遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
炭火の上では、大量の肉が焼かれていた
じゅうじゅうと音を立てながら、脂が弾ける
その網の前に、不動明王の如く鎮座するお兄ちゃんは、絶妙な焼き加減を見極めながら、次から次へと肉を焼いていく
次の肉を置く
焼く
また焼く
ひたすら焼く
そして、焼き上がった肉を黒機くんが私たちの皿へと運んでいく
「はい、神崎」
「ありがとー!」
受け取ったお肉を一口
「ふおーーー、お肉美味しぃぃぃぃ!!」
お兄ちゃんが焼く
黒機くんが運ぶ
私たちが食べる
その繰り返し
もはや、これは完全なる流れ作業だった
お兄ちゃんは肉を焼き
黒機くんは肉を運び
私たちは肉を食べる
なんて素晴らしいシステムなんだろう!
「……先生」
「ん?」
「俺、なんでここにいるんでしょうか?」
「いや、ほらー」
お兄ちゃんは網の上の肉をひっくり返しながら、何でもないことのように答える
「朝比奈と小町がバーベキューやるって言ったからー」
「はい」
「誘ってやらないと思ってーー」
「はい」
「まあ、俺の優しさ的な?」
「…………」
黒機くんがじっとお兄ちゃんを見る
「へー」
「なんだよ」
「それで、本音はなんです?」
「…………」
お兄ちゃんの手が止まる
そして、何故か妙に真面目な顔で口を開いた
「俺だけで小町と朝比奈とシルヴィの世話なんてやってられるか」
「…………」
「俺がパシっても心傷まないのは黒機しかいねぇだろが」
「やっぱり、いつものやつじゃねぇか!!!」
「はっはっは!」
「笑って誤魔化さんでください!!!」
なんだかんだ言って、この二人って仲良いんだよね
黒機くんも、文句は言うけど、お兄ちゃんに呼ばれれば結局ちゃんと来る
お兄ちゃんも、むちゃくちゃなことばっかり言ってるけど、何かイベントがあるたびに黒機くんには声をかけている
なんだかんだ、お互いに信頼してるんだと思う
……まあ
生徒と教師の会話ではないけども
そんなわけで私たちは今、デュエルシティ南地区の海浜公園でバーベキューをしてます!
ここはバーベキューセットの貸し出しをしているので、材料さえ持っていけば、手軽にバーベキューができるのです
えっ?
材料費はどうしたのかって?
そりゃ、もちろん……
ありがとう、お兄ちゃん! 愛してるー!
ってわけです♥
ちなみに、ここまでの移動も
お兄ちゃんがレンタカーを借りて
お兄ちゃんが運転して
私たちは乗ってきただけです♥
「ほれ、黒機! お前も肉食え、肉」
「あっ、ではいただきます」
お兄ちゃんは焼き上がった肉をトングで取り、黒機くんの皿へと放り込む
「遠慮せずに、ガンガン食えよ!
まだまだ肉はあるんだから! お残しは許しません!」
そう言うと、お兄ちゃんは黒機くんの皿に山盛りの肉を盛る
「ちょ!? 先生多い多い!!」
「男の子だろ! 四の五の言わずに食わんかい!」
「いや、これ全部は……!」
「食える食える!」
「無理ですって!」
なんだかんだ言って、お兄ちゃんって優しい……のかな?
「ユウ〜、私もう一本〜」
「…………」
振り返ると、シルヴィアさんはいつの間にかビールの缶を積み上げるほど飲んでいた
「てめえは!! 遠慮をしろ!!!」
「えへへー、やっぱ外で飲むお酒おいしーー」
「話を聞けぇぇえええ!!」
お兄ちゃんの叫びも虚しく、シルヴィアさんはお酒を煽り続けていた
……この短時間で、その本数飲むシルヴィアさんって……
◇◇◇
それからしばらく、俺は生徒たちに肉を焼き続けた
焼いては食べさせ
焼いては食べさせ
ひたすら肉焼きマシーンと化していた
そんな中
「ユウ〜、もう一本にょーだい〜」
「お前はいい加減にせい!!」
俺はシルヴィアから空になった缶を取り上げる
「呂律回ってねぇじゃねぇか!!」
「まわってるもーん」
「回ってねぇ!!」
こいつは昔からそうだ
酒に強いわけじゃない
むしろ弱い
なのに、飲むスピードだけはやたらと早い
結果がこれだ
「シルヴィアさん、大丈夫なんですか?」
朝比奈が心配そうにシルヴィアを見る
「大丈夫なわけねぇだろ!」
俺は即座に言い返す
「そんなに酒強くないのに、がぶがぶがぶがぶ飲みやがって!!」
「えへへ〜、まだまだのめるもにぇ〜」
「飲めてねぇだろ!!」
「のめるもーん」
「呂律が回ってねぇんだよ!!」
「まわってるもーん」
「だから回ってねぇって!!」
「えへへへ〜」
「やめろ!! この酔っぱらいが!!」
俺はペットボトルの水をシルヴィの口に突っ込み、無理やり飲ませる
「おら! 飲め! 水!!」
「んぐっ……んぐ……」
「ほら! もっと飲め!」
「んぐぅ……!」
「酒はもう終わりだ! 水飲め、水!」
「ふぇ〜……」
「ふぇ〜じゃねぇ!!」
酒飲む度に介抱する俺の身にもなって欲しいものだ
しかも今回に至っては、肉を焼きながら!!
