遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
静まり返っていた体育館に、一人の少女の叫び声が響き渡った。
「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
一瞬、時間が止まる。
次の瞬間。
全校生徒の視線が、一斉に神崎小町へ集まった。
「神崎?」
「どうした?」
「先生のこと知ってるのか?」
ざわめきが広がる。
隣にいた朝比奈瑠奈も慌てて小町の制服の袖を引っ張った。
いつも笑顔を絶やさない彼女も、今は目を丸くしている。
「こ、小町!?」
「いや、だって!」
小町は壇上を指差した。
「あれ、お兄ちゃんなんだけど!!」
一瞬の沈黙。
そして。
「……え?」
「兄?」
「先生が?」
「神崎さんの?」
体育館中が一気にざわめき始める。
壇上では校長が小さく咳払いをした。
「……どうやら、紹介が少し足りなかったようですね。」
どっと笑いが起こる。
ざわめきが落ち着いたのを確認すると、校長は改めてマイクを握り直した。
「神崎先生は、本校の卒業生です。」
「卒業後は世界を舞台にプロデュエリストとして活躍し、その経験を買われ、この春より本校へ着任していただきました。」
生徒たちから驚きの声が上がる。
「プロだったのか!」
「世界ってすげぇ!」
「まだ若くない?」
「二十三歳らしいぞ!」
「しかも卒業生!?」
教室中が騒がしくなる。
だが、小町だけはその声がほとんど耳に入っていなかった。
(聞いてない……。)
(そんな話、一言も聞いてない……。)
(昨日まで普通に一緒に晩ご飯食べてたじゃん!)
(なんで何も言ってくれなかったの、お兄ちゃん!!)
壇上を見る。
そこには、いつも家で見る兄が立っていた。
いや。
違う。
赤い教師用ジャケットを羽織り、生徒たちを見渡すその姿は、家でソファに寝転がっている兄とはまるで別人だった。
(……なんでそんな平然としてるのさ。)
雄輝は小町の視線に気付いているのかいないのか、静かに一礼する。
「改めまして。」
「神崎雄輝です。」
「本日より、デュエル実技およびデッキ構築論を担当します。」
「一年間、よろしくお願いします。」
それだけ。
必要以上は語らない。
短い挨拶だった。
◇
始業式が終わる。
「起立!」
「礼!」
「ありがとうございました!」
生徒たちは各教室へ向かい始めた。
しかし今日だけは違う。
廊下へ出た瞬間、小町はクラスメイトたちに囲まれてしまった。
「小町!」
「神崎先生ってどんな人なんだ?」
「プロって本当なの?」
「どんなデッキ使うんだ?」
「家でもデュエルするの?」
質問が一気に飛んでくる。
「え、えっと……。」
小町は少し考える。
「HERO使い。」
「甘いもの好き。」
「寝起き悪い。」
「休みの日はソファで寝落ちする。」
「プリン勝手に食べる。」
一瞬の沈黙。
そして。
「それ先生情報じゃなくて、お兄ちゃん情報じゃん!」
朝比奈が思わずツッコミを入れる。
クラス中がどっと笑った。
その笑い声で、小町はようやく我に返る。
「あっ!」
「違う違う!」
「そうじゃなくて!!」
頭を抱える。
「なんで先生なの、お兄ちゃん!!」
◇
その頃――職員室。
「神崎先生。」
一人の教師が笑顔で声を掛けた。
「早速ですが、三年A組のホームルームをお願いします。」
「はい。」
雄輝は静かに名簿を受け取る。
何気なく一番上を見る。
神崎 小町
思わず苦笑が漏れた。
(……やっぱり担当か。)
(あの様子じゃ、かなり怒ってるだろうな。)
小さく息を吐く。
兄としてではなく、教師として。
今日からはその境界線を引かなければならない。
「さて。」
名簿を閉じる。
「初日くらいは、教師らしくするか。」
そう呟き、職員室を後にした。
◇
一方、その頃。
三年A組。
「神崎!」
「先生来るぞ!」
「いや、お兄ちゃん来るぞ!」
「だから先生だって!」
「いや、お兄ちゃんだろ!」
教室は始業式以上の大騒ぎだった。
小町は机に突っ伏したまま頭を抱える。
「もぉぉぉぉ……。」
「頭が追いつかないよぉ……。」
その時だった。
ガラッ。
教室の扉が静かに開く。
さっきまで騒いでいた教室が、一瞬で静まり返る。
赤い教師用ジャケットを羽織った雄輝が、ゆっくりと教壇へ向かった。
教卓に名簿を置く。
そして、教室を見渡しながら小さく笑った。
「……随分楽しそうだな。」
その一言に、小町の肩がぴくりと震える。
(終わった……。)
兄ではない。
今、目の前にいるのは――
神崎先生だった。