遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
酒を飲みながら、他愛もない話を続ける。
昔話で笑って。
近況を話して。
気付けば、テーブルの料理はほとんど空になっていた。
俺は何気なく腕時計へ目をやる。
時刻は午後九時を回っていた。
思った以上に話し込んでいたらしい。
「そろそろ帰るぞ」
空になったグラスをテーブルへ置き、立ち上がる。
「えーーー……もう出にゅのーー?」
……。
俺はゆっくりシルヴィを見る。
頬はほんのり赤く染まり。
目はとろんとして焦点が合っていない。
「……お前」
「ん~?」
「酔ってるだろ」
「よってにゃいもーん♪」
……完全に酔ってやがる。
なんだ。
“出にゅの”って。
思わずため息が漏れる
めんどくさい。
こうなったこいつは、大体こう言う。
「ユウ、おぶって〜♡」
……ほーらな。
そうなると思ってたよ。
毎回このパターンだ。
そして俺は知っている。
どうせ、こいつ──
「お前、今日の寝床は?」
シルヴィは人差し指を立て、にこっと笑う。
「ん〜? ユウの家♡」
……はい、知ってたー。
なんとなく察してたもんねぇ。
だって。
そこにキャリーケースあるもんねぇ。
ホテルにチェックインしてないもんねぇ。
思わず額を押さえる。
「お前……最初っから、そのつもりだっただろ」
「えへへ♪」
否定しねぇ。
こいつ、確信犯だ。
はぁ……。
俺がどれだけ抵抗しようが、最後に折れるのは結局俺。
分かってる。
長年の付き合いだ。
無駄な抵抗は、精神衛生上よろしくない。
……時には諦めも大事なんだよ。
とりあえず会計を済ませるとしよう……。
俺は伝票を手に取り、レジへ向かう。
会計を済ませ、戻ってくると──
「ほら、帰るぞ」
「おぶってー♡」
……まだ言うか。
「歩け」
「やだぁ〜」
「……」
やっぱり、こうなるのか。
これ以上言い合っても無駄だ。経験上、分かっている。
悟りを開いた俺は、黙って背中を向け、その場にしゃがみ込む。
「えへへ〜♡」
待ってましたとばかりに、シルヴィは嬉しそうに俺の背中へ飛び乗った。
「よっと♪」
そのまま首へ腕を回し、ぎゅっと抱きついてくる。
「苦しい」
「えへへ、ごめんごめん♪」
……絶対、反省してねぇな。
俺は小さくため息をつき、そのまま立ち上がる。
「おっとっと♪」
背中でシルヴィが楽しそうに笑う。
「落ちるなよ」
「ユウが落とさなければ大丈夫♡」
なんで俺の責任なんだよ……
そんな他愛もないやり取りを交わしながら、俺たちは居酒屋を後にした。
店の外へ出ると、夜だというのにジメッとした暑さが肌にまとわりつく。
勘弁してくれよ。
このクソ暑い中、お荷物を背負って帰るのかよ。
……お荷物?
もちろんシルヴィのことだ。
……キャリーケース?
「後で取りに来るから置いといて〜♪」
なんて言うもんだから、そのまま店に預けてきた。
……。
あれ?
よく考えたら、取りに来るの俺じゃねぇか。
……めんどくせえええ!!
「くふふ〜♡ らくちーん♪」
……この酔っぱらい、どうしてくれよう。
今すぐぶん投げたい衝動に駆られる。
……が、なんとか押さえ込む。
「ぎゃあああ!!」
突然、夜の静寂を切り裂くような悲鳴が響いた。
同時に、路地裏の奥から不自然な光が夜空を照らす。
「シルヴィ!!」
振り返るまでもなかった。
さっきまで酔っていたはずのシルヴィは、もう笑っていない。
無言で頷く。
それだけで十分だった。
俺たちは同時に駆け出した。
そして、路地裏を曲がると──
一人の男が道路に倒れていた。
周囲には、無数のカードが散乱している。
手からこぼれ落ちたデッキは、アスファルトの上へ無惨に撒き散らされていた。
「おい、大丈夫か!」
俺は男のもとへ駆け寄る。
シルヴィは周囲へ鋭い視線を走らせる。
……だが、犯人らしき姿はどこにも見当たらなかった。
「ユウ! その人は!?」
俺は倒れている男の容態を確認する。
……呼吸はある。
外傷も見当たらない。
だが。
目を見開いたまま、まるで反応がない。
焦点の合わない瞳は、何も映していないようだった。
……まるで、魂だけを抜き取られたような。
◇ ◇ ◇
「では……他にも被害者がいるってことなんですか?」
「ああ」
海馬社長は即答した。
「貴様が発見した現場を含め、同時刻に三件発生している」
三件……。
つまり、三人も犠牲になったということか。
「そのいずれも意識を失ったまま倒れている」
海馬社長は一拍置き、静かに続ける。
「……まるで、魂だけを抜き取られた抜け殻のようにな」
三幻魔のカードは三枚。
そして、犯人も三人。
……つまり。
三人が、それぞれ別の場所で。
同時刻に襲撃を仕掛けたということか。
「いずれにしても、貴様も用心しておけ」
「分かりました」
「何か動きがあれば、すぐに連絡しろ」
「はい」
通話が切れる。
携帯を下ろした瞬間だった。
「ユウ……」
振り返ると、シルヴィが真剣な表情で俺を見つめていた。
「あなた……何に巻き込まれてるの?」
……どうする。
話せば、こいつは絶対に「協力する」と言い出す。
できることなら……
シルヴィも。
小町たち生徒も。
危険に巻き込みたくはない……。
だが。
シルヴィに隠し事を隠し通せた試しがねぇ。
黙り込む俺を見つめるシルヴィ。
その声は、さっきまでの酔っぱらいとはまるで別人だった。
「ワタシはユウに守られるだけの人ではないよ?」
ああ……そうだったな。
お前は、そういうやつだった。
俺は小さく息を吐く。
「……分かった」
そうして俺は、シルヴィに全てを話した。
昨夜、海馬コーポレーションで起きた事件。
三幻魔のカードが盗まれたこと。
そのカードが、現実に影響を及ぼす危険な力を持っていること。
そして――
今夜、この街で起きた魂を抜かれたような事件との繋がり。
俺の知ってることを全て話した
「ソリッドビジョンが現実に影響を及ぼす……」
その言葉を反芻するように、シルヴィは小さく息を吐く。
「とても信じられないことね……」
まあ、そりゃそうだ。
俺自身、目の前で起きたことだって、いまだに信じ切れていない。
シルヴィはしばらく黙り込んでいた。
やがて、小さく息を吐く。
真っ直ぐ俺を見つめる。
「でも……ユウがそう言うなら、本当なんだね」
突拍子もない話だ。
信じろと言う方が無茶だ。
それでも、シルヴィは信じてくれた。
……助かる。
そんなこと、口にはしねぇけどな。
「それで? ユウはどうするつもりなの?」
その問いに、俺は静かに考える。
……決まってる。
放っておけば、被害者は増える。
小町たちのところまで危険が及ぶ前に。
奴らを探し出す。
そして――
ぶちのめす。