遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
春の柔らかな陽射しが、教室の窓から差し込む。
新年度最初のホームルーム。
三年A組の教室には、新しい担任への期待と好奇心が入り混じった空気が漂っていた。
教壇に立つのは、赤い教師用ジャケットを身にまとった青年。
神崎雄輝。
二十三歳。
世界を舞台に戦ってきた元プロデュエリストであり、この春からデュエルアカデミアへ赴任した新任教師である。
年齢は生徒たちと十歳も離れていない。
その若さもあってか、教室にはどこか落ち着かない空気が流れていた。
(本当に先生なのか?)
(世界で戦ったって本当?)
(昨日の始業式だけじゃ分からないよな……。)
誰も口には出さない。
だが、その疑問は教室中の誰もが抱いていた。
雄輝もまた、その視線の意味を理解していた。
(当然だ。)
(言葉だけで信用されるほど、教師って仕事は甘くない。)
生徒にとって教師とは、自分たちを導く存在。
だからこそ、その実力を疑うのは当然だった。
そんな静寂を破ったのは、一つの椅子を引く音だった。
ガタン。
教室中の視線が、一人の男子生徒へ集まる。
黒機大河。
短く整えた黒髪に鋭い眼差し。
闘志を隠そうともしないその姿は、一目で只者ではないことを感じさせる。
デュエルアカデミア中等部三年――ランキング十八位。
二十位以内の生徒だけに与えられるランキングバッジが、制服の胸元で静かに光っていた。
学年を代表する実力者。
その順位は、公式認定デュエルや授業成績などを総合して決定される、生徒たちにとって実力の証だ。
その黒機が、ゆっくりと雄輝を見据える。
「先生。」
教室が静まり返る。
雄輝は穏やかな表情のまま視線を向けた。
「世界で戦った元プロデュエリスト……その話は聞いた。」
一呼吸置く。
「だからこそ、聞きたい。」
「その肩書きは、本物なのか。」
教室の空気が張り詰める。
朝比奈は思わず小さく息をのんだ。
「黒機……。」
しかし黒機は視線を逸らさない。
「ここはデュエルアカデミアだ。」
「この学校じゃ、言葉よりデュエル。」
「教師なら――。」
胸元のデュエルディスクへ手を添える。
「その強さを、俺に見せてくれ。」
挑発ではない。
純粋な挑戦だった。
世界で戦ってきたという男が、本当に自分より強いのか。
その答えを、自分自身のデュエルで確かめたい。
それだけだった。
教室は静まり返る。
誰も口を挟まない。
いや、挟めなかった。
ランキング十八位。
その黒機が真正面から挑戦状を叩きつけているのだ。
雄輝は黒機を静かに見つめる。
(いい目をしている。)
(自分の強さを信じ、その先を見ようとしている。)
(こういう生徒は伸びる。)
ふっと口元が緩んだ。
「……まあ。」
小さく笑う。
「それもそうか。」
机の上に置いていたデュエルディスクを手に取る。
静かに左腕へ装着した。
カチリ――。
乾いた音が教室に響く。
その瞬間、教室中の空気が変わった。
「俺という人間を紹介するなら――。」
一拍置く。
雄輝は黒機を真っ直ぐ見据えた。
「デュエルが、一番手っ取り早いな。」
その言葉を聞いた黒機は、不敵に笑う。
「その言葉を待ってたぜ、先生。」
小町は思わず息をのんだ。
(始まる……。)
家では何度も見てきた。
でも。
先生としてデュエルするお兄ちゃんを見るのは、今日が初めてだった。
胸の鼓動が、少しずつ速くなる。
一方、教室の後方では九条凛が静かに文庫本を閉じていた。
艶のある黒髪を耳へ掛け、ゆっくりと立ち上がる。
中等部三年ランキング第一位。
学年最強と評される少女は、静かな眼差しで雄輝を見つめた。
「世界を知るデュエリスト……ですか。」
小さく呟く。
「その実力、確かめさせていただきます。」
雄輝は教室の扉へ向かって歩き出す。
「移動するぞ。」
