遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity   作:NONAME0195

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第2話 「神崎先生」

静まり返っていた体育館に、一人の少女の叫び声が響き渡った。

 

「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 一瞬、時間が止まる。

 

 次の瞬間。

 

 全校生徒の視線が、一斉に神崎小町へ集まった。

 

「神崎?」

 

「どうした?」

 

「先生のこと知ってるのか?」

 

 ざわめきが広がる。

 

 隣にいた朝比奈瑠奈も慌てて小町の制服の袖を引っ張った。

 

 いつも笑顔を絶やさない彼女も、今は目を丸くしている。

 

「こ、小町!?」

 

「いや、だって!」

 

 小町は壇上を指差した。

 

「あれ、お兄ちゃんなんだけど!!」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして。

 

「……え?」

 

「兄?」

 

「先生が?」

 

「神崎さんの?」

 

 体育館中が一気にざわめき始める。

 

 壇上では校長が小さく咳払いをした。

 

「……どうやら、紹介が少し足りなかったようですね。」

 

 どっと笑いが起こる。

 

 ざわめきが落ち着いたのを確認すると、校長は改めてマイクを握り直した。

 

「神崎先生は、本校の卒業生です。」

 

「卒業後は世界を舞台にプロデュエリストとして活躍し、その経験を買われ、この春より本校へ着任していただきました。」

 

 生徒たちから驚きの声が上がる。

 

「プロだったのか!」

 

「世界ってすげぇ!」

 

「まだ若くない?」

 

「二十三歳らしいぞ!」

 

「しかも卒業生!?」

 

 教室中が騒がしくなる。

 

 だが、小町だけはその声がほとんど耳に入っていなかった。

 

(聞いてない……。)

 

(そんな話、一言も聞いてない……。)

 

(昨日まで普通に一緒に晩ご飯食べてたじゃん!)

 

(なんで何も言ってくれなかったの、お兄ちゃん!!)

 

 壇上を見る。

 

 そこには、いつも家で見る兄が立っていた。

 

 いや。

 

 違う。

 

 赤い教師用ジャケットを羽織り、生徒たちを見渡すその姿は、家でソファに寝転がっている兄とはまるで別人だった。

 

(……なんでそんな平然としてるのさ。)

 

 雄輝は小町の視線に気付いているのかいないのか、静かに一礼する。

 

「改めまして。」

 

「神崎雄輝です。」

 

「本日より、デュエル実技およびデッキ構築論を担当します。」

 

「一年間、よろしくお願いします。」

 

 それだけ。

 

 必要以上は語らない。

 

 短い挨拶だった。

 

         ◇

 

 始業式が終わる。

 

「起立!」

 

「礼!」

 

「ありがとうございました!」

 

 生徒たちは各教室へ向かい始めた。

 

 しかし今日だけは違う。

 

 廊下へ出た瞬間、小町はクラスメイトたちに囲まれてしまった。

 

「小町!」

 

「神崎先生ってどんな人なんだ?」

 

「プロって本当なの?」

 

「どんなデッキ使うんだ?」

 

「家でもデュエルするの?」

 

 質問が一気に飛んでくる。

 

「え、えっと……。」

 

 小町は少し考える。

 

「HERO使い。」

 

「甘いもの好き。」

 

「寝起き悪い。」

 

「休みの日はソファで寝落ちする。」

 

「プリン勝手に食べる。」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして。

 

「それ先生情報じゃなくて、お兄ちゃん情報じゃん!」

 

 朝比奈が思わずツッコミを入れる。

 

 クラス中がどっと笑った。

 

 その笑い声で、小町はようやく我に返る。

 

「あっ!」

 

「違う違う!」

 

「そうじゃなくて!!」

 

 頭を抱える。

 

「なんで先生なの、お兄ちゃん!!」

 

         ◇

 

 その頃――職員室。

 

「神崎先生。」

 

 一人の教師が笑顔で声を掛けた。

 

「早速ですが、三年A組のホームルームをお願いします。」

 

「はい。」

 

 雄輝は静かに名簿を受け取る。

 

 何気なく一番上を見る。

 

神崎 小町

 

 思わず苦笑が漏れた。

 

(……やっぱり担当か。)

 

(あの様子じゃ、かなり怒ってるだろうな。)

 

 小さく息を吐く。

 

 兄としてではなく、教師として。

 

 今日からはその境界線を引かなければならない。

 

「さて。」

 

 名簿を閉じる。

 

「初日くらいは、教師らしくするか。」

 

 そう呟き、職員室を後にした。

 

         ◇

 

 一方、その頃。

 

 三年A組。

 

「神崎!」

 

「先生来るぞ!」

 

「いや、お兄ちゃん来るぞ!」

 

「だから先生だって!」

 

「いや、お兄ちゃんだろ!」

 

 教室は始業式以上の大騒ぎだった。

 

 小町は机に突っ伏したまま頭を抱える。

 

「もぉぉぉぉ……。」

 

「頭が追いつかないよぉ……。」

 

 その時だった。

 

 ガラッ。

 

 教室の扉が静かに開く。

 

 さっきまで騒いでいた教室が、一瞬で静まり返る。

 

 赤い教師用ジャケットを羽織った雄輝が、ゆっくりと教壇へ向かった。

 

 教卓に名簿を置く。

 

 そして、教室を見渡しながら小さく笑った。

 

「……随分楽しそうだな。」

 

 その一言に、小町の肩がぴくりと震える。

 

(終わった……。)

 

 兄ではない。

 

 今、目の前にいるのは――

 

神崎先生だった。

 

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