を去ったのね」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

俺は空になりかけたジョッキへ視線を落とす。

 

「ああ」

 

グラスの底には、溶けかけた氷が一つだけ転がっていた。

 

「でも……

最近、生徒たちを見てると思うことがある」

 

俺は小さく笑う。

 

「もしかしたら……

俺には見えなかった答えを、あいつらが見つけてくれるんじゃないかってな」

 

目を閉じる。

 

不器用でも、必死にもがきながら前へ進む生徒たちの姿が、次々と脳裏をよぎった。

 

シルヴィは、どこか嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふっ……

ユウも、いい先生やってるのね」

 

俺は照れ隠しにジョッキを口へ運ぶ。

 

「……うるせぇよ」

 

店の外から聞こえる賑やかな笑い声。

 

あいつらなら。

 

きっと俺が辿り着けなかった景色まで、歩いていける。

 

そんな気がしていた。

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