黒機が眉をひそめた。
「移動?」
「ここじゃ狭い。」
雄輝は肩越しに振り返る。
「せっかくなら、本物のフィールドでやろう。」
穏やかに笑った。
「デュエルフィールドを借りる。」
その一言で、教室が一気にざわめく。
「マジか!」
「フィールド使うのか!」
「先生がデュエルするぞ!」
「急げ!」
椅子を引く音が次々と響く。
生徒たちは我先にと教室を飛び出していく。
その後ろ姿を見ながら、小町はそっと拳を握った。
(お兄ちゃん……。)
(先生としての最初のデュエル。)
(しっかり見届けるからね。)
その想いを胸に、小町もまたデュエルフィールドへ駆け出した。
これから始まる一戦が、三年A組全員の記憶に残るデュエルになることを、この時はまだ誰も知らなかった。
◇
数分後。
デュエルアカデミア内・第一デュエルフィールド。
授業や公式認定デュエルにも使用される、本格的なデュエル施設。
フィールド中央へ雄輝と黒機が歩み出ると、立体映像システムがゆっくりと起動を始めた。
淡い青白い光が床一面を駆け巡り、無数の粒子が空中へ舞い上がる。
やがて粒子は荒野を模したホログラムフィールドを形成し、静かな空間は一瞬にして戦場へと姿を変えた。
「おぉ……。」
思わず歓声が漏れる。
まだ始まってもいない。
それなのに、生徒たちの視線は自然とフィールド中央へ吸い寄せられていた。
「先生、本当にやるんだ。」
「黒機とのデュエルか……。」
「いきなりランキング十八位とぶつかるなんて。」
三年A組の生徒たちは観客席へと集まり、それぞれ思い思いの場所へ腰を下ろす。
最前列には、小町と朝比奈。
そして、その少し後ろには九条凛の姿があった。
朝比奈は落ち着かない様子で小町へ話しかける。
「小町……。」
「先生って、本当に強いの?」
小町は少しだけ笑う。
「強いよ。」
「でも……。」
視線は自然と雄輝へ向く。
「学校でデュエルするお兄ちゃんを見るのは、小町も初めてなんだ。」
「だから……。」
「ちょっとドキドキしてる。」
朝比奈は「そっか」と小さく頷き、再びフィールドへ目を向けた。
一方、九条は静かに腕を組み、雄輝を見つめていた。
世界を知る元プロデュエリスト。
その肩書きだけで判断するつもりはない。
デュエリストは、デュエルで語るもの。
それが凛の考えだった。
だからこそ、その一挙手一投足を見逃すつもりはない。
フィールド中央。
黒機はゆっくりとデュエルディスクを構える。
制服の胸元で輝くランキングバッジ。
学年ランキング十八位。
その順位は決して偶然ではない。
積み重ねてきた勝利と努力が証明する、確かな実力だった。
「先生。」
黒機が口を開く。
「遠慮はいらねぇ。」
「俺も手加減はしない。」
雄輝は小さく笑みを浮かべた。
「その方がありがたい。」
「授業とはいえ、本気で来てもらわなきゃ意味がない。」
その穏やかな返答に、黒機も不敵な笑みを浮かべる。
「そうこなくちゃな。」
雄輝は左腕のデュエルディスクを静かに構えた。
その動きに一切の無駄はない。
家で見る兄としての姿ではなく、一人のデュエリストとして立つその姿に、小町は思わず息を呑んだ。
(やっぱり……。)
(こういう時のお兄ちゃん、いつもと雰囲気が違う。)
フィールドを包む空気が変わる。
誰も言葉を発しない。
張り詰めた静寂だけが、その場を支配していた。
雄輝と黒機。
二人は同時に右手を掲げる。
「「デュエル!!」」
神崎雄輝 LP8000
黒機大河 LP8000
1ターン目 黒機
「俺のターン! ドロー!」
勢いよくカードを引いた黒機は、迷うことなく一枚のカードをデュエルディスクへ叩きつけた。
「《レッド・ガジェット》召喚!」
赤い装甲を身にまとった小型の機械兵が、金属音を響かせながらフィールドへ姿を現す。
⸻
【レッド・ガジェット】
レベル:4
攻撃力:1300
守備力:1500
種族:機械族