どんだけ忙しいんだよ、俺!
だが、俺にはお楽しみが待っている……
その前に……
「おい! お前ら! 網の上にある肉はもう食えるから、食べていいぞ!」
俺は生徒たちに声をかける
「俺はこのバカを、処理するから!」
「誰がバカよぉ〜」
「お前だよ!!」
俺はシルヴィを近くのベンチに寝かせるため、ズルズルと引きずっていく
「食べていいって……お兄ちゃん焼いてばっかで食べてないけど、いいの?」
「ああ……俺のことは気にするな、食べろ食べろ」
「それじゃ、遠慮なく……いただきまーーす!」
背後から聞こえてくる、生徒たちの楽しそうな声
そして、肉を頬張る音
俺は一度だけ振り返る
……よし
そのままシルヴィを引きずりながら、ベンチへ向かう
生徒たちは、まだ気づいていない
俺が何のために、ひたすら肉を焼いていたのかを……
そうしてシルヴィを、ベンチに寝かせ
色々と目に毒なので、上着をかけてやった
それから、しばらく経ったころ……
「もう食べられない……」
「お腹いっぱい……」
「先生、もう無理……」
三人の胃袋が、ついに限界を迎えた
……よし
俺は拳を握る
俺はこの時を!
この瞬間を待っていたんだーっ(ト◯ア風)
ここからは俺のターン
ふははははは
俺はクーラーボックスの奥底から、高級そうな箱に入った肉を取り出す
その瞬間
小町が驚愕に目を開いた
「お、お兄ちゃん……それは?」
俺はニヤリと高笑いをし
「ふははは! 聞いて驚け! 高級黒毛和牛の肉だ!!」
この俺が!
なんの打算もなく!
休日にあんなに働くわけはないだろ
馬鹿どもめ!
これは、休日にこの俺をバーベキューなんぞに引っ張り出したこいつらへの復讐
こいつらをやっすい肉で限界まで食べさせ
満を持して、この俺が高級肉を目の前で食べる!
……まあ、シルヴィが肉じゃなく酒でノックアウトしたのは予想外だが
それはそれ
目的は果たせるからオールOK
「そんな……なんて……なんて!!
なんて姑息なんだ、お兄ちゃん!」
小町が悔しそうにテーブルを叩く
「なんか、妙に大人しく働くと思ってたら……なんて大人気ないんだ」
黒機も頭を抱える
「高級肉……食べたい
けど、もうお腹にスペースがない……」
朝比奈も悔しそうに天を仰ぐ
「はーはっはっは!
イメージ通りのリアクションだ!
気分爽快!」
俺は満足げに笑いながら、箸を手に取る
「さーて、では高級肉いただっ――」
「おいしーーー!このお肉さいこー!!」
!?!?!?
俺は動きを止める
……え?
俺は声のした方へ振り向く
そこには
さっきまでベンチで寝ていたはずのシルヴィが
俺の高級黒毛和牛を頬張っていた
「馬鹿な!!なぜ!お前があ!?」
なぜ、まだ食える!?
「えっ?だってワタシそんなに食べてないよ?」
「そんなわけっ……あっ」
思い返せばこいつ、酒ばっか飲んで肉をあまり食べてなかったような……
「き、貴様! 俺の計画を読んでいたのか!?
なら、さっきのあれは酔ったフリを!?」
「いや、あれは普通に酔ってたよ」
「そこは嘘でも酔ってたフリと言えよ!!」
なんか情けなくなるだろうが!
「つか、なんでそんなに普通なんだよ!
さっきまでの酔いはどうした!?」
普通あんだけ酔ってたら、食べ物なんて受け付けないだろうが!