属性:地
【効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える。
⸻
「効果発動!」
「デッキから《イエロー・ガジェット》を手札に加える!」
デュエルディスクが淡く光り、一枚のカードが黒機の手札へ加わる。
ガジェットデッキ最大の特徴。
一体の召喚が、次の一体へと繋がっていく。
「黒機君のガジェットだ!」
「やっぱりあのデッキか!」
観客席から歓声が上がる。
学年ランキング十八位。
黒機のデッキは、三年生なら誰もが知っていた。
黒機は続けてカードを二枚伏せる。
「カードを二枚セット。」
伏せカードが静かにフィールドへ現れる。
「ターンエンド。」
腕を組み、雄輝を見据える。
(まずは予定通り。)
(ガジェットで手札を増やしながら相手を見る。)
(先生……。)
(世界で戦ったっていう実力、見せてもらうぜ。)
⸻
2ターン目 雄輝
「俺のターン。」
雄輝は静かにカードを引く。
手札を確認すると、一枚のカードを前へ出した。
「《E・HERO フェザーマン》召喚。」
白い翼を広げた若き英雄が、風をまといながらフィールドへ舞い降りる。
⸻
【E・HERO フェザーマン】
レベル:3
攻撃力:1000
守備力:1000
種族:戦士族
属性:風
【効果】
通常モンスター
風を自在に操る若きHERO。
仲間との融合によって、数々の英雄へと進化する。
⸻
「フェザーマン!」
「懐かしいな!」
「初代HEROだ!」
生徒たちがどよめく。
小町も思わず笑みを浮かべた。
(今日はフェザーマンからなんだ。)
家で何度も見てきた兄のデュエル。
その戦い方は毎回違う。
だからこそ、小町は知っている。
この一枚にも、必ず意味があることを。
雄輝はカードを一枚伏せる。
「カードを一枚セット。」
「ターンエンド。」
それだけだった。
黒機は盤面を見つめる。
(攻撃表示のフェザーマン。)
(攻撃力1000。)
(伏せ一枚。)
(様子見……か?)
世界を知る男にしては、あまりにも静かな立ち上がり。
その静けさが、逆に黒機の警戒心を刺激していた。
観客席では、九条凛だけが静かにフィールドを見つめていた。
「……。」
その表情は変わらない。
まだ何も語らない。
ただ、二人の盤面をじっと見つめていた。
3ターン目 黒機
「俺のターン! ドロー!」
黒機は引いたカードを確認すると、すぐさまフィールドへ叩きつけた。
「《イエロー・ガジェット》召喚!」
黄色い装甲をまとった機械兵が、レッド・ガジェットの隣へ軽快な動きで着地する。
⸻
【イエロー・ガジェット】
レベル:4
攻撃力:1200
守備力:1200
種族:機械族
属性:地
【効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える。
⸻
「効果発動!」
「デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加える!」
デュエルディスクが淡く光り、一枚のカードが黒機の手札へ加わる。
これで手札はさらに充実する。
(よし……。)
(次の準備も整った。)
ガジェットの連鎖。
これこそが黒機の勝ち筋だった。
右手を前へ突き出す。
「バトル!」
「レッド・ガジェット!」
「フェザーマンを攻撃!」
⸻
Battle
レッド・ガジェット
ATK 1300
VS
E・HERO フェザーマン
ATK 1000
⸻
鋼鉄の拳が一直線に振り下ろされる。
その瞬間だった。
「罠カード発動。」
雄輝が静かに伏せカードを開く。
「《ヒーローバリア》。」
フェザーマンの前に眩い光の障壁が展開される。
⸻
【ヒーローバリア】
通常罠
【効果】
自分フィールドに「E・HERO」モンスターが存在する場合、相手モンスター1体の攻撃を無効にする。
⸻
ガァァァン!!
レッド・ガジェットの拳は障壁に阻まれ、大きく弾き返された。
「攻撃を防いだ!」
「さすが先生!」
生徒たちから歓声が上がる。
しかし黒機は落ち着いていた。
「一回防ぐだけか。」
その視線はすでに二体目のガジェットへ向いている。
「イエロー・ガジェット!」
「フェザーマンを攻撃!」
⸻
Battle
イエロー・ガジェット
ATK 1200
VS
E・HERO フェザーマン
ATK 1000
⸻
黄色い機械兵が勢いよく飛び出す。
フェザーマンも迎え撃つが、攻撃力の差はわずか二〇〇。
その差は埋まらず、白い翼が砕け散った。
フェザーマンは光の粒子となり、静かにフィールドから姿を消す。
⸻
Damage
神崎雄輝
LP 8000
↓
LP 7800
(戦闘ダメージ:200)
⸻
「ターンエンド。」
黒機は腕を組み、雄輝を見据えた。
「一回防いだくらいじゃ、流れは変わらねぇ。」
観客席からも小さなどよめきが起こる。
「先生、場が空いた……。」
「どうするんだ?」
小町はフィールドを見つめる。
(ライフは200だけ……。)
(でも、お兄ちゃんはまだ何も動じてない。)
その落ち着きが、逆に不安になる。
一方、黒機もまた同じ違和感を覚えていた。
(フェザーマンがやられても反応なし……。)
(ブラフか。)
(それとも、まだ何かあるのか。)
その時だった。
観客席の後方から、小さな声が聞こえる。
「……面白いですね。」
九条凛だった。
その視線はブレることなく雄輝のフィールドを見つめている。
何かに気付いたようにも見える。
だが、それ以上は何も語らない。
静かな沈黙だけが、その場に残った。
⸻
4ターン目 神崎雄輝
「俺のターン。」
雄輝は静かにカードを引く。
そのまま一枚のカードをフィールドへ置いた。
「《E・HERO ブレイズマン》召喚。」
燃え盛る炎を身にまとったHEROが、雄々しくフィールドへ降り立つ。
⸻
【E・HERO ブレイズマン】
レベル:4
攻撃力:1200
守備力:1800
種族:戦士族
属性:炎
【効果】
このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。
①デッキから「融合」1枚を手札に加える。
②デッキから「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送り、このカードの属性・攻撃力・守備力を、そのモンスターと同じにする。
⸻
「ブレイズマンだ!」
「融合サーチできるHERO!」
観客席から歓声が上がる。
雄輝は間を置かずに宣言した。
「ブレイズマンの効果発動。」
「デッキから《融合》を手札に加える。」
デッキから一枚の魔法カードが手札へ加わる。
小町は思わず身を乗り出した。
(融合……!)
(やっぱり狙いは融合召喚なんだ!)
その隣で、九条凛は静かにフィールドを見つめていた。
「……融合カード。」
「次のターンには、融合召喚を狙える盤面になりますね。」
しかし、その視線はすぐにブレイズマンへ戻る。
「ですが……。」
そこで言葉を切る。
何かが引っ掛かる。
だが、まだ確信には至らない。
黒機は鼻で笑った。
「融合か。」
「次のターンまで待ってくれるほど、甘くねぇぞ。」
雄輝は静かに右手を前へ向ける。
「バトル。」
「ブレイズマン。」
「イエロー・ガジェットを攻撃。」
⸻
Battle
E・HERO ブレイズマン
ATK1200
VS
イエロー・ガジェット
ATK1200
⸻
炎をまとった拳と、機械兵の拳が真正面から激突する。
ドォォォン!!
衝撃がフィールドを駆け抜けた。
互いの攻撃力は同じ。
勝者はいない。
ブレイズマンとイエロー・ガジェットは、同時に光となって砕け散った。
⸻
Battle Result
E・HERO ブレイズマン 撃破
×
イエロー・ガジェット 撃破
相打ち
⸻
「相打ち……!」
「先生、自分から仕掛けた!」
生徒たちがざわめく。
黒機もわずかに眉をひそめた。
(自分から相打ち?)
(融合素材を墓地へ送った……。)
(いや。)
(それだけじゃない。)
(何を狙ってる……?)
雄輝は表情を変えない。
静かにカードを一枚伏せる。
「カードを一枚セット。」
「ターンエンド。」
フィールドにはレッド・ガジェットのみ。
雄輝の場は伏せカード一枚だけ。
盤面だけを見れば、黒機が圧倒的に有利だった。
黒機は腕を組み、不敵に笑う。
「へっ……。」
「融合素材を揃えたみてぇだが、場はガラ空き。」
一歩前へ踏み出す。
「その程度かよ。」
観客席にも同じ空気が流れる。
「先生、大丈夫なのか……?」
「次のターン、かなり危ないぞ。」
しかし、その中でただ一人。
九条凛だけは静かに雄輝を見つめていた。
「……。」
紫色の瞳が、わずかに細くなる。
まだ誰も知らない。
この一手一手が、すべて計算された布石であることを。
そして次のターン、デュエルは大きく動き出す――。