シルヴィは肉
俺の高級肉をもぐもぐしながら答える
「いや、ワタシ酔うのも早いけど、復活するのも早いもん」
ナンデスト……
そういえば、思い当たる節はあった……
前回こいつと居酒屋に行った帰り
ベロベロに酔っ払って、俺の背中で「らくちーん♪」なんて言ってたくせに
悲鳴が聞こえた瞬間、こいつは俺と一緒に全力で駆け出した
あの時は事件に気を取られて気にもしなかったが……
思い返せば、直前まで酔ってた人間が全力ダッシュできるわけがなかった
ということは……
「てめえ……あん時も今までも酔いが覚めてるの隠して俺におぶらせてたな」
「……てへっ☆」
「貴様あ!! 俺が何回おぶって帰ってると思ってやがる!!」
アメリカにいた時から考えたら、数え切れないぞ、コラ!!
「いやー、ユウは優しいよねぇ
大好きだよー」
なんて言いながら、もぐもぐもぐもぐ
シルヴィは肉を……
俺の黒毛和牛を頬張る
「チックしょぉぉおおおお!!」
返せ!!
俺の優しさを!!
そして高級肉を!!
そんな俺を見て、生徒たちは
「ねぇ、小町……私たちは何を見せられてるの?」
「んー……惚気じゃない?」
「いつもの事だ、気にするな」
ちくしょう!
どいつもこいつも勝手なこと言いやがって!!
「あ〜、おいしい〜♥」
「お前も食ってんじゃねぇ!!」
結局、俺はシルヴィに半分も食われてしまった……
くっそおおおおお!!
◇◇◇
それからしばらくして、ワタシ達は帰り支度を始めた
いやー、お肉美味しかったなあ♪
ユウもまだまだ甘いね
そんなところも可愛く思っちゃうのが、惚れた弱みかな!
さてと……
「小町! ワタシちょっと御手洗行ってくるね」
「あっ、はーい!」
小町の返事を聞き、ワタシはその場を離れる
ユウたちからだいぶ離れたところまで歩き
ワタシは立ち止まる
……そろそろいいかな
「そこの、ずっとワタシたちをつけてる人」
ワタシは鋭く目を細める
「出てきなさい」
この海浜公園についてから、ずっと感じていた視線……
ワタシの読みが当たっていれば、おそらく……
すると、物陰から一人の男が現れる
「きひっ、バレてたのか……
神崎雄輝ですら気づいてなかったのによくわかったな」
ユウのことを知ってる
ということは、やはり……
「残念だったね
あいにく、これでも一応モデルだからね
人の視線には敏感なの」
ワタシは男を真っ直ぐ見据える
「……あなた、三幻魔強奪犯の一人ね?」
男は不気味に笑いながら答える
「きひひ、そうさ
俺の名前は鷹城蓮司……
シルヴィア・エミリー・カーター……
あんたの魂を貰いに来た」
やっぱり……
ユウから、最近の被害者は強い女性デュエリストが狙われているから、気をつけろよと聞いていた……
犯人は、この人ってわけね……
「ワタシを狙うなんていい度胸ね
……後悔させてあげる、かかってきなさい」
「きひっ、いいねぇ……
強気な女は嫌いじゃないぜぇ
だが……ここじゃ目立ちすぎる
近くに使用されてない倉庫がある
ついてきな、きひっ」
ワタシは無言で頷き、男の後に続く
海浜公園を離れ、人気のない道を進んでいく
やがて見えてきたのは、古びた倉庫
周囲に人の気配はない
鷹城が倉庫の扉を開く
「さあ……入んな」
ワタシは一度だけ、後ろを振り返る
……大丈夫
今度はワタシがユウを守る
絶対に手を出させない
ワタシは倉庫の中へ足を踏み入れる
扉が、ゆっくりと閉じられた
「きひひ……」
男が笑う
その目に、先ほどまでの軽薄さはない
「ここなら、誰にも邪魔されねぇ」
「そうね」
「そういえば、なぜ俺の尾行に気づきながら1人になった?」
ワタシは拳を握りしめる
「簡単な話よ……」
ワタシの脳裏に浮かぶ
苦しみながら戦うユウの姿
そして……
夜中に痛みにうなされている姿
なにより……
ユウに、御堂相手とはいえ
デュエルで人を傷つけさせたこと
あの時のユウの苦しそうな顔が、今でも頭から離れない
ワタシは鷹城を真っ直ぐ見据える
「あなた達はワタシの1番大好きな人を傷つけた……」
「……」
鷹城の笑みが、わずかに止まる
ワタシはデュエルディスクを構える
「これ以上、ユウを苦しませることだけは……絶対に許さない」
「きひっ……いいねぇ
やっぱりお前は最高の獲物だ」
鷹城もデュエルディスクを構える
そしてーー
「「デュエル!!」」
再び、闇のデュエルが幕を開